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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

鏡迷宮・遠き声Ver2 第二章 I love Urbana in Spring❷1987

2025-01-01 18:14:57 | 鏡迷宮

 一斉に花が開く春、いつの間にか熱中症になってしまう夏の日、そして一夜にして冷房が暖房に変わる秋、そして物みな凍てつく冬も。

 

 チュンセからの情報で、ある程度は覚悟していたものの、クリスマス明けの寒さは応える。日本本土での寒さの延長の範囲内であったマサチューセッツの冬とは大違い。低湿度、SUB-ZERO(華氏0℉以下)の生み出す世界の面白さ、恐ろしさを思い知らされた。

 

 大ぶりの結晶のまま降ってくる雪、手袋なしでは手が凍り付いてしまいかねない扉の取手、部屋に入って外したマフラーの内側が解氷していく様、呼気が凍り付いていたのだ。こういった事はまだ想像の内。更にとんでもない事態に出会う事になった。

 

 吹雪で回りが見えないのに空は晴れている。降り積もった雪が凍り付かず、強風に吹き上げられている地吹雪。目の中が少しシャリシャリすると思ったら、何んの事は無い、眼球面とコンタクトレンズの間で氷結が起こり始めている。慌ててゴーグルを買いに行きついでに目出し帽まで買って、次の日から装着、目出し帽・ゴーグル・マフラー・ゴアテックスの羽毛パーカー。極地探検隊の出来上がり。ここまで来たら乗りかかった船。かねて興味があったクロスカントリースキー一式も購入し、万全の構えでキャンパスライフを楽しむ事とした。

 

 塩カリを撒いた上でローラー車で圧雪した車道はツルツル、その他は基本放置(例外はキャンパス中央のQUAD:幾何学模様の道路は融雪し夏道が見えている)。余談だが防塩対策をしていないと車体が錆びつき数年でボロボロになってしまう。文字通り”Rust Never Sleeps."。

 QUAD 冬:Union方向

 QUAD 夏:反対方向:講堂向き

 

 フカ雪から氷に移る部分などで、最初の2~3日は転倒の連続だったが、一週間もすれば慣れてしまい、歩きよりも自転車よりもはるかに快適なキャンパスライフとなった。なに板は一年持てば御の字の安物なので舗装が剥き出しになっていても気にもならないし、薄氷に足を取られるリスクも回避できる。(車はキャンパス内の移動には不向き。滑るし、空いてるパーキングメーターを見つけるのが意外と困難。なんせ寒がりな奴ばかりで車で移動したがるので、軽い接触事故が多発。英語母語でないアジア人は圧倒的に不利。)

 ブリザードや地吹雪もものともせず、雪の進軍など歌いながら通う日が続くなかで、梅雨の干ぬ間のように、稀な晴がやってきた。前日からの天気予報は北極からの高気圧の張り出しと、車のエンジンがかからなく程の例外的な低気温を警告していたが、起きてみるとピーカン。装備を整えて外に出てみると、日差しが痛いほどの天気だった。これは絶好のクロカン日和と漕ぎ出して数分たったころだった。突然体が動かなくなった。一応ジーンズの上に雨具を穿いていたのだが役に立たず、足の筋肉が言う事を聞かなくなり、それと並行して下半身の感覚がなくなっていった。やっとの思いで最寄りにある中央図書館へと辿り着いた。

 

 あわてて、近くの中央図書館に飛び込み、板を外して靴を履き替え、ロビーで暖を取る事にした。普段は閉架室にある専用のクローズドキャレルを利用している為、人目に付くロビーを利用する事などないのだが、この時は取る物も取敢えずロビーで手早く暖を取る事となった。被り物を外して、自販機で買ったコーヒー?を飲んでいると、私の事を覗き込んでいる院生/ポスドクくらいの女性がいたが、目が合うと、視線をそらせて歩き去っていった。こちらに記憶がないものの、どこかであった事でもあったのだろうか?それともチュンセの知り合い?

 10分ほど暖を取って、手足の痺れを解消し、オフィスによって受信メールと昨夜送ったセミナー用のレジュメをプリントアウトすると、本日の目的Altgeld HallのMath Libraryへ向かう事とした。

 まだ11時過ぎだが、お腹がすいた。多分しゃりばて寸前。Unionに寄ってカフェテラス(と言っても地下一階)でラザーニャとザッハトルテで昼飯にすることとした。カロリー第一。

 正午少し前にMath Libraryに着くと、司書のAyselがまさに出かけようとするところ。「クローズドキャレルの#3にご依頼の書籍、ペーパーを置いてあるから、これ鍵。追加はランチから帰ってから。」と言って鍵を投げてよこした。「お帰りは?」「燕京に行くから13:30目途。」「Harvard Yardかい?」「いや、Lincoln Square。それにSybelが合いたいと言ってたから、キャレル#3にいると言っておいた。」「Sibel Who?」

 

 Yoshiaki Masukane Ph.D  Asistant Professorと書かれたIDカードをキャレルのホールダーに差し込むと、キャレルのドアがあいた、先ほど貰ったのはこのホールダーの鍵。ドアのカギはIDカードに連動した電子式だった。

 椅子に座って、きれいに目の前の壁面書架に並べたら本と資料をチェックしてみたが、注文したものは全部揃っている。これなら、どうしても必要な関連資料が出てこない限り、夕飯までゆっくり資料にあたれる。そう思って、少しテキストを読み始めてから少したって、急にSibelの事が気になりはじめた。Aysel/Sibel一端どこの名前だろうか。数学科の図書館だが、レファレンスには人名辞典くらいはあるだろう。そう思ってキャレルのドアを開いたところで、数学史専攻のRAでもあるAyselよりすこし年下の女の子に胸倉をつかまれた。多分Sibel、今朝中央図書館で見かけた子だ。Sibelと思ったのは、なんとなく見た感じがしたのはAyselと似ているからだ。姉妹それとも従妹・それにしてもなぜ胸倉をつかまれているんだろう。それもかなり緊く締め上げてくる。体術の心得があるらしい。すこしぼーっとした頭でそんなことを考えていた。

 早口でまくし立てる言葉は子音を無声化して飲み込む典型的な五大湖周辺の訛だが、顔立ちはアナトリア・アゼルバイジャンのトルコ・イラン系によく見られるものだ。「Ezgi姉さんが不憫 、Ann Arborのテニュアトラックのチャンスがあったのに、もう一年待つと言ってSomone’s Atticで留守番してるのに。一寸こい、この野郎。」エレベータのドアが開いてAyselとこれまたよく似たもう少し年上の女性、多分Ezgiさんだ。二人が口を揃えていった。「その人違うのよ。あの人にそっくりだけど。」SilbelがホールダーからIDカードを引き出して、「うそ、見てYoshiaki Masukane Ph.Dよ。みんなでぐるになって私を騙す気。」些か錯乱気味なSiebelに、Ayselが答えた。「IDカードの二行目を見てごらん、Early Modern Military & Political Historyて書いてあるでしょう。先生ならあり得ないタイトルよ。」「チュンセか」そう思った私は、由縁を説明することし、Champaignのダウンタウンにある古いイタリア料理店でのディナーを提案し、Ezgiさんからは、三人の住むE Greenのリストアドコテージで釈義を食後に行う事を提案された。

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