ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

鉄道は私的財 高速道路は公共財 皆様はどう思われますか

2023年05月28日 00時00分00秒 | 社会・経済

 タイトルに記したのは、栗岡完爾・近藤宙時『地域格差の正体』(2021年、インプレス)という本の95頁に書かれていることです。

 ここでは、鉄道が「その成立の最初から市場原理に任せて整備されてきた。最初にできた鉄道は民営というシステムだ」と書かれており(内容が正しいかどうかについて疑問がありますが)、さらに次のように書かれています。

 「鉄道では、シートの数や定員は決まっている。1人がシートに座ってしまうと、ほかの人はそこに座れない。提供できる数が限られており、それを超えて提供しようとすれば、また新たなシートを、電車車両を、そして運転手を必要とする。もちろん、電気代も多く乗せれば乗せるほど余計にかかるし、鉄路自体も消耗する。そして料金を徴収するのも極めて簡単だ。切符を買った人だけ乗せればいいからである。経済学でいう『競合性』と『排他性』を持つ、公共財の反対に位置する『私的財』の典型なのだ。」

 皆様はどのように思われるでしょうか。

 比較の対象を、道路、鉄道の路盤と限定するならば、この記述は理解できます。土地の所有、占有という点であればまさしくその通りと言えるからです。但し、常に当てはまるかと問われるならば、留保をつけておいたほうがよいでしょう。

 ヨーロッパ(例えばドイツ)の上限分離方式では、鉄道の敷地、路盤などを国や地方公共団体が所有し、列車の運行については所有と切り離してオープンアクセスとしています。つまり、同じ鉄道路線に異なる事業者が(通行量を支払った上で)それぞれ列車を運行することも可能であり、その意味では日本の高速道路にも似ているのです。Merkmalというサイトの「日本とかなり違う『国鉄民営化』ヨーロッパの”誰でも参入できる”鉄道改革ってどんなもの?」という記事に書かれている例(しっかりと「強引」と注記されています)によれば、品川駅から横浜駅までの東海道本線の線路にJR東日本と京浜急行が運行されており、しかも運賃などのサービスは会社によって違うということになります。勿論、東急、小田急、相鉄などの車両が運行されてもよいのです(但し、ヨーロッパの場合は異なる国々の車両が乗り入れているので注意を要します)。

 また、これは歴史の彼方の話となりますが、かつて北海道には道路の代わりとして殖民軌道(戦後は簡易軌道)というものがあり、戦前は線路を北海道庁が管理しつつ、台車を牽引する馬は入植者が所有していたとのことです。これも上下分離方式の変種と言えそうです。

 もう一つ、この本で書かれていることに対しては、公共交通機関をどのように説明するのかという疑問も湧きます。鉄道について書かれていることは多かれ少なかれバスにも妥当します。

 高速道路を定額制にすべきであるという主張には「確かにそうであろう」と納得できる部分があります。物流コストを大幅に削減できますし、インターチェンジも簡素化できますし、ETCなどというややこしい装置もいらなくなる、とまでは言えないまでも簡素化されるでしょうから(何年か前まで首都高速は均一制でしたので、出口には料金所も何もなく、簡素です)。


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2 コメント

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Unknown (ボッケニャンドリ)
2023-05-28 21:17:28
高速道路を有料化することによるコストってどのくらいなんでしょう。
料金所作ったり簡単に出入り出来ないような構造にしたり
ETCなんていうシステムを作ったり…


出入り口が限られてるので大雪で何時間も立ち往生、
この経済損失は全体から見ると大したことないのかもしれないけど
閉じ込められた人にとっては大変。
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僅少ではない気もします (川崎高津公法研究所長)
2023-05-28 23:50:35
詳しくは記事に示した本をお読みいただきたいのですが(但し、注が付いている訳でもなく、それほど詳しくないとも言えますが)、建設費を償還して無料化するという方針自体に無理があるという趣旨は書かれていました。
コストということでは、インターチェンジの構造の話が出てきます。東名の横浜青葉ICがそうですが、かなり複雑ですね(名神ならばもっと複雑なICやJCTもあるそうです)。相当な建設費用がかかっているはずです。ETCという煩わしいシステムもそうで、これは車の所持者にも無視できない費用がかかります。
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