ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

寂しい第214回国会

2024年10月04日 00時00分00秒 | 国際・政治

 2024年10月1日に第214回国会が召集されましたが、石破茂内閣総理大臣が、召集日に行われる内閣総理大臣の指名より前の段階で衆議院の解散を公言していたためか、少なくとも議案の点からすると寂しい国会となっています(もっとも、以前にも同じような国会はありました)。

 まず、新たな内閣提出法律案が一つもありません。衆議院のサイトには内閣提出法律案として「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」が示されていますが、これは第213回国会の内閣提出法律案第53号です。

 次に、第214回国会においては参議院議員提出法律案が一つもありません(10月3日午前中の段階で)。

 また、衆議院議員提出法律案は多いのですが、新規のものは一つもなく、最も古いものは第207回国会に提出されたものです(衆議院議員提出法律案第2号、同第3号、同第10号および同第11号)。前回の通常会である第213回国会に提出されたものも17本あります(衆議院議員提出法律案第2号、同第6号、同第7号、同第8号、同第9号、同第11号、同第12号、同第20号、同第21号、同第23号、同第24号、同第25号、同第26号、同第27号、同第29号、同第30号および同第32号)。

 いずれも、衆議院が解散されるならば審議未了により廃案となります。

 衆議院のサイトをもう少し見ていくと、「承諾の一覧」および「決算その他」という議案があるのですが、いずれも新しく第214回国会に提出されたものではありません。

 「承諾の一覧」を見ると、「令和五年度一般会計原油価格・物価高騰対策及び賃上げ促進環境整備対応予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その1)」、「令和五年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その1)」、「令和五年度特別会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その1)」、「令和五年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書(その2)」および「令和五年度特別会計予算総則第二十一条第一項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書」が議案となっていますが、いずれも第213回国会に提出されたものです。

 「決算その他」をみると「これはどうなのか」と思わざるをえません。いずれも「NHK決算」という分類がされているのですが、「日本放送協会令和四年度財産目録、貸借対照表、損益計算書、資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書」は第212回国会に提出されたもの、「日本放送協会令和三年度財産目録、貸借対照表、損益計算書、資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書」は第210回国会に提出されたもの、「日本放送協会令和二年度財産目録、貸借対照表、損益計算書、資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書」に至っては第207回国会に提出されたものです。

 「承諾の一覧」および「決算その他」とされる議案も、衆議院の解散によって審議未了の故に廃案ということになるでしょう。

 こうなると、第214回国会は、自由民主党総裁に選出された石破茂氏が内閣総理大臣に指名されるための国会であり、その指名が妥当であったかどうかを国民に問うための国会とも言えます。しかし、衆議院が解散されるならば参議院も閉会されますし、衆議院議員総選挙が行われた後に特別会となる第215回国会が召集され、再び内閣総理大臣の指名が行われます。そして、現在の石破内閣は総辞職し、新たな内閣が組閣されることとなります。

 

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南武線のE233系8500番台 鎌倉車両センター中原支所(旧中原電車区)N1編成

2024年10月03日 00時00分00秒 | 写真

 仕事の関係で、講義期間中は一週間に一回、南武線を利用します。朝の9時台に武蔵溝ノ口駅に行くと、何本か回送電車を見かけます。武蔵溝ノ口駅の構内にある電留線に到着することもあれば、同駅3番線から宿河原駅構内の電留線に向かう電車もあり、そして武蔵中原駅の近くにある鎌倉車両センター中原支所(旧中原電車区)に向かう電車もあります。今回は、おそらく鎌倉車両センター中原支所に向かう回送電車を撮影しました。

 1番線をゆっくり通過していきます。E233系8000番台のN1編成でした。登戸駅からの回送ではないかと思われますが、詳しいことはわかりません。

 今でこそ、武蔵溝ノ口駅は武蔵小杉駅の影に隠れるようになりましたが、実は南武線において武蔵溝ノ口駅は運行拠点の一つです。運転士さんが携行している仕業票には武蔵小杉駅ではなく、武蔵中原駅および武蔵溝ノ口駅の着発時刻が書かれていますし、現在でも武蔵溝ノ口駅止まりの電車、武蔵溝ノ口駅始発の電車があります。その代表例が、武蔵溝ノ口駅7時8分発の各駅停車登戸行きで、これは武蔵溝ノ口駅始発なのです。

 2024年になってから武蔵溝ノ口駅の1番線および2番線にホームドアが設置されました(3番線には設置されていません)。東急の溝の口駅には既に設置されていますので、7年ほど遅れた訳です。

 Wikipediaには溝口について「川崎市民および利用者の大半は、当駅と乗換駅である、東急田園都市線・大井町線の溝の口駅、駅周辺を『ノクチ』と呼ぶことが多く、駅ビル『ノクティプラザ』の名称の由来にもなっている」と書かれていますが、どこまで調べて本当のことを書いているのかと疑います。根っからの地元民などはこういう言い方をしないものですし、住民でも溝口のことを「ノクチ」というのをあまり聞きません。武蔵溝ノ口駅・溝の口駅周辺に勤務している人や学校に通学している人の表現ではないでしょうか。似たような例が中原区小杉町で、昔からの住民や、南武線や東横線を利用している人であれば「小杉」で通じます。一時期よく聞いた「ムサコ」という馬鹿な表現では、武蔵小杉なのか武蔵小金井なのか武蔵小山なのかわかりません。

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九品仏駅(OM11)の駅名標

2024年10月02日 00時00分00秒 | 写真

鷺草で有名な浄真寺の最寄り駅、九品仏駅です。大井町線の駅なので、同線のシンボルカラーであるオレンジ色が用いられています。

 以前にこのブログで書きましたが、現在の九品仏駅は2代目です。初代の九品仏駅は現在の自由が丘駅、つまり、九品仏駅から各駅停車大井町行きに乗って次の駅です。

 自由が丘駅が開業したのは1927年のことで、現在の東急東横線を建設した東京横浜電鉄が開業させました。その2年後、つまり1929年に、目黒蒲田電鉄、そう、言わずと知れた東急電鉄の母体である目黒蒲田電鉄が、現在の大井町線の自由が丘駅から二子玉川駅までの区間(当時は二子玉川線と言いました)が開業した際に、現在の九品仏駅が開業したのでした(その10日ほど前に、初代の九品仏駅が自由ヶ丘駅に改名されます)。

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2002年7月20日に開かれた「地方自治講演会」のレポート 地方分権その他の問題のために

2024年10月01日 00時00分00秒 | 国際・政治

 今回は、私が大分大学教育福祉科学部の助教授になったばかりの2002年7月21日付で私のホームページ「大分発法制・行財政研究」(現在の「川崎高津公法研究室」)に掲載した「『地方自治講演会レポート」です。22年以上経過しているものですが、何らかの参考にはなると思い、このブログに転載します。

 

 

「地方自治講演会」レポート

 

 このホームページを立ち上げてから2年程が経過します。様々な記事を掲載して参りましたが、講演会の内容を報告するというスタイルは、初めてのことです。少しでも様子をお分かりいただけるならば、幸いです。

 2002年7月20日(土曜日。海の日)、大分県と総務省が主催する「地方自治講演会」が、大分全日空ホテルオアシスタワー(大分市高砂町)5階孔雀の間で行われました。共催は、大分県市長会、大分県町村会、大分県市議会議長会および大分県町村議会議長会です。

 実は、私がこの講演会のことを知ったのは、前日(19日)のことでした。同じオアシスタワーの1階に、大分放送(OBS)のサテライトスタジオ「パルテ」があります。月曜日から金曜日までの13時から15時45分まで、パルテから生で放送される「三重野勝己  昼いちパラダイス」という番組に、この日、私がゲストとして登場しました。個人情報保護法案と住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)について、短いながら話をさせていただきました。放送後、別の用事を済ませるため、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所に向かいました。その研究所の事務局長氏から話を伺ったのです。大分県企画文化部IT推進課長名で出された「片山総務大臣の地方自治講演会のお知らせ」という文書のコピーもいただきました。これを見て、私も参加してみようと思ったのです。

 講演会は、大分県知事・平松守彦氏による「主催者挨拶」の後、総務大臣・片山虎之助氏による「地方分権改革の動向」、そして総務省大臣官房政策統括官・大野慎一氏による「電子自治体の推進」という構成でした。大分県の関係者、大分県内各市町村の関係者で会場は埋まっています。大分大学からの出席者は、私を含めて2名、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所にも関係している者だけだったようです。

 私は、市町村合併についての講演を2度行い、それを基にした論文を発表しているため、片山氏の講演に関心を持っていました。その内容を簡単に紹介いたします。

 氏は、地方分権改革に3つの柱があるという趣旨を語りました。1つ目が市町村合併、2つ目が住基ネット、そして3つ目が郵政改革法案です。このうち、直接的に地方分権改革と結びつくのは前二者です。

 市町村合併についての内容を整理すると、おおむね、次のようになります。

 これまで、大規模な市町村合併は2回行われました。最初の大合併は明治21年から翌年にかけて行われたもので、市町村(自然集落のようなものだと表現されていました)は71000ほどあったが、一気に15000ほどにまで統合されました。背景として、近代国家化があります。義務教育、戸籍事務などを市町村に担わせるのには、市町村の規模があまりに小さかったのです。この時の合併は、明治憲法下に相応しく、中央集権的に進められました。

 そして次の大合併ですが、昭和28年から始められました。それまでの間にも合併は進められ、当時は11000ほどの市町村がありましたが、4000弱にまでまとめられました。この時の背景は、第二次世界大戦敗戦(この言葉を、総務大臣自身が使っています)とそれに続く占領です。アメリカ型の地方自治制度が導入され、知事や市町村長も公選となりました。一方、学制改革が行われ、小学校に加えて中学校も義務教育化されます。そして、中学校についても市町村の事務となりました。新制中学校を維持するためには、それなりの規模が必要だと考えられたのです。この時の合併も、国や都道府県が主導する強制的なものでした。

 片山氏は、これらの合併と、現在進められている「平成の大合併」と、それぞれの間に50年間あるいは60年間という時間があることを指摘し、合併にも歴史の流れやパターンがあると主張しました。その上で、「平成の大合併」は、これまでと性質が異なる、と強調しました。どういうことなのでしょうか。

 今回の合併は、国や都道府県ではなく、あくまでも市町村が中心となるべきであり、都道府県は補完的な存在になるべきだというのです(ここで私は、これまでの地方自治法においても、基幹は市町村で、都道府県は広域的かつ補充的な存在であるという趣旨が規定されていたはずではないか、と思ったのです。勿論、現実は違っておりました)。

 そして、合併によって市町村が大きく、強く、元気になる、これが目的であるとを述べられました。別の言葉では、権限、税源、そして人間(この3つで「3ゲン」というのだそうです)が集まる市町村づくりに向かおうということになります。このために、市町村の合併はあくまでも自主的なものであって、国や都道府県が主導するものではないということを強調されています。都道府県は、既に合併のパターンを示していますが、これを計画として押し付けるのではなく、あくまでもパターンというたたき台であって、議論の出発点であるとするのです。また、国も、合併の「推進本部」ではなく、「支援本部」を設置しています。これも、あくまでも「自主的な」合併を促すという趣旨を表現したものということでした。

 一方、現在、と言っても、厳密にどの時点か不明ですが、市町村は3218にのぼります。これを最終的には1000にしようという方針が、この講演でも繰り返されました。

 市町村合併に際して、多くの飴が用意されています。鞭を用意したのでは自己矛盾になるからです(もっとも、全くと言ってよいほど鞭が用意されていないのかについては疑問ですが)。総務省としては、合併を進めた場合に地方交付税を10年間保障し、その後の5年間は激変緩和措置をとります。この他にも合併 債などの特例があります。他の省庁も支援策を多く出しています(これについてはかなり多くの例が挙げられたので書き切れなかったことをお詫び申し上げます。また、飴が多すぎて、その後が怖いという印象を改めて受けたことも記しておきます)。

 また、今でも住民の間ではトラブルなどが多いと思われる静岡市・清水市の合併(来年)について触れられました。この合併は政令指定都市を目指したものと言われています。片山氏は、両市が合併を済ませた段階で新市を政令で指定する意向を示す、と思われる発言をしました。さいたま市についても同様です(しかし、さいたま市は、合併してからもゴタゴタが多いと聞きます。道路標識に浦和、大宮、与野の旧市名が復活していますし、駅名も、大宮、浦和などは当然として、浦和美園などがそのまま残っています)。

 市町村合併と密接な関連を有するのが、地方財政です。現在、地方交付税の関連で言うならば、20兆円が地方交付税として支出されるのに対し、地方交付税のために入ってくるのは13兆円です。また、税収入について言うならば、歳入においては国:地方=6:4であるのに対し、歳出においては国:地方=4:6です。このギャップを埋めるために、地方交付税や国庫補助金などが充てられるのです。しかし、国税の中には、既に一定の割合が地方交付税のための原資とされるものがあります。これに着目すれば、むしろ税源を移譲したほうがよいということになります(財政力の格差も考慮する必要があるのは当然です)。例えば、上の例から5兆5千億を地方に移譲します。所得税の一部を住民税に移譲して3兆円ほど、残りは地方消費税を現行の1パーセントから2パーセントに変更します(国の消費税は4パーセントから3パーセントに改めます)。こうした片山氏の発言は、以前から総務省(旧自治省)が主張していたことでもありますし、地方分権推進委員会などでも、詳細はともあれ、提言されていました。

 そして、国庫負担金および国庫補助金の見直しについても言及されました。このうち、補助金のほうは、国の政策意向に左右される部分も大きいので、やむをえないものを除いて基本的にやめるべきであるという趣旨が述べられました。これも、地方分権推進委員会が最終報告などにおいて述べています。こういうものについては、地方の現場が一番よく知っているのであって、国がかかわる必要などないというようなことも述べられていたと記憶します。一方、負担金のほうは、社会保障、義務教育、公共事業など、国、地方のいずれにも関係するものが多いのですが、こちらのほうも整理合理化します。結局、補助金も負担金も整理合理化して、税源移譲につなげ、市町村の経済基盤の強化に充てるという趣旨が述べられました。

 そうすると、地方分権改革の下で、市町村合併が進められ、税源移譲なども進められるならば、税財政は地方税が中心となります。地方交付税は、どうしても足りない部分(所)のみに交付するということになります。総務大臣の講演にもありましたが、現在、地方交付税不交付団体は、都道府県レベルでみると東京都だけですし、市町村レベルでも僅かなものです。これは、本来は財政調整の手段であるべき地方交付税が、財源保障の機能まで担っていることを意味します。また、地方交付税の趣旨からしても異常な事態です。税源移譲などを進めて、地方交付税の機能を財政調整に純化させる意向が示されたことになります。このために、年末の予算編成までに具体案を作成し、3年から4年をかけて実行する方針も示されました。また、地方交付税そのものの見直し(算定基準の見直しなども含む)の方針も示されました。

 次に、2002年8月5日から稼働する住基ネットについての内容を整理すると、次のようになります。

 住基ネットは、国の一元管理システムなどではなく、共同ネットワークであり、全国的な本人確認のシステムです。最近、新聞などで批判的な報道がなされ、市町村議会の中には施行延期などを求める声もありますが、片山氏は、目的外使用はない、民間利用は出来ない、守秘義務がある、秘密は漏れない、そしてこの住基ネットは行政手続に際しての国民の負担を軽減するシステムであると述べました。とくに、延期を求める声に対して、大部分の市町村はそのような声を出していないということを理由にあげて、延期しなければならないようなものではないと述べました。なお、7月22日から、住基ネットの「試運転」が始まります。

 郵政改革法案についてですが、周知のように、これは郵政事業の公社化を目指すものです。これについても様々な批判があります。市町村にとっては、全国に2万局以上ある郵便局のネットワークがどうなるかという点に関心が向くはずです。公社化によってこれまでのネットワークを低下させないようにするということが述べられました。

 片山氏の講演は約40分間です。以上は、私のメモを基に再現したもので、氏の講演内容に忠実であることを目的としています。部分的に私の意見なども入っていますが、明確に区別したつもりです。

 続いて、大野氏が「電子自治体の推進」と題する講演を行いました。どういう訳か、報道関係者が退室しました。おそらく、片山氏の講演のほうがニュースなどの題材になりやすいということでしょう。中には、配布資料を置いて帰った記者も数名いたようです。

 30分間で、あらかじめ配布されている資料に沿った内容でした。ここに記すべき特別な内容はなかったのですが、配布された資料の名称を記しておきます。

 「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律案の概要」(書面みなし規定の存在が重要)

 「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案の概要」(国税および地方税の電子納税のために必要な規定などを整備するなど、71の法律を改正することになるようです。)

 「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律案について」(この法律案は2002年6月7日に国会に提出されたのですが、実質的な審議は、この記事を作成した時点に至るまでなされておりません。)

 「電子化スケジュール」

 「電子署名を利用したオンラインによる申請・届出等のイメージ(1)」

 「電子署名を利用したオンラインによる申請・届出等のイメージ(2)」

 「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」(次に示す資料とともに、大野氏が暗に強調したかったのではないかと思われる内容です。)

 「地方自治体におけるIT事業者へのアウトソーシング(イメージ)」

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電子自治体と行政法体系―導入部的・試論的な考察―

2024年09月30日 00時00分00秒 | デジタル・インターネット

 1.行政手続の電子化の意味

 政府が進めている構想の重要な一環として、電子政府の構築をあげることができる。また、これに伴う形で、電子自治体への取り組みも進められているところである。既に多くの論考において示されているように、電子自治体により、様々な手続が簡略化および迅速化し、ワンストップ・サービスあるいはノンストップ・サービスが可能になるなど、行政スタイルを一新する可能性ないし期待が語られている。

 しかし、これまで、電子自治体については、技術的な側面から、あるいは行政改革の視点などからトピックとして取り上げられることは多いものの、法的な、とくに行政法学的な視点から検討を試みた研究は、管見の限りではほとんど存在しない(電子政府についても同様である)。一方、電子政府・電子自治体の実現に向けての法整備は着々と進んでいる。このとき、電子自治体は、行政法理論といかなる関係に立つのであろうか。

 まず、情報伝達手段が電子化されたとしても、意思の伝達のあり方などの根本的な要素がすべて変更される訳ではない、ということを念頭に置かなければならない。例えば、電子商取引が活発化しているからといって、民法に定められる法律行為のあり方が完全に変わることはない。意思表示の方法が変わるのである。勿論、従来の法律では口頭あるいは書面しか想定されていないから、電子的手段による表示方法については、新たに規定を置かなければならない〔既に、「電子署名及び認証業務に関する法律」(電子署名法)、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」(証券取引法、保険業法、割賦販売法などの改正に関わる)などが存在する。また、商業登記法も改正され、電子公証制度が創設されている)。

 行政手続についても、同様のことが言える。例えば、ここで申請を考える。従来は紙(書面)による申請が通例であった。これが電子的な手段による申請に置き換えられる。たしかに、見た目は大きい変化かもしれない。しかし、行政手続(あるいは、一連の過程)としては、根本的に同じ構造を保っている。そのため、行政手続法・行政手続条例などにおいて定義される申請、届出、処分などの用語に変化はないし、その必要もない。

 但し、これまでの法制度では、電子申請などに十分な対応をとることが出来ない。現在の行政手続法・行政手続条例など、行政手続に関連する法規は、そもそも、行政手続、とくに処分について必ずしも書面によることを求めない場合もある(行政手続法第8条などを参照)。また、要式行為である場合は、書面主義である。この場合の書面は紙を指すのであって、電子的伝送手段は想定されていない。

 そこで、法令による一定の修正などが必要となる。従来のままでは、オンラインによる行政手続を実現することができないからである。また、電子申請などを実現するためには、当然のことながら、基盤整備が必要であり、そのための法令の整備をも要する。

 

2.現在進められている法整備の体系的理解(試論)

 現在、政府は、電子政府および電子自治体の構築を進めるための法整備を進めている。これは、まだ完了した訳ではないが、現段階において、電子政府・電子自治体を構成する(すべき)法体系について、若干ではあるが私見を述べる。なお、紙数の関係もあるので、本格的な検討は機会を改めて行うこととしたい。

 まず、電子申請に着目した場合、第1段階として、基盤整備の段階における法令が存在する。その例として、住民基本台帳ネットワークの根拠となる住民基本台帳法(改正後のもの)をあげることができる。また、電子署名法は、電子自治体に限られたものではないが、基盤整備の段階を規律する法律としてあげることができよう。

 次に、第2段階として、行政手続法を根幹としつつも、オンラインによる行政手続(電子申請など)を実現するために、同法に修正を加える法律が必要となる。本稿執筆段階においてはまだ法律として成立していないが、行政手続法に修正を施すべき法律として「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」案が、今年の6月、国会に提出されている。この法律(案)によれば、「書面等」(第2条第3号)による行政手続について「電子情報処理組織」を用いた場合については、他の法律の文言に関わりなく「書面等により行われたものとみな」す(第3条ないし第6条)ことにより、申請、処分の通知などのオンライン化が図られることとなる。

 立法技術的には、行政手続法自体に同様の条文を追加することも可能であったと考えられる(1)。しかし、日本において個別分野の法律の存在を念頭に置いた場合、行政手続法の適用を除外する規定が多く、しかも「第○章の規定」というように包括的な除外規定も少なくないことからすれば、「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律」案のような特別法を置くほうが容易であろう。各都道府県および各市町村の行政手続条例も、基本的には行政手続法と同様の構造を持っている。このため、今後、電子自治体の整備のための条例を整備する際にも、同様の条例を制定することになると思われる。

 上記の法律(案)を受けて各分野の法律に修正(変更)を加えるべきものとして「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」案も同時に提出されている。これにより、先行法令との調整が図られることになる。また、71の法律が改正されることになり、主務省令、手数料の納付方法、手続の簡素化などに関する規定が整備されることとなる。地方自治体についても、同種の条例を制定し、整備する必要が生じる。

 そして、第3段階として、電子申請を発端とする行政手続を円滑にするために必要な法令が必要となる。主なものとして、やはり今年の6月に国会に提出された「電子署名に係る地方公共団体の認証業務に関する法律」案(本稿執筆段階)があげられる。これを受けて、印鑑条例などの改正が必要となるであろう。

 さらに、第4段階である。これは、電子申請に限られない、関連法としての位置づけである。個人情報保護法・条例、情報公開法・条例などの整備が求められる。この段階で、地方自治体の行政スタイルが問われることとなろう。これとの関連において、現在の電子政府・電子自治体への取り組みは、主に行政手続の電子化が中心となっているのであるが、電子自治体を推進するには、行政情報の公開、行政情報の利用促進を欠かすことはできない。そうでなければ、電子自治体を構築しても低い利用率に留まるという結末に陥りかねない。幾つかの地方自治体のホームページ設けられている電子会議室が、住民の意見、さらにニーズを知るためにも有用であろう(2)

 

3.電子申請の一般的課題―若干の例について―

 電子自治体を構築し、行政手続を電子化する場合、いくつかの一般的な課題がある。本稿では、若干のものを取り上げ、指摘しておきたい(法的問題に限られない)。

 (1)申請の書式

 あまり注意されていないことであるが、電子申請が可能になると言っても、一般国民・住民から度々主張される「書式」のわかりにくさ、あるいは面倒さが電子申請にも引き継がれるならば、申請の電子化の意義を半減させる。冒頭にも示したように、電子自治体の推進は行政サービスの改善を要請するものである。

 (2)文書の原本性の問題

 行政手続の電子化に伴い、文書管理規程に電子文書に関する規定を置かなければならない。しかし、電子文書は、紙文書に比して原本性を確保する必要性が格段に高い。容易にコピーすることができるうえ、原本性の確認が紙媒体よりも困難になるからである。

 このことを念頭に置いた上で、文書管理規程に盛り込むべき内容は、主なものだけをあげるならば、①電子署名電子認証(作成者による電子署名など)、②改変履歴の記録など、改竄の防止策、アクセスの制限、アクセスの記録(機密性の確保)、④記録媒体(文書の消失などを防ぐためである)、そして⑤保存管理期間(記録媒体とも関連する)、ということになるであろう。

 (3)業務改善(市町村合併との関係において)

 電子自治体構想を進めるとしても、現在の市町村の規模には大きな格差が存在する。そもそも、規模によっては電子自治体の構築ないし運営が困難だという市町村も存在するであろう。この点を念頭においてであろうか、総務省は「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」において、複数の自治体が業務を共同化し、その上でアウトソーシングを図ることにより、コストの削減と民活の活用を実現するとしている。このことにより、①住民サービスの向上、②地方自治体の業務改革、③雇用の創出による地域経済の活性化、この3点が実現するという。果たして確実にそのようになるのであろうか。

 この点については、市町村合併の動向を注視しなければならない。合併が進み、市町村の広域化によって役所(役場)が遠くなって行政サービスが不便になるという懸念が、少なからぬ国民の間に存在する(3)。これに対し、電子自治体の構築により、住民へのサービスをインターネットに提供することによって利便性を維持ないし拡大させる可能性も存在する。そもそも、財政面などの問題もあり、現在の規模では電子自治体の構築ないし運営が難しいという場合もある。サービス低下の懸念を払拭するためにも、合併協議の際には、電子自治体の構築を重要な課題としなければならない。

 この他、電子署名をはじめ、行政手続の電子化などによって生じうる法的問題には様々なものがありうるのであるが、紙数の関係もあり、機会を改めて論じることとしたい。

 (1)  租税行政手続に関してではあるが、ドイツにおける法令整備などについて、拙稿「ドイツの電子申告制度における現状と課題」(税務弘報2001年1月号所収)も参照。

 (2)  拙稿「インターネットによる広報を考える―地方自治の視点から―」(広報2002年2月号 所収)も参照。

 (3)  拙稿「地方分権下の市町村合併」〔大分大学教育福祉科学部研究紀要24巻1号(2002年) 所収〕も参照。

 

 (付記)

 この論文は、2002年9月30日、大分県市町村会館にて行われた「第37回ハイパーフォーラム」(「市町村電子自治体研修」)で、私が行った報告「電子自治体と法について」の内容に、若干の修正を加えたものである。大分県発行(財団法人ハイパーネットワーク社会研究所編集)の雑誌「ハイパーフラッシュ」第25号(2002年11月)6~7頁に掲載されている。なお、雑誌掲載時には「第37回ハイパーフォーラム」の際の顔写真が載せられていたが、省略した。

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東京都交通局6500形6507F

2024年09月29日 00時00分00秒 | 写真

西台駅(I24)で、各駅停車日吉行きの東京都交通局6500形6507Fを撮影しました。

 2022年5月14日から営業運転を行っている6500形は、現在、8両編成13本が西台駅の真裏にある志村車両検修場に所属しています。都営三田線はもとより、東急目黒線および東急新横浜線においても運用されています。現在は相鉄新横浜線、相鉄本線および相鉄いずみ野線に直通運転していませんが、そのための準備はなされているとのことです。

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2002年に公表されたもの  「インターネットによる広報を考える—地方自治の視点から—」

2024年09月28日 00時00分00秒 | デジタル・インターネット

 昨今の情報技術の発展により、国、地方を問わず、行政のあり方は多少なりとも変化を余儀なくされている。電子納税申告制度の導入、さらに電子政府の構築により、行政手続の簡易迅速化が図られると考えられている。行政法学の立場からしても、行政手続法などにいかなる変化が生じるのかについて検討が求められており、電子政府などに対応した理論の構築が必要となっている(もちろん、私自身の研究課題でもある)。

 一方、最近では、大学教育において学生の理解度を高めるため、講義の工夫など、改善を求められることが多い。そればかりでなく、大学(およびその教員)には、地域に密着した教育、生涯教育なども求められる。

 これらを実現するための一手段として情報技術の活用が考えられる。私が「大分発法制・行財政研究」というホームページ(HP)を開設したのも、元来、日本国憲法(大分大学の教養科目)や行政法総論の講義ノート(または職員研修の草稿)などを公開するとともに、行政のあり方や人権などについて多くの方からご意見をいただき、議論や考察を深めるためである。開設以来、学生はもちろん、公務員、弁護士など様々な職業の方に利用していただいている。

 

広報の一手段としての地方自治体HPの意義

 

 広報の専門家でない私にとって、インターネットによる広報の課題について検討することは決して容易な作業ではないが、行政法学を専攻し、地方自治などを研究する者の立場から意見を述べてみたい。

 昨今、都道府県はもちろん、ほとんどの自治体がHPを運営している。いまや広報の重要な手段になりつつあることは言うまでもない。しかし、自治体HPを参照すると、その自治体の活動や政策、基本理念などが明確に示されているものから、単なる観光情報などにとどまっているものまで、千差万別である。

 このところ、電子政府構想に対応する形で電子自治体への取組が進められている。電子自治体は、端的に言えば行政手続の電子化による簡易化および迅速化を目指すものであるが、その場合、自治体のHPがいわば窓口となる。あるいは仮想的な役所と考えてもよい。しかもHPは、単なる窓口でもなければ、広報紙の代用品にとどまるものでもない。行政のあり方に関する住民などからの意見を集約する場、政策などに関して行政と住民とが議論をする場、そして住民同士の交流の場ともなりうる。

 このため、電子自治体には、情報公開と住民参加を確保し、いっそうの促進をなすことが求められることになる。もちろん、HPが広報の重要な一手段であることに変わりはない。というより、電子自治体が各地で実現されることで、広報の手段としての意義は高まることになるであろう。

 ここで、自治体HPの意義を述べてみたい。

 広報紙は、一地方自治体の行政活動、政策などに関する情報を、その地域の住民に分かりやすい形で提供するものである。HPも、基本的な役割としては広報紙と変わらない。しかし、広報紙が原則として一自治体の領域内にとどまるものであるのに対し、HPは、その領域にとどまらず、日本全国(さらには全世界)を対象とするものである。

 すなわち、HPを広報の一手段としてとらえた場合、対内的側面と対外的側面とが常に並存するということになる。したがって、HPを自治体の広報の手段として用いるには、両方の側面を高度な次元において調和させる必要性がある。これまで、多くのHPには対外的側面のみを重視する傾向があったと思われるが、対内的側面を軽視し、行政情報の提供に消極的な自治体HPは、内容に乏しく、その結果としてすぐに飽きられることとなろう。また、住民にとって有益な情報が少ないので、広報としての意味がない。広報は行政サービスの一環としてなされるはずであり、他の行政サービスに結びつかないようなものであるとすれば、十分な役割を果しているとは言い難いからである。

 

インターネットによる広報の課題

 

 インターネット網を活用して広報活動を行う場合、目的と対象が重要な問題となる。

 私は、大分県にある財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の共同研究員として電子自治体構想に取り組んでおり、すべてではないが多くの自治体HPを参照している。電子自治体が現実のものになろうとしている現在、HPのレベルは、確かに上がっている。しかし、広報として何を目的とするのか、だれを対象とするのか、必ずしも明確になっていないものがある。特に、行政情報の公開や提供については、十分とはいえない。

 例えば、住民が生活する上で必要な情報が掲載されていないという例もある。救急病院の所在地や電話番号、ごみの収集日や捨て方などは、掲載してほしい情報の一つであると思われるが、こうした基本的なものさえ掲載されていないような例が多い。また、定住促進条例のあらましを掲載している自治体もいくつか散見されるが、実際に移住しようと考える人が参照しても、必要かつ十分な情報が提供されているとは言い難いように思われる。

 さらに、広報と深い関係を持つものとして、情報公開条例に関する情報がある。HPを参照しても、制度の存在自体は理解できるが、具体的な手続きや非公開(不開示)情報の類型など、肝心なことが、住民から見て分かりやすいとは思えないものが多い。そもそも情報公開条例が掲載されていない自治体もある。これでは制度自体の意味が半減するし、制度に対する自治体の態度、さらには行政の基本的姿勢に簸問を抱かせるようなものである。

 自治体によっては、教育や福祉の面などで注目に値する制度をつくり、運用しているところもある。しかし、こうした制度がその自治体のHPに紹介されていない場合が多い。マスコミによって全国的に紹介される機会が多いとはいえず、地域の新開や放送、あるいは専門誌で紹介されるにすぎないこともあるため、行政実務担当者や行政法学者などを除けば、地域住民にすら十分に知られないということも起こりうる。これでは、せっかくの新しい制度が住民に利用されない、あるいは評価されないという結果が生じても当然であろう。

 逆に、新条例を制定する際に、条例案の段階からHPで公開し、その自治体の住民、さらには全国から意見を聴取したという例もある。これは、HPによる広報の対内的側面と対外的側面とを上手く両立させたものである。また、首長の交際費をHPで公開し、交際費に対する住民の理解を得ようとする努力をしているところもある。ある自治体がいかなる政策に取り組んでいるのか、可能な限り積極的に公開する必要があるのではなかろうか。

 いくつかの自治体HPでは、独自の政策が積極的に公開されている。直接的にはその自治体の住民に向けられた情報である。例えば、バランスシートの公開。これは、住民に対して地方自治体自身の経営努力を積極的に示すものである。このほか、環境対策、入札情報、都市計画を公開する自治体もあり、こういうところほど、外部からの利用者も多く、自治体自身の活性化にもつながる可能性を高めている。

 行政改革などに率先して取り組み、情報公開にも積極的な自治体のHPは、そうでないところのHPよりも全体的に魅力がある。行政に関する情報が多く、国民・住民にとって使いやすいHPほど、利用者が多い。情報化は、必然的に情報公開を要請する。秘密主義は通用しない。逆に、情報量が少ないページは、利用者も減る。HPの利用者数が多いから直ちに観光など経済面においてプラスの影響が現れる、というわけではないが、長期的視点に立てば、その自治体の評価を高めることになるであろう。市町村合併の関係もあり、一概に言えないかもしれないが、地方分権改革においては、各自治体間における行政サービスの競争による住民生活の向上が予定されている。この点も念頭に置くべきである。

 もう一つの課題は、更新の頻度である(どの程度が適切かは、一概に言うことができない)。広報紙と異なり、HPには随時新しい情報を盛り込むことが可能である。そのため、住民にとって重要な情報を速く伝えることができるし、それが行政能力の一つとしてとらえられることにもなる。

 また、広報と表裏一体の関係にある、住民などからの質問や意見などへの対応について述べておきたい。

 自治体HPを利用する人の側から指摘されるのが、対応の遅さである(私自身、半年も待たされたことがある)。住民は、迅速かつ的確な回答を求めている。的確さが重要であることは当然であるが、電子情報化により、迅速さの価値がこれまで以上に高まる。遅い回答、さらに無回答は、対応の誠実さなどが窺われる原因にもなるし、さらには利用者が減る可能性が高い。結局、HP全体の評価や利用率を下げることになり、広報としての意義を損なわせる。

 

インターネットによる広報の可能性

 

 今後、電子自治体の実現との関係により、インターネットによる広報は、行政サービスの拡充(量のみならず、質が重要である)と同一の方向にあるものと思われる。もちろん、広報担当者などの技術力や関心度に依存する部分もある。

 既にいくつかの自治体において、インターネットを活用した先進的な試みがなされている。紙数の関係もあるので詳細な検討は避けるが、既に述べた対内的側面と対外的側面の高度なバランスを追求するための手段として、若干のものを挙げたい。 

まず、メールマガジン(メール配信サービス)である。各家庭に配布される広報紙に最も近い電子的手段であり、HPの更新状況を示すとともに、広報紙に代わりうる手段としても活用可能である。既にいくつかの自治体が、メルマガまたはメール配信サービスを活用している。もっとも、送信される内容については、まだ不十分なところが多く、課題も多い。しかし、広報の一環、そして情報公開・情報提供の一環として、活用の意義は十分にある。

 次に、電子掲示板(BBS)である。これからの地方自治において、住民自治の側面が強化されなければならないことについては、おそらく異論はあるまい。今後、電子自治体を構築する上で重要なものとして、住民参加の機会の提供がある。これを実現するにも様々な手段がありうるが、電子掲示板は最も有力なものであると考えられる。

 電子掲示板は、住民、その地域の出身者などの交流の場であり、意見表明の場、情報交換の場でもある。また、住民の需要を知る手段としても活用できる。さらに、直接的・主体的な広報活動ではないが、補助的手段として活用することが可能である(例えば、比較的費用のかからない観光向けの宣伝手段として利用できる。もちろん、電子掲示板に特有の課題もあることに注意しなければならない)。

 自治体HPで電子掲示板を設けている例は少ない。しかも、その電子掲示板に行政(役所)側も参加し、事務や政策などについて住民と議論をする、あるいは住民が提言を行うという例は稀である。しかし、パブリック・コメント制度など、応用の可能性は高い。電子掲示板のシステムなどにもよるが、その地方自治体の住民のみならず、幅広く意見を聴取することができるし、特定の政策などについての住民の理解を得やすくなるであろう。日本の行政手続法制度においては、行政による計画策定や行政立法などの手続きに関する規定が存在せず、これらに国民あるいは住民の意見を反映させることも予定されていないが、電子掲示板により、こうした手続きに住民が参加する機会を保障することも可能となる。

 このほか、情報技術の発展などにより、インターネット網を利用する広報には、更なる可能性が生まれるものと思われる。もちろん、技術上、あるいは法制度上の課題も少なくない。しかし、その点を克服した上で、積極的な活用が望まれる。将来的に構築されるべき電子自治体の一部として、いかに広報を通じて積極的な情報公開ないし情報提供を、そして住民参加の促進をなしうるかが、自治体の行政能力の重要な一要素となるであろう。

 

 

 あとがき1:この論文は、社団法人日本広報協会が刊行する月刊誌「広報」の2002年2月号(通巻第597号)40~43頁に、「広報論壇」というコーナーの論考として掲載されたものです。同協会編集部の中城貴之氏に、この場を借りて改めて御礼を申し上げます。

 あとがき2:私が大分大学教育福祉科学部の助教授になったのが2002年4月1日であり、その1か月程前の2002年3月10日に、私のホームページ「川崎高津公法研究室」(当時は「大分発法制・行財政研究」)に掲載しました。

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地方創生についての興味深い発言

2024年09月27日 00時00分00秒 | 国際・政治

 朝日新聞社のサイトを見ていたら、2024年9月25日10時45分付で「『経済、雇用が地方を救うは神話』 地方創生考える講演会」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASS9S4FGMS9SUZOB001M.html)が掲載されていました。興味深い記事であったので、ここで取り上げておきます。

 9月21日に、山梨県立大学飯田キャンパスで「地方創生フォーラム」が開かれました。そこで、哲学者の内山節氏が「『地方創生』をリセットする」という基調講演を行いました。

 記事に取り上げられており、私が注目したのは「内山さんは『「地方創生」をリセットする』と題した基調講演で『経済発展で雇用が生まれれば、地域は衰退から免れるというのは神話だ。地方でも東京でも、地域は崩壊している』と従来の地方振興策を批判」したという部分です。

 元々、行政法学や租税法学を専攻している私にとっても、地方創生という言葉には意味不明な部分が多いと思われるものでした。結局は経済発展につながるとはいえ、地方自治との関係、地方分権との関係が見えにくいからです。その意味において、内山氏の発言は核心を突くものではないかと考えられるのです。

 何かの折に、内山氏の講演の全文を拝読したいものです。

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改名しました

2024年09月26日 11時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

 本日(2024年9月26日)より、本ブログの名称を「ひろば 研究室別室」から「ひろば 川崎高津公法研究室別室」に改めました。

 今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

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2001年に公表されたもの 「インターネットを使った地方自治体の広報活動」

2024年09月26日 00時00分00秒 | デジタル・インターネット

 現在、多くの自治体が自らのホームページを運用し、情報を発信している。ここで、ホームページは広報の一環(あるいは一手段)として位置づけられるはずである。しかし、多くの市町村(場合によっては都道府県も)のホームページからは、自治体の姿が、あるいは、自治体がいかなる行政活動を展開しているのか、見えてこない。観光協会か旅館のものと見紛うような内容のものが多く、住民に対する広報活動としては不十分にすぎる。大分県内でも、教育や福祉の面などで注目に値する制度を運用する自治体があるのに、こうしたことがホームページに掲載されていない。

 一方、自治体によっては、申請書をダウンロードできるようにするなど、サービスの向上に努めている所もある。しかし、それ以上に、自治体のホームページの評価を左右するのは、行政情報の多さ、そして国民・住民にとっての使い易さであろう。

 また、情報化は、必然的に情報公開を要請する。秘密主義は通用しない。情報量が少ないページでは、利用者も減る。ホームページの利用者数が多いということから、直ちに観光など経済面においてプラスの影響が現れる訳でもないが、長期的視点に立てば、自治体の評価を高めることになるであろう。市町村合併の関係もあり、一概に言えないのであるが、地方分権改革においては、各自治体間における行政サービスの競争による住民生活の向上が予定されている。この点も、念頭に置いてよいであろう。

 東京都は、外形標準課税導入の際、ホームページでかなり詳細な情報を公開した。ここで示された条例案の概要などには批判が寄せられたが、それだけ注目を浴びたのであり、或る意味では良い宣伝になった。また、北海道ニセコ町の場合、逢坂誠二氏(北海道ニセコ町長)のホームページにおいてまちづくり基本条例案が公開されていた。しかも、改訂される度に情報が追加され、意見が寄せられたのである。この他、千葉県市川市のように、市長の交際費をホームページで公開することによって、交際費に対する住民の理解を得ようとする努力をしているところもある。或る自治体がいかなる政策に取り組んでいるのか、可能な限り積極的に公開する必要性があるのではなかろうか。

 また、広報と表裏一体にあるのが、住民などからの質問や意見などへの対応である。利用者の側から指摘されるのが、対応の遅さである。住民が求めるものは、迅速かつ的確な回答である。的確さが重要であることは当然であるが、電子情報化により、迅速さの価値がこれまで以上に高まってくる。自治体によっては、掲示板システムを利用した「質問コーナー」を置いていることもあるが、遅い回答、さらに無回答は、対応の誠実さなどが疑われる原因にもなるし、さらには利用者が減る可能性が高い。結局、ホームページ全体の評価や利用率を下げることになり、広報としての意義を損なわせる。

 さらに、広報活動としては、ホームページのみならず、メールマガジン(メール配信サービス)の活用、そして電子掲示板の活用(これは直接的な広報活動ではない)があげられる。

 とくに、メール配信サービスは、形態的にも広報誌に最も近い。既に、三重県や川崎市がこれを活用している。また、電子掲示板の活用としては、「藤沢市市民電子会議室」が参考となる。これは、電子自治体構想の在るべき姿を示すものとしても重要な意味を持っている。地方自治における住民参加を進展させる意味においても、電子掲示板システムの(さらなる)活用が検討されてもよい。

 

 〔付記1〕この論文は、大分県発行(財団法人ハイパーネットワーク社会研究所編集)の雑誌「ハイパーフラッシュ」第20号(2001年8月)9頁に掲載されたものである。お読みいただければおわかりかもしれないが、この論文は、「インターネット広報」「平成13年度大分県広報広聴研修会」(2001年6月29日、地方職員共済組合別府保養所「つるみ荘」)第2部会「インターネットを使った広報」の草稿〕を大幅に短縮したものであり、論文「インターネットによる広報を考える—地方自治の観点から—」〔社団法人日本広報協会刊行・月刊誌「広報」2002年2月号(通巻第597号)4043頁(「広報論壇」)〕の基になったものでもある。

 〔付記2〕私は、まだ大分大学教育福祉科学部の講師であった2001年4月より、財団法人ハイパーネットワーク社会研究所の共同研究員として、電子自治体研究プロジェクトに参加していました。今回掲載した論文は、共同研究員となって間もない頃に書いたものです。その後、2002年4月1日に大分大学教育福祉科学部助教授、2004年4月1日に大東文化大学法学部の助教授となり、2007年4月1日に教授となりましたが、同研究所の共同研究員であったのは教授昇進の前日までです。

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