JR東日本に米坂線という路線があります。奥羽本線の米沢駅(山形県米沢市)から羽越本線の坂町駅(新潟県村上市)まで91km弱の路線で、JRグループとしては珍しく、「よねさか」と訓読みで名付けられています(他には大糸線しかありません)。
この米坂線は、2022年8月上旬の豪雨により、今泉駅から坂町駅までの区間で運休が続いています。全区間のうちの約2割5分しか運行されていない訳で、山形県西置賜郡飯豊町および小国町、新潟県岩船郡関川村では列車が一切運行されていないのです。果たして復旧されるのか、それとも廃止されるのか、議論が続けられてきましたが、山形県知事は鉄道路線としての復旧を目指す旨を表明しました。2025年4月4日11時0分付で、朝日新聞社が「米坂線の三セク復旧費18億円 山形知事『負担大きいが鉄路で復旧』」(https://www.asahi.com/articles/AST433W7GT43UZHB009M.html?iref=pc_preftop_yamagata)として報じています。
これは、3月下旬に新潟県で開かれた関係者会議において、JR東日本が示した試算を受けたものです。記事にはJR東日本が運営する場合(上下分離方式を含めて)の試算が書かれていないのですが、JR東日本が示さなかったからなのでしょう。明確にされている試算は2つあり、第三セクターで復旧する(あるいは、復旧後は第三セクターで運営する)のであれば毎年最大で18.8億円の負担が沿線自治体に生じるのに対し、鉄道路線を廃止して代替バスを運行するのであれば、沿線自治体に生じる負担は1.9億円である、というものです。
JR東日本は、復旧後も完全な自社運営を行うつもりはないのでしょう。上下分離方式の採用も考えていないようです。現在も運行されている米沢駅から今泉駅までの区間については、JR東日本が運行を続けることになるのでしょうか。米沢駅で接続する奥羽本線は山形新幹線の通る区間でもあるため、米坂線とは軌間(レールの幅)が異なります。また、米坂線は非電化、奥羽本線は交流電化です。こうなると直通も何もできないので、米沢駅から今泉駅までの区間をJR東日本が運行するとしても、コストが増えるだけではないでしょうか。また、米沢駅から今泉駅まではJR東日本、今泉駅から坂町駅までは第三セクターとすると、これはこれで利便性が低下するでしょう。山形鉄道を活用する手も考えられなくはないですが、「山形鉄道で減便」(2025年3月27日10時40分付)で記したように、山形鉄道は運転士不足のためにしばらく減便体制に入ります。今泉駅から坂町駅までの区間を鉄道路線で復旧し、そこを第三セクターが運営するというのであれば、残りの区間との兼ね合いはどうなのかを、山形県は考えなければならないはずです。
もう一つ、気になるのは新潟県の姿勢です。山形県は鉄道路線としての復旧を明言しており、上下分離方式、第三セクター方式のどちらかを選ぶのでしょう。しかし、新潟県はどのような意向を持っているのかが、正直なところよくわかりません。鉄道路線としての復旧に積極的であるとは見えないのです。
こうなると、米坂線の今泉駅から坂町駅までの区間を鉄道路線として復旧することは、かなり困難ではないでしょうか。
豪雨で長期運休と言えば、JR九州の肥薩線もあげられます。こちらは2020年7月より八代駅から吉松駅までの区間で運休しており、このうちの八代駅から人吉駅までの区間については上下分離方式を採った上で2033年度頃を目標として復旧することが決まりました。費用は235億円ほどと見込まれているようです。