Yahoo! Japan Newsで知ったのですが、毎日新聞社が2025年4月15日21時50分付で「武蔵野東学園、卒業生らに7億円を請求 在学中に理事長を刑事告訴」(https://mainichi.jp/articles/20250415/k00/00m/040/258000c)として報じていました。
この記事の表現を借りると「理事長を刑事告訴するなどした卒業生らに対する損害賠償請求訴訟を東京地裁に起こしたと発表した。請求額は7億2572万円で、今後増額する予定としている。保護者向け連絡アプリでも同じ内容を配信した」とのことです。
記事そのものは短いのですが、背景にはかなり複雑な、と評価してよい話があります。「複雑な」というのは、事実の概要だけでなく、何をどこまで書いてよいのかという点を含みます。
そして、この記事に誘導される形で武蔵野東学園のサイトを見たのですが、「これはどうなんだ?」と思いました。4月15日付の、理事学園長および理事事務長の名義による文書が掲載されているのですが、単に「損害賠償請求訴訟提起のお知らせ」とでもしておけばよいのに、わざわざ被告の肩書きまで記しています。請求額が総額で7億2572万円で、「今後、損害賠償額は追加されて増額される予定」、「現理事⾧の損害賠償額3,300万円を含む」と書かれているところも「どうなんだ?」なのですが、全員でないとは言え被告の氏名や肩書きなども書かれているのです。私が驚いたのが、この被告の氏名などが書かれている部分で、執拗さを感じますし、「普通、こんなことまで書かないだろう?」と思いました。「現理事⾧を謝罪文を強要したと告訴、(中略)当然に結果は不起訴」とまで書かれていますから。この学園の問題を報じ続けた毎日新聞社が被告になっていない点も不思議ですが、単に事実を報じているだけでは名誉毀損にも何にもならないから、ということでしょうか。
ちなみに、不起訴処分になったからといって無罪であるという訳ではありません。犯罪の嫌疑なしとして不起訴処分になる場合もあれば、犯罪事実は認められるものの、起訴して公判に持ち込む必要性が認められないから不起訴処分になる場合もあります。
損害賠償請求額の根拠は、今後裁判で証されるでしょうが、どのような根拠で積算されたのかが気になります。ふと、「訴権の濫用ではないのか?」という疑念が浮かびました。仮にこういう訴訟が無条件に許されるのであれば、口封じのためなら何をやってもよいということにつながりかねません。
しかも、毎日新聞社が2025年3月18日の5時付で「武蔵野東学園、新入生の保護者に『口封じ』 誓約書提出を要求」(https://mainichi.jp/articles/20250317/k00/00m/040/287000c?inb=ys)として報じたところによると、武蔵野東学園は「運営する学校の新入生の保護者に対し、学園に関する情報を外部に漏らさないよう求める誓約書を提出することを求めていた。(中略)違反した場合は損害賠償を求めるとしている」、「25年2月には理事長に反発した武蔵野東高等専修学校の生徒が退学処分を受けたことも発覚。後に学園が処分を取り消すなど、混乱が広がっている」とのことです。この退学処分についても毎日新聞社が報じており、2月4日21時46分付の「理事長を告訴した生徒の退学処分撤回 和解成立で 武蔵野東学園」(https://mainichi.jp/articles/20250204/k00/00m/040/317000c)によると、退学処分とした生徒の側から地位保全の仮処分の申立を受けた東京地方裁判所立川支部が和解を促したようで(残念ながら記事は有料なので、会員でない私は全文を読めません)、学校は退学処分を取り消した(または撤回した)とのことです。退学処分を取り消しておきながら、その処分の対象となった生徒(卒業されたようです)に対して損害賠償請求訴訟を提起するというのは、「一体何を考えているんだ?」という話になります。裁判上の和解は判決と同様の効力を持ちますから、損害賠償請求訴訟の提起は和解を踏みにじるものですし、一事不再理の原則にも反するでしょう。
今回は、学校法人のgovernanceを考えるための良い題材になると考えたので、取り上げることとしました。