ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

対面授業が行われなかったことをめぐる裁判で、原告の請求が棄却された。

2022年10月20日 00時00分00秒 | 受験・学校

 2021年6月10日0時0分0秒付で「大学で対面授業が行われないのは義務の不履行に該当するのか」という記事をこのブログに載せました。それ以来、気になっていた裁判の判決が、2022年10月19日に東京地方裁判所立川支部から出されました。結果は、原告の請求が棄却されたというものです。Yahoo! Japan NewsにはTBS News Digの速報として記事が掲載されていますが、共同通信社のサイトには同日12時4分付で「大学の対面授業なし、賠償認めず コロナ影響、明星大の元学生敗訴」(https://www.47news.jp/national/news/8459988.html)という記事、朝日新聞社のサイトにも同日12時14分付で「コロナ渦で対面授業なし『苦しみ分かって』 裁判起こした元学生は今」(https://www.asahi.com/articles/ASQBL64NBQBKUTIL00T.html)という記事が掲載されています。

 原告は、明星大学経営学部の学生であった男性で、2000年4月に入学したのですが、教室での講義が2020年度に行われなかったことなどから、2021年6月、学費の返還を請求する訴訟を提起しました。2021年度に明星大学経営学部がどのような方針を採ったのかは不明ですが、オンライン講義が続いたのでしょうか。原告は、裁判中に留年が決まってしまったことから、2022年、つまり今年の3月に退学したようです。

 同月に緊急事態宣言が出されたようにCOVID-19の感染拡大が凄まじく、入学式は中止、教室での講義も行われえないような状況でした。明星大学もこの例に漏れることはなく、経営学部でもオンライン講義が行われました。

 少し気になったのは、朝日新聞社の記事に書かれている「経営学部のオンライン授業は、約8割が録画された講義動画を見てリポートを提出する、という内容だった」という部分です。私も2020年度および2021年度にオンライン講義を行いましたが(実は2022年度も併用という形で行っています)、2020年度においてはオンデマンド型を採用しなかったからです。2021年度は、講義を担当する大学の方針により、教室での講義、オンライン講義のうちのライヴ型とオンデマンド型のいずれも行いましたが、オンデマンド型には疑問が浮かぶばかりでした。

 ただ、その疑問は、私自身が録画視聴の講義や授業に慣れ親しんでこなかったことによるものかもしれません。テレビを視聴する形での講義なら放送大学がありましたし(現在は地上波で見ることができませんが)、資格試験予備校などでは講義録画の放映も以前から行われていました。大学受験予備校などでも例があったはずです。また、教室での講義を録画・録音し、欠席した回の講義の録画・録音を視聴するということも、やはり以前から行われています。学校教育法に基づく学校でこのような講義があまり行われてこなかっただけなのでしょう(例外もあるはずですが)。

 それに、2020年度を思い返すと、教室での講義の中止はやむをえなかったでしょう。下手に強行してクラスターを発生させたら何の意味もありません。おまけに、これだけパソコンやスマートフォンが普及すれば、むしろオンライン講義が行われないほうが不思議でもあります。

 もう一つ、やはり少し気になった部分が、朝日新聞社の記事にありました。「他の学部では、後期から対面授業を再開したところもあったが、経営学部はオンラインのみの授業が続いた」という文です。おそらく2020年度後期のことでしょう。明星大学には理系の学部、あるいは実技系の学部もあるようですので、そのようなところでは教室での講義が再開されたのかもしれません。しかし、文系の学部ではオンライン講義が続いたということです。

 さて、裁判の話です。いずれの記事も、判決の内容についてはあまり詳しく書かれていません。ただ、共同通信社の記事は「西森政一裁判長は判決で、国の緊急事態宣言などを受け対面授業の実施を控える大学が多かったことを挙げ『明星大が突出した選択をした不合理なものとはいえない』と説明した」と報じています。朝日新聞社の記事も「判決は、オンライン授業について『コロナが蔓延(まんえん)する中、授業を実施することを可能とする合理的な選択肢だった』と指摘。対面授業は教育的効果が高いものだとしても、実施が困難な場合にまで、必ず実施しなければいけないわけではないとして、男性の請求を退けた」と報じています。いずれにしても、妥当な判断であると考えますが、判決の構成はもとより、原告、被告のそれぞれの主張を見なければならないでしょう。大学の対応も見なければと思うところなのです。

 朝日新聞社の記事には、原告の思い、あるいは悩みが書かれています。それを読むと「たしかにそうだ」と納得できる部分があります。録画を見てレポートを提出するというのは、実のところ、学生にとっても、そして教員にとっても負担です。オンライン講義でレポート提出が増えて学生が大変なことになっているという趣旨の報道は一昨年や昨年にもありましたし、私自身が話を聞いています。私も、出題、採点の双方で疲れ果てたことが何度もあります。パソコンの画面を見続けると疲れるものです。

 大学の教室で講義が行われず、入構制限もかかっていることからすれば、学生が大学の敷地に入ることはないでしょう。また、緊急事態宣言の影響などもあってアルバイトの場所が減ったこともあるかもしれません。そうなれば、うちに籠もることが多くなることが多くなります。オンライン講義でもライヴ型であれば、学生間、または学生と教員とのコミュニケーションがとれる可能性もありますが、オンデマンド型では望めません。これでは、大学に入ったことの意味を問うことにもなるでしょう。

 しかし、今でもオンラインでの出席を望む学生もいます。少ないかもしれませんが、確実なことです。


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