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カストロ、あるいは自由と独立

2016-11-27 21:19:42 | 太平洋情勢乱雑怪奇

NHKの7時のニュースのトップニュースはカストロの死を巡って2つの反応がある、だった。要するにカストロの業績をたたえて彼の死を惜しむグループと、死んだぞ万歳を叫ぶ人々ということ。

それはそれでいいのだが、カストロの死を巡る各国の反応にロシアがなかった。信じられないほど知的に、歴史的に不誠実な国なのだなとしみじみ思った。

 

アメリカは反逆された当事者だからその反応が客観的になれなくてもやむを得ない部分があるが、もっと遠くから見ている人にとっては、カストロは米に対して反逆する、食って掛かかる、言うことを聞かない、いわば抵抗を象徴する人であり国だったわけでしょ。そして、それは、未だに何か特定できるものではないにせよ、なにがしか世界中の多くの人々に影響を与えるものだったからこそ、こうして、多くの国と人々がカストロの死に反応するのだろうと私は思う。その物語の中にソ連がないなどあり得ない。

 

BBCの記事が結構上手にできていた。

Fidel Castro death: Cubans mourn ex-leader
http://www.bbc.com/news/world-latin-america-38120710

カストロの死を喜ぶマイアミのキューバコミュニティーの様子を伝えた後、カストロを相手にした米の大統領は10人に及ぶとわざわざ写真付きで並べているのも面白いし、そのセクションの見出しが、How Castro defied the US(カストロはどうやって米に逆らったか)だったりするのも率直。

そして、世界のリーダーたちはどう反応したのかの最初の言葉は、(不適切でいい加減な引用ではあるにせよ)ロシアのプーチンであり、そのまま続けて中国は、と来る。

次に、ソビエト連邦の最後のリーダーであったゴルバチョフ、カナダのジャスティン・トルドー、国連、法王、ベネズエラと取り上げていた。

なんというか、別にカストロを持ちあげているわけでもないが、カストロのいた時代を想起させ得るちゃんとした記事だと思う。

 

カストロファンの人にとっては楽しいかも。RTにあったカストロ、ソ連訪時の写真。

Fidel Castro’s Soviet adventures in rare photos from his first visit to USSR
https://www.rt.com/news/368279-fidel-castro-photos-ussr/

カストロは意味不明になんだかカッコ良く見えることも多いし、サブカルのアイテムの中では孤独そうな感じさえあるんだけど、普通に、恰幅のいい気のいいおっちゃんみたいな表情の写真もよくある。私は年代的にも思い入れないし、カストロマニアじゃないからどちらが本当なのかわからないけど、多分どっちも本当なのかな。

 

■ プーチンの認識

プーチンの言を不適切にいい加減に引用したと上で書いたことについて。

多くのメディアは、ロシア大統領はカストロ氏を「ロシアの誠実で信頼できる友人でした」と言ったという部分を引用している。本当ではあるだろうがまったく当たり障りがない部分。

私が注目したのは、その前のパラグラフ。(英語原文はここ

この非凡な政治家の名前は、正当にも現代史のある時代全体を表す象徴とみなされています。フィデル・カストロと彼の仲間の革命家たちが作り上げた自由で独立したキューバは、影響力のある国際社会の一員となり、数多くの国と人々にとって奮起させられる一例となっています。

The name of this remarkable statesman is rightfully viewed as a symbol of a whole era in modern history. Free and independent Cuba built by him and his fellow revolutionaries has become an influential member of the international community and serves as an inspiring example for many countries and peoples.

 

キューバに対して、独立はともかく、自由という語を付すとおそらくアメリカ人の多くは怒るだろう。しかし、その他世界の、わけてもロシア世界(東欧を含む)や中国はその通りだとまず認識するだろう。

この違いは何かというと、ロシアや中国を代表例とする数多くの国や地域にとっては、主権国家として自由で独立した存在であることこそまず第一に求められる「自由で独立」であり、他方、キューバを攻め亡ぼしたかったアメリカにとってのそれは、キューバに住んでいた、または住んでいる一般住民にとっての「自由」の話、つまり、人権問題の話と読まれることを通説としているからでしょう。

しかし、アメリカとて、自らにとっての問題となれば、英国の王による差配をはねつけた以上、自由で独立とは主権者としてのそれのことだと言うだろう。

つまり、アメリカはダブルスタンダードを所与にして生きているんです。

そして、他国民の自由とか人権の話に関与しようとする場合、言ってる本人は多くの場合、他者の内政に関与する口実を探している可能性は大きい、って感じを覚えておくのは悪くないでしょうね。

 

で、プーチンの言に戻って、最後の方に、カストロについて、「ロシア人は各人の心にカストロの記憶を抱き続けるだろう」(Russians will always cherish his memory in their hearts)という下りがあるのは、ロシアはカストロが表すと我々が信じるところの「自由と独立」に拘りつづけるものである、という言明だと私は読みますね。

本文パラグラフ3つ+上下にご挨拶の短文ながら、いつもながら、簡潔な状況分析と自らの覚悟を含んだ立派な文章だと思いました。

 

カストロさんの死は思いがけず、リベラル帝国主義の時代はもう復権しそうもない現状況をはしなくも見せてくれたのかも。だって、もう、逆らったのなら潰してやれと何の正当性もなくアメリカが突っ込んでいける可能性は、往時と比べれば小さくなったのだし、そして今後もそうなるだろうとしか思えないから。

そしてもう一つ、社会主義 vs 資本主義というのは実にまったくマヤカシの対立でしかなかったということ、じゃないっすかね。

 


 

 


コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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さようなら カストロさん (Ha-Ko)
2016-11-28 07:30:55
 偉いと思う人には「さん」をつけずにいられない。日本人だから。
 とんでもなく知的に歴史的に不誠実な国とは、我が国ののことですね。私もそう思います。
 ダブルスタンダードというけれど、我が国には、そもそも、スタンダードがない。あるとしたら「長いものには巻かれろ」「お上に逆らうんじゃねえ」だけ。
 20世紀の「知の巨人」は、レーニン、ホーチミン、カストロだったと思っています。カストロさん以外には異論もあるかも、ですが。
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『リベラル十字軍を凌いだカストロ』 (ローレライ)
2016-11-28 11:53:55
『キューバのロシア艦隊』ぐらい取材すれば面白かった!『キューバ危機の象徴』だった訳だから。『リベラル十字軍を凌いだカストロ』がクローズアップできる。
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自由 (私は黙らない)
2016-11-29 02:31:19
アメリカが言う「自由」のダブルスタンダード、つまり、主権国家としての「自由」と人権問題としての個人の「自由」に対する指摘、すばらしい。その通りだと思います。個人の「自由」を大義名分に、「自由で独立」した主権国家の転覆をはかってきたということではないでしょうか。
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