安倍政権の安保法案に関する手続きは法的にはクーデターっすね、と我が国の東大のセンセが解説しているわけですが、まぁそのそこまでテクニカルに言わんでも、やっぱりこれってなぁ・・・と誰が考えてもそう思うでしょう。そういうわけで、今日はニューヨークタイムスの社説が疑義を示していた。
平和の誓いに「大きな不安」=安保法案で安倍首相批判―米紙社説
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150721-00000027-jij-n_ame
【ニューヨーク時事】米紙ニューヨーク・タイムズは20日付の社説で、日本の安全保障関連法案が先週、与党の強行採決を経て衆院を通過したことに関連し、「日本の平和主義への切実な誓いを安倍晋三首相は尊重する気があるのか、大きな不安を引き起こした」と批判した。
その上で、時事さんのこの記事は、この社説は「問題は目標よりも、むしろ首相のやり方だ」と論評した、と説明している。
概ねあってはいると思うけど、私はむしろこの社説の本文は、タイトルにあるようなPacifism(平和主義、平定主義)か否かの分岐点の問題よりも、その前に民主主義を標榜する国家としての手続き論のまずさってどうなのよ、と指摘する意図の方がより強いんじゃないかと思う。
Japan Wrestles With Its Pacifism
By THE EDITORIAL BOARDJULY 20, 2015
http://www.nytimes.com/2015/07/20/opinion/japan-wrestles-with-its-pacifism.html?partner=rssnyt&emc=rss
最初にパシフィズムの憲法の話があって、中間部から、安倍ちゃんは現行憲法の平和主義的条項を改正したかった、つまり憲法を改正したかったんだが、今回はそうしないで政府の解釈を変え、その上で11本の法案をまとめた法案を議会に提出し、現在衆議院を通過、つまり通常の1/2の多数決議決で通してる・・・と丁寧に説明している。
そして、この様子を、NYTは、安倍氏は手続きを circumventした、と描いている。
circumbentは回避した、迂回した、という意味だけど、でも、出し抜く、裏をかく、と訳してもいい語。
Mr. Abe circumvented that process by having his government declare a reinterpretation of the Constitution and then following up with legislation in a Parliament where his Liberal Democratic Party-led coalition has a majority in the upper and lower houses.
だからまぁ、クーデターでしたとは書いてないけど、よく読む人がいればその人は、これってつまり、本来のハードルは2/3+国民投票であり、かつ、ターゲットとなっている条項は現行憲法の重要な柱である、それを通常の議会の議案として処理、つまり変更している・・・・、とこのことの意味を嗅ぎ取らざるを得ない。
上の時事の記事では考慮していないようだけど、このNYTの記事は最後の段落を、
民主的指導者たちというのは、重要な政策提言について選挙民に支持してもらえるよう説得し、変更が広く受け入れることを確実にする手続きに従う、ということをもっとうまくやるものだ。
多くの日本人は、安倍氏は氏の主張を明確にできたとも、進むべき正しい道を選択したともみていないようだ。
Democratic leaders are more successful when they can persuade voters to support major policy initiatives and when they follow procedures that ensure changes are broadly accepted. For many Japanese, Mr. Abe does not appear to have made his case or picked the right way to move forward.
で締めている。
つまり、安倍氏は、重要な政策提言についての選挙民とのコミュニケーションはとても下手で説得に失敗し手続きにも問題残しました、であり、そーいーの民主的指導者とはいわないんだよーーー、と指摘してるも同然ってことだろうと思います。
ここにも、それって民主的手順をすっとばした(いや、それどころか裏をかいた)政変ですから的な示唆があると思う。
■ とはいえ、日本をかばいたい
と、上の様子だとだいぶきついことを言ってるかに読む人もいるとは思う。でも、やってる出来事の内容を考えたら、ゲロゲロに甘いわけだすね。そして、これまでの20年とか30年間の、いやもっと50年とか60年、70年の日米関係から考えたら、圧倒的に甘いことを言ってると言わざるを得ないんじゃないでしょうか。
ここに、金も出して、嘘も飲んでくれるアメリカにとって大事な国ニッポンってのがあるんだろうなぁとしみじみ思うし、それはつまり、アメリカが本当に弱ってしまったということなんだろうなぁとも思う。
日本は民主主義をわかってない、みたいな言い方もしないし、そもそも、日本の政治状況ではなく、安倍氏のやり方が問題だ、という設定の仕方が、この人はどうでもいいとして、とにかく日本は確保せねばという意図が入っているんじゃないかと思うなぁ。
ロシアをたたく時のあの猛然とした狂気、敢然と嘘をつく、みたいな執念が微塵もないのも、なんだか、むしろ寂しい感じさえする。
でも、そう。このケースを通して、日本国民がこの手順をおかしいと考え、否定が可能であるか不可能であるかにかかわらず、議論が深まれば、それこそ日本の民主主義にとって非常に重要な地点となり得るんだろうなとも思う。
おとーさんに怒られるからこうやってた、じゃなくて、私たはこうすべきだからこうする、と考えるられるようになるということですね。
![]() |
亡国の集団的自衛権 (集英社新書) |
柳澤 協二 | |
集英社 |
![]() |
亡国の安保政策――安倍政権と「積極的平和主義」の罠 |
柳澤 協二 | |
岩波書店 |
まあでも、アメリカ自身が世界各国のクーデター教唆の常習犯みたいなものですから、普遍的価値なるものを高く掲げた段階でこの構想はメタレベルで欠陥があったってことかもしれません。