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バンデラの日、MI6、ポロシェンコ

2020-01-02 15:42:21 | アジア情勢複雑怪奇

昨年2019年から、ウクライナでは1月1日をステファン・バンデラという男を国家の英雄として称賛する日となった。

去年の記事はこれ。

バンデラを称えるウクライナ&欧州ネオナチ同盟

wiki ステファン・バンデラ

ステファン・バンデラは、ウクライナの民族民族主義者であるという解釈からこのようなことになったのだが、他方でこの人はドイツを解放者と見立て、ドイツ軍から金もらって、ドイツによるソ連侵攻のためにドイツの情報機関とやり取りをしていた男であり、その集団のリーダー。まぁ、究極のナチス・コラボレーター。したがって独ソ戦で2700万人もの死者を出したソ連においてはこの人は悪者中の悪者とされていた。

だが、じゃあナチスがそのままバンデラを歓迎していたかというと、途中には多少の変遷はあった。バンデラ率いるOUNグループの目的はウクライナの独立だというのがドイツ軍にとってはネックだった。なぜなら、ドイツはロシア欧州部を自分のための領土にしようとしていたから。

 

■ 戦後

で、戦後、まぁ当然なわけだがバンデラはソ連領内には戻れず西ドイツが匿っていた。

そこは前から知られていたんだが、最近出てきた(私が最近知っただけかもしれない)説では、戦後、イギリスのMI6が接触してバンデラのグループを支援していたとイギリス人のジャーナリストが本で書いているんだそうだ。この本。そのものずばりMI6の本。

MI6: Inside the Covert World of Her Majesty's Secret Intelligence Service
Stephen Dorril
Free Press

 

こうなってくると、2018年6月、イギリスが戯けた事件を次から次から起こしていた頃に、ロシア外務省のザハロワ報道官がびっくりするようなことを明言したことの意味もわかってくるというべきか。

ザハロワは、イギリスは確かにロシアの同盟者だったがナチスについて怪しい動きをしていた、と言い切ったわけですからね。

 第二次世界大戦中、私たちは反ヒトラーの同盟だったわけですがUKの行動はいくつかの点で一環してるとは言えないかもしれないです。

いくつかの歴史的エピソードから、国際状況におけるUKの政策の本質には大きな疑義がつきつけられます。

 例えば、ドイツのソ連侵攻前夜のルドルフ・ヘスによるUKへのミステリアスな飛行などがあげられます。

 各国の歴史の中には不愉快なものが含まれるもので、それは将来世代が対価を支払って道義的責任を取ることになるんでしょ。しかし、英国のシークレットサービスは、この事案に関するすべての文書を100年間機密扱いすることにし、しかもしれが延長されています・・・

安保理、パレスチナ市民保護を否決 & 100年前から解きほぐす

 

実際問題、ソ連が解体されるとウクライナでバンデラを英雄とする機運がウクライナの一部で勃興し、その後起こった2004年のいわゆる「オレンジ革命」の頃にはウクライナ民族主義者の英雄として盛大に祭り上げられいたものだが、振り返れば誰でも気づく通り、これらの運動は、表面的には独立だとはいうものの、いつもいつも「西側」の子分になるという方向性を明確に持っていることがただわかる。

 

■ 2020年

ということで、今年はどうなったのかと興味を持っているわけだが、昨年4月に、バンデラ万歳主義者で西部ウクライナを基盤とするウクライナのオルガルヒ、ポロシェンコが、同じくオリガルヒのコロモイスキーが立てたゼレンスキーに敗れて以来、状況はかなり変わった。

昨年末には、プーチン大統領とゼレンスキー大統領の対話とドンバス地域での戦闘停止に向けた努力だけではなく、ロシアとウクライナのガス会社が欧州向けパイプラインのウクライナ通過の5年契約に調印し、かつ、双方の様々な請求権(主にウクライナが西側の指南で作った請求なわけだが)を決着させている。パッケージで取引しているので他にもまだ何かあるかもしれない。

なので、状況的には、すでに、バンデラ主義者が主導権を握っているという感じではなくなっている。

Gazprom CEO says Russian energy giant signs package deal with Ukraine on gas transit

https://tass.com/economy/1105085

 

Russia-Ukraine Finalize Key Gas Deal

https://oilprice.com/Latest-Energy-News/World-News/Russia-Ukraine-Finalize-Key-Gas-Deal.html

 

西側メディアは静かにしてるけど、これはここ20年ぐらい馬鹿みたいなことをしていたことが、どうあれ解決方向に向かう礎となるパッケージかもな、といった感じではある。

 

直接的には、この契約によって、要するにウクライナにはロシアのガス会社から欧州向けパイプラインの通過料が入るわけ。つまり、多少なりともウクライナの民生に役立つ方向でものごとは動いている。というか、そうするしかないから、ウクライナ人はポロシェンコというバンデラ万歳親父を蹴落として、他に仕様がねぇんだよ、と未知数のゼレンスキーを当選させた。

ロシアでは、こんなことをしたって、どうせ通過料は以前の通りウクライナのオリガルヒの餌になるだけだと反対の意見もあったし、今も、大きく期待はしないでおこう、ってのが平均的反応だとは思う。

だがしかし、ロシア政府の決断は正常化の方に向かった、と。

 

そうなると、バンデラ、バンデラ言ってる場合ではないのではないかと推測できる。

そもそもバンデラが大好きなのはウクライナ西部の、つまり西のヨーロッパから見た時にロシア世界の入り口となる部分付近で、反ロシアで飯食ってる地域が発信源でって、ウクライナ南部、東部のロシア色の濃い地域にとっては、相変わらず、バンデラはとんでもねー奴という意見が主流のままでしょう。

 

で、実際今年のウクライナでは何が起こったのか。バンデラがらみでは特に大きな行事があったという記事は見つけられない。誰かそのうちロシア語のできる人たちが見つけてきてくれるかもしれないけど、今のところ騒動はみあたらない。

だがしかし、どうやら、あられもない方向の展開はあった模様。

ウクライナの2つのテレビ局が、ゼレンスキー大統領ではなくて、ポロシェンコの新年の挨拶を放送したらしい。あはははは。

ロシアもウクライナも、新年直前にリーダーが新年に向けてご挨拶をし、国民はテレビの前でそれを見るというのが定番だそうなんで、やっぱりポロシェンコはここで俺こそお前らに語り掛けるべき男、すなわちリーダーだと思ってるんでしょうね。

でもそれって、とってもロシアっぽい。というか、多分それソ連時代にできた「ソ連世界的慣習」ではなかろうか? いいのか、ポロシェンコ(笑)。

 

現実的には、ウクライナのテレビ放送は全部オリガルヒの持ち物なので、こういうことは普通にできる。

そして、何より何より、ポロシェンコ自身がオリガルヒで、さらに、この放映を行った5 Kanalという局のオーナーはポロシェンコ自身!! どこまでもお笑い。どこまでも、それもう国じゃないからといった趣。

RTの記事の中にポロシェンコの新年の挨拶のリンクが入ってる。ほんとなんだなぁと、あきれる。

It’s the wrong guy! Two Ukrainian channels air oligarch Poroshenko’s NYE address instead of president Zelensky’s 

https://www.rt.com/news/477279-poroshenko-zelensky-nye-address-ukraine/

 

■ バンデラ・リスク

で、上で書いたように、ポロシェンコとネオナチ軍団が何を言おうが、ソ連はドイツがソ連領内に対して大攻撃を行ったことによって、最終的に2700万人もの人間が死んでる。

ここにおいて、ドイツとの協力者を許すはおろか称賛するなどということは、ロシア世界においては過去も現在も、そして将来もあり得ないことでしょう。

それはロシアでしょ、みたいな馬鹿なことを言う人は、独ソ戦の激戦地がどこだったかをよく見るべき。ウクライナやベラルーシを通らないでモスクワ、スターリングラードには到達できない。つまり、ウクライナの地では大量の人間がドイツ人に殺された。

wikiにある第二次世界大戦の死傷者数のグラフ。赤が兵士、オレンジが民間人。ウクライナはSoviet Unionの中。

 

とうことなので、バンデラを担げば担ぐほど、ウクライナの東部、南部の人の心はキエフ政権から離れていくだけでしょう。

実際、東部の、いわゆるドンバス地域はもう「キエフ政権ウクライナ」に戻る気はないものとも見える。

個人でも、既にロシア連邦に移住してしまってる人、そこでロシア市民権を取った人なども多数いる状態は今も変わらない。

 

■ バラバラになりそう

振り返ってみるに、下の地図の紫の部分、フルシチョフが1950年代に当時のソ連の法制度に照らしても無法な手段でウクライナに編入しちゃったクリミアは既にロシア連邦への帰属を望み、達成された。

現在は、レーニンがくっつけた青い部分の、東部と南部が問題になってる。

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この分でいくと、将来のウクライナは、バンデラ主義者の地として、スターリンが戦後くっつけたいわゆるガリチア地方(緑の部分)と、アメリカにくっつくことに将来(というより現ナマ)を見ちゃったキエフのエリートが抑える黄色部分だけになったりするんだろうかと考えてみることもできそう。そして、ネオナチ・ウクライナ(ガリチア)とポーランドが争うのか、それとも英米をマスターにして、英米の「約束の地」になるとか? 実際、イスラエル問題と相似形だしね。

そうすると一番端っこに地味に存在しているハンガリー系はバンデラ主義者と一緒の国とかあり得ないとかいってハンガリーへの帰属を願い出るとか言い出しそう。

ここで、オデッサがロシア一択とかになったら、「約束の地」のうまみって何だろう?って感じもする。

ここにおいて、ゼレンスキーがユダヤ人はユダヤ人でもガリチアのそれではなくオデッサのRussian Jewと呼ばれる人たちの出であるらしいというのは非常に興味深い。オデッサのユダヤ人は帝政時代から既にいわゆる中産階級的な層を作っているような人がドミナントなので、ネオナチ的な破壊主義的、あるいはシオニスト風味が色濃い人たちとはかなり毛色が違うだろうと推測できる。

どうなるんでしょうか。誰にもわかりません。でもほんと、ますます興味深くなってきた。

揉めるからこそ明らかになることってある。

 

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