歩くたんぽぽ

たんぽぽは根っこの太いたくましい花なんです。

寂しくなるな

2017年05月18日 | 日記
昨日、午前10時頃に家を出た時のこと、

玄関の鍵をかけ、さてさて歩き始めると眼前に突如現れた大型トラック。

荷台は開け放たれ、知らない人たちによって荷物がいそいそと運び込まれていく。

荷台の段ボールには油性マジックで「食器類」と書かれていた。

どうやらお隣さんが引っ越すらしい。

これには驚いた。



お隣が引っ越すというのは寂しいものがある。

以前住んでいたアパートも先にお隣が引っ越していった。

あの頃は毎日のように薄い壁の向こうから夫婦喧嘩が聞こえてきていたが、

普段煩わしくてもいなくなると勝手に寂しいものだ。



そういった事情に加え今のお隣さんは「最高のお隣さん」の異名を持つ粋なご夫婦(私の中で)。

年齢は40代後半、おおらかで趣味が良く非常に友好的でとても魅力的な方々なのだ。

旦那さんはギターの腕がプロ並みで奥さんはとにかく歌がうまい。

二人がバーかなんかで演奏している動画を見せてもらったけど、

旦那さんがまさかのツインネックギターを弾いていたので仰天した。

エレキギターのハードな演奏が深夜まで聞こえきて眠れないときもあったけど爆音はお互い様。



車が好きなのか、駐車場に止めてある真っ赤なオールドカーはいつもピカピカだ。

バイクも2台持っていて、私たちが使っていない駐車場を貸していた。

使っていなければ貸すのは当たり前だと思っていたけど、もったいないほど感謝してくれていた。

夫Kとお隣の旦那さんは玄関先で顔を合わせるとよく音楽の話で盛り上がっていたのだとか。

そのためか駐車場のお礼にとモーリスのギターをくださり恐れ多くもありがたくいただいた。

他にも駅まで途中だから乗って行くかいと声をかけてくれたりして、

二つ返事で車に乗り込む私も図々しいがそれもいいかと思わせてくれる懐の深さを持っていた。

深い付き合いはなかったけれど、好きな人たちが隣に住んでいるというのは気持ちがいい。



何かお礼をしたいと常々思っていたのだけど、先延ばし先延ばし今日に至ってしまった。

引っ越しのトラックを見たとき、何かしら手みやげになるものを買ってこようと思い立った。



最後にまた顔を出すと言ってくれていたので、待っていたら今日のお昼過ぎにお声がかかった。

一通りの挨拶を済ませると唐突に「キャンプはしますか」と聞かれた。

もしやキャンプのお誘いかと浮かれてみたがそうではなく、ワンタッチの組み立て式大型テントをくれるという。

引っ越し先は収納の少ないマンションなのでそういったものが置けないのだとか。

ほしいというと、調子いい具合にじゃあ組み立て式の椅子は?テーブルは?ミニテントは?とすすめてくれる。



「本当にもらっていいんですか、さすがに悪いです。」

「次の家に持って行けないのでもらってくれると助かります。」

「それでは遠慮なく!わーいわーい。」


CARAVANのテント。嬉しいの一言。



それから少し申し訳なさそうな顔で「さすがにこれはいらないですよね?」と出したのが、

私が前々から欲しいと思っていた作業台。

外に置いていたみたいで一部錆びているけど、ただでもらえるなんてラッキーとしか言いようがない。


さっそく塗装の禿げた木の部分にペンキを塗っておいた。



「ずっとお隣にいるものだと思っていました。」

「僕も10年くらい住むもんだと思っていましたよ。凄く気に入っていました。こんなところなかなかないですよ。」

「私もそう思います。」

ここら辺で起き抜けのKが現れて、

「お隣さんが引っ越すときにこんなに寂しいのは東京に移り住んでから十数年初めてです。」

と大真面目な顔で言った。

どうしても伝えたかったんだろうね。

「いやいやおおげさな。」と朗らかなお顔。

お返しにもならないけど、こちらも昨日買っておいた新茶のセットを渡してお別れした。



「お隣さん」というのは他では得られない不思議な縁だ。

いつなんどきも生活の吐息が漏れてきて、嫌でもお互いの存在を感じる。

ある程度の距離感を保ちつつも、物理的生活空間は一番近いところにある。

一戸が断絶された都市生活において、お隣に恵まれるというのは本当にありがたいことだ。

どうか、次に越して来る人が神経質な人でありませんようにと祈るばかり。



お別れして、家の扉を閉める。

暗い玄関でふと我に返り思わずため息。

寂しくなるな。
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