大事小事―米島勉日記

日常起きる小さな出来事は,ひょっとして大きな出来事の前兆かも知れません。小さな出来事に目を配ることが大切と思います。

豚肉をいくら食べてもヒトはブタにならない―いい加減にしたら,遺伝子組み換え食品の誤解

2007年12月18日 19時38分24秒 | Weblog
 動植物のDNAの働きの詳細が明らかになるに従い,遺伝子を人為的に組み換えて動植物に新しい性質を与えようとする試みが数多くなされるようになりました。動植物の性質を改変する遺伝子の変化は,遺伝子の理解が無かったり貧しかったりした時代には,自然発生的突然変異,世代間品種改良などで実現していたわけですが,DNAの構造の詳細が明らかになった今日では,顕微鏡下の作業でごく短時間に達成されます。それが遺伝子組み換え技術です。
 遺伝子組み換え技術の実用化の初期に,BTトウモロコシが誕生しました。これは,バチラス・チューリンゲンシス(BT菌)という土壌細菌が出す毒素が特定の昆虫,とくにガ,チョウ,蚊,カブトムシなどのある種だけを殺す,という知見から,この毒素を出す遺伝子部分を,トウモロコシの遺伝子に組み込んだものです。もともとBT菌は,生物性殺虫剤として広く利用されてきたものですから,その殺虫能力,選択性もよく理解されていました。この遺伝子を組み込んだBTトウモロコシ(通称BTコーン)の葉や茎を昆虫が食べると昆虫が死ぬことが確認されました。
 この研究が画期的なことは,トウモロコシを植えても害虫に対する殺虫剤を散布する必要が無くなるか,回数を減らすことが可能になったことです。
 ところが,意外なところから反対の声が上がりました。アメリカのコーネル大学の研究者が,BTコーンの花粉をオオカバマダラというアメリカの典型的渡り蝶の幼虫に振りかけたら死んでしまった,と報告したのです(発表はNature誌だったと記憶しています)。トウモロコシは風媒花で花粉が広く飛び散ります。この報告はBTコーン実用化の出鼻をくじきました。当時,必要があって私もこの研究の報告者に連絡を試みましたが,すでに問い合わせが殺到しており,とうとう連絡が取れませんでした。
 この報告だけが原因ではありませんでしたが,その後日本では遺伝子組み換え技術に対する感情的とも云える拒絶反応が起き,今日にいたるまで遺伝子組み換え食品に対するアレルギーが持続しているといっていいでしょう。
 しかし,このBTコーンに関する報告には異論が唱えられるようになり,研究者が花粉をオオカバマダラの幼虫に実験室内で無理矢理大量食べさせたことも明らかになり,研究者も実験室内の結果が野外での結果を予測させるものではないと注釈をつけて,その後この騒ぎは沈静化しました。
 その後欧米,とくにアメリカでは大規模農業の必要性からつぎつぎと遺伝子組み換え作物が開発され,実用されています。
 一方,温室効果ガス削減と称して,化石燃料の使用を制限する動きが,ここ数年異常に高まっています。この動きに伴い,自動車ガソリンに植物発酵によって製造したエタノールを混入することが行われるようになり,バイオエタノールと呼ばれて急速に生産量が伸びています。
 バイオエタノール自体の使用に反対するわけではありませんが,現実には食糧や飼料としてのトウモロコシや大豆などの生産を減らしてでも燃料用バイオエタノールを生産しようとする動きが世界的に盛んになり,開発途上国などでは食糧不足さえ起きています。
 日本は大量のトウモロコシや大豆を,主としてアメリカから輸入しています。これらの穀物の国内自給率は5%程度です。ところが日本では遺伝子組み換え食品に対するアレルギーが続いているため,日本の商社は「遺伝子組み換えでない穀物」をアメリカなどで特別に生産して貰っているのです。
 しかし,アメリカの穀倉地帯などの農家には,バイオエタノール生産の方が利益が上がり,さらに遺伝子組み換え穀物の方が生産効率がよいため,日本向けの遺伝子組み換えでない穀物の生産を拒否する傾向が出てきました。
 それでは,日本人の遺伝子組み換え食品アレルギーは本当に科学的根拠に基づいたものなのでしょうか。どうもそうではないようです。
 最大の誤解は,ヒトが摂取した食品のDNAが,そのままヒトの体内に取り入れられるか,ということにあります。長くなりますから詳細には触れませんが,もっとも明らかなのは,「豚肉をいくら食べてもヒトはブタにならない」という事実です。ブタの細胞には,ブタをブタとする遺伝子が含まれていますが,その遺伝子はそのままヒトの体内に取り込まれることはないのです。そうでなければ,ヒトがブタになったり,マグロになってしまいます。
 結局,日本人は根拠のない遺伝子組み換え食品アレルギーで,高い食品を買っているのです。
 誤解のないように付け加えておきますが,かつて石油を原料とするタンパク質を食品にしようという動きがあり,これは発癌性などの安全性に疑問があって沙汰やみになりましたが,これは発癌性物質の混入が避けられないという事実によったものでした。遺伝子組み換え技術とは根本的に違うのです。
 もういい加減に遺伝子組み換え食品アレルギーから卒業すべきではありませんか。そうしないと,納豆も豆腐も食べられなくなることになりかねません。本当に危険なのは過剰な農薬使用と,食品に添加される化学物質の方ではありませんか。







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