いやはや呆れたものです。効かないサプリメントがこれほど売れるとは。
景気低迷の折柄,儲かるモノに傾注する気持ちは分かりますが,ビールが売れなくなったからサプリメント,電子カメラの普及でフィルムが売れなくなって業績が低迷するからサプリメントなどなど,なりふり構わない大企業の態度,それに乗せられたかのような,なんでもサプリメントの大衆。売る方も買う方も,と云うところでしょうか。
クスリ,あるいは薬と言い直しましょうか,真面目な話ですから。ともかく薬と云われるものを発売し,あるいは病院で使用するには,厳密な試験を繰り返してからでないと出来ません。その試験にはいろいろな段階があり,薬そのものの毒性の有無から始まって,動物試験,健常者への適用試験,患者への試験等々3相4相と試験を繰り返した後,やっと承認されます。承認されて市場に出回って後も,さらに市販後試験として評価され,副作用などの評価があります。ですから,新薬の成功はかなり確率の低いもので,文献調査や開発着手から数えれば,十年は難なく要するのです。
ですから新薬開発には膨大な資金を必要とし,結果として新薬開発から脱落する企業あるいは計画も数少なくないのです。その傾向は世界的であり,世界の製薬企業が国を超えて合併などで資金力,開発力を拡大するほかなくなっているのです。
それに引き換え,サプリメントというのは気楽なものです。サプリメントそのものが毒でない限り,極めて簡単に発売できるのです。
ただし,条件が付きます。薬効つまり薬としての効能を謳ってはならないのです。その規制は厳密で,膝の痛みに効く,下痢に効く,などと書くことは,チラシ1枚でもいけないのです。ましてや癌に効くなどと書くのはもってのほか,即逮捕されます。たしかカプセルのようなクスリめいた形状もいけないはずなのに,不思議と黙認されているようです。
いまカプセル入りのサプリメントを禁止したら,ほとんど全てのサプリメント会社は潰れてしまいますから。企業救済のつもりでしょうか。それとも天下り先確保のためでしょうか。。
それでは効能の明記を禁止されたサプリメント・メーカーはどうしているか。
卑劣な方法で逃げを図っています。テレビのCMを見れば分かりますが,画面では効能そのものを堂々と出しながら,画面上に極く小さな文字で,「個人の感想(または印象)であって,効果効能を謳っているものではありません」,と書いてあるのです。普通では読めませんね,ハイビジョン大画面でなければ。読まれたら困るのです。
画面の効能としては,歩けなかった年寄りが階段を駆け上がったり,駆け降りたり。肥満した女性が1ヶ月の服用で数10センチもウエスト周りが減ってズボンがダブダブになったり,画像処理で巧みに見せかけています。
しかし,考えてみて下さい。効能を謳ってはいけないのです。最初から効いてはいけないのです。ですから,売る方が悪いのではなく,買う方が間違っているのです。
詐欺まがい,もしくは詐欺そのものではありませんか。
ヒアルロン酸を主成分にした商品があります。薬品と云ってはいけません。効かないのですから。ご本人の感想ですから。
元々はニワトリのトサカを原料にしたもので,最近は何らかの方法で合成あるいは変性しているのでしょうが,調べる気にもなりません。
ただ,明言できることは,口から入ったものが体内で吸収されるには,小腸までの器官内でアミノ酸レベルの大きさまで分解されなければならないことです。
ヒアルロン酸は,吸湿性の高分子で,人体に関しては皮膚での保湿作用しか確認されておらず,分解・吸収されて何らかの効果を及ぼすことは保証されていません。つまりヒアルロン酸を口から取り込んでも何の作用もなく排泄されてしまう,と考えられています。
最近とみにもてはやされているグルコサミン(これもメーカーの「感想」ですか)を服用すると,(そもそも「服用」と云うのも薬を連想させてためらわれるのですが,カプセルを食べるというのもおかしな話です。カプセルは薬の一形態の訳ですから。良心的?なメーカーでは「召しあがる」と云っています),膝が痛くて立ち居振る舞いに支障がある高名な落語家が,立ち上がれるようになった,というのも不思議な話です。この会社は,「○○は,医薬品です」と明言していますが,テレビ画面上でどんな試験をしたのか説明して欲しいものです。
「消費者の感想」で売りつけるメーカー(本当にメーカーなのか,外注なのかは分かりません。製薬会社の免許を取ることは不可能ではありませんから)に共通の論法があります。
それは,例えばヒアルロン酸が膝関節痛に効く,と暗に謳いたければ,1.膝関節には潤滑油としてのヒアルロン酸が必須です。2.ヒアルロン酸は,加齢と共に急速に減少してしまいます。3.ですから外部からヒアルロン酸を供給してやらなければならないのです。
典型的な3段論法です。ここですっぽ抜けているのが,如何にしたら口から入れたヒアルロン酸が腸で吸収されるのか,と云う大事なことです。確信犯ですね。他のサプリメントも大同小異の3段論法です。
あとは宣伝,テレビコマーシャルです。ヒアルロン酸のトップメーカーらしいところが急成長したのは,テレビコマーシャルに釣り馬鹿日記の三国廉太郎と元美人女優の八千草薫を起用したことでした。いかにも高齢者好みですね。
この二人の起用で大成功したと云えるでしょう。要するに,今日サプリメントまでも効能よりはタレントの宣伝なのです。
サントリーが別のサプリメントの宣伝に,金に飽かしてかき集めた有名人をたくさん起用しています。恥も外聞もない遣り方と見えますね。
しかし,冷静に考えてみれば,こんなことは健全なことではありません。それに乗せられて,本当の薬の何十倍何百倍の金を払っている消費者の方が可笑しいと云えば可笑しいのかもしれませんが。