今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 47 (小説)

2015-12-30 15:12:33 | 小説、残酷な歳月(43話~最終話)


残酷な歳月
(四十七)

ジュノの中でもうひとつの気がかりな事は心の片隅から消える事のなかった、加奈子への想い、だが、そんなある日、アメリカの友、マークから、ジュノへ電話が来た!

『今すぐに、出来るだけ早く、ロスに来て欲しい!』
とても、「大切な君の力が必要だ!」

何の理由も言わないが、なぜか、ジュノはマークの真剣さを感じ取って、急ぎ、アメリカへ渡った。

そこには、ジュノにとって、新たなる運命が待っていたのだった。
『やはり、加奈子は生きていた!』

子供を生んだ後も仕事とロッククライミング漬けの生活をして、夫である「ロイ」とふたりで、むしろ、ジュノとつきあっていた頃の加奈子ではなく、別人がそこで加奈子になりすませている、岩に取り付かれてしまったように、岩を登る事にのめりこんでいた、生活だった。

「そんな時に事故はおきた」
加奈子は母親としての自覚を持とうともせず、いや、むしろ、避けようとしているとしか、まわりで、心配している者には、見えないほど、自分が生んだ子供から加奈子は子供から眼をそらせて生きていた。

生れた子供は加奈子の母に預けられたままで、ほとんど会いにも行かずに、加奈子は自分の生んだ、

『子供の存在が疎ましいと思っている!』

他人とは、よくない行いに強い関心を持つもので、まわりの人の噂話になってしまうほど、加奈子は、自分の生んだ子供を愛せずにいる!

そんなふうに、マークが心配して!
ジュノに、加奈子が生きる力と希望を見出す手助けを求めて来た。

ジュノは加奈子の入院している病院を訪ねたが、ジュノの来た事を伝えても、
『加奈子はただ、誰にも会いたくない!』
『かたくなに、ジュノを避けつづけた!』

「誰にも会いたくない!」そう言って、避け続けて・・・

ヨセミテでの事故で奇跡的に加奈子は助かったが、ロイは死んでしまった事で、しばらくの間、ロイと加奈子は一緒に死んだ事にして欲しいと、加奈子本人の希望で、加奈子が助かった事は伏せられたままだった。

その事を聞いたジュノは、加奈子の悲しみの深さを理解した。

愛する人が消えてしまう事の辛さを、二度も味あわせた、
『ジュノの犯した罪は重いと感じた!』

ジュノが加奈子に与えた苦しみは、おそらく、ジュノがこの世から消えてしまったように思えたほどの悲しみと辛さを乗り越える存在がロイだった!

その心を許した彼までも
『この世から消えてしまった事!』

ロイの死は、おそらく、加奈子自身も消したい存在になりたかったのだろう、今の加奈子には気力も魂も抜けてしまったように、何も考えや思いに至れないほど、身も心も疲れきっているのだろうと
『ジュノはただ、加奈子が愛おしかった!』

かたくなに、ジュノを避けるばかりの加奈子に、今、ジュノがしてあげられる事は、
『加奈子の心が癒える時間を待つ!』

たとえ長い時が必要であっても、ジュノは加奈子があの美しい笑顔でジュノを受入れてくれる姿を思い描きながら・・・

あの、ネパールで、漠然と感じ取った、やはり、ジュノは加奈子は死んではいないと確信した思いが正しかった事が今は嬉しかった。

今はお互い素直に逢えない、心のわだかまりがあったとしても、ジュノはかならずや加奈子の心を取り戻す事が出来る。
その時まで、加奈子をそっとして、おいてあげようと思うのだった。

ジュノには、加奈子の精神力の強さを知っている!
今のジュノは、加奈子のすべてを信じられた。

加奈子の病室のドアごしにジュノは語った。
『今まで、君に甘えすぎていたね、ゴメン!』
『君はこんな事くらいで、君の本当の心を捨てたりはしない人だ!』
『いつだって君は、美しくて、強い人だった!』

だから、私はいつも、我儘だった事を許してと言えないほど、あの頃の私は、大人になる事が怖かったのかも知れない、君の愛に包まれている事が心地よくて・・・

『私は、与えられた運命のまま、イ・ジュノとして生きて行くよ!』
『誰でもが、拒みたい、何かに苦しみながらも!』
『耐えていく力があるのだよね』
『私は、君と愛する、私の息子を、いつまでも待っているよ!』

加奈子の姿は見えなくても、ジュノには心の奥深くにいる、加奈子の姿を見ていた。

それは、揺るぎの無い、確かなる確信となって!
今、言葉で伝えられる事が、感謝!
ジュノの思いが伝えられる、充分に伝わる!

ジュノは、今、心を閉ざしたままの加奈子への想いのすべてを込めて、加奈子に話しかけていた、そして、いつか三人で暮らせる空間!
ジュノの理想とする仕事と加奈子の夢だった計画!
今、かすかな希望としてジュノは心の中で描き始めた青写真!

不可能だと思っていた『計画』が実現出来る事を願いながら、ジュノはひとりで日本に帰って来た。



           つづく




最新の画像もっと見る