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いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 48、最終話 (小説)

2015-12-30 15:11:02 | 小説、残酷な歳月(43話~最終話)

残酷な歳月
(四十八)

日本へ帰国して数日後!
ジュノは、樹里から電話を受けた。
岡山に住む、祖母「キム・ソヨン」に一緒に逢いに行きたいので、岡山に来て欲しいと、妹、樹里として、初めての兄、ジュノ(寛之)への甘えであり、願いだった。

病院の事や加奈子の事で、妹への連絡も中々出来ずにいたジュノにとっては、特別に会いたい人!
『大切な、ジュノの家族だ!』

忙しい仕事を調整して、とにかく岡山へがジュノは出かけた、出来れば、樹里の住む、蒔枝の家にも行きたいけれど、小さな病院とはいえ、年老いた養父に任せてばかりもいられず、今回は、祖母のいる病院で、樹里と待ち合わせて、はじめて祖母に会った。

妹、樹里から聞いていた祖母は少し「アルツハイマー」をわずらっているとの事だが、ジュノと樹里の姿を見て、涙を見せながらも、はっきりとした言葉で話す姿は、とても八十九歳になる人とは思えないほど元気だった。

ただ、韓国にいた頃に事故にあった事で、歩く事が不自由なのだと聞いていたが、寝たきりではなく、今でも車椅子や杖の助けを借りて歩く事を日課にしているのだとか!
やはり、生きてきた人生が厳しかった!
何事に負けない、心の強い人だった!

何にもまして祖母の最初の言葉は、大杉の伯父の事を許してあげてほしい!
この事を、どうしても、貴方たちにお願いしておかなくては!
祖母は涙ながら話した。

今も行方が分からない事が、母として辛い事だろうし、心配をしながらも、何も手助けが出来ない事が、もどかしいとも、言って体を震わせて泣いている、祖母の姿をジュノはただ言葉も無く、抱きしめるしかない。

母を抱きしめてあげる事が出来なかった、ジュノの思いが自然な行為、祖母からの温もりが優しさを感じて、ジュノは嬉しかった、ただ、嬉しかった。

抱きしめた小さな肩は
厳しくて激しい生き方の
すべてを語るように
美しき人の胸をうつ
亡き母を思い
亡き父を思い
心の平安のつづく
今、この時に
傍らにいる美しき君が
愛おしい妹の眼差し


ジュノは今、忙しさの中でも、心から穏やかな、充実した日々を送っている!
そして、あまりにも、多くの事が起きて、過ぎて行った日々!

あの穂高、滝谷で過ごした、ジュノと加奈子の、あの素晴らしい思い出の日から、五年の歳月が過ぎて、ふたりは共に不惑の時を迎え、その後、お互いのわだかまりを乗り越えて、そして再会できていた。

今、東京の郊外でジュノが経営している病院がある。
その一角に、ジュノと加奈子、そして息子の住む、住居兼加奈子の法律事務所がある。

加奈子は、ヨセミテの岩場で滑落事故にあいながらも、奇跡的に何とか命を取り留めて、長い治療やリハビリに耐えて車椅子での生活ではあるが、今やっと、心穏やかに、愛するジュノの元で暮らせる事が嬉しくて、とても幸せだ!
三歳になった、元気で、やんちゃ盛りの息子
『イ・ヒョンヌ』

可愛くて、何処となく、ジュノに似た、美しい眼をしている。
息子を肩車しては、ジュノの見える場所よりも高い世界を見せる事が嬉しくて、ジュノの心は幸せに満たされていた。

ある、講演会に、加奈子と共に、出席した。
それは  『ターミナル・ケアー』  の研究発表での席で、思わぬ人との再会であった。

外科医として、大学病院で、華々しく、活躍していた頃、何度かお会いする機会があった
『清宮吉野医師』

数年前、ジュノは、ネパールへ出かける時に、大阪までの新幹線の中で、お会いして、挨拶を交わした事をジュノ自身は思い出せずにいたが、清宮医師は、あの時のジュノの表情の暗さをみて、驚きながらもきっと、ジュノ自身が、苦しみの中から、又、別の素晴らしい、才能ある医師として、復活出来る事を見抜いていた。

ジュノと加奈子は、今、この、新たな、医療施設をつくる時、たくさんのアドバイスと、支援を惜しまずにして下さっている事がありがたく、感謝している!

ジュノと加奈子の営むこの病院の中の高齢者用の施設には
祖母 『キム・ソヨン』
が、九十歳を過ぎても、しっかりとした記憶力と言葉はジュノたちの家族すべてに誇りを感じさせてくれる存在に思えて嬉しかった。
忙しい中でも、妹の樹里は、岡山からやって来てくれる!
その姿は、男でも女でもなく!
『まさしく、美しき人!』

妹、樹里が選んだ生き方も、ジュノと同じく、与えられた運命に添った、生き方!
『蒔枝直樹であり、樹里であって!』
『人間としての誇りを持って生きて行く事!』

もう、迷う事のない、一本の矢を射る、精神がそこにはあった。
この愛の家族には、ただひとつの思い!
祖母の息子であり、ふたりの伯父である!
『大杉春馬』の行方が分からない事が気がかり!』

けれど、家族みんなの祈り、いつか、帰って来てくれる事をあきらめてはいない!
あきらめる事など出来ない、残酷なままで、消えてはいけない人だ!

それぞれの場所で
愛する人を思い
それぞれの心で見る
風景が美しいのは
もうすべてに許された
ながく悲しみの孤独は
消えてしまった記憶
誰がたぐりよせても
はるかなる海が
つつんでくれる愛


思えば、大杉の伯父の人生ほど「残酷で避ける事の出来なかった重い宿命を持って生きてきた、歳月を、今、どんな悔しさと思い残す事の多い人生をだろうか?
『人生とは生きるに値する、価値のあるもの』

と言う言葉が伯父の心にどんなにか、真実味の感じられる言葉として、受け止められる事であって欲しい。

どんなに残酷な事実の中で、生れた『命』であっても!
『素晴らしいもの、他に、換えることが出来ない、大切な命』

あの優しい笑顔に、苦しみと悲しみ、呪いたい自分の存在を、伯父は運命の向こう側にあるものが
『愛なのだと!』
『人を愛する事から、始まると語りかけた』

今、伯父は、命の終わる瞬間であったとしても、
『命のともしびが、消える最後の呼吸さえ、しっかり生きる!』

その事を、私たちに伝える事だろう・・・
伯父の事、父と母の置かれていた、国と国とのつながりの難しさを!

どんなに正しい事であっても、悪として人々が心に感じている事でも言葉で発言できない世の中があった事!
『知ろうと思わない愚かさを恥、そして、悪かったと!』

今の時代は、少なからず、知る権利が保障されている!
現実を知り、考え、判断することができる!
『平和がどれほど大切な事か!』
『戦争は、どんな名文を持って、行っても悪です!』
『人が人を殺す事が、戦争では、正義になってしまう矛盾!』

その事が私には理解出来ないことです。
だが、平和を語りながら、銃を向ける政治とは、どう、理解し、認めなさいというのでしょうか。

私は普通のごくありふれた、人間です、今、平和を願い祈る事が出来る、
『人間としての権利を大切に思う!』
『命を守る事の自由を』
大切にしてください!

どんな国の人も、宗教や文化や考え方が違う人も、価値感の違う人も、銃を向けられれば、「恐怖を感じて」打たれれば、痛さを感じて、血が流れて、望まない死があり、又、
『新たな憎しみが生れるでしょう。』

人間の誕生から、幾世紀も、長い、長い、時が過ぎて、人の英知が人を救い、そして人を殺す事にすぐれた科学を使われてしまう現実、この事のくり返しは、止める事ができないのでしょうか?

私は正直な気持ち、今、私の傍らで微笑む
『愛する妻、加奈子の命を守ろうと、切実に思い、願う!』
『愛する、息子、ヒョンヌが戦争で命を落す事から守りたい!』
これからの私の人生の全てを賭けて守り抜きたい!
その事を切実に思うのです。


       (完)

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長い間、つたない小説「残酷な歳月」をお読み頂きましてありがとうございます。
思えば、長い間、うつ病で苦しんでいて、そして<美しき人、ビョンホン>さんの素晴らしき感性(魂)に触れて、うつ病から克服できた過程で、この小説を書きたいと、2008年に天から言葉がふってくるように生まれた言葉を書き留めたものです。

その後、いくつかの小説を書けたけれど、今はもう、言葉を記憶することも難しくなりましたが、これからも、出来るだけブログを続けていきたいと願っています。

どうぞよろしくお願いいたします。



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