CRASEED Rehablog ニューロリハビリテーションとリハビリ医療の真髄に迫るDr. Domenのブログ

ニューロリハビリテーションの臨床応用を実践するリハビリ科専門医・道免和久の日記【CRASEED Rehablog】

医療の質の評価のための指標導入の難しさ

2005-11-14 00:48:39 | リハビリ
私は研究テーマとして、リハビリにおける機能評価に取り組んできましたので、医療における指標(ものさし)の問題には多少は詳しいつもりです。

一般に、どんな指標であっても、『数字』になると客観性があると勘違いする傾向があります。また、本当に目的としていることを表していない場合でも、数字が一人歩きすることが何と多いことかと思います。リハビリ医療の目的は、患者さんのQOLを高めることであって、ADLはその中の重要な一要素ですが、全くイコールではないはずです。ところが、ADLを高めることだけが、唯一、医療関係者の目標となり、患者さんの心情と解離することがあっても気づかないことが少なくありません。患側上肢に対するCI療法はその最たる例です。健側の片手動作で自立するのに、なぜ、ADLに役立たない(??)患側上肢にアプローチするの?と真顔で聞かれると、めまいがしてしまいます。

手術件数で病院の評価をする場合があります。それは正しいことと思います。ところが、年間手術件数100例以上、という手術があったとして、あと1か月で10例足りなかったら何を考えるでしょう?手術適応ぎりぎりで、総合的には手術が必要ない例であっても、無理してメスを入れる、という危惧はないでしょうか?指標をクリアすることだけが立派な病院というラベルになってしまうと、指標以下でも立派な病院の治療内容を悪化させはしないでしょうか?

現在、メールによる医療相談は休止していますが、その理由の一つとして、良いリハビリ病院を教えて下さい、という問い合わせの急増があります。一概には言えない、ということと、私なりに全く駄目な病院と良い病院の区分があっても、客観的な指標に裏付けられていないからです。

マスコミから取材が多い内容は、良いリハビリ病院のリスト、そして、その理由となる指標についてです。理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・医療ソーシャルワーカーの数、1日あたりのリハビリ単位数、土日訓練の有無、発症から入院までの日数、紹介から入院日決定までの日数、初診から入院までの日数、リハビリ科医師の数、リハビリ科専門医の数、カンファレンスの回数、家族面談の回数、ADL改善度、在宅復帰率、学会発表数、治療ガイドラインに準拠しているか、特殊な治療手技に偏っていないか、過去の遺物である「入院判定会議」を廃止したか・・・等々が考えられます。実際に、その内容の一部が記事に掲載もされました。

しかし、それでもまだ不十分です。指標というとどうしても『数』が多くなり、『質』が入ってこないからです。

さらに、ある指標が公式に『良いリハビリ病院』の指標になったとします。そうすると、必ず『数合わせ』や『点取り虫』の病院が出てきます。例えば、在宅復帰率は良い指標ですが、それが権威をもってしまうと、介護力が少なく在宅復帰の可能性が低い患者さんを最初から入院対象から除外する病院が続出することでしょう。また、発症からの日数が短い病院は、早期リハビリに取り組んでいる立派なリハビリ病院ということになります。しかし、その数字が権威をもってしまうと、昨日のブログ記事のように、日数だけで機械的にリハビリ病院に転送させる悪徳医療法人が、最も早期からリハビリに取り組んでいる病院、という栄冠を勝ち取ってしまいます。

教養をもって、慎重に取り組まなければならない問題です。
                    (道免和久)

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