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ニューロリハビリテーションの臨床応用を実践するリハビリ科専門医・道免和久の日記【CRASEED Rehablog】

大腿骨頚部骨折の手術が遅れて認知症に

2005-12-16 23:04:44 | リハビリ
『大腿骨頚部骨折の手術が遅れて認知症に』
これほど、一般の方と医療関係者の反応が異なる見出しはないと思います。

一般の方は、『それは大変だ』『どうしてそうなるの?』『それが原因なら早く手術すればいいじゃないか』等の反応を示します。

しかし、医療関係者はほとんどの人が『どこにでもよくあること』『仕方ない』という感想をもつことでしょう。

大腿骨頚部骨折は、高齢者の転倒で頻繁に発生します。多くの場合、入院してすぐに牽引され、『予定手術枠』で1週間とか2週間後に手術が決まります。その間に、麻酔のリスクや全身の検査などが行われ、『慎重に』手術までの待機期間が過ぎてゆきます。

その間に起こる悲惨な状況は、医療関係者の誰もが知っています。記憶力もしっかりしていたおじいちゃんだったのに、夜になるとせん妄状態、自分がどこにいるかもわからなく・・・つまりは、認知症(痴呆)を発症してしまいます。高齢者にとって、下肢を固定され、寝返りもできず、尿道カテーテルを入れっぱなしにされ、天井しか見えない生活をすることは、脳の機能にとっては致命的となる可能性が小さくありません。

そのうちに肺炎を合併したり、褥瘡ができたりして、発熱のため予定手術も中止になることさえあります。何のための「慎重な」待機手術だったのでしょう?

整形外科の先生にはお叱りを受けるかもしれませんが、リスクがよほど高いかどうかだけを緊急検査で除外し、少なくとも受傷の翌日には、手術をすべきだと思います。当日に緊急手術が可能であれば、それがベストです。特に、もともと入院の患者さんで病院で転倒した場合には、検査データも揃っているわけですから、早急の対応が求められます。

手術室の確保ができない、麻酔科医がいない、整形外科医は忙しい、そういうシステムにはなっていない、リスクを評価しないで麻酔事故が起こったらどうする?、などなど、ご批判はあるでしょう。

しかし、高齢者にとって、1日、1日と臥床状態を重ねることにより認知症を含む廃用症候群は、想像以上に早く進行します。待機することによるメリットとデメリットを、よくよく秤にかけて考えるべきです。

これも『全人医療』の考え方と言えるでしょう。

このような医療を推進するためには、良心に頼るだけではなく、診療報酬上の優遇措置が有効です。例えば、大腿骨頚部骨折で緊急入院した場合、24時間以内、72時間以内、7日以内、それ以降くらいで、診療報酬に差をつけると良いと思います。もちろん、理由があって手術が遅れる場合の配慮は必要ですが、素早い対応をした医師に対する加算という意味合いで考えれば良いと思います。

結果的に、患者さんにとっての予後も高まり、廃用症候群による不必要な医療費も減少します。三方一両得の医療ということになります。



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