【サイカイ(再会・再開)その1】
雷雨注意報40%・・・。もしかして今晩は練習してないかもという考えが頭をよぎりながらも、早足でプールに向かった。練習開始の15分前についてしまい、まだチーム・メンバーは誰も来ていない。手早く水着に着替え、まだ他に泳いでいる人がいるプールへ身体を滑り込ませる。その冷たさに身体が一瞬縮む。こういうときは思い切って泳いだほうが身体が温まっていい。僕は冷たい水に身体を委ねるようにクロールを始めた。
数分泳いだ後、プールの淵に腰を下ろして休憩していると、水球メンバーたちが続々とやってきた。メガネもコンタクトもしてない僕は、ぼんやりとしか見えない。だけどキャプテンのマーク、ゴールキーパーのトム、マイケル、マニー、ジーンなどなど、常連たちは分かった。僕が知らない人たちは4、5人みたい。しかも胸板が厚くて顔もジョック風な人がいたり、若くてスポーツマン系の新顔が多い。(「戻ってきてよかったぁ~」というのは僕の心の声。)そのうちの一人が僕と同じレーンにやってきて互いに「ハイ」の挨拶。すると、背後から、
「やぁ。戻ってきたんだね。おかえり」という声。振り返るとジミーだった。
2週間ぶり。僕は買ったばかりのスピードの水着をはいていた。ジミーを後悔させてやる~という思いだったけど、ジミーもこの2週間で変わっていた。随分日焼けしてこんがりいい具合に色がついてる。しかも体重を落としているのが見た目にも分かるくらい。肩の筋肉が一層ついて、日焼けした肌とあいまって精悍な顔つきになってる・・・。うぐぐ・・・。
なるべく普通に振舞う決心を固めていた僕は、
「そうなんだ。久々。3ヶ月ぶり」と平静に答えて僕らはそれぞれ練習を開始した。
この日のコーチは、ケーシーが担当。ケーシーはどこかジャドソンに似てイケテルんだけどノンケ。そしてこの晩、ケーシーが組み立てた練習メニューは、とてもハードだった。息つくひまなく、クロール、頭を上げたままのクロール、背泳の姿勢で腰から下、両足を同時に波打たせる泳ぎ、エッグビートで50メートル、などなど。だけど僕は自分でも3ヶ月ぶりとは思えないくらい、ちゃんと同じメニューをこなした。
みんなゼーハーいいながら休憩していると、僕の隣で泳いでいた人が自己紹介をしてきた。
「初めまして。僕の名前はクリスチャン。ようこそ水球チームへ」
「あー、僕はタイラー、タイって言います。実は、水球チームへは今日が初めてじゃないんだ。ここ3ヶ月練習に来てなかったんだけど・・・」
「そうなんだ。じゃ、ウェルカム・バックだね」
呼吸を整え肩を上下させながら二言、三言交わしている僕らを、ジミーは隣のレーンからじっと見ていた。
青チームと白チームに分かれて実践練習が始まると、久しぶりに再会する人たちから立て続けに声をかけられた。3月に水球の遠征に一緒に行った(車の運転がちょっぴり乱暴だった)ピージェーは、
「おー、久しぶりじゃん。どうしてた?仕事で忙しかった?」
「う、ううん・・・ちょっと色々あってここ3ヶ月練習に来なかっただけ」
明らかに僕とジミーとの関係について知らないピージェー。うわさによるとピージェーはノンケらしいけど、バイなんじゃないかなぁと思わせるときもある。だけど、この『鈍さ』はノンケかも。
練習試合の途中で、選手交代するとき、プールから上がる僕にアドバイスをしてきたのがジーン。大手電話会社に勤務していて、出張でよく中国などアジア諸国へ行くというジーンは、僕に話しかけてくるときやたらと「アジア・ネタ」をもちかけてくる。どうもアジア人に興味がある気配。
フィリピン系アメリカ人マニーは、かつて(10年ちかく前?)ジミーと2、3回デートをしたことがあるという人。だけど今じゃ随分と趣味が(そして体型も)変わったみたいで、ジミーとマニーは単なるオトモダチ状態。僕とジミーもいずれこんな関係になるのかなぁ。
3ヶ月ぶりの練習は、思った以上に身体に堪えていたみたいで、練習試合の途中で僕は足を吊ってしまった。
そしてシャワータイム・・・
禅の僧侶のように頭を真っ白にしてシャワー・ルームへ真っ先に乗り込む僕。するとシャワーヘッドを一つあけて隣にジミーがやってきた。僕にシャンプーを差し出すジミー。
「ノー・サンキュー。どうせ家に帰ってからまたシャワー浴びなおすから」
事務的にシャワーを済ませ、ロッカールームを出たプール脇で僕は靴を履き始めた。出てきたジミーも少し距離を置いて靴を履き始める。手早く靴紐を結び、周りにいた顔見知りに、「じゃーまたー」といいつつ出口へと向かう僕。ジミーの前を通り過ぎながら、ジミーにも「おやすみー」と言って僕は体育館を出た。靴紐を結びながら「おやすみ」と返してくれたジミーの顔が、飼い主を失った子犬に見えた。
【サイカイ(再会・再開)その2】
独立記念日を経た翌週、2回目の水球練習へ。2週間後にシカゴで開かれるゲイ・ゲームズへ向けて、練習も本格化。僕は当然行くつもりでおそろいのユニフォームも買ったのに、プライベートのごたごたでチャンスを逃してしまった。(だからということもあって、ロスに住んでいるジャドソンを今月末訪問することにした。)
この日もジョック風の見知らぬ人たちが何人かやってきていた。(しかも、全員、ビキニのスピードをはいている!)そのうちの一人で身長183センチくらい、胸板もすっごく厚い人が、僕のレーンにやってきて自己紹介。「テッド」と一言いう彼に、僕は「タイ」と答えた。なんてマッチョな挨拶・・・。
そしてこの晩、ひさびさに再会したのはキャメロン。3月の遠征で急接近したのに、その後、僕が練習に行かなくなったことで会ってなかった。(電話番号もEメールも交換していない・・・。)
僕の隣のレーンにいたキャメロンが僕に気づいて、
「久しぶり。どうしてた?」と聞いてきた。
この質問を聞き飽きていた僕は適当に受け流して、逆に質問をした。
「シカゴのゲイ・ゲームズには行くの?」
「ああ、行くよ。タイは行かないの?」
海軍所属のキャメロンが行くと知って少し驚き。ゲイ・ゲームズなんかに行っているのがバレたら除隊モノだと思うのだけど。
「う~ん、行かないことにしたんだ」
なんのしがらみもない僕が行かないなんて皮肉。
「なんで?ぜったい楽しいと思うけどなぁ」
と追い討ちをかけるようなことを言うキャメロン・・・。
きっとキャメロンと一緒だったら楽しいだろうなぁ・・・とミラーズビルでのことを思い出しながら後悔。
「最初は行くつもりだったんだ。だけど旅費も高いしさ・・・」とお茶を濁す。
この日の練習後、キャップ(帽子)やゴールポストをしまうときに、キャメロンが僕の背中を両手でタッチしてきた。それにロッカールームではシャワーを浴びて荷物があるとこに戻ってみると隣でキャメロンが着替えていた。
だけど奥手なのか、そういう意味で僕に興味がないのか、キャメロンはアクションをしかけてこない。この日もヒョウキン・キャラクターのキャメロンは、「じゃあ皆さん、ごきげんよう」みたいな感じで一人帰っていってしまう始末。その背中に向かって、他のだれかが「今週末の計画は?」と投げかけた。それに振り返って、キャメロンは、
「今週末は友達に誘われて、リホボス・ビーチ(ゲイ・ビーチ)へ行くんだ」と言って帰っていってしまった。
残念。キャメロンは追っても無駄?脈なし?
がっかりしながら僕がプール脇で靴を履いていると、ブロンドで左耳に大きなピアスをあけた25歳風の青年が声をかけてきた。
「君はまだ練習始めて4ヶ月って言ってたよね?」
この人は誰?見たことも話したことも記憶にない。だけど、僕が新人、というかまだ水球暦が浅いというのは知っている模様。もしかしてプールの中で前に話したことがあるかも?目が悪い自分をかなり恨んだ瞬間。
「実際に練習を始めたのは去年の10月ごろなんだ。ここ3ヶ月は来てなかったんだけど」
彼は今日が初めての練習だったらしく、そういえば、今日、一人かなりド下手な人がいたなと思い出した。水泳自体が10年ぶりなのだとか。メガネをかけずにその下手っぷり具合だけをぼんやり見ていた時と、こうしてまじかに見て男っぽい彼とが同一人物とは思えない。
僕は、彼を励ますつもりで、
「みんなにすごく上達したって言われるんだけど、最初があまりにド下手だったからなんだ。足は吊るし水は飲んでおぼれそうになるし」と僕の素人振りを披露した。
すると、僕らの会話に入り込むように、電話会社勤務のジーンが僕の隣に座ってきた。
「こいつは上手くなったよ」と言うジーン。
「ほらね」と言う僕。
「え、なにが?」と聞くジーン。
「今、ちょうど、僕がいかに下手だったかって話をしてたところなんだ。今はすごく上達してるふうに見えるけど、元がひどかったって」
納得したジーンは、このピアス青年にも、練習を続ければうまくなるっていう励ましとアドバイスをしていた。そして僕からももう一つアドバイスをした。
「このプールは平日、一般開放されていて無料で泳げるんだ。だから自分でも泳ぐ練習をすると上達が早いと思うよ」
「じゃ、君も平日、ここに来て泳いでる?」
「うん」
この彼の質問から、もしかして?と思ったのは僕だけじゃなく隣にいたジーンもそう思ったんじゃないかな。
会話を終えて名前も聞かないまま返っていくピアス青年。僕も靴紐をとっくに結び終え、立ち上がって周囲を見回してみる。ジミーが手持ち無沙汰にぷらぷらしている。僕のほうから、
「独立記念日は楽しく過ごせた?」と聞いてみた。
「ああ。グレッグとジョンのバーベーキュー・パーティーに誘われて行ったくらい。特にそれ以外は何もしなかった。今週は短くてエネルギーがあまり気味だよ」
ジミーの明らかなメッセージ。「まだ誰ともつきあってなくて、週末や連休中に暇をもてあましてます。だから電話でもしてください」っていうラブ・コール。じゃあ自分からすればいいのに。傷つくのが怖いから僕からの連絡だけをずっと待ってるって、そんな不自然な関係は続くはずがない。もうジミーとの『駆け引き』にも疲れた。周りにはこんなにイイ男がいるし、次だ、次!
雷雨注意報40%・・・。もしかして今晩は練習してないかもという考えが頭をよぎりながらも、早足でプールに向かった。練習開始の15分前についてしまい、まだチーム・メンバーは誰も来ていない。手早く水着に着替え、まだ他に泳いでいる人がいるプールへ身体を滑り込ませる。その冷たさに身体が一瞬縮む。こういうときは思い切って泳いだほうが身体が温まっていい。僕は冷たい水に身体を委ねるようにクロールを始めた。
数分泳いだ後、プールの淵に腰を下ろして休憩していると、水球メンバーたちが続々とやってきた。メガネもコンタクトもしてない僕は、ぼんやりとしか見えない。だけどキャプテンのマーク、ゴールキーパーのトム、マイケル、マニー、ジーンなどなど、常連たちは分かった。僕が知らない人たちは4、5人みたい。しかも胸板が厚くて顔もジョック風な人がいたり、若くてスポーツマン系の新顔が多い。(「戻ってきてよかったぁ~」というのは僕の心の声。)そのうちの一人が僕と同じレーンにやってきて互いに「ハイ」の挨拶。すると、背後から、
「やぁ。戻ってきたんだね。おかえり」という声。振り返るとジミーだった。
2週間ぶり。僕は買ったばかりのスピードの水着をはいていた。ジミーを後悔させてやる~という思いだったけど、ジミーもこの2週間で変わっていた。随分日焼けしてこんがりいい具合に色がついてる。しかも体重を落としているのが見た目にも分かるくらい。肩の筋肉が一層ついて、日焼けした肌とあいまって精悍な顔つきになってる・・・。うぐぐ・・・。
なるべく普通に振舞う決心を固めていた僕は、
「そうなんだ。久々。3ヶ月ぶり」と平静に答えて僕らはそれぞれ練習を開始した。
この日のコーチは、ケーシーが担当。ケーシーはどこかジャドソンに似てイケテルんだけどノンケ。そしてこの晩、ケーシーが組み立てた練習メニューは、とてもハードだった。息つくひまなく、クロール、頭を上げたままのクロール、背泳の姿勢で腰から下、両足を同時に波打たせる泳ぎ、エッグビートで50メートル、などなど。だけど僕は自分でも3ヶ月ぶりとは思えないくらい、ちゃんと同じメニューをこなした。
みんなゼーハーいいながら休憩していると、僕の隣で泳いでいた人が自己紹介をしてきた。
「初めまして。僕の名前はクリスチャン。ようこそ水球チームへ」
「あー、僕はタイラー、タイって言います。実は、水球チームへは今日が初めてじゃないんだ。ここ3ヶ月練習に来てなかったんだけど・・・」
「そうなんだ。じゃ、ウェルカム・バックだね」
呼吸を整え肩を上下させながら二言、三言交わしている僕らを、ジミーは隣のレーンからじっと見ていた。
青チームと白チームに分かれて実践練習が始まると、久しぶりに再会する人たちから立て続けに声をかけられた。3月に水球の遠征に一緒に行った(車の運転がちょっぴり乱暴だった)ピージェーは、
「おー、久しぶりじゃん。どうしてた?仕事で忙しかった?」
「う、ううん・・・ちょっと色々あってここ3ヶ月練習に来なかっただけ」
明らかに僕とジミーとの関係について知らないピージェー。うわさによるとピージェーはノンケらしいけど、バイなんじゃないかなぁと思わせるときもある。だけど、この『鈍さ』はノンケかも。
練習試合の途中で、選手交代するとき、プールから上がる僕にアドバイスをしてきたのがジーン。大手電話会社に勤務していて、出張でよく中国などアジア諸国へ行くというジーンは、僕に話しかけてくるときやたらと「アジア・ネタ」をもちかけてくる。どうもアジア人に興味がある気配。
フィリピン系アメリカ人マニーは、かつて(10年ちかく前?)ジミーと2、3回デートをしたことがあるという人。だけど今じゃ随分と趣味が(そして体型も)変わったみたいで、ジミーとマニーは単なるオトモダチ状態。僕とジミーもいずれこんな関係になるのかなぁ。
3ヶ月ぶりの練習は、思った以上に身体に堪えていたみたいで、練習試合の途中で僕は足を吊ってしまった。
そしてシャワータイム・・・
禅の僧侶のように頭を真っ白にしてシャワー・ルームへ真っ先に乗り込む僕。するとシャワーヘッドを一つあけて隣にジミーがやってきた。僕にシャンプーを差し出すジミー。
「ノー・サンキュー。どうせ家に帰ってからまたシャワー浴びなおすから」
事務的にシャワーを済ませ、ロッカールームを出たプール脇で僕は靴を履き始めた。出てきたジミーも少し距離を置いて靴を履き始める。手早く靴紐を結び、周りにいた顔見知りに、「じゃーまたー」といいつつ出口へと向かう僕。ジミーの前を通り過ぎながら、ジミーにも「おやすみー」と言って僕は体育館を出た。靴紐を結びながら「おやすみ」と返してくれたジミーの顔が、飼い主を失った子犬に見えた。
【サイカイ(再会・再開)その2】
独立記念日を経た翌週、2回目の水球練習へ。2週間後にシカゴで開かれるゲイ・ゲームズへ向けて、練習も本格化。僕は当然行くつもりでおそろいのユニフォームも買ったのに、プライベートのごたごたでチャンスを逃してしまった。(だからということもあって、ロスに住んでいるジャドソンを今月末訪問することにした。)
この日もジョック風の見知らぬ人たちが何人かやってきていた。(しかも、全員、ビキニのスピードをはいている!)そのうちの一人で身長183センチくらい、胸板もすっごく厚い人が、僕のレーンにやってきて自己紹介。「テッド」と一言いう彼に、僕は「タイ」と答えた。なんてマッチョな挨拶・・・。
そしてこの晩、ひさびさに再会したのはキャメロン。3月の遠征で急接近したのに、その後、僕が練習に行かなくなったことで会ってなかった。(電話番号もEメールも交換していない・・・。)
僕の隣のレーンにいたキャメロンが僕に気づいて、
「久しぶり。どうしてた?」と聞いてきた。
この質問を聞き飽きていた僕は適当に受け流して、逆に質問をした。
「シカゴのゲイ・ゲームズには行くの?」
「ああ、行くよ。タイは行かないの?」
海軍所属のキャメロンが行くと知って少し驚き。ゲイ・ゲームズなんかに行っているのがバレたら除隊モノだと思うのだけど。
「う~ん、行かないことにしたんだ」
なんのしがらみもない僕が行かないなんて皮肉。
「なんで?ぜったい楽しいと思うけどなぁ」
と追い討ちをかけるようなことを言うキャメロン・・・。
きっとキャメロンと一緒だったら楽しいだろうなぁ・・・とミラーズビルでのことを思い出しながら後悔。
「最初は行くつもりだったんだ。だけど旅費も高いしさ・・・」とお茶を濁す。
この日の練習後、キャップ(帽子)やゴールポストをしまうときに、キャメロンが僕の背中を両手でタッチしてきた。それにロッカールームではシャワーを浴びて荷物があるとこに戻ってみると隣でキャメロンが着替えていた。
だけど奥手なのか、そういう意味で僕に興味がないのか、キャメロンはアクションをしかけてこない。この日もヒョウキン・キャラクターのキャメロンは、「じゃあ皆さん、ごきげんよう」みたいな感じで一人帰っていってしまう始末。その背中に向かって、他のだれかが「今週末の計画は?」と投げかけた。それに振り返って、キャメロンは、
「今週末は友達に誘われて、リホボス・ビーチ(ゲイ・ビーチ)へ行くんだ」と言って帰っていってしまった。
残念。キャメロンは追っても無駄?脈なし?
がっかりしながら僕がプール脇で靴を履いていると、ブロンドで左耳に大きなピアスをあけた25歳風の青年が声をかけてきた。
「君はまだ練習始めて4ヶ月って言ってたよね?」
この人は誰?見たことも話したことも記憶にない。だけど、僕が新人、というかまだ水球暦が浅いというのは知っている模様。もしかしてプールの中で前に話したことがあるかも?目が悪い自分をかなり恨んだ瞬間。
「実際に練習を始めたのは去年の10月ごろなんだ。ここ3ヶ月は来てなかったんだけど」
彼は今日が初めての練習だったらしく、そういえば、今日、一人かなりド下手な人がいたなと思い出した。水泳自体が10年ぶりなのだとか。メガネをかけずにその下手っぷり具合だけをぼんやり見ていた時と、こうしてまじかに見て男っぽい彼とが同一人物とは思えない。
僕は、彼を励ますつもりで、
「みんなにすごく上達したって言われるんだけど、最初があまりにド下手だったからなんだ。足は吊るし水は飲んでおぼれそうになるし」と僕の素人振りを披露した。
すると、僕らの会話に入り込むように、電話会社勤務のジーンが僕の隣に座ってきた。
「こいつは上手くなったよ」と言うジーン。
「ほらね」と言う僕。
「え、なにが?」と聞くジーン。
「今、ちょうど、僕がいかに下手だったかって話をしてたところなんだ。今はすごく上達してるふうに見えるけど、元がひどかったって」
納得したジーンは、このピアス青年にも、練習を続ければうまくなるっていう励ましとアドバイスをしていた。そして僕からももう一つアドバイスをした。
「このプールは平日、一般開放されていて無料で泳げるんだ。だから自分でも泳ぐ練習をすると上達が早いと思うよ」
「じゃ、君も平日、ここに来て泳いでる?」
「うん」
この彼の質問から、もしかして?と思ったのは僕だけじゃなく隣にいたジーンもそう思ったんじゃないかな。
会話を終えて名前も聞かないまま返っていくピアス青年。僕も靴紐をとっくに結び終え、立ち上がって周囲を見回してみる。ジミーが手持ち無沙汰にぷらぷらしている。僕のほうから、
「独立記念日は楽しく過ごせた?」と聞いてみた。
「ああ。グレッグとジョンのバーベーキュー・パーティーに誘われて行ったくらい。特にそれ以外は何もしなかった。今週は短くてエネルギーがあまり気味だよ」
ジミーの明らかなメッセージ。「まだ誰ともつきあってなくて、週末や連休中に暇をもてあましてます。だから電話でもしてください」っていうラブ・コール。じゃあ自分からすればいいのに。傷つくのが怖いから僕からの連絡だけをずっと待ってるって、そんな不自然な関係は続くはずがない。もうジミーとの『駆け引き』にも疲れた。周りにはこんなにイイ男がいるし、次だ、次!