先ほどの及川幸久氏のYoutubeの中で、EU崩壊みたいな話が出てきたので、少し前のニューズウィークですが、それに関連したトピックがあったのを思い出し、コピペさせて頂きました。
政治の行方は結局のところ経済によって決まると、よく言われる。だが、2019年のヨーロッパ経済の行方を占うときはその反対、つまり「経済の行方は政治によって決まる」と言うほうが、極めて現実に近いように感じられる。
イギリス以外のEU27カ国のうち、ブレグジットの最大の打撃を受けるのは、対英輸出の57%を失うことになるドイツだ。
一方、GDPの減少幅で見ると、ベルギーが最大のダメージを受ける。対EU輸出がほぼ全てイギリスを経由するアイルランドの経済も4%縮小するだろう。これにオランダとルクセンブルクが続く。
ただ、欧州復興開発銀行(EBRD)は2018年11月、合意なしのブレグジットの場合、最大の打撃を受けるのはスロバキア、ハンガリー、ポーランド、リトアニアだとの見方を示している。
EUの拡大はほぼストップし、これまで加盟交渉を続けてきたトルコやマケドニア、モンテネグロ、アルバニア、セルビアは順番待ちの列に据え置かれ、自由貿易圏の拡大がEUに繁栄をもたらすのもお預けになる。
かつて、アメリカがクシャミをすると世界全体が風邪を引くと言われたものだが、グローバル化によって世界経済の相互依存が進んだ結果、主要経済圏が鼻風邪を引くと、世界全体がハンカチに手を伸ばすようになった。
つまりヨーロッパの貿易が縮小すれば、貿易相手国の経済にも危機が及ぶはずだ。
現在の世界の3大経済圏はEU、アメリカ、そして中国だ。EUは毎年、世界の富の約4分の1を生み出している。人口5億1300万人の1人当たり平均年間所得は3万7800ドルで、域外貿易は中国やアメリカよりも盛んだ。そんなヨーロッパ経済がつまずけば、すぐに世界に影響が及ぶだろう。
リーダーシップも失われて
経済低迷の懸念と同じタイミングで発生しているのが、EUのリーダーシップの不在だ。
欧州の政治的統合の暗黙のリーダーであるドイツのアンゲラ・メルケル首相は、任期満了を迎える2021年に退任するとの意向を示している。もはや死に体となった身であり、ドイツは今後3年間、舵取り役を失うことになる。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領は繁栄する力強い統合ヨーロッパという明確なビジョンを掲げ、EUにおいてメルケルの後を継ぐ意欲を表明してきた。
だが、その彼を国内からの反発が襲っている。大規模な抗議デモを繰り広げた「黄色いベスト」運動を受けて、制約だらけの雇用・貿易慣行を無効化する経済改革の多くは断念せざるを得なくなった。
最低賃金の引き上げや燃料税引き上げの延期といった譲歩は、短期的にはフランス経済を活性化させるかもしれない。とはいえ群衆の圧力に屈しては、市場はマクロンの手腕に信頼を持てない。
こんな人物に、豊かな北部と貧しい南部、リベラルな民主主義が主流の西部と独裁度や反EU傾向が強まる東部に分裂する今のヨーロッパを率いることなどできるのだろうか──。
有権者の間にどれほど反EU感情が存在するかは、5月に行われる欧州議会選挙で明らかになるはずだ。
現時点ではポピュリスト勢力が過半数議席に迫る見込みは薄いものの、ドナルド・トランプの米大統領選勝利やブレグジットを決めた英国民投票、欧州各国議会での極右勢力の台頭が示すように、今は政治的変動の時代。
加えて、欧州議会から中道志向のイギリス人議員が去れば、影響力はありながらも権力はあまりないEU機関は不安定と不確実性の波にのみ込まれかねない。それこそ、市場が恐れる事態だ。
EU内部の問題と併せて、世界全体でグローバル化への幻滅が大きな流れになっている。マーガレット・サッチャー元英首相やビル・クリントン元米大統領ら、前世代の指導者が主導したグローバリゼーションは関税を撤廃して自由貿易を促進し、巨大で閉鎖的な中国やインドの市場をこじ開けた。
グローバル化の衝撃は、欧米の半熟練・非熟練労働者にとって特に厳しかった。彼らの存在はアジアの安価な労働力によって不要になり、そのせいで外国人嫌悪や反移民感情が膨らんだ。EUの繁栄をもたらした経済論理の核である労働者の移動の自由は今、かつてない攻撃にさらされている。
ロシアとの戦争が勃発したら
デジタル革命の力で、携帯電話を手にした途上国の市民は先進国との間の富の格差をその目で見ることになった。よりよい生活を求めてアフリカやイラン、アラブ諸国から欧州やアメリカを目指す経済移民が急増し、それがまた欧米の労働者の怒りをあおる。
憤る彼らが共鳴するのがトランプ、ブレグジット派、イタリアの五つ星運動などのナショナリズム的な主張だ。
ヨーロッパの覇権を揺るがす難問の山は、つい最近まで続いたEUの繁栄は継続するという確信に疑問符を突き付ける。
おまけに、それでもまだ足りないとばかりに、トランプ米政権は自由貿易協定から離脱したり中国との貿易戦争を始めたりしている。欧州の指導者や投資家にとっては、今後も製品・サービスの輸出ができるのかと不安になるしかない状況だ。
最後の懸念材料は、第二次大戦終結以降で初めてヨーロッパで戦争が勃発する可能性が出てきたことだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は2014年にウクライナ東部に侵攻し、クリミア半島を併合。2018年11月にはウクライナの艦船と乗組員を拿捕したが、いずれの行動もEUやアメリカからはいわば見逃されている。
かつて戦争は不景気の特効薬とされた。第二次大戦によって世界は大恐慌から抜け出し、ベトナム戦争による支出増で米経済は上向いた、と。しかし、これは神話にすぎない。
確かに、10年に及ぶ世界恐慌の後に起きた戦争で兵士や兵器工場労働者の需要が膨らみ、アメリカは完全雇用を回復した。だが世界全体で見れば、敗戦国の日本やドイツをはじめ、膨大な数の命が失われ、いくつもの都市が丸ごと破壊されて産業が壊滅した。そのコストの規模は第二次大戦の「景気刺激効果」をはるかに上回る。
インフラ改善や民間企業への投資ではなく戦争遂行に資源や人的労力を費やすのなら、軍事費という支出は経済的にほぼ無駄になる。カネや人材は戦争以外に使うほうがずっといいはずだ。
繋がりあう現代の世界では、戦争は繁栄を阻害する。プーチンがウクライナを再びロシアのものにするという野望に向けて前進すれば、ヨーロッパの東端で泥沼の戦争が起こると想定される。その戦線はバルト3国など、プーチンが目を付けるほかの旧ソ連構成国にも広がるだろう。
「アメリカ・ファースト」を唱える紛れもない孤立主義者、約70年にわたってヨーロッパの平和を守ってきたNATOに懐疑的な人物が米大統領である現状では、戦争勃発で欧州がたちまち景気後退に陥ることもあり得る。
政治学者フランシス・フクヤマは1992年、ソ連崩壊は「歴史の終わり」であり、リベラル民主主義と資本主義が勝利したと書いた。
その説を信じた人々にとって、第一次大戦終結から1世紀が過ぎたヨーロッパ、そして世界に広がる混乱は不可解でしかない。欧州市民は今や突然、かつての確実性とかつての同盟関係が崩れ去る不安な世界のただ中に放り込まれている。
今年中、あるいは来年にもヨーロッパで不況は起きるのか。制御不能な事態になるとの見通しが生まれたとき、それは確実に起こる。
<2019年1月15日号掲載>