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『シベールの日曜日』 旅の友・シネマ編 (22) 

2018-10-03 15:50:14 | 旅の友・シネマ編



『シベールの日曜日』 Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray (仏)
1962年制作、1963年公開 配給:東和 モノクロ
監督 セルジュ・ブールギニョン
脚本 セルジュ・ブールギニョン、アントワーヌ・チュダル
撮影 アンリ・ドカエ
音楽 モーリス・ジャール
原作 ベルナール・エシャスリオー「ヴィル・ダヴレーの日曜日」
主演 ピエール … ハーデイー・クリューガー
    フランソワズ(シベール) … パトリシア・ゴッジ
    マドレーヌ … ニコール・クールセル
    カルロス … ダニエル・イヴェルネル
    ベルナール … アンドレ・オウマンスキー
主題歌 『シベールの日曜日』 ( Cybele ou les Dimanches de Ville d'Avray ) 唄・マリー・ラフォレ

戦闘機パイロットのピエールはベトナム少女を誤殺したショックの直後に撃墜されて頭部を打撲し意識障害となった。
障害の治療で通っていた病院の看護婦マドレーヌと恋仲になり同棲してはいるがピエールの孤独は癒されなかった。
ある日、ピエールは街角で父親に引っ張られて泣いている少女フランソワズが気になりそのあとをつけると父親は彼女を
寄宿舎に届けて逃げるように見捨ててしまった。数日後、運よく寄宿舎に入ることができたピエールはそこでフランソワズと
再会し、次の日曜日に親族を装ってフランソワズと面会して外出許可を得て二人で散歩、池の波紋を見つめたり森の中の
大木にナイフを立てて木の精の声を聞いたり、二人はまるで恋人同士のようにお互い寒々とした心の隙間を埋め合った。
そしていヴの夜に森の小屋で二人だけの聖夜を迎え、フランソワズは自分の本当の名前はシベールだとピエールに教える。
その頃、マドレーヌはピエールの不在に気づき担当医や警察に相談、警察も異常な男が少女を連れ去ったと認識して捜査に
乗り出す。やがて警察は森の小屋で眠りについたフランソワズのそばにいたピエールを発見、少女の危険を感じた警官は
ピエールを射殺してしまった。目覚めたフランソワズはピエールが死んでいるのに気づき、警官に名前を尋ねられても「もう、
私には名前なんかないの、誰でもなくなったの」と激しく泣き崩れ、少女の名前は永遠に失われてしまった。



原作はベルナール・エシャスリオーの小説「ヴィル・ダヴレーの日曜日」で、ブールギニョンはベトナム戦争により精神が
不安定になった少年のような心を持つ男と、薄幸で大人の女性の心を持つ少女との悲しくも美しい魂のふれあいを
水墨画のような世界の中に描き上げました。特に、ヌーヴェルヴァーグにはなかった強いロマンチシズムと見事な映像美で
切ない感動の冬物語を作り上げ、ヌーヴェルヴァーグ後に開花するクロード・ルルーシュなどによるロマンチシズムと映像美の
融合という更なる新しい波の先導役となりました。



映画の底辺にはペシミズムが絶えず流れているのですが極力それを殺しながら、救われることがあり得ない二つの魂を
さも天使の戯れのように美しく描くことにより、ラストシーンの結末の感動を高める見事な演出です。



ブールギニョンは日本で墨絵の素晴らしさに憑りつかれてそのイメージでこの作品を撮ったといわれています。
寒々とした池の冬景色、水面の波紋などの中に二人のきらめく心情が見事に映し出されていて、背景を巧みに利用しながら
天使たちの深層心理を表現しています。



タイトルにあるヴィル・ダヴレーは、パリとヴェルサイユの中間にあるパリ郊外の都市の名前で、フランス印象派の画家である
ジャン・バティスト・カミーユ・コローがヴィル・ダヴレーを大いに気に入ってここに別荘を買い取りこの街の風景画を描いた
ことで有名な町ですが、彼の代表的な作品でもあるコローの池(Étangs de Corot)が『シベールの日曜日』の舞台となりました。




この映画の主題歌なのですが、本来はまだ駆け出しのモーリス・ジャールがメインテーマを書き下ろしているのですが、
残念ながら話題にもならず心に残る名曲とはなりませんでした。
それよりも、本編の森道でのお散歩デートでフランソワズがわずか十数秒小さく口ずさんだ『宮殿の階段に』がこの映画の
主題歌となっていて、『シベールの日曜日』というタイトルでマリー・ラフォレのこの曲がリリースされています。
この『宮殿の階段に』 ( Aux Marches Du Palais )は、フランス西部の18世紀ごろの歌で、作詞・作曲は不詳ですが、フランス
国内の広範囲にわたって知られた民謡で、美しい娘に恋した若者が捧げるプロポーズの歌です。

『シベールの日曜日』 マリー・ラフォレ
”Aux Marches du Palais” Marie Laforet 【YOUTUBEより】