瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

第捌話

2015-08-22 10:19:01 | 奇妙な味
「あら、兄さん」
呼び止められて胸をつかれた思いがした。死んだ妹がそこにいた。もっとも妹を亡くしたのは子供の頃であり、目の前にいる女は二十歳ぐらいである。それを妹と見間違えるとはどうしたことだろう。自分でもよくわからない。
「何をためらってるの」
女はそう云って歩き始めた。ついてくるのが当然、という素振りである。あきらかに人違いなのだけれど妹に似ている女に興味もあり、気がつくと女のあとをついて歩いていた。
「でも本当に新盆に帰ってくるとは思わなかったわ。だって、兄さん、約束守ったことないじゃない。死んだら性格変わるの? だったら、あいつにも一度死んでもらおうかしら。ヤキモチ焼きで困るのよね、ほんと」
女はたのしそうに笑いながら、弾むように先を歩いていく。



参考■久生十蘭「生霊」
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