じいたんばあたん観察記

祖父母の介護を引き受けて気がつけば四年近くになる、30代女性の随筆。
「病も老いも介護も、幸福と両立する」

秋の中の、女性。

2005-10-20 02:29:25 | きゅうけい
公園を抜けて、祖父母宅へ向かっていたとき
見かけた、女性の横顔を。

彼女の表情と風景が溶け合った瞬間を
少しでも描き残しておきたくて。


気配を消しているかのように、
静かに公園にたたずんでいた彼女。

秋の生命が よろこびの歌を纏い、彼女の周りに集う。

でも、彼女は、そんなことなどお構いなしで
目を閉じ 静かにそこに 立っていたのだ。

秋を味わいつくすように。

ばう母さん。

2005-10-20 01:40:46 | 介護の周辺
注)「ばう」というのは、わたしの相方の仇名です。

先日の夜のこと。


疲れきって帰宅したわたしが
例によってぼんやりPCに向かっていると

台所で、相方が、
あれこれおかずを作っている様子が聞こえてきた。


じゅわじゅわ… たんたんたんたん…


ご飯が出来ていく音を聞きながら
パソコンで遊んでいる

その、シチュエーションが、
何とも言えず
幸せ感をもたらしてくれて

まるで子供に還ったような気がして
つい、ちょっとふざけて、声を掛けた。

「…ねえ、ばう母さん」


ばう母さんは

「なあに?」

と、菜箸を持ったまま振り返った。


「いい匂いだね、ばう母さん。
 たまおは、ばう母さんのご飯が、大好きだよ」

笑顔で、無邪気に滑り出た言葉に、はっとした。


そうだ。

あたしには二度と、手に入らないだろうと思っていた、
こんな、
ごく普通の家庭のような、時間。

本物の、安らぎ。

顔色に、動揺が出た、と思う。


ばう母さんは、気づかぬふりで、にこにこしながら

「たまお、しっかりお食べなさいね」と
ユーモアたっぷりに、返してくれた。


何気ないひととき。
だけど、少なくともあのとき

「護られている」と実感した。


ばう母さんの背中に、顔をこすりつけて、
少しだけ、泣いた。