ふたり道三〈上〉 (徳間文庫) | |
宮本 昌孝 | |
徳間書店 |
戦国武将・斉藤道三の小説です。
斉藤道三の国盗りは、親子2代によるものだったことが明らかになっています。「道三」はふたりいたんですね。この小説は、その説にもとづいて書かれています。
ある男が短刀を手に、屍の肉を削ぎ落とすシーンから物語ははじまります。屍は、男の父親です。この男は何者なのか、屍の肉を削ぎ落とす行為にどんな意味があるのか。この冒頭シーンで、もう続きが読まずにはいられなくなりました。
斎藤道三は「美濃のマムシ」と恐れられました。どちらかというと腹黒くて油断のならない野心家というイメージなんですが、この作品は違います。
この道三はさわやかで快活です。野心に燃える好青年。凛とした美しさがあります。
道三は野心を胸に京を飛び出し、途中で多くの敵や仲間と出会いながら戦いを繰り広げます。夢への階段をのぼっていく姿は、少年のような冒険心と躍動感にあふれています。道三とその仲間たちの青春群像です。
若き道三と、老将・北条早雲が手を組んで、ともに戦う一幕があります。これは興奮しますね。あの道三とあの早雲のツーショットです。戦国ファンには垂涎モノの心踊るシーンです。
道三は隠居後に剃髪してはじめて「道三」と号するようになりました。ですからこの小説においても、はじめから「道三」と名乗る人物が登場するわけではありません。
はじめは読者も誰が斉藤道三なのかわからないんです。
魅力的なたくさんの登場人物のうち、いったい誰が斉藤道三になっていくのか、それを予想しながら読むという知楽しみもあります。