アフリカにあるタンガニーカ湖の研究を行っていたCatherine O’Reillyは、地球温暖化が湖の生物生産を減少させているという論文をNatureに発表した(O’Reilly, 2003)。
この論文の中で温暖化に伴って水温成層が強くなったことと、湖上風速の低下が湖の上下混合を弱めたことによって深水層から表水層への栄養塩供給が減少し、表水層での植物プランクトンの増殖が低下し漁獲量が減ったということを示した。
一方で、スイスとフランスの国境にあるレマン湖や鹿児島県の池田湖では、湖の上下混合が不十分になり浅い層から深い層へ十分な酸素が供給されなくなった(長谷川 2006、新井2009)。
これらの湖では、1960年から1970年代にかけての急激な富栄養化によって植物プランクトンが増え、多くの有機物が沈降して湖底にたまっている。
このようにして湖底にたまった有機物はバクテリアによって分解されるが、そのときに水中の溶存酸素が消費される。酸素供給の低下と有機物の分解とで、湖底付近はやがて低酸素化してくる。
現在、レマン湖も池田湖も、一年中、溶存酸素濃度がゼロに近い状態である。
このよう低酸素化は、カスピ海、日本海、インド洋、カリブ海のような大きな海水域でも報告されている(たとえば、Diaz 2001)。
また、世界の淡水湖沼の20%の容積を占めるバイカル湖(ロシア)やアメリカのワシントン湖では、湖が水温成層する期間が少しずつ長くなってきている(Shimaraev 2006, Winder and Schindler, 2004)。
これも温暖化の影響と言えよう。
北米にある五大湖のエリー湖では、全体の30%に近い水域で低酸素化が起こっている。
外来の貝が大発生したことと、水温上昇が原因だと言われている(Hawley et al. 2006)。
このように溶存酸素が少なくなり生物が生存しにくくなった水域をデッド・ゾーン(死の水域)と呼んでいる。
図に見られるようにデッドゾーンが世界中で急速に拡大している(Diaz and Rosenberg 2008)。