紫陽花記

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別館★写真と俳句「めいちゃところ」

(16)港町ぶらり

2022-11-06 08:21:33 | 江南文学56号(華の三重唱)16作


「船で行くわよ」
 計画係の徳子が、シーバスに乗船すると言って先を行く。
「引き潮だから船までのスロープ、傾斜がきつくなっているね」
「まぁだ独りで大丈夫よ。歳は同じでしょ」
 依子は、孝江の出した手を払った。
 横浜駅東口乗船場からシーバスに乗る。ぷかり桟橋乗船場と、ピア赤レンガ乗船場に寄りながら、山下公園乗船場までのコース。
 沿岸のマンション群が秋の陽に光っている。
 陸路より眺めが良く時間も早い。
 山下公園から元町へ。全体で七百メートルほどの商店街通りは石畳。大きなポットの花の寄せ植えが、間隔よく置かれていた。
 路地裏通りから坂道を登る。外人墓地を見ながら『ブリキのおもちゃ博物館』へ。
 港の見える丘公園で一休み。ベイブリッジや港内の船が白い。倉庫群が手前に横たわる。
 フランス山を通る。『母子像』があった。
「アメリカの戦闘機にやられて死んだ、母と娘二人なんですって」
「あら、あっちにも?」
「あれは、彼氏が彼女を抱いているのよ」
 ブロンズ像の奥のベンチに若い二人。
「時の流れを感じるわね」
「遠近両用眼鏡をやっぱり買わなくちゃ」
「核武装なんて話は無しにして欲しいわ」
 山下公園に戻り『赤い靴はいてた女の子像』を見る。直行便のシーバスに乗って、横浜東口の横浜ベイクォーターへ。
 人気料理家・栗原はるみ考案メニュー提供のレストラン、『ゆとりの空間』は満席。三十分待った。素朴な食材だが、温かくおしゃれで美味。依子は呟いた。
「ぜいたくねぇ、綺麗な水も飲めない子がいるっていうのにね」



江南文学56号掲載済「華の三重唱」シリーズ
初老の孝江と依子と徳子のプチ旅物語でした。
楽しんでいただけたでしょうか?
このシリーズは今回で終わります。
お読みいただきありがとうございました。



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