鳥海山近郷夜話

最近、ちっとも登らなくなった鳥海山。そこでの出来事、出会った人々について書き残しておこうと思います。

矢島口七合目御田

2023年07月27日 | 鳥海山

 矢島口七合目御田、素直に読めば「やしまぐちななごうめおんた」ですね。秋田の本荘山岳会のどなたかは「オダ」と読むのが正しい、と指摘され、それに従って昭文社の山と高原地図も「おだ」とルビを振るようになったそうです。

 ちなみに何合目と山が高さによって分けられているのは山岳信仰の山だからです。高さによって十に分け十界の苦行の境界を表しています。すなわち一合目は地獄道、二合目は餓鬼道、三合目は畜生道、四合目は修羅道、五合目は人道、六合目は天道、七合目は聲聞しょうもん、八合目は緣覺えんがく、九合目は菩薩、十合目は佛地ぶっちとなります。

 はたして「おだ」でしょうか。秋田の山岳会の大先輩で数えきれないほど鳥海山に入山している斎藤重一さんはその著書「鳥海山」(1997年 なんば書房)のなかで御田に「おた」とわざわざルビを振っています。又山と高原地図、池昭さんの時代のものは地図には御田にルビは振られてはいませんが付属の解説ではちゃんと「おんた」とルビが振られています。


(昭文社 山と高原地図 鳥海山 1976年 池田昭二執筆 附属冊子より)

 なにより確実なのは祓川ヒュッテの管理人を長く務められた佐藤康さんは「ひとりぼっちの鳥海山」の中で御田にわざわざ「おた」とルビを振っているくらいです。

 昭文社山と高原地図 鳥海山・月山 羽黒山」2019年版では御田に「おだ」とルビが振ってあるそうですが手元に無いので不明です。同シリーズの手元にある2022、2023年版の紙の地図では御田にルビは振られていません。わざと削ったのでしょうか。但し電子版では御田に「おだ」とルビが振られています。破方口も「破方」のまま、「やぶれかた」のルビがなくなったのはまあ良いとして。

 山岳信仰の英彦山では「御田祭」(オンタサイ)が行われることからもわかるように山岳信仰における「御田」は「オンタ」と読みます。
  ※阿蘇神社の場合は、御田祭(御田植神幸式おたうえしんこうしき、通称オンダマツリ))と呼ぶそうです。

 御田の読み方は神事に係わることなので(おた、みた、おみた、おんた、おんだ、おでん)といろいろありますが「おだ」と読むことはありません。吹浦口御田ヶ原も読み方は「おたがはら」、「おだがはら」ではありません。

 地名にいろいろな呼び方があるのは問題ないのですがせめて山岳信仰を基とした呼称は伝えられてきた読み方を守りたいものです。


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