<両軍スタメン>
ともにホームの1stカラーが白メインというチーム同士の対戦。
宮崎のホーム・ユニリーバスタジアム新富。
非常に建築物が少なくスタンドを作ったのみという感じの外観なうえ、電光掲示板は無しと、下位カテゴリ(J2)が出来て日の浅い頃の地方(一部)を連想させる出来栄えであり。
上と下の格差を感じさせる景観ですが、逆に言えばそれだけ間の部分が詰まっているという事。
底辺から上層部へのし上がるという事は困難を極める現代のJリーグですが、その夢を失っては中層部へ這い上がる事すら難しい。
リーグの成績では過去2年申し分ない宮崎ですが、今後クラブ規模的にも浮上する事が出来るでしょうか。
試合が始まると、既に前年J2を経験した、先輩格である岩手が攻撃権を支配。
入りのロングボール中心の立ち回りが終わったのちも、最終ラインでの繋ぎを経てロングボールを組み立てに取り入れる攻撃。
その立ち位置は、前年まで相手の宮崎に居た新保が常時高めという、宮崎在籍時の性質そのままな位置取り。
これを軸として、広めの間隔でパスを繋ぎ、宮崎のコンパクトな4-4-2ブロックの攻略を図るという解り易い意図が見られました。
一方の宮崎も、守備の時も前掛かりで襲ってくる岩手サイドの裏を突くべくロングボール中心での攻撃。
しかしオフサイドを量産するなど不発に終わり。
岩手の長い距離のパスに次第に宮崎ディフェンスはスライドが間に合わず、サイドで2対1が出来る局面が多発してしまう展開に。
14分右サイドでミドルパスの跳ね返りを拾った李がすかさずサイドチェンジ、これで和田・新保と宮崎SB(青山)という2対1が生まれ。
和田が左奥を取ってシュート気味のクロスを入れるもGK植田がキャッチ。
こうした姿勢でサイドを踏襲していき、16分には右スローインからの繋ぎで、奥を突いたのちの戻しから松原亘がミドルシュート。
これがゴールバー上部を掠める際どいフィニッシュとなり、岩手の狙いは成功したかのような流れを描きます。
一方、かつての同僚(新保)の存在に脅かされるといった宮崎。
右サイド(岩手から見て左サイド)を押し込まれるのを避けるためか、20分辺りから高橋と北村の位置を入れ替え。
そして北村がトップ下のように振る舞う事で、守備時にどちらのサイドにも人数を掛けられるように備えたでしょうか。
また攻撃では、岩手の左サイド重視の姿勢に釣られるように、自身も永田の裏抜けを中心として左からの攻めを増やし。
24分にはその永田がスルーパスを受けて奥へ進入、カットインでエリア内を突くと角度の無い所からシュートを狙い、左ゴールポストを直撃。
反撃体制を整えたかに見えましたが、以降再び岩手の攻勢を受け、ブロック形成で凌ぐ状況となります。
27分以降、宮崎の攻撃機会が一度も訪れない(自分の集計、オフサイドの場面は除く)ぐらい押し込み続けた岩手。
それでも微調整した宮崎ディフェンスは、中を切る意識を強めてフィニッシュの場面を作らせず。
エリア内に縦パスを打ち込まれてもシュートさせなければ良いという、その姿勢に難儀する岩手。
こうなると主体的な攻撃よりは、相手を引き込む意識を高めて隙を作る事も求められる状況に。
35分に最終ラインでボールを回収した岩手に対し、宮崎は永田が前に出て奪回を狙い。
これを見て田代→南縦パスとその隙を突いて素早く運んだ岩手、佐藤未のシュートまで繋げます。(ブロック)
このいかにプレッシングを呼び起こし、相手の4-4-2ブロックが崩れた所を素早く運ぶかがカギとなる予感がしましたが、早々巧くはいかず。
その後は例によって、浮き球のロングパス・ミドルパスを送り、佐藤未や宮市のポストワークで揺さぶる体勢へと移行します。
それでも36分の李のミドルシュート(ブロック)以降はフィニッシュに辿り着けず。
サイドを突いてのクロスもブロックに防がれる事数多で、掻い潜ってもGK植田に抑えられるという具合に実りは少なく終わり。
結局前半はスコアレスで終わる事となりました。
ハーフタイムでの交代は双方とも無く、始まった後半。
早速の後半1分に宮崎のカウンターが生まれかかり、裏へのロングパスに永田が走り込むも繋がらず。
ともに立ち回りは大きく変えずも、宮崎に逆襲の意識が強くなったでしょうか。
6分には左サイドで受けた南野が果敢にロングシュートを狙う(GK丹野キャッチ)シーンもあり。
こうしてカウンターの恐怖を植え付けた宮崎、その後はマイボールの際はショートパスを繋ぐ意識を高め。
ボランチが1人降りて、3枚の最終ラインによる繋ぎをメインとして岩手のプレッシャーをかわし。
長崎時代もそうだったように、既にポールポゼッションの下地があるチームを受け継いだ松田浩監督、その能力を「相手の攻撃機会を減らす」という守備面で活かすのに躊躇は見られず。
自身の能力を落とし込みながら、それまで培ったチームの能力を引き継ぐという二面性は、宮崎の地でも発揮されているようでした。
そんな宮崎の立ち回りにより、前半程攻勢を掛けられない状況に陥った岩手。
流れを取り戻すべく18分に最初のカードを切り、宮市→オタボー・ケネスへと交代。
オタボーがトップ下に入り、藤村が右サイドハーフに回りました。
この後ショートパスを繋ぎ、同サイドに人数を掛けるという手法に切り替えるも、宮崎のブロックを中々破れず。
一方の宮崎も、24分に北村→橋本へと交代。
橋本・南野の2トップとし、スイッチを入れに掛かりました。
しかしその直後、スローインを受けにいった橋本は空中で田代のアフターチャージを頭部に受け、いきなり痛んでしまう事態となります。
当然反則で田代が警告を受けたものの、その後治療を経て復帰した橋本の顔には痛々しい瘤が膨れ上がり。
その姿に岩手サイドも申し訳無いという気持ちになったのか(ないしは2枚目の警告を避けるためか)、28分に田代を退かせる手段を採りました。(弓削と交代・同時に佐藤未→ドウグラス・オリヴェイラへと交代、李がセンターバックに回る)
前線にドウグラスを立てた事で、再びロングボール重視となる事が予想される岩手。
宮崎はその圧力を掻い潜り、29分に下澤が再びロングシュートを狙いましたが、ゴール左へ惜しくも外れ。
直後の30分には橋本がプレスバックしてボール奪取、そのままドリブルでカウンターの場面を作ったものの、その前方で南野が李のチャージを受けた事で反則に。
相手の攻撃を防ぎつつ、2トップの圧力で一発を狙う展開が出来つつありました。(36分に高橋→小川へと交代)
予想とは反して、その後も最終ラインでの繋ぎで何とかする姿勢を見せる岩手。
36分にはGK丹野から左サイドへ渡しての前進、スルーパスを受けて深さを取ったドウグラスからの戻しで人数を掛けての好機。
中央へ送られた後、オタボー縦パス→弓削スルーを経て受けた松原亘がシュート。(ブロック)
このフィニッシュを境に、松原亘が流れの中で前に出てチャンスエリアで受けるという攻撃が目立つようになります。
岩手の最後の交代は40分で、和田・南→チャンヒョンス・加々美。
謹慎処分(ビスマルクの飲酒運転に同乗していたという理由)・故障を経て、今季復帰後3試合目の加々美。
この押し迫った時間帯で違いを見せたかったものの、南と比べてあまり目立てず、やはり時間が少なすぎたでしょうか。
最後のカードがやや不発となった岩手を尻目に、再びボールポゼッションの時間を増やす宮崎。
永田を使って奥まで進入するも、戻して作り直すという具合に、あくまで失点しない事を重視していたでしょうか。
一見消極的ながら、その姿勢が最後に報われる事となった感があり。
一方人数を掛けて押し込む攻撃で、チャンスと見るやCBの李も前に出てのパスカットを見せ攻撃継続させる積極性は変わらない岩手。
この両機軸がどう転ぶか、というアディショナルタイム。
宮崎は最後の交代を使い、下澤・南野→江口・東出。(東出が左SHに入り、永田がFWへ)
そしてAT2分台、あくまで最終ラインで繋ぐ姿勢を取る宮崎、それに対して岩手がプレッシャーを掛けて来た所をGK植田が最終ライン裏へとロングフィード。
これがエリア手前左を突く嫌らしいボールとなり、加々美がクリアに入るも走り込んだ東出がブロック。
そしてエリア内中央へこぼれた所を、同じく走り込んでいた橋本がダイレクトでシュートを放ち。
ゴールネットが揺れ、この土壇場で先制点を挙げた宮崎。
最後まで冷静な立ち回りを貫いたご褒美と言うべきゴールとなりました。
リードされた岩手に既に残された時間は殆ど無く。
甲斐を前線に上げるパワープレイ(本当は李も上がりたかったように見えた)に全てを賭け、その甲斐から左からのクロスが上がり。
これを弓削が胸で落として乱戦が生まれかかるも、オタボーの手前でクリアされて実らず。
結局フィニッシュに辿り着けず、試合終了を告げる笛が鳴りました。
2試合連続でウノゼロの勝利と、松田氏が推し進める守備組織も大分洗練されてきた印象を残した宮崎。
前年までのボール保持と組み合わされば最強に見える……というのはまだ早いものの、理想のチームにまた一歩近づいた試合だったでしょうか。