■ACL出場権獲得、新指揮官の強気な目標設定
大宮は今オフ8人の選手を補強。張監督(中央)の下、新たなスタートを切る
「ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出たい」
クラブとしての新シーズン活動初日に当たる1月17日、ホームスタジアムであるNACK5スタジアム大宮で開かれた新体制発表記者会見の場で、今季新たに大宮アルディージャに招へいされた韓国出身の張外龍(チャン・ウェリョン)監督はいきなりそうぶち上げた。
会見の冒頭、クラブの渡邉誠吾代表は今季の具体的な目標順位として「5位以内」という数字を掲げた。周知のように、ACLの出場権はJ1リーグ戦3位以内(および天皇杯優勝)のチームに与えられる。張監督の“ACL出場宣言”は、「5位以内」を上回る数字設定ということになる。「代表、僕はもっと上を目指していますよ」。まるで、張監督がそう言っているようにも聞こえてくる。
大宮のJ1昇格後4シーズンの成績を知らないはずもなく、新指揮官としては実に強気な発言だ。これまで残留争いにあえいでいたチームが、いきなりリーグのトップ3を目指そうなどとはいささか唐突にも映る。張監督も「報道陣の皆さんも、何をいきなりACLだなんて、と思っているかもしれない」と自覚している。だが、そこには「目標が大きければ大きいほど、人間は力を出せる」という張監督なりの持論があるのだ。
張監督は、自身の個人的な目標として、2012年ロンドン五輪、そして、2014年ワールドカップ・ブラジル大会の韓国代表監督となることを隠さない。指揮官として、わずか3~5年後に別のチームを率いたい、とは誤解を招きかねない発言だが、これも持論に通ずるものだと筆者は考えている。韓国協会からそのようなオファーが届くには、大宮でどれほどの実績を残さなければならないか。目標を高く設定し、それを公にすることで自らに大きくプレッシャーをかけ、自身の力をさらに引き出したい、そんな姿勢が見え隠れする。「目標設定があったからこそ、今までの僕の人生がある」。そう語る張監督の、今回の「設定」がどうなるのか、その手腕には注視していきたい。
■充実の戦力補強でチーム内競争はし烈に
では、その「目標」を達成するための戦力補強はどうだろうか。今季の新戦力は、期限付き移籍からの復帰2人を含めた8人。大きく報道された中澤佑二(横浜F・マリノス)の獲得には失敗したが、それでも即戦力クラス4人には目を見張るものがある。今季、「橙想心(とうそうしん)~AGGRESSIVE SHIFT 2009」というスローガンを掲げた大宮だが、まずはフロントが“アグレッシブ”に補強を行った。今オフのJリーグの移籍市場の中では健闘したと言っていいだろう。
元クロアチア代表のマト・ネレトゥリャクは、昨年いっぱいでクラブを去ったレアンドロの後を埋める活躍が期待される長身のセンターバック。強いフィジカルを生かした頑強な守備力はもちろん、韓国Kリーグでの4シーズンで132試合・21得点とDFとしては高い得点力を誇る。ハイデュク・スプリト(クロアチア)ではラフリッチとチームメートだったこともあり、チームにもすぐになじむだろう。
今年からJリーグで採用されるアジア枠には、Kリーグの浦項スティーラースからパク・ウォンジェを獲得。左足から繰り出される正確なクロスは、今季の大宮の新しい武器となるはずだ。昨年は韓国代表にも選ばれ、東アジア選手権では日本戦での先制ゴールをアシストした。本来は中盤の選手だが「浦項のチームコンセプトとして高い守備意識を求められていた」(パク)とのことで、実際にDFを務めた経験もある。大宮の長年の懸案であった左サイドバックの第1候補として大きな期待を寄せられている。
日本人選手に目を向けると、サガン鳥栖から藤田祥史、湘南ベルマーレから石原直樹と、昨年のJ2得点ランク3位タイの2人を一気に獲得した。ポストプレーに長け、豊富な運動量で前線をかき回す藤田、スピードでゴール前のスペースを狙う石原と、タイプの異なる2人のストライカーを加え、FW陣はバラエティーに富んだラインアップとなった。
さらには、今季J2へ降格となったコンサドーレ札幌からGK高木貴弘、JFLアルテ高崎からはDF西村陽毅が期限付き移籍を終え復帰。ルーキーながら即戦力の呼び声高いDF福田俊介、昨年8月に1カ月間のブラジル留学を経験したユース出身のMF新井涼平と2人の新卒選手も加わる。
昨年よりも登録人数は少なくなったものの、選手層は確実に密度の濃いものとなった。「チーム総勢30名のうち8名が新戦力ということで、ポジション争いも激しくなる。それを勝ち抜いた選手だけが、ピッチに立つことができる」(張監督)。まずは開幕へ向け、そしてシーズン中も、チーム内で例年にない熱い戦いが繰り広げられることになりそうだ。
■2011年までにJ1優勝――「誓い」達成に向けて
チームは1月19日に本格始動。小林大悟(写真)を中心に攻撃サッカーへの転換を図る
素材はそろった。あとは、それを張監督がどう“料理”するのか。昨年12月の就任発表時にプレスリリースされたコメントにあった「サッカーは走りだ」「忍耐・努力・犠牲」といった言葉のインパクトが強かったが、そもそも現代サッカーにおいて「走り」、すなわち運動量は必須要素である。2007年には1年間イングランドのプレミアリーグへコーチ留学しており、「ロンドンで生活しながらアーセナルのサッカーを追いかけていた」(張監督)。新加入のパクは、昨年まで“敵”であった張監督率いる仁川ユナイテッドを「テンポの速いパスワークを中心とした、組織的なサッカーをするチーム」だったと評す。「まだ昨シーズンの34試合をDVDで見ただけ。選手のことも見ていないし、どう戦っていくかはこれから」と、新チームへの具体的なビジョンについては多くを語らない張監督だが、仁川でやっていたサッカーがベースになっていくであろうことは想像に難くない。
今季の1つのキーワードになりそうなのが「スピード」。昨年テクニカルディレクターに着任し、今季からは強化・育成部の強化部門トップに就任した結城治男強化部長は、張監督招へいの理由として「韓国のスピードのあるサッカーと、日本サッカー(の良さ)を大宮で生かすことができる」という点を挙げた。これまでの大宮のサッカーでは不足していた感のある「スピード」を強調し、アグレッシブさをより明確にしようという姿勢をうかがい知ることができる。
大宮といえば、もはや代名詞とも言えるのが4バックのゾーンディフェンス。そこは張監督も承知のようで、「4バックは崩したくないという気持ちはある」と、引き続き採用していく意向はあるようだ。ただし、「オプションを2つは持っていたい」とも語っており、試合展開によって、あるいはシーズン序盤の出来によっては、これまでとまったく違った布陣の大宮を見ることになるかもしれない。
いずれにせよ求められるのは、昨年に引き続いての攻撃サッカーへの転換だ。昨季、樋口靖洋前監督の下で目指したスタイルも、ゴールという結果を見れば34試合で36得点とJ1リーグワースト3位タイに終わってしまった。具体的な戦術や手法は変わったとしても、攻撃サッカーでの“わくわく感”を感じられるような戦いを期待したい。選手たちが「闘争心」を持って攻撃的な姿勢を貫けば、見ている側は自然と「橙想心」を抱くようになっていくのではないだろうか。
「2011年までにJ1リーグ優勝」
「2009年までに年間観客動員30万人」
クラブの掲げる「アルディージャの誓い」は、そうした1試合1試合の積み重ねによって初めて成し遂げられる。1月19日に本格始動した新生・大宮、張監督の下で新たな挑戦が始まる。(スポーツナビ)