天皇杯・皇后杯全日本総合バスケットボール選手権(オールジャパン)男子決勝に名乗りを上げたのは、アイシンと日立となった。
日立はリーグで3連敗を喫していたパナソニックを相手に堅い守りが功を奏し、90-72で初の決勝進出。目下、リーグで首位争いをするパナソニックは、自慢のインサイドを封じられてしまい、まさかの大敗となった。
一方、第1シードのアイシンは、13点リードからトヨタに猛追されるも、82-78で競り勝ち、3年連続7回目の決勝進出を決めた。
予想外の展開、スリリングな激戦は、“一発勝負”であるオールジャパンの醍醐味(だいごみ)でもある。男子準決勝の勝負の分かれ目、ハイライトシーンをご紹介しよう。
■“全員一丸”で守って走った日立の快進撃
ディフェンスで粘り、走りにつなげた日立がパナソニックに快勝。菅裕一は、速攻にスリーポイントシュートにと大活躍
「準備、準備!」。
日立・小野秀二ヘッドコーチは、何度この言葉をコートの選手たちに向かって叫び続け、士気を鼓舞したことだろう。
「今までのうちのディフェンスは、アッと思った次の瞬間には相手にやられていた。(今回は)止まっている状態でも早く動き出し、相手の動きを読んで行動を早くしろと口酸っぱく言ってきた」(小野ヘッドコーチ)。これこそ、ディフェンスの極意だ。
リーグ戦では、パナソニックの210センチの青野文彦、205センチのジェラルド・ハニーカットらにインサイドを支配されていた。「ここをどう封じるかがすべて」と、日立のエース・竹内譲次は試合前にポイントを挙げていた。
前半、山田哲也が短い時間ながらも、上背で勝る青野に対し、運動量で奮闘を見せるなど、ディフェンスを徹底した。誰が出てきても同じようにディフェンスをしたことで、思い通りに動けない青野にイライラが募ったのは明らかだ。主導権を握った日立は、前半を4点リードで折り返す。
後半の立ち上がり、「うちはこんなものではない」とばかりに、パナソニックは永山誠のシュートであっさりと逆転。しかし、ここから本領を発揮したのは日立だ。
ディフェンスから一気に走り、菅裕一が速攻でたたみかける。さらに、酒井泰滋、竹内、菅のスリーポイントシュートが小気味良くネットを揺らす。
日立は、オールコートのディフェンスを先に仕掛け、常にイニシアチブを取る。パナソニックは防戦一方の展開となり、点差はみるみるうちに20点に開いた。
結果、日立は菅の19点を筆頭に、5人の選手が二けた得点を稼ぎ、まさに“全員バスケ”を披露し、勝利を手にした。
敗戦後のパナソニックは、「相手の術中にはまった。正直甘く見ていた部分もある。うちは(負けて)失うものはなくなった。次のステップのために得たものは大きい」(パナソニック・清水良規ヘッドコーチ)、「チャレンジャーなのにアグレッシブさを忘れていた。まだリーグで取り返せる」(大野篤史キャプテン)と、リーグでのリベンジを誓った。
■土壇場で見せたベテランの存在感
アイシンを勝利に導いたのは佐古賢一(右)の冷静なる判断力。柏木真介との2ガードの場面では、ディフェンスでの混乱を解消し、勝利の鉄則を説いた
準決勝のもう一試合、アイシンとトヨタの試合では、第4ピリオド、アイシンのダラン・セルビーらの得点で、70-57とこの試合最大となる13点差のリードを奪った。一方のトヨタは6分間ノーゴール。勝負は決まりかけていた。
しかし、最後の最後までトヨタはあきらめない。大会前にあばらを痛めていたルイス・キャンベルが追撃の狼煙(のろし)を上げると、トヨタはオールコートのディフェンスで勝負に出た。
1-2-2のゾーンプレス。その最前線となる一線目には「大きい選手をそのまま残して、(相手に)ロングパスを通させないように」(トヨタ・棟方公寿ヘッドコーチ)と、199センチの古田悟や、198センチの高橋マイケルを立てる。
アイシンのミスが続き、トヨタは渡邉拓馬、齋藤豊のシュートで点差を縮め、残り1分を切って78-79とついに1点差。
しかし焦りからか、逆転のチャンスをことごとく逃してしまう。残り18秒、タイムアウトを残していたトヨタは、さらに続けてもう一度タイムアウトを請求。それは、シューター岡田優介を投入し、フォーメーションを徹底させるためだった。
最後は、スクリーンを使ってノーマークとなった岡田がシュート。そのボールが外れた瞬間、会場からは大きなため息がこぼれた。
一方、トヨタの猛チャージを受けていた時、アイシンは混乱していた。その状況で、アイシン鈴木貴美一ヘッドコーチは、迷わず38歳のベテラン佐古賢一を投入した。
「最後4分くらいからチーム内でディフェンスに対して、みんなが責任転嫁しだして、気持ちがうわずっていました。なので、『何のために戦っているんだ。戦う相手はトヨタだ。絶対に勝つんだ』と、ハドルを組んで再確認しました。チームというのは、悪くなるとあんなもの。相手にまくられる前に、早い時間に気がついて戻せてよかったです」(佐古)
その直後、佐古みずから値千金のスリーポイントシュートを沈め、進むべきベクトルを示した。プレーイングタイムこそ短くなったが、勝負師・佐古の“ここ一番”の強さと、リーダーとしての存在感はアイシンにとって大きなものだ。
■天皇杯を懸けた熱き決勝に
決勝ではJBLに入団してからは初となる、決勝での“竹内兄弟対決”が実現する。アイシンの竹内公輔は、「おそらく僕のマッチアップは譲次。僕と譲次の対決がプラスマイナスゼロになればうちが勝てると思うので、ディフェンスを頑張りたい」と、注目のマッチアップに闘志をのぞかせる。
一方、日立・菅キャプテンは、「特別なことではなく、どれだけ普段やっていることを出せるか。個々の役割を徹底し、チャンピオンを目指したい」と自然体の構えを強調する。
2連覇をにらみ、ベテランと若手を融合させたアイシンか。初の決勝で勢いに乗る日立か。ディフェンスを誇る同士の決勝は、目の離せない勝負になることは間違いない。(スポーツナビ)
日立はリーグで3連敗を喫していたパナソニックを相手に堅い守りが功を奏し、90-72で初の決勝進出。目下、リーグで首位争いをするパナソニックは、自慢のインサイドを封じられてしまい、まさかの大敗となった。
一方、第1シードのアイシンは、13点リードからトヨタに猛追されるも、82-78で競り勝ち、3年連続7回目の決勝進出を決めた。
予想外の展開、スリリングな激戦は、“一発勝負”であるオールジャパンの醍醐味(だいごみ)でもある。男子準決勝の勝負の分かれ目、ハイライトシーンをご紹介しよう。
■“全員一丸”で守って走った日立の快進撃
ディフェンスで粘り、走りにつなげた日立がパナソニックに快勝。菅裕一は、速攻にスリーポイントシュートにと大活躍
「準備、準備!」。
日立・小野秀二ヘッドコーチは、何度この言葉をコートの選手たちに向かって叫び続け、士気を鼓舞したことだろう。
「今までのうちのディフェンスは、アッと思った次の瞬間には相手にやられていた。(今回は)止まっている状態でも早く動き出し、相手の動きを読んで行動を早くしろと口酸っぱく言ってきた」(小野ヘッドコーチ)。これこそ、ディフェンスの極意だ。
リーグ戦では、パナソニックの210センチの青野文彦、205センチのジェラルド・ハニーカットらにインサイドを支配されていた。「ここをどう封じるかがすべて」と、日立のエース・竹内譲次は試合前にポイントを挙げていた。
前半、山田哲也が短い時間ながらも、上背で勝る青野に対し、運動量で奮闘を見せるなど、ディフェンスを徹底した。誰が出てきても同じようにディフェンスをしたことで、思い通りに動けない青野にイライラが募ったのは明らかだ。主導権を握った日立は、前半を4点リードで折り返す。
後半の立ち上がり、「うちはこんなものではない」とばかりに、パナソニックは永山誠のシュートであっさりと逆転。しかし、ここから本領を発揮したのは日立だ。
ディフェンスから一気に走り、菅裕一が速攻でたたみかける。さらに、酒井泰滋、竹内、菅のスリーポイントシュートが小気味良くネットを揺らす。
日立は、オールコートのディフェンスを先に仕掛け、常にイニシアチブを取る。パナソニックは防戦一方の展開となり、点差はみるみるうちに20点に開いた。
結果、日立は菅の19点を筆頭に、5人の選手が二けた得点を稼ぎ、まさに“全員バスケ”を披露し、勝利を手にした。
敗戦後のパナソニックは、「相手の術中にはまった。正直甘く見ていた部分もある。うちは(負けて)失うものはなくなった。次のステップのために得たものは大きい」(パナソニック・清水良規ヘッドコーチ)、「チャレンジャーなのにアグレッシブさを忘れていた。まだリーグで取り返せる」(大野篤史キャプテン)と、リーグでのリベンジを誓った。
■土壇場で見せたベテランの存在感
アイシンを勝利に導いたのは佐古賢一(右)の冷静なる判断力。柏木真介との2ガードの場面では、ディフェンスでの混乱を解消し、勝利の鉄則を説いた
準決勝のもう一試合、アイシンとトヨタの試合では、第4ピリオド、アイシンのダラン・セルビーらの得点で、70-57とこの試合最大となる13点差のリードを奪った。一方のトヨタは6分間ノーゴール。勝負は決まりかけていた。
しかし、最後の最後までトヨタはあきらめない。大会前にあばらを痛めていたルイス・キャンベルが追撃の狼煙(のろし)を上げると、トヨタはオールコートのディフェンスで勝負に出た。
1-2-2のゾーンプレス。その最前線となる一線目には「大きい選手をそのまま残して、(相手に)ロングパスを通させないように」(トヨタ・棟方公寿ヘッドコーチ)と、199センチの古田悟や、198センチの高橋マイケルを立てる。
アイシンのミスが続き、トヨタは渡邉拓馬、齋藤豊のシュートで点差を縮め、残り1分を切って78-79とついに1点差。
しかし焦りからか、逆転のチャンスをことごとく逃してしまう。残り18秒、タイムアウトを残していたトヨタは、さらに続けてもう一度タイムアウトを請求。それは、シューター岡田優介を投入し、フォーメーションを徹底させるためだった。
最後は、スクリーンを使ってノーマークとなった岡田がシュート。そのボールが外れた瞬間、会場からは大きなため息がこぼれた。
一方、トヨタの猛チャージを受けていた時、アイシンは混乱していた。その状況で、アイシン鈴木貴美一ヘッドコーチは、迷わず38歳のベテラン佐古賢一を投入した。
「最後4分くらいからチーム内でディフェンスに対して、みんなが責任転嫁しだして、気持ちがうわずっていました。なので、『何のために戦っているんだ。戦う相手はトヨタだ。絶対に勝つんだ』と、ハドルを組んで再確認しました。チームというのは、悪くなるとあんなもの。相手にまくられる前に、早い時間に気がついて戻せてよかったです」(佐古)
その直後、佐古みずから値千金のスリーポイントシュートを沈め、進むべきベクトルを示した。プレーイングタイムこそ短くなったが、勝負師・佐古の“ここ一番”の強さと、リーダーとしての存在感はアイシンにとって大きなものだ。
■天皇杯を懸けた熱き決勝に
決勝ではJBLに入団してからは初となる、決勝での“竹内兄弟対決”が実現する。アイシンの竹内公輔は、「おそらく僕のマッチアップは譲次。僕と譲次の対決がプラスマイナスゼロになればうちが勝てると思うので、ディフェンスを頑張りたい」と、注目のマッチアップに闘志をのぞかせる。
一方、日立・菅キャプテンは、「特別なことではなく、どれだけ普段やっていることを出せるか。個々の役割を徹底し、チャンピオンを目指したい」と自然体の構えを強調する。
2連覇をにらみ、ベテランと若手を融合させたアイシンか。初の決勝で勢いに乗る日立か。ディフェンスを誇る同士の決勝は、目の離せない勝負になることは間違いない。(スポーツナビ)