第85回箱根駅伝がスタート!この区間で早大1年の矢澤曜が、後半一気に抜け出し、区間賞を獲得
不祥事を乗り越えた東洋大の完全優勝で幕を閉じた第85回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)。大会前にレース展開を予想してもらった箱根駅伝観戦歴40年の出口庸介氏(全国陸上競技愛好会)と、陸上ライターの加藤康博氏に、予想的中か、それとも予想外の展開になったのか、レースを改めて各区間ごとに振り返ってもらった。
■1区:早大・矢澤と山梨学院大・松村が力を見せ付けた
1位:早大 2位:神大 3位:明大 4位:山梨学院大 5位:国士舘大
≪区間賞:矢澤曜(早大)1時間4分48秒≫
1区では、早大のルーキー、矢澤曜が後半一気に集団から抜け出し、区間賞の走りを見せた。また、山梨学院大の松村康平(4年)の区間4位も、順当な結果。今季の全日本大学駅伝の1区でも、揺さぶりをかけたレースが展開されたが、松村はそれに耐え切り、トップと25秒差の4位で通過した。松村は今回の箱根でも途中からペースアップに対応。これまでの経験から、成し得た業だと言えよう。
一方、全日本で1区を担当した矢澤も、松村同様、揺さぶりを経験し、同大会で区間5位の結果を残している。それが箱根での区間賞につながったか。
また、駒大は19位と出遅れた。続く2区でエース・宇賀地強(3年)が、区間6位の走りを見せ、チームを8位に押し上げたものの、1区でもう少し順位を上げていれば、最終的な結果は違っていたか。
■2区:山梨学院大のモグス、日大のダニエルの留学生対決
1位:山梨学院大 2位:日大 3位:中央学院大 4位:東農大 5位:中大
≪区間賞 M・モグス(山梨学院大)1時間6分4秒※区間新記録≫
2区は予想どおり、山梨学院大のメクボ・モグス(4年)、日大のギタウ・ダニエル(3年)の留学生対決となった。特に、日大のダニエルは22位でたすきを受け取り、20人抜きを見せたことから、もう少し1区で日大が前に出ていれば面白い展開になったに違いない。
そのほかでは中央学院大の大エース・木原真佐人(4年)が、たくましい走りでトップ争いに食らい付き、2年連続日本人トップを記録。
また、予選会をトップで通過した東農大の外丸和輝(3年)は、14位で受けたたすきを一気に4位にまで押し上げた。中大の徳地悠一(4年)も伝統校のプライドにかけて積極的な走りを見せた。徳地の区間5位は、順当な結果と言えるだろう。
■3区:早大・竹澤、東海大・佐藤は別格の走り
1位:山梨学院大 2位:早大 3位:日大 4位:中央学院大 5位:東海大
≪区間賞 竹澤健介(早大) 1時間1分40秒 ※区間新記録 ≫
早大の竹澤健介(4年)と東海大の佐藤悠基(4年)が激突した3区。区間記録を更新した竹澤は、五輪選手ということもあり、ほかの選手とは違う走りを見せ付けた。また、学生長距離界のエース・佐藤もしかり。足の故障があったにもかかわらず、区間2位の快走でチームを18位から5位に押し上げた。
さらにシード権確保は必至と言われた城西大のエース高橋優太(3年)も順位を上げることを期待されたが、本来の走りができず区間18位に沈んだ。高橋も実力は折り紙つきの選手だが、距離が20キロ以上になるともろいところがある。ここから城西大の3区以降の流れが悪くなったと考えられる。
■4区:早大・三田がルーキーながらも区間新
1位:早大 2位:山梨学院大 3位:明大 4位:日体大 5位:帝京大
≪区間賞 三田裕介(早大) 55分4秒 ※区間新記録≫
4区で区間記録を更新した早大・三田裕介(1年)は、額面どおり走っただろう。三田は、今季の出雲では区間5位、全日本では区間6位と、1年生の中で最も安定した走りを見せた選手。3つ目の箱根でもどの経験を生かして、結果を残した。今後1年の中で早大の核となる選手に違いない。
一方、明大の松本昂大(3年)に関しては、エース区間を走る実力のある選手だけに、この区間の起用は仕上がりが悪かったか。しかし区間3位と、エースとしての意地を見せた。
一方で、前回8位でシード権を獲得した帝京大は、エース馬場圭太(4年)が三田には及ばなかったものの、区間2位(区間新)の快走。前々回に関東学連選抜のメンバーとして箱根デビューしたが、帝京大として出場した前回は、大会直前にケガのため出場を断念している。今回の結果で、見事雪辱を果たした。
また、日大はこの区間で10位に順位を落とすという、あまりに早い後退劇となった。
■5区:山上りは、順大の小野がリベンジを果たす
1位:東洋大 2位:早大 3位:日体大 4位:中央学院大 5位:山梨学院大
≪区間賞 柏原竜二(東洋大) 1時間17分18秒 ※区間新記録 ≫
東洋大の柏原竜二(1年)の活躍が目立った5区。今大会が初出場となった駒大の星創太(3年)は、平地の主要区間を担える実力者ではあるものの、この区間への起用は“サプライズ”と言える。しかし、大崩れする可能性が少ないと戦前予想していたように、星は区間7位の走り。チームが悪い状況のなかで、まずまずの結果を出した。
順大は、前回大会同様、小野裕幸(4年)をこの区間に起用。前回、この区間で途中棄権をした小野だがリベンジを果たし、区間2位の好走を見せた。5区では過去に第72回大会(1996年)には、神大の高嶋康司(現東京電力駅伝部コーチ)と、山梨学院大の中村祐二の2人が途中棄権したが、翌年は2人とも違う区間に起用されている。つまり、途中棄権した区間に再度起用することがなかったことから、小野の起用は異例だったことが分かる。
また日体大は、竹下正人(4年)が粘り強い走りで区間3位と頑張りを見せた。
■上位校の往路成績
1位:東洋大 5時間33分24秒
2位:早大 5時間33分46秒
3位:日体大 5時間35分07秒
4位:中央学院大 5時間35分45秒
5位:山梨学院大 5時間37分37秒
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15位:駒大 5時間42分53秒
■6区:東洋大の大西一がまさかのエントリー変更
8区では東洋大8区の千葉優(右)がスパートをかけ、早大・中島賢士を突き放す
1位:早大 2位:東洋大 3位:中央学院大 4位:
日体大 5位:山梨学院大
≪区間賞 佐藤匠(大東大) 59分14秒≫
東洋大にとって山は鬼門。前回大会では大西一輝(4年)が同区間で区間18位とブレーキしていることもあり、山の5、6区を最重要視して強化してきた。当初エントリー発表されていたのは前回同様大西一だったが、けがをしていたこともあり、当日、富永光(2年)にエントリー変更。富永は今季の出雲、全日本も出場しておらず、箱根はもちろん初出場。まさに、東洋大の秘密兵器的な存在だったと言えよう。
トップでスタートできたのが、心理的に大きかったのだろう。前回同区間で区間賞を獲得した早大の加藤創大(3年)に抜かれたものの、大差をつけられることなく2位でたすきをつないだ。
一方で、今回も前回同様の走りが注目された早大の加藤は、前半突っ込み過ぎたのがたたったか。東洋大をとらえたものの、焦りが出て18秒差をつけるにとどまった。
そのほかでは、“山の大東”が復活。昨年も同区間を走り、区間6位の成績を残した佐藤匠(4年)が、エントリー。往路で9位とシード圏内にいたことで、チームのいい流れを引き継ぎ、区間賞の走りを見せた。
■7区:早大は前半突っ込み焦りすぎたか
1位:早大 2位:東洋大 3位:日体大 4位:中央学院大 5位:山梨学院大
≪区間賞 飛坂篤恭(東洋大) 1時間5分1秒≫
早大のルーキー八木勇樹は、6区の加藤の流れを引き継いだ形となった。もう少し差がつけられればよかったか。焦りが見え、前半ハイペースで飛ばしてしまった。
一方で、東洋大の飛坂篤恭(4年)は、楽な心理状態で走っていたに違いない。その結果、区間賞を獲得。東洋大にとって勝負は8、9、10区。7区ではつなぎの区間として、その力を温存していた。
日本学生ハーフを制している実力者の明大・安田昌倫(3年)は、区間3位という結果となった。8区まで明大が復路でトップだっただけに、復路優勝を狙っていたに違いない。
■8区:東洋大、トップ早大の12秒差は射程圏内
1位:東洋大 2位:早大 3位:日体大 4位:明大 5位:中央学院大
≪区間賞 高林祐介(駒大) 1時間6分28秒≫
7区から8区へつないだ時点で、東洋大は早大との差を12秒にまで詰めた。東洋大の千葉優(2年)は、前半突っ込み気味だったが、7.8キロ地点で早大をとらえて並走した後、トップに躍り出る。約16キロ地点からの急な上り坂に自信を持っていた千葉は、そこでさらにリードを広げ、結局区間2位の走りで早大に45秒差をつけて9区にたすきをつないだ。
駒大は全体的にいいところがなかったものの、この区間で高林祐介(3年)が、区間賞を獲得した。前のランナーとの差が離れていたが1人で押し切り、区間賞を獲得したのは評価に値する。
■9区:早大は高原を使えなかったことが誤算
1位:東洋大 2位:早大 3位:日体大 4位:中央学院大 5位:大東大
≪区間賞 中川剛(山梨学院大) 1時間11分6秒≫
東洋大の大津は、前回の箱根駅伝も経験し、今季全日本では安定した走りを見せている選手。一方、早大の朝日嗣也(4年)は、箱根初出場となった。最初の3キロは下り坂だが、朝日は1キロ2分43秒のやや早いペースで、東洋大を猛追。一方、東洋大の大津は、1キロ2分57秒と14秒遅いペースだ。「具体的に何キロで行こうとは考えていなかった。後ろから来るのは分かっていたが、どのくらいの差かは、佐藤(尚)監督代行が言っていたので分かっていた」とは、大津の弁だ。9キロ地点で大津が下り坂を利用してスピードアップ。おそらく、ここでペースを上げろという指示が飛んだのではないだろうか。13キロ以降から東洋大と早大の差は広がっていった。
早大にとって、全日本で区間賞を獲得した高原聖典(3年)がこの区間で使えなかったことは誤算だったに違いない。
また、城西大に関しては、8区で途中棄権となったが、この9区では主将の伊藤一行(4年)が区間賞よりも速いタイム(OP参加のため参考記録)でゴールする皮肉の結果となった。
■10区:学連選抜が2年続けてシード圏内に
1位:東洋大 2位:早大 3位:日体大 4位:大東大 5位:中央学院大
≪区間賞 永井大隆(日体大)1時間10分41秒≫
トップの東洋大から1分25秒遅れでたすきを受け取った早大の三戸格(4年)は、東洋大の高見諒(2年)を追いかけ、じわりじわりとその差を詰めていった。しかし、優勝を狙う走りではなかったと言える。残り3キロの馬場先門を過ぎてから追いかけ始めるようでは、勝負を仕掛けるのが遅かったのではないだろうか。
一方、高見は淡々とした表情で、安定感のある走りを見せて、トップでゴール。東洋大は往路に続き、復路も優勝して、完全Vを果たした。
また、シード権争いに絡んできた東農大は10区でブレーキしたのは大誤算だったに違いない。復路に4年生3人をつぎ込んできたが、思惑が外れた結果となった。
また、学連選抜の佐野広明(麗沢大・3年)は、20キロ過ぎからシード圏内に食い込んできた。今年の予選会もまた1枠出場校が増えることになった。
往路に関しては、区間新記録が2、3、4、5区と4区間出たのに対し、復路は1つも出なかった。結果として、コースが変更してから11年間でタイム的にはワースト3の結果。9区、10区の向かい風が強かったのが原因だろう。東洋大が安定した走りを見せたが、ハイレベルな戦いではなかったと言えよう。
前回の覇者である駒大は、シード権を逃す総合13位に終わった。大八木弘明監督は、1、3、4区がずっと不安だったに違いない。3区に渡邉潤(2年)、4区に高橋徹(4年)と箱根経験のない選手を2人を並べ、その3人が結果を残せなかったことが大きく響いた。また、今回けがによりエントリーできなかった深津卓也(3年)を9区に起用できていたら、池田宗司(4年)を1区か、3区の往路に起用していたことが想定され、違った結果になっていたに違いない。
■上位校の総合成績
1位:東洋大 11時間9分14秒
2位:早大 11時間9分55秒
3位:日体大 11時間13分05秒
4位:大東大 11時間17分48秒
5位:中央学院大 11時間17分50秒
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13位:駒大 11時間20分20秒
(スポーツナビ)