<準々決勝 前橋育英(群馬) 1-0 國學院久我山(東京B)>
シュートを狙う前橋育英の西澤厚志(左)。山田監督の指導の下、選手たちは常に成長し続ける
前橋育英(群馬)を率いる山田耕介監督は、自然体でどこか力の抜けた雰囲気が漂う。1回戦の京都橘(京都)戦ではボールをうまくつなぐことができず、「もう少しパスを回せるようにしないとね」と選手たちに話したという。2回戦の武蔵工大二(長野)戦では、その悩みが解消されたものの、「パスが回るのはいいけど、シュートを打たないと」と次なる課題を提示した。香川西(香川)との3回戦では、後半に運動量が落ちて反撃を受けると、「なんで、またパスが回らなくなるんだよ。今日の展開だったら、なおさらパスだろ」と自嘲(じちょう)気味に笑った。
そして、迎えた準々決勝の國學院久我山(東京B)との一戦では、こんなコメントを残した。「シュートを打てるのはいいんだけど、ふかすことが多すぎるでしょう。気に食わないなあ」。それでも、前半11本、後半14本とシュートの雨を降らし続けた試合は、1-0で終わったとは思えないほどの完勝だった。
國學院久我山とは、夏の高校総体でも戦っている。この時は2-1で競り勝ったものの、足元の技術が高い相手に苦戦を強いられた。だから、今回の対戦で山田監督は「ボールを持たれると思ったので、プレスをかけようと思っていたのですが、予想に反してポゼッション(ボール支配)ができていましたね」と、ちょっと拍子抜けした感じで本音を漏らした。
しかし、それは指揮官がこれまでの叱咤激励で育てたチームが見せた成果だった。MFの六平光成は「相手の印象は変わらないけど、前回は(ボールを)取った後にプレスをかけられて慌てた。今回は、相手のプレスが緩いと思うくらい落ち着いてやれた」と胸を張った。相手のエースである田邉草民の存在感も最後まで消し、中盤のボール争いは、前橋育英が徹底的に支配した。西澤厚志、皆川佑介の2年生ツートップの決定力不足が気になるところではあるが、そんな「完ぺき」ではない強さが、前橋育英らしい。
■山田監督「優勝しないとダメ」
後半15分、佐藤(右から2人目)の決勝点が決まる。前橋育英は準決勝で鹿児島城西と対戦。
前橋育英には「未完」の魅力がある。山田監督は、選手のポテンシャルを認め、評価しているからこそ、苦言を呈する。攻撃の軸として活躍し、後半15分に決勝点を挙げた佐藤穣については、ミスが気になり、得点の直前まで交代を考えていたというほど厳しかった。
だが、決して問題を指摘するだけではない。報道陣が佐藤をたたえようとすると、すかさず「いや、もっとやれる。私たちの期待からしたら、もっとやれるんです」と期待の裏返しで遮った。途中出場させたMF上星脩大についても「昨日の桐光学園とのトレーニングマッチで良かった。調子の良い選手を使うのがいいんですよ。でも、やってくれるかと思って送り出したのに、やってくれなかったなあ。あの、アホウ(笑)」と話し、ヒーローになり損ねた2年生をからかった。
7年ぶりの大舞台となる準決勝では、スーパーエース大迫勇也を擁する鹿児島城西(鹿児島)と対峙(たいじ)する。4試合で22得点と圧倒的な得点力は脅威だが、自慢の中盤が機能すれば、相手をねじ伏せる可能性は十分にある。
山田監督は「前回大会の優勝は? 流通経済大柏。それは誰でも言えますよね。でも、4強、8強って、すぐには思い出せないでしょう。優勝しないとダメ。こういうチャンスはものにしないといけないよ、選手がね」と頂点を意識したコメントで、さらなる高みへの挑戦を宣言した。
数多のプロ選手を輩出してきた名監督のアメとムチによって、選手たちはその能力を引き出され、成長している。常に「未完」の中から「完ぺき」に向かって伸ばし続ける、その手がつかむものは何だろうか。(スポーツナビ)
シュートを狙う前橋育英の西澤厚志(左)。山田監督の指導の下、選手たちは常に成長し続ける
前橋育英(群馬)を率いる山田耕介監督は、自然体でどこか力の抜けた雰囲気が漂う。1回戦の京都橘(京都)戦ではボールをうまくつなぐことができず、「もう少しパスを回せるようにしないとね」と選手たちに話したという。2回戦の武蔵工大二(長野)戦では、その悩みが解消されたものの、「パスが回るのはいいけど、シュートを打たないと」と次なる課題を提示した。香川西(香川)との3回戦では、後半に運動量が落ちて反撃を受けると、「なんで、またパスが回らなくなるんだよ。今日の展開だったら、なおさらパスだろ」と自嘲(じちょう)気味に笑った。
そして、迎えた準々決勝の國學院久我山(東京B)との一戦では、こんなコメントを残した。「シュートを打てるのはいいんだけど、ふかすことが多すぎるでしょう。気に食わないなあ」。それでも、前半11本、後半14本とシュートの雨を降らし続けた試合は、1-0で終わったとは思えないほどの完勝だった。
國學院久我山とは、夏の高校総体でも戦っている。この時は2-1で競り勝ったものの、足元の技術が高い相手に苦戦を強いられた。だから、今回の対戦で山田監督は「ボールを持たれると思ったので、プレスをかけようと思っていたのですが、予想に反してポゼッション(ボール支配)ができていましたね」と、ちょっと拍子抜けした感じで本音を漏らした。
しかし、それは指揮官がこれまでの叱咤激励で育てたチームが見せた成果だった。MFの六平光成は「相手の印象は変わらないけど、前回は(ボールを)取った後にプレスをかけられて慌てた。今回は、相手のプレスが緩いと思うくらい落ち着いてやれた」と胸を張った。相手のエースである田邉草民の存在感も最後まで消し、中盤のボール争いは、前橋育英が徹底的に支配した。西澤厚志、皆川佑介の2年生ツートップの決定力不足が気になるところではあるが、そんな「完ぺき」ではない強さが、前橋育英らしい。
■山田監督「優勝しないとダメ」
後半15分、佐藤(右から2人目)の決勝点が決まる。前橋育英は準決勝で鹿児島城西と対戦。
前橋育英には「未完」の魅力がある。山田監督は、選手のポテンシャルを認め、評価しているからこそ、苦言を呈する。攻撃の軸として活躍し、後半15分に決勝点を挙げた佐藤穣については、ミスが気になり、得点の直前まで交代を考えていたというほど厳しかった。
だが、決して問題を指摘するだけではない。報道陣が佐藤をたたえようとすると、すかさず「いや、もっとやれる。私たちの期待からしたら、もっとやれるんです」と期待の裏返しで遮った。途中出場させたMF上星脩大についても「昨日の桐光学園とのトレーニングマッチで良かった。調子の良い選手を使うのがいいんですよ。でも、やってくれるかと思って送り出したのに、やってくれなかったなあ。あの、アホウ(笑)」と話し、ヒーローになり損ねた2年生をからかった。
7年ぶりの大舞台となる準決勝では、スーパーエース大迫勇也を擁する鹿児島城西(鹿児島)と対峙(たいじ)する。4試合で22得点と圧倒的な得点力は脅威だが、自慢の中盤が機能すれば、相手をねじ伏せる可能性は十分にある。
山田監督は「前回大会の優勝は? 流通経済大柏。それは誰でも言えますよね。でも、4強、8強って、すぐには思い出せないでしょう。優勝しないとダメ。こういうチャンスはものにしないといけないよ、選手がね」と頂点を意識したコメントで、さらなる高みへの挑戦を宣言した。
数多のプロ選手を輩出してきた名監督のアメとムチによって、選手たちはその能力を引き出され、成長している。常に「未完」の中から「完ぺき」に向かって伸ばし続ける、その手がつかむものは何だろうか。(スポーツナビ)