日本選手権、女子100mで決勝進出を決めた土井杏南。決勝ではスタートで福島千里を引き離して70m付近までトップに立ち続け、最終的に2位となった。
7月3日、国際陸上競技連盟から、ロンドン五輪のリレー種目の出場権を得た国が発表になった。
昨年の1月から今年の7月2日までの間に記録された、トップと2番目のタイムを合計し、上位16カ国が出場できる仕組みだ。
日本は、男子が4×100mリレーと4×400mリレー、女子は4×100mリレーと、3つの出場権を得ることができた。
この中でも、注目は1964年の東京五輪以来、実に48年ぶりの出場となる女子4×100mリレーである。日本陸上界が一体となっての強化あってこそのロンドン行きである。
陸上短距離は、どうしても世界の壁が厚く、特に女子は長年にわたり、跳ね返されてきた。
だが、2008年、北京五輪の100mに、福島千里が日本女子では56年ぶりの出場を果たしたことで流れが変わった。オリンピックが手の届かない場所ではないことを感じたことで、福島に続くように若い選手たちが成長したのだ。
日本新記録は樹立したものの、五輪での決勝進出は……。
そこで現実味を帯びてきたのが、リレーでの五輪出場だった。
北京五輪では、日本は18位で出場権を逃した。しかし、若手選手の台頭を考慮すれば、16位以内は不可能ではない……。そう考えた日本陸上競技連盟は、北京五輪のあと、所属先の垣根を越えて短距離の有望選手を集め、合同合宿を北海道や沖縄で実施。個々のレベルアップを図るほか、バトンパスの練習や選手間の目的意識の共有など、リレーへ向けた強化に取り組んできた。
その成果が表れたのが、昨年5月に樹立した43秒39の日本新記録である。
このタイムと、やはり同月にマークしたアジア・グランプリでの43秒65の合計で13位となることができたのである。
こうしてオリンピック出場を決めた日本女子だが、目標として掲げているのは、本大会での決勝進出なのである。
高校2年生・土井杏南の若き力が起爆剤になるか?
決勝に進めるのは8カ国だが、ランキングで見てみると、8位のロシアの2レースの平均タイムは42秒86。対する日本は、43秒52。現時点では、0.66秒の差があることになる。その差は小さくない。
リレーのメンバーは、選考会を兼ねた6月の日本選手権100mで優勝した福島、2位の土井杏南、3位の高橋萌木子、4位の佐野夢加、予選落ちしたものの200mで2位となった市川華菜の5名。彼女たち一人一人のさらなるタイムの短縮はむろんのことだが、日本新記録が出た昨年5月以降、リレーそのもののタイムも伸び悩んできただけに、起爆剤となる要素が求められるところだ。
そういう意味で楽しみなのが、メンバー中最年少の16歳、高校2年生の土井なのである。
中学記録を更新し続け、すでに逸材として注目されていた。
土井は全日本中学校選手権の100mを連覇、中学記録を更新するなど、以前から逸材として注目されてきた選手だが、高校に入学後も順調に力をつけてきた。
高校1年時は日本選手権100mは4位となり、インターハイ、全日本ジュニアなどで優勝を飾った。
そして五輪シーズンの今季も、春から好調な走りを見せてきた。日本選手権では、予選で福島らを上回り、トップタイムを記録。決勝でもスタートから飛び出し、最後は福島に抜かれたものの終盤までトップを保ち、歓声を浴びた。
158cmと決して大きくはない土井の武器は、秀でた足の回転の速さによって生まれる、スタートから中盤の加速力だ。
さらに高校1年の秋からは国立スポーツ科学センターに通い、体幹を鍛えたことで、「上体のぶれがなくなってきて、一歩一歩伸びる感じがします」と、スピードに磨きがかかったことが、今シーズンの好成績につながっている。
「出るだけじゃだめです。決勝も不可能ではありません」
土井は、ロンドンへの抱負をこう語っている。
「出るだけじゃだめです。決勝も不可能ではありません」
ポジティブな性格だと自己分析する彼女らしいコメントである。
スタートの得意な土井には、一走としての期待が寄せられるが、リレーに出られるのは4名。一人は補欠に回ることになるから、土井の出場が確定しているわけではない。
福島と競い続けてきた高橋、昨年急成長を遂げた市川、大学職員として仕事と掛け持ちしながら競技生活を送ってきた佐野と、誰もが出場したいと思っている。
メンバー内での競い合いの中で、土井という新たな顔は刺激となるはずだ。
大会まで残り少ない時間でもう一歩成長すること。競い合いつつも、チームとして結束すること。そこに日本の活路がある。(Number Web)