3歳チャンピオン決定戦―7768頭の頂点に立つのは
皐月賞馬アンライバルドが二冠制覇&3歳馬の頂点を目指す
JRAの最高峰レースである3歳チャンピオン決定戦・第76回GI日本ダービーが31日、東京競馬場2400メートル芝で開催される。4月のGI皐月賞から続く3歳牡馬クラシック第二冠目でもあるダービーは、競馬に携わる者すべてが夢見る“競馬の祭典”。日本で1年間に生まれる約8000頭の頂点を決する大一番だ。
3歳馬にしか出走が許されていない一生に一度の晴れ舞台。過去10年の勝ち馬を見ても、2001年ジャングルポケット、02年タニノギムレット、04年キングカメハメハ、05年ディープインパクト、06年メイショウサムソン、07年ウオッカなど、キラ星のごときスターホースの名が連なっている。
昨年6月の新馬戦から激戦を勝ち抜き、2006年に生まれた7768頭(持ち込み馬、輸入された外国産馬含む)の中から選ばれた精鋭18頭がゲートイン。さらに、そこから3歳馬の頂点に立つのはどの馬か。
発走は31日、15時40分。
■総合力でアンライバルドが一歩リード、外枠も問題なしか
総合力で一歩リードのアンライバルド 父、兄に続くダービー制覇なるか
最注目はなんといっても、クラシック第一冠目を圧勝した岩田康誠騎乗の皐月賞馬アンライバルドだ。驚異の瞬発力を武器にここまで5戦4勝。新馬戦では二冠牝馬ブエナビスタを負かしており、「3強対決」と呼ばれた前走の皐月賞ではロジユニヴァース、リーチザクラウンに遅れを取る3番手評価に甘んじながらも、逆にレースでは大外から豪快にブチ抜いてみせた。
その皐月賞が内容・走破時計ともに破格。現時点では他ライバル馬を完全に一歩リードした感があり、まともに能力を出し切れば二冠制覇は濃厚だろう。
27日の最終追い切りでも栗東CWコースで6F77秒台の超速時計をマーク。以前から同馬を管理する友道康夫調教師は「緩い調教をするよりも、一杯に追って走らせた方がかえって落ち着くタイプ」と語っており、ダービー仕様の万全仕上げが施せたに違いない。
枠順は大外8枠18番に決定。過去10年で7頭が1~3枠で優勝している嫌なデータはあるが、1997年にはサニーブライアンが、そして1991年には20頭立て20番枠のトウカイテイオーが、ともに大外発進から春二冠を達成している。
また、アンライバルド自身も皐月賞では8枠16番からV。今開催の東京コースは内が伸びている点が気になるものの、外枠自体は苦にしないはずだ。
父である03年皐月賞&ダービー馬ネオユニヴァースに続く父仔春二冠制覇を達成すればシンボリルドルフ・トウカイテイオー父仔以来となる史上2組目、そして、兄である1996年ダービー馬フサイチコンコルドに続く兄弟ダービー制覇となれば、50年ぶり史上3組目の快挙となる。
■ロジユニヴァース逆襲へ執念仕上げ
鍵は体調回復……能力全開なら巻き返せるロジユニヴァースだが
1強独裁は許さない、とばかりにライバル勢も実力派・個性派ぞろい。なかでも、やはり皐月賞でアンライバルドとともに「3強」を形成しながらも大敗した2頭に逆襲の期待が高まる。
横山典弘が駆るロジユニヴァースは、皐月賞までは4戦4勝。重賞3連勝を含む無敵の快進撃を続けていた。もちろんクラシック最有力候補となり、断然1番人気で臨んだ第一冠。ところが、レースでは4コーナーを待たずして手応えがいっぱいになり、まさかの14着大敗に散ったのだった。
「こんなに負ける馬かな? 分からないよ」と、ショックを隠せないレース後の横山典。1つの敗因を挙げるとすれば、やはり弥生賞で4キロ減らしていた馬体がさらに皐月賞で10キロも減っていた点だろう。つまり“出来落ち”だったことが考えられる。
この中間は短期放牧に出し、コンディション回復へ執念の調整。1週前追い切り、最終追い切りともに陣営から景気のいいコメントは出てこなかったが、動き自体は合格点だ。また、28日にJRAから発表された馬体重はプラス24キロ。馬体回復にも成功している。
実力は世代トップ級だけに、ただ1度の敗戦で見限るにはあまりに早計。出来さえ戻っていれば、あっさりの反撃があっていい。同じ父を持つライバルとして、皐月賞の借りを返したい。
■武豊リーチザクラウン“ハマれば”ケタ違い
“爆発力”ならリーチザクラウン、ダービー最多4勝の武豊はどう乗る?
「3強」のもう1頭、武豊が手綱を握るリーチザクラウンはも皐月賞はいいところなく13着に大敗。大外18番枠を引いたこと、また内枠にいた各馬がテンから速いラップを刻んだことでマイペースに持ち込むことができず、能力の半分も出し切れないまま不完全燃焼で終わってしまった。
この馬の場合は、マイペースで気分良く行けるかどうかが、最大のポイント。理想は単騎逃げだろうが、それが叶わなくてもマイペースで折り合っていければ、世代ナンバーワンとも言える“爆発力”が生まれるはず。“ハマった”時のケタ外れの強さは、GIIIきさらぎ賞をはじめ、これまで挙げた3勝が物語っている。
98年のダービー馬スペシャルウィークを父に持つ血統、胴長の体型からも2400メートル自体はこなせるはず。また、トビの大きなストライドだけに、広い東京コースも合いそうだ。
そして、鞍上には史上最多のダービー4勝を挙げる武豊。ジョッキー自身にとっても皐月賞は悔いの残るレースだったはず。“ダービーの勝ち方”を知っている名手が、大一番でマジックを見せるか。
■皐月賞2着トライアンフマーチ、上昇度なら一番
ダービー馬と桜花賞馬を父母に持つ良血トライアンフマーチ、上昇度なら1番だ
皐月賞組からは、2着トライアンフマーチも有力。父スペシャルウィーク、母は97年桜花賞馬キョウエイマーチと、クラシックホースを父母に持つ超良血馬だ。
馬がまだ若いせいか、1つ勝ち上がるのに3戦要したが、そこからグングンと成長。皐月賞TRの若葉S2着で権利を確保すると、本番の皐月賞でも出遅れ最後方の不利がありながら、ラストは猛然と強襲し2着。ハイペースの流れに助けられた側面もあるが、それでも上がり3ハロンはアンライバルドを0秒2上回るメンバー最速の脚だった。
1勝馬ながら、この素質はすでに世代トップを脅かす存在。成長度・上昇度を加味すれば、ダービーも狙える器だ。主戦・武幸四郎が父・邦彦、兄・豊に続くダービージョッキーの称号を手にするか。
2歳王者セイウンワンダーは、皐月賞3着で意地を見せた。その前哨戦のGII弥生賞でロジユニヴァースに完敗した8着だったために大幅に評価を落としたが、馬体をキッチリ絞ってきた本番で巻き返し。やはり能力は高い。
この中間もアンライバルド以上とも言えるハードトレで意欲的に追われており、出来はさらに上昇ムード。ダービーの大舞台で2歳王者の復権となるかもしれない。最優秀2歳牡馬がダービー制覇となれば、94年ナリタブライアン以来15年ぶり7頭目の快挙だ。
■TR組ならアプレザンレーヴ、能力ヒケとらない
皐月賞とは別路線からダービー切符をつかんできた新勢力で一番の注目馬といえば、ダービートライアルのGII青葉賞を快勝したアプレザンレーヴ。05年に無敗の三冠馬ディープインパクトを輩出した名門・池江泰郎厩舎が送り込む刺客だ。
2走前のGIII毎日杯で3着に敗れているとはいえ、これはゲート出遅れが響いた結果。続く前走の青葉賞ではキッチリと能力を出し切り、本番と同じ東京2400メートルで豪快な差し切り勝ちを決めている。
また、それ以前のデビュー3戦目で早くも東京コースに遠征しており、その2000メートルのレースでも2着馬を3馬身ちぎる競馬で圧勝。追えば確実に伸びてくる重厚な差し脚は文句なしに東京向きだろう。
能力の高さは皐月賞上位組と比べてもヒケをとらず。コース経験のアドバンテージを生かし、青葉賞から初のダービー戴冠を狙う。
■マイル王者ジョーカプチーノ“3歳完全制圧”へ
NHKマイルカップ覇者ジョーカプチーノのスピード、勢いも怖い
近年主流の1つのなりつつあるGINHKマイルカップ組から、今年も上位を狙える馬が参戦。注目はなんと言っても、マイルカップの覇者ジョーカプチーノだ。
10番人気での激走には驚かされたが、レース自体は2番手から後続を寄せ付けない堂々押し切りで、タイムもレースレコードを更新。文句なしの強い競馬だった。
父は天皇賞・春&菊花賞と2つの3000メートル級GIを勝ったマンハッタンカフェで、母の父がフサイチコンコルド。血統的には800メートルの距離延長は問題ないだろうが、気性面、また体型から距離に限界があるタイプかもしれない。
だが、この時期の3歳馬同士の戦いなら、折り合い1つで克服は可能。自慢のスピードで再び押し切るシーンも十分ある。20歳の若武者・藤岡康太の思い切った騎乗にも期待だ。
1200メートルのGIIIファルコンSも制しており、ダービー勝利となれば1200メートル、1600メートル、2400メートルと、異なる3つの距離カテゴリーでトップに立つことになる。もちろん、史上初。文字通りの“3歳完全制圧”だ。
■魅惑の伏兵ずらりスタンバイ
魅惑の伏兵馬多数、アイアンルックの豪脚は侮れない
また、NHKマイルカップでは1番人気ながら、展開と外が伸びない馬場コンディションに泣き、9着に敗れたブレイクランアウト。もともと東京コースはGIII共同通信杯で快勝しており、能力を発揮できる舞台だ。3カ月ぶりを叩いた上積みもある。
同じくNHKマイルカップで2番人気8着に敗れたアイアンルックも即巻き返しができる大器。前走は4コーナー勝負どころで急ブレーキをかけなければいけないくらいの致命的な不利がすべて。スムースに追い出しがかけられれば、一気の差し切り頂点も狙える。
ほか、01年のダービー馬ジャングルポケットを父に持つ皐月賞4着の切れ者シェーンヴァルト、角田が付きっ切りで調教をつけ前走のトライアル・プリンシパルS2着で上昇気流に再び乗ったGIIIシンザン記念の勝ち馬アントニオバローズ、世代トップの一角として上位争いを演じてきたGI朝日杯FS2着のフィフスペトルら、魅惑の伏兵馬がずらりスタンバイ。
二冠か、逆襲か。それとも新勢力による政権交代か、伏兵の下克上か――。7768頭の頂点を目指し、“競馬の祭典”日本ダービーのゲートオープンが今年もいよいよ目前に迫ってきた。
(スポーツナビ)