雨上がりの朝の空は、抜けるような青さです。
つい先だってまでピンク色だった桜の木に緑色の若葉が出始め、新緑の初夏を思わせます。
ある意味では「無常に・・」と思われるほど素早く、季節が移り変わって行きます。
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思いがけず災いの多かった三月が終わりました。
寒いのは苦手な私は、6月の東京都美術館での作品展の締め切りを気にかけながらも、
「春になって暖かくなったら・・」と都合の良い理由をつけて仕事を引き延ばしていました。
ところが、三月に入った途端、右足の膝に違和感を感じ、それが次第に痛くなって、歩くのも難しくなったのです。
さすがに「これはまずい」とクリニックに行って注射もしましたが、なかなかよくなりません。
「膝が痛いのは老化現象」と車に乗るのを止め、歩いたり、いろいろとリハビリも試みましたが、ダメでした。
そんな中、無理をしながら庭の花を切ろうとして、庭の石段を踏み外し転げ落ちたのです。
打ち所が悪ければ命にかかわる大事故だったでしょう。
幸運にも無事だったのですが、日常の中に「死」が潜んでいることを実感したのでした。
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そんなこんなで、ガタガタとした暮らしの中にいた三月の終り頃のこと、
教室の、古くからの戦友のようなメンバーのSさんが、突然亡くなったのです。
「つい先日まで一緒に陶芸をしていた」、その生々しい記憶の前に、ただ呆然と立ちつくしたのでした。
人生に起こる出来ごとは、いつでも「突然」だった。今も昔も・・・。
もしも、前もってわかっていたとしても、人は、本当にそうなるまで、何も心の準備なんかできないのだ。
結局は、初めての感情に触れてうろたえ、悲しむことしかできない。
そして、そうなって初めて、自分が失ったものは何だったのかに気づくのだ。
でも、いったい、他のどんな生き方がきるのだろう?
だからこそ、私は強く思う。
会いたいと思ったら、会わなければいけない。
好きな人がいたら、好きだと言わなければいけない。
花が咲いたら、祝おう。
恋をしたら、溺れよう。
嬉しかったら、分かち合おう。
大事な人に会えたら、ともに食べ、ともに生き、団欒をかみしめる。
一期一会とは、そういうことなのだ・・。
( 森下 典子著「日々是好日」から )