米国西海岸の地銀大手ファースト・リパブリック銀行が破綻しました。今年に入って、これで米国内ではシリコンバレー銀行、NYのシグネチャー銀行に続いて3例目となります。
以下は、読売新聞報道からの抜粋です。
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米連邦預金保険公社(FDIC)は1日、米地銀ファースト・リパブリック銀行(カリフォルニア州)が経営破綻したと発表した。3月に破綻したシリコンバレー銀行(SVB、カリフォルニア州)を上回り、2008年のリーマン・ショック以降で最大の米銀破綻になる。発表によれば、米銀大手JPモルガン・チェースがファースト・リパブリック銀の事業を買収し、預金や支店業務を引き継ぐとしている。
ファースト・リパブリック銀の資産規模は昨年末時点で約2100億ドル(約28兆円)で全米14位。SVBの16位を上回る。4月24日の決算発表で、3月中旬以降、約1000億ドル(約14兆円)の預金が流出したと発表した。市場予想を上回る預金流出だったことで信用不安が高まり、発表後、ファースト・リパブリック銀の株価は約80%下落していた。
米国では銀行が破綻した場合、1人当たり原則25万ドル(約3400万円)までの預金が保護される。大口顧客が多いファースト・リパブリック銀は保護対象外の預金を多く抱えており、破綻を懸念した利用者が預金を引き出したことで資金繰りに行き詰まった。
米国では、米連邦準備制度理事会(FRB)が進めてきた急速な利上げによって保有する有価証券の価格が下落し、巨額の含み損が生じたことで破綻に追い込まれる金融機関が相次いでいる。3月にはSVBに続いてシグネチャー銀行(ニューヨーク州)も破綻に追い込まれた。経営不安が高まったスイス金融大手クレディ・スイスは、スイスの金融最大手UBSに買収されることが決まった。
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今回の米国内の銀行破綻の特徴は、リーマンショック時のような「不良債権」を抱えての破綻ではなく、急激な預金引出しが発生したための「資金繰り破綻」であります。もちろん、資金繰りが悪化した背景には、急速な業績悪化がありますが、いわゆる「債務超過」になった訳ではありません。リーマンショック後に施行されたバーゼルⅢ規制で、世界中の銀行は、当面十分な自己資本を堅持することを義務付けられていますので、預金者が慌てさえしなければ、簡単には破綻状態にはならないはず、でした。
しかし、SNSなどによる噂ベースの情報の広がりのスピードが想定を超え始めており、また24時間365日のリアルタイム決済システムが当たり前になった現在では、預金引出しの速さが、バーゼルⅢの想定を遥かに超えてしまっていることが、今回の一連の『銀行破綻』の背景になっているのです。
この3行ともに、『債務超過』の状態ではないため、救済する銀行が出てきているのが、大きな混乱に至っていない理由。銀行が倒産してしまうと、預金者保護には限界があり、上記記事のように米国では、1人当たり25万ドルという制限があります。日本でも1人当たり1000万円が制限ですから、それ以上預けた預金がパーになってしまう訳ですが、今回のように他の銀行に買収される場合には、銀行倒産ではありませんので、預金は全額保証されます。
なお、一連の銀行破綻のトリガーは、FRBによる昨年来の急激な金利上昇施策が原因。リーマンショックとコロナ禍によって、10年以上も異常な金融緩和状態が続いていたため、健全なALMマネジメント(資産・負債マネジメント)が緩んだことが背景にありますが、けして債務超過になった訳ではなく、むしろ久しぶりの金融引締めで、預金者が不確定な情報でパニックになりやすい状態に陥ったことが破綻を生んだということ。そして、その預金者の不安定な精神状態は、まだまだ続くと思います。
こうした事象は、対岸の火事ではありません。日本でも、いつでも起こり得る事象であります。ちょっとした『風評』が流れただけで、24時間365日のインターネットバンキングの仕組みの中では、あっと言う間に預金流出が起き得ます。1997年の北海道拓殖銀行の破綻、山一證券の破綻時には、朝9時~夕方3時までの窓口営業だけでも、大変な預金引出し騒ぎが起きましたが、今同じことが発生すれば、問題の拡大スピードは、あの時の数百倍、数千倍となるでしょう。
日本銀行も、これからのFRBの金融政策動向や為替市場を横目に見ながら、慎重な対応を取ることになりそうです。米国を追いかけて、慌てて金利上昇に向かわなかった判断は、今のところ『吉』と出たようです。