いつであったか、現在(いま)はどこでどうしてゐるか知らない他人(ヒト)に、「ずいぶんエラさうに歩くネ」と笑はれたことがある。
私は生来の猫背だが、いちおう人前で舞薹に立つ活動をしてゐるので、普段からの心がけで胸を張って背筋を伸ばして歩くやうにしてゐる。
……つもりが、意識のしすぎで過剰となってゐたものか。
しかし現在(いま)も、私はそのままを續けてゐる。

あの時その他人(ヒト)は半ば嘲けて云ったからでもあるが、背中が丸いとそれだけで貧乏神でも背負ってゐるかのやうな、みすぼらしくショボくれた人生の像(ニンゲン)に映ってしまふ。
私は富裕とはまったく無縁だが、少なくとも背筋さへ伸ばしてゐれば、貧乏神は背中から滑り落ちるだらう。