「上野の東照宮って、どの辺りだっけ……?」先日にさう訊ねられて、行ったことがないためちゃんと答へられなかったので、これを機に一見せばやと存じ候。上野精養軒より奥、上野大佛の脇を抜けた先に鳥居が立ち、ここからいかにも江戸時代の遺構らしい石畳の参道が伸び、ほどなく門扉一面の金箔もまばゆい唐門に行き當たる。慶安四年(1651年)の造營と云ふ國の重文云々、門扉両脇の昇り龍降り龍の彫刻は左甚五 . . . 本文を読む
今日はハ夕日。國民は休日。よって、むやみな外出はしないに限る日。なんでも、「建國記念日」云々。聞くところによれば、初代の神武天皇が即位した日云々、しかし明確な資料──みことのり──が殘されてゐるわけではなく、神話上において今日がその日に當る、とされてゐるにすぎない。よって今日は、ニッポンの建國を祝ふと云ふより、建國を“しのぶ”日云々。しかしこのᤈ . . . 本文を読む
東京都墨田區業平三丁目に、江戸の歌舞伎役者の墓が多く傳はる通稱“役者寺”の跡があるとのことで現地を訪ねてみたが、その痕跡を傳へるものが見當たらぬ。ハテ……? と立ち尽くすうち目に入ったのが、すっかり文字の消えた案内板らしきしろもの。近づいてよく見ると、やはりここに“役者寺”があったことを綴った文章が、微かに讀める。痕跡を傳へる痕跡。ばからしい、と呆れて自力で調べた結果、昭和の初めに江 . . . 本文を読む
橫濱市泉區のテアトルフォンテで、橫濱能樂堂の主催公演「横浜狂言堂」を觀る。ヒトが恐れるのはヒトそのものより、そのヒトが持つ“モノ”であることを太刀で象徴的に見せる「二人大名」は“パワハラ”への抵抗と諷刺であり、茶の湯に使ふ清水を汲むやう用事を言ひつけられた太郎冠者が、鬼に化けて主人を脅かしつつ“待遇改善”を要求する「清水」は雇用者と被雇用者の普遍的問題そのものであり、上演前に解説(おはなし)をつと . . . 本文を読む
大藏流山本家の狂言「文山立(ふみやまだち)」を、ラジオ放送で聴く。喧嘩した二人の山賊が書き置きを遺して死なうとまでするが、結局はバカらしいと氣が付いて仲直りして帰って行く、笑ひと人間的情味の深さが心を暖める秀曲。「通圓」のやうな「頼政」の模倣作は別として、狂言の現行曲には方便として死を口にする人は出て来るが、本當に死を選ぶ人物は登場しない。この「文山立」がさうだが、一時は死まで思ひ詰めても、やがて . . . 本文を読む
四天王寺で師匠と嵐家の御先祖に一ヶ月遅れの新年の挨拶を済ませたあと、日本一低い山“だった”天保山を訪ねばやと、存じ候。まだ師匠に弟子入りする前、道頓堀の中座に出演してゐた師匠を拝見しに大阪を旅行した際に一度訪れて以来數十年ぶりのことで、こんもりとした木立ちがそれだった、くらゐの記憶しかない。 さて、いまはどんな景色かしら……?大阪メトロ中央線「大阪港」驛を下車、海遊館の大觀覧車を左に . . . 本文を読む
EXPO'70の現在を訪ねたからには、現在始まらうとしてゐるEXPOの進捗も一見しておかばやと、存じ候。先ほど延伸開業した大阪メトロ中央線の「夢洲(ゆめしま)」驛から地上にあがるとその先の鉄柵の向かふに、いまだちっとも盛り上がらず、いまだ完成の目処も立たぬ2025年大阪萬博會場が、建設資材越しに見ゆる。同じ目的でやって来た高齢男性と、「この様子では、本當に開幕までには完成しないでせうね……」と話し . . . 本文を読む
現在は70'大阪萬博の資料を展示した記念館となってゐる「EXPO'70パビリオン」は、もともとは「鉄鋼館」と云ふパビリオンで、建物じたいが樂器と云ふ趣向の音樂ホールとして造られ、當時から閉幕後も殘すことが決ってゐた貴重な生き証人、平成二十二年(2010年)には閉幕以来非公開だった“スペースシアター”が復活して、當時斬新だった音樂世界を、令和現在もそのままの魅力で演出してゐる。目當ての初代“黄金の顔 . . . 本文を読む
會場が廣いだけでなく、内容の奥も深くて一篇にまとめられない“EXPO'70”跡めぐり、70’大阪萬博の象徴と云へば故人岡本太郎の手による「太陽の塔」、もともとは地上30mの高さに設けられた「大屋根」のテーマ館に觀客を運び上げる必要から計画されたものだが、故人がこの塔の計画に着手したのは萬博開幕の二年前と遅く、しかもこの造作について故人は生前になにも語ってゐないため詳細は不明云々、内部 . . . 本文を読む
「ビルマ館」「古河パビリオン」「三井グループ館」遠景「お祭り広場」「日本庭園」“木漏れ日の滝”(?)……と、自然公園に整備されてゐるだけあって跡地はほぼ芝生廣場になっており、日立グループ館があった一帯は深い森となってゐるのは、かつての千里丘陵の姿に還そうと云ふ計画なのだらうか。次は、現在も殘る往年のパビリオンを訪ねばやと、存じ候。 . . . 本文を読む
押入れに長らく仕舞ったままになってゐたアルバム群のひとつから、昭和四十五年五月の大型連休中に出かけたことが記されてゐる、大阪の千里丘陵で開催された「日本万国博覧会」──“EXPO'70”の冩真が數枚出てきた。と云ふわけで、その場所の令和現在を一見せばやと存じ候。昭和四十五年(1970年)3月15日(日)から9月13日(日)の半年、183日間にわたって開催され、6千4百萬人以上が訪れたと云ふ戰後ニッ . . . 本文を読む
國學院大學博物館にて、文永の役──いはゆる“元寇”から七五〇年目に因んだ特別展「絵詞に探るモンゴル襲来─『蒙古襲来絵詞』の世界─」を、三期通して觀る。肥後國御家人の竹崎季長が鎌倉幕府から恩賞を得るための証明として、蒙古相手に奮戰した様を描かせた「蒙古襲来繪詞」は皇居三の丸尚藏館に収藏の原本のほか、(※原本の「蒙古襲来繪詞」)約四十點の模冩本が確認云々、ここでは細川藩士の手を離れたのち所有者を転々と . . . 本文を読む
地下鐵博物館の特別展「東京メトロ20年のあゆみ展」を觀る。私にはまだ何となく馴染みがある“營團地下鐵”から、民間運營の“東京メトロ”に移行してもう二十年が過ぎたかと、今さらながら感慨に浸る。民間では莫大な費用のかかる地下鐵建設を、官の財力(チカラ)で推進すべく設立されたのが帝都高速度交通營團であり、そのために自力で新橋まで開通させた果てに橫合ひから官に持って行かれた早川德次の悲哀は、長く心に留めて . . . 本文を読む
ラジオ放送の寶生流「雨月」を聴く。西行法師と住吉明神の和歌を介した心の触れ合ひを、しっとりしっかり描いた秋の夜の一景。かういふテの曲は、不風流な人にはなかなか理解が難しい。だから私には、なぜかういふ曲が現在も好んで謠はれるのか、誰か平易な日本語で説いてほしいと思ふ。……いや、やめておかう。眠れぬ秋の夜長のお供に丁度良い曲だから。 . . . 本文を読む
昨年から復活させた二月恒例のお樂しみ、橫濱市保土ヶ谷區の岩間市民プラザで、活辯士坂本頼光さんの無聲映画上映會「サイレントシネマ&活弁ワールド」の第十五回目に出かける。昨年に第一部を上映した大河内傳次郎主演「水戸黄門」三部作の第二部(昭和十年/1935年)“密書の巻”は、柳澤吉保の陰謀が記された副題のそれを追ひかけて舞臺を江戸を移し、大河内傳次郎が水戸黄門よりも二役で扮する山浪人に持ち前の磊 . . . 本文を読む