地震を引き起こす地中の大鯰を暴れぬやう刺し通してゐると云ふ、「要石(かなめいし)」をいまだ見ず候ほどに、総州の香取神宮、常州の鹿島神宮の両宮を訪ねばやと、存じ候。

黒塗りの本殿が引き締まった印象を與へる香取神宮は神武天皇ゆかりの古社云々、件の要石は楼門を出て旧参道から木立ちへと入ったところにおはします。

見た目は漬物石のやうなれど、先は地中深く潜る石杭にて、

大鯰の尾を現在(いま)なほしっかり刺す靈石なり。

香取神宮から東へ約五里(20㎞)の鹿島神宮におはします要石は、

大鯰の頭を刺しまします靈石にて、その昔水戸光圀が實際の深さを確かめんと掘り進めやうとして、結局果たせなかった傅説もあり。

香取神宮が凸形に對し、こちらの頭は凹形なり。

大地を揺さぶり、人間の心をも揺さぶる大鯰の勝手は、甚だ許し難し。

これからもしっかり、大地の要をなす石たらんことを。
さて鹿島神宮は「鹿島立ち」の古語に殘る如く、道中安全の神様にてもましませば、

我が道の平安をも深く祈願せり。