久しぶりに有樂町の大江戸骨董市を覗きに行く。

ある見世で、ちょっと氣になった扇を見かけて中に入ると、主人がなにか一言、ニッポン語で声を掛けてきた。
かういふ時、橫合ひから話しかけられるのがキライな私は、とりあへず小さく頷くだけで受けると、主人は次にどこかの夷國語で、私が見てゐる古物の値段を説明し始めた。
マスクで顔が半分隠れてゐるとは云へ、亜細亜系夷國人か何かに見られたことでいっぺんに不快になり、よほど「ワタシ、ニッポン人ヨ!」と云ってやらうかとも思ったが、勘違ひさせままのはうが面白いかと思ひ直し、また物と値段の釣り合ひも惡く、私はさらに何度か小さく頷き續けただけで、見世を離れた。

たしかに、會場は氣持ち惡いくらゐに夷人ばかり、主人も普段さういふのばかりを相手にしてゐるので、まさかこの御時世にニッポンの古典柄に興味を持つ邦人が現れたとは思ひもしなかったのだらう。
……が、目の利かぬショーバイ人であることに、變はりはない。