
思ってゐたほどのひどい雨とはならず、夕方には殆ど上がったので、渋谷區千駄ヶ谷の鳩森八幡神社で行なはれた薪能を覗きに行く。

狂言は和泉流三宅右近一家の「佐渡狐」、私は“袖の下”がモノを云ふこのテの噺が大好きだ。
能は金春流“櫻間會”による「二人静」。
静御前の靈が憑依して舞を舞ふ菜摘女の背後で、静御前當人の靈が同装で舞ふかうした“二人(ににん)モノ”は、いくら動きが揃ってゐても演者の技量が伯仲してゐなければ、これほど見てゐられない曲もない──と云ふ分かりきったことを、まるで元氣の無い地謠ともども改めて分からせてくれた一時間六分。

もっともこの會派は、會主だけが玄人(プロ)で他はほとんど素人ばかりで構成されてゐるらしいので、そこは割り引いて考へるべきではあり、都心の涼しい野外で傳統藝能を樂しむと云ふ狙ひにおいては、まずは大成功である。
「二人静」については、數年前に神社からほど近い國立能樂堂で觀た觀世流宗家實弟の舞薹に感銘を受けており、あれが「二人静」と云ふ能なのだと識ってゐるので、それで充分である。