
令和四年(2022年)十月は日本國に鐵道が開業して150年と云ふ節目にあたり、それに因んで東京圏の博物館や資料館などでは鐵道の特別展が企画されたので、起點の新橋より終點の橫濱に沿って、一見せばやと存じ候。
旧新橋停車場 鐵道歴史展示室の企画展「新橋停車場、開業!」では、

開業から七年後の明治十二年(1879年)に日本人初の機関士三名が、その十四年後の明治二十六年(1893年)には初の國産機関車が誕生し、近代ニッポンが着實に自前の技術力を身に付けていく様子を知る。
そして明治二十年代の撮影と思はれる、高輪築堤を疾走する汽車の古冩真を、興味深く見つめる。
國立公文書館の「鉄道開業150年 広がる、広げる─公文書で描く鉄道の人々のあゆみ─」は、

主に黎明期における日本の鐵道を、残されたお役所文書より窺っていく企画展で、ペリーが“蒸氣車”の模型を黒船に積んで持って来るより以前に、ジョン萬次郎が米國見聞として、“レイロウ”と云ふ乗り物の存在を日本に傳へてゐたことを、初めて知る。
東海道かわさき宿交流館の「川崎鉄道三題噺」展では、

東海道新幹線の初期に使用されてゐたサボの現物が展示されており、こだまには「特急」、ひかりには「超特急」と表記されてゐるところに、當時の國鐵の新幹線を開發したことへの誇りが表れてゐるやうで、とりわけ興味を覺えて見入る。
そして東海道新幹線開業によって本格的に導入されたコンピューター“マルス”によって發券された切符の、まだ初期には印字と手書きの綯ひ交ぜだった現物から、當時のニッポンの未来には伸びしろがあったことを知る。

(※開業當時の橫濱櫻木町驛)
橫濱都市發展記念館の特別展「横浜鉄道クロニクル 発祥の地の150年」は、日本で初めての“終着驛”が設けられたことから始まる橫濱の鐵道の歴史を、ペリーが黒船に積んで持って来た“蒸氣車”の模型から、令和現在に構想中の橫濱圏を環状運転する地下鐵に至るまで、豊富な冩真と紙資料の現物で時系列に繙いていく。

今日までに橫濱驛が三度移転し、京浜東北線の車輌が“たくさんつく”られて十両編成化し、それまで東海道線と同じ線路を走ってゐた橫須賀線が貨物線の線路に移行するなど、その時代の需要に合はせて変化していく鐵道は、あたかも歴史と云ふ大海をヒトと共に泳ぐ、同じ生き物のやうに感じる。
一階で無料觀覧できる「東海道本線の被害と復旧」展は、関東大震災で損壊した東海道線本線が、大勢の人の手によって着實に復活していく姿を大判の冩真パネルで追ったもので、

東海道本線がまだ現在の御殿場線回りだった時代を見られる點に──つまり線路が複線だった様子を見られる點に──興味を覺えつつ、おなじ自然災害で損壊したきり手を拱いてゐる令和現在の地方路線の現實とも對比して、昔と今との“國力”の差についても考へさせられる。