Daily Bubble

映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

『大江戸歌舞伎はこんなもの』橋本治

2005-10-02 21:22:48 | kabuki
この本は、私の本の中で(もしかしたら)一番読者を限定する本です。「こんなもんに関心を持つ人間がどれだけいるだろう」という気がします。題材は歌舞伎ですが、私が取り扱っている歌舞伎は、「現在の歌舞伎」ではなく、今から百年以上も前の歌舞伎です。実際に見たことがある人は誰もいません。誰も観たこともないものを紹介するのならともかく、この私は、誰も見たことがないものを「既知のもの」にしてしまって、「それはいかなる構造を持っていたのか」と説明をしています。多くの人にとって、これは「なんのことやら」です。「それを知ることと自分の現在の生活となんか関係があるのか?」と問われれば、なんの関係もありません。   ~あとがきから~

あとがきで、橋本治はこんなことを言っていますが、限定された一読者の私にとっては非常に興味深く面白い本でした。
橋本さん(うーん、この敬称はすごくイヤだなぁ。「先生」なんてのは嫌いそうだし、何て呼べばいいのか?とりあえず「さん」で。)も書いているとおり、全編江戸の歌舞伎のお話です。
・歌舞伎の定式
・江戸歌舞伎の専門用語
・江戸歌舞伎と曽我兄弟
目次を見ると12章中7章に「江戸」って言葉がついてます。
ところが、江戸歌舞伎を知ることによって、日頃の歌舞伎に対する疑問がするすると解けていきます。

例えば、
・なんで歌舞伎は義経が大好きなんだろう?
・なんで歌舞伎には「○○実ハ△△」って人ばっかり登場するんだろう?
・なんでお正月の歌舞伎は「曽我物」なんだろう?
・「本日はこれ切り」って、そんなんで納得しちゃうの?
・歌舞伎の時代設定や時代考証って、あんまりいい加減すぎない?
こんな疑問って、歌舞伎初心者にとってはすぐに浮かんできますよね。

そんな方にぜひオススメなのがこの本です。
図書館でこの本を見つけたのはずっと前ですが、「江戸の歌舞伎じゃなくて現在の歌舞伎を書いてくれればいいのに…」と思い見過ごしてきましたが、失敗。
確かに橋本さんは、江戸の歌舞伎を書いています。江戸の歌舞伎が大好きだからでしょう。
しかし、江戸を無くして現在もまた存在しない。
現在の歌舞伎は400年の長い歴史の一部に過ぎません。
江戸歌舞伎を知ることは、現在の歌舞伎を知る上でとても重要なことだと思います。
橋本さんは江戸歌舞伎の「なんだかよく分からないもの」が大好きで、それを理解する読者は数少ないでしょう。
私も、そのことについて橋本さんと感覚を共有することはできません。
しかし、先に列挙した疑問をこれほどすんなりと分かりやすく教えてくれたのは、この本が初めてだったのです。
純粋に歌舞伎が好きだ、という多くの方には強くオススメする一冊です。

研修のせいか、随分真面目でつまらない文章になってしまったみたい…。ま、いいか。

最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
私も大好きです、この本 (ahaha)
2005-10-04 04:12:23
そして、私も「あとがき」が(もまた)とても印象的でした。

「なくてもいい本かもしれません」というようなことを書いておられませんでした?

発行直後に読んだのですが、この一文が忘れられません。
返信する
橋本治さん (paru)
2005-10-04 16:08:36
この本は読んだことがないのですが、面白そうですね。

江戸時代の歌舞伎は想像するしかないのですが、今の歌舞伎より前衛っぽくてエキサイティングな気がしますー。
返信する
こんばんは。 (アクア)
2005-10-04 23:11:10
ahahaさん、さすがに読まれてますね!

そうですね、「あまり意味のない」と書いているあとがきが、とても面白かったんです。

書くつもりだった(らしい)膨大な本を読んでみたいんですが…。



paruさん、ぜひ読んでみてください。

「法界坊」もこの本を読んだ後だったら、さらに興味深く観られただろうな、と思いました。
返信する

コメントを投稿