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映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

シャガール、その愛のかけら

2007-03-17 10:07:40 | art
マルク・シャガールは、1887年7月7日にロシアのヴィテブスク(現ベラルーシ)に生まれたそうです。七夕生まれっていうのが、なんともシャガールっぽいなぁとにんまり嬉しくなります。
あ、違う。注目すべきは誕生年。1887年生まれってことで、今年はシャガール生誕120周年なんだそうです。
宇都宮美術館で開催されている展覧会「宇都宮美術館開館10周年記念 シャガール、その愛のかけら」に行って来ました。

シャガールでイメージするのは、恋人達やサーカスやエッフェル塔やバイオリン弾きや花束などといった明るく自由で夢のような世界だけど、展覧会ではロシア(ヴィテブスク)時代の作品から始まっていました。「村の祭り」というその作品は、小さな棺を運ぶ人や母親らしい女性、悲しむ人が描かれたとても暗い色調の油彩でした。
ヴィテブスクのユダヤ人街で生まれたシャガールは、生れ落ちて直ぐに火事のためベッドごと村はずれに運ばれたようです。このことは『我が生涯』というエッチングに描かれていますが、この火事はユダヤ人街に放たれた迫害の火であり、シャガールの人生に付いて回るユダヤ人画家としての根底に流れるものだったようです。
というのは、たまたま参加することができたギャラリートークで学芸員さんがおっしゃっていたことですが、「今日は人数が少ないから、絵を見ながらお話しましょう」と言って1時間程かけてじっくりとシャガールの人生と作品を伺うことができたのは、非常に楽しいひと時でした。

展覧会は、いくつかのエッチングとリトグラフが紹介されていて、その中に『ダフニスとクロエ』からの数点がありました。以前、名前も分からずに気に入って飾っていたポストカードがこの詩情豊かなリトグラフだったんでした。
展示されていた中では特に「つばめ」という一枚が明るくのどかで素敵です。どこからかドビュッシーの旋律が聴こえてきそうですよ。

『ダフニスとクロエ』の他に大好きな『サーカス』もありました。
幼かった私が初めて行った展覧会で心を奪われたのがシャガールで、その中でも『サーカス』の赤や青や緑や黄色の原色の作り出す夢のような不思議な世界に引き込まれました。子供の私には、おっぱいを出した裸の女性に絡むピエロやヴァイオリン弾き、牛や鳥などは恥ずかしさと楽しさが混ぜこぜの奇妙に魅力的な世界でした。

ギャラリー・トークで伺ったお話は、『わが生涯』『聖書』『出エジプト記』などの一見地味に感じられるエッチングとリトグラフについてのもので、その背景にはシャガールのユダヤ教徒としての側面が現れているそうです。
『聖書』の中で、シャガールは「神から石版を授かるモーセ」を描いていますが、ユダヤ教の戒律を破り絵を描きながらも神の姿を描くことはできずに、黒い雲のような中から白い手だけの「神」を描いています。
他の絵の中でも、神そのものを描くことができなかったシャガールは、それでも神の存在を現したくて神の座る「椅子」をあるときは絵の片隅に、あるときは絵の真ん中に描いていて、それはこの展覧会でもあちこちに見ることができます。
そんなにまでして神を描くことのなかったシャガールが、『出エジプト記』において初めてタブーを冒し「神は神自らの手で契約を書き記した二つの石版をモーセに授けた。」というリトグラフに神の姿を描いています。人と獣との顔を持ち、生贄の鶏とともに空を飛ぶ神の姿ですが、このことはシャガールにとっては「ついに、描いてしまった!!」という非常に大きな意味を持つことだったそうです。

さて、この展覧会で私がもっとも気に入ったのは「青い恋人たち」という絵です。
アメリカで最愛の妻ベラを亡くしたシャガールはしばらくの間絵を描けなかったそうですが、その後に描いたのがこのちょっとロマンティックな「青い恋人たち」です。
美しく穏やかな顔でどこかへ向かおうとする女を、愛おしくも悲しげな表情で抱く男。男の手は、女のおっぱいに伸び、よく見ると指でつまんでいます。
ずっとベラを描いてきたシャガールの、どこまでも彼女を愛し続ける姿を想像すると、涙がじわりと浮かんできます。

 

もう一枚、会場のいちばん最後にあった「緑、青、赤の恋人たち(街の上で)」というシャガール晩年近くの絵もとても素敵でした。
恋人たち、音楽家、パリの街、故郷ヴィテブスクの村、月と太陽、鶏、花束などが明るい色彩で描かれ、そこには彷徨えるユダヤ人もいます。
ヴィテブスク、パリ、アメリカ、南フランスと、戦争によって故郷を失い老年になって漸く暖かな安堵の地を得たユダヤ人画家としての幸福な一枚なんだと思います。

「宇都宮美術館開館10周年記念展 シャガール、その愛のかけら」は4月8日まで。会期中、東欧系ユダヤの音楽クレズマーのコンサートも開催されるようです。もう一度、「青い恋人たち」に会いに行こうかな。

宇都宮美術館HP

*追記*
シャガール展は、4月14日から6月3日まで三重県立美術館に、その後6月9日から7月29日まで千葉市美術館に巡回されるようです。
フライヤーもとても素敵なので、どこかでぜひ入手してくださいね!



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2 コメント

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シャガール (hide3190ymo)
2007-03-21 18:28:26
私もシャガール好きです。
有機的な曲線美と、鮮やかな色使い、暖かみを感じます。
初めてシャガールの絵を見たのは、笠間日動美術館でした。
もう15年以上ですが・・・。(笑)
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こんばんは。 (アクア)
2007-03-21 23:23:53
私も日動でシャガールを見たんですよ!25年以上も前のことですけど…(笑)。
国立新美術館でも、シャガールが見られるようですね。会期中には行ってみたいなぁと思ってます
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