あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

死も命も

2020-01-01 23:46:42 | 日記
2020年。になる約3時間前、エホバは、アイスハグ兄弟を護られ、わたしを、地獄に突き堕とされた。
そして2019年最後の夜の、終わる約1時間前、エホバは、わたしを御救いになられた。
昨日、大晦日の夜、わたしは王国会館にて、2019年最後の集会の終わった後、愛するアイスハグ兄弟へ、愛と呪いの手紙を渡すつもりでいた。
いやぁ~今年最後のエホバの証人の集会、良かったですね。終りましたね。良かった良かった。とにかく良かったね。良かったですよね。という雰囲気のなかで、わたし一人だけが、緊張に震え、ただ独り、この会衆の研究生のわたしは座って、不安に怯えて泥のなかから顔を出している泥鰌のような顔をして、王国会館内を、きょろきょろとしていた。
そして、標的を見つけた。自分のずっとずっと、求め続けてきた標的を。
それは、40歳を過ぎても独身で、いつも、不自然なほどに笑顔で講壇に立つ貧しいアパート住まいの長老であられるアイスハグ兄弟であった。
アイスハグ兄弟は丁度、そのとき王国会館内のコピー機の前に居て、一人で何かを印刷しておられた。
今がChanceだ。この機を、逃してはならぬ。逃したら死ぬ。わたしも全宇宙の全存在も、死ぬるだろう。そんな意気込みで、わたしは心震わせながら席を立ち、アイスハグ兄弟の元へ歩き寄り、びくびくしながら、倒れそうな恐怖のなか、たった独りで、愛するアイスハグ兄弟に、声をかけた。
「今日もお手紙をお渡ししたいのですが…」
するとアイスハグ兄弟は、いつもの、非常に善なる笑顔で、それでいて困った笑顔で、こう答えられた。
「お手紙を受け取ることは、もうできないんですよ…。ごめんなさい。」
わたしは一瞬で、奈落の底の闇の中心に、突き堕とされた。
アイスハグ兄弟は、その場で何も言わず呆然として絶望して突っ立っている哀れな女のわたしに向かって、何度と「ごめんなさい…。」と申し訳無さそうに何か用事しながら言ったが、やがて集会後の、食事会かなんかの説明を聴きにわたしから離れられた。
わたしは離れた処からアイスハグ兄弟を呪いながら憎しみの燃えた目で見つめていた。
話が終われば、アイスハグ兄弟に、呪いながらこう言うつもりだった。
「お手紙を受け取ってくださらないというのであれば、わたしはもう二度と、エホバの証人とは関わりません。」
そうして突っ立ってアイスハグ兄弟に怨念を送り続けていると、姉妹が話し掛けてきて、わたしは完全な鬱に落ちていたので、話し掛けられてもほとんどスルーしてただ突っ立ってアイスハグ兄弟を睨み続けていた。
耐え切れなくなって、自分の席に戻り、座って左斜前辺りに座って話を聴いているアイスハグ兄弟を、近距離から観るともなし、観ていた。
食事会で、何を提供するのかという話で、「酢豚」という言葉がわたしの耳に聞こえたりしていた。
ヴィーガンであるわたしにとっても、本当に耐え難い地獄の時間に、講壇の前辺りに移動して話を聴いたり話をしているアイスハグ兄弟は、わたしにずっと睨みつけられていることを、横目で多分知りながらも、意識的にわたしを観ないように目を逸らし続けていた。
はやく、はやく過ぎ去ってください。この耐え難い時間が。わたしはそうエホバに、祈りたいほどだったけど、わたしは祈らなかった。
わたしはエホバを、信仰していないから。
その代わり、ただ漠然と、祈っていた。
いつまで食事会の説明遣ってんねんと。
イエスの言葉を想起せよと。


 それからイエスは弟子たちに言った。
ですから,何を食べるのだろうかと自分の命のことで,また何を着るのだろうかと自分の体のことで,心配するのをやめなさい。
命は食物より,体は服より価値があります。 


新世界訳 ルカによる福音書 第12章22節と23節

酢豚とオムレツ、どっちがいいでしょうかねえ。うーん、子どもだったらオムライスなんでしょうねぇ。
どうだって良いことに、何をこんな時間をかけて悩んでおるのだと。わたしは発狂して、コカインをその場で鼻から吸ってぶっ倒れて救急車で運ばれてゆきたいほどに、怒(いか)りで頭蓋内が、煮え滾っているようだった。
それで、サタンに犯されたわたしは、アイスハグ兄弟の姿がわたしの前に突っ立った姉妹の身体で見えなくなった後も、ただその方角を見開いた目で硬直して見つめて座っていると、40代で奉仕の僕であられるアイオス兄弟が、後ろを振り向いてわたしの異常さに気づき、わたしを心配されて静かにこう話し掛けた。
「上田さん、大丈夫ですか?」
わたしはその瞬間、本当に死んだ目で、アイオス兄弟を機械仕掛けの人形がゆっくり首を回す如く、観て、土の中に30年間埋められていた人間が初めて声を発するように、渇きながら湿っている声で、こう発した。
「お話を聴いて頂けますか…」
アイオス兄弟は深刻な顔で深く頷き、前の席から、じっとわたしを見つめた。
わたしは密かに、二世ではないのにエホバの証人になられた今の時代には大変珍しい、深い関心と信頼を寄せていたアイオス兄弟に向かって、自分のアイスハグ兄弟への呪いの全てを、赤黒い血を吐き続けるように、アイスハグ兄弟を睨み続けて震えながら吐き出し続けた。
わたしは…今、本当に耐え切れなくて、苦しくて堪らなかったから、アイスハグ兄弟への手紙に、わたしのほぼすべてのエホバへの葛藤や悩みや懺悔を、ぶつけて、それをアイスハグ兄弟に読んで戴くことで、なんとかわたしは耐えられると感じていて、それをこないだアイスハグ兄弟へお渡しした手紙にも書いたのです。
でも今日、もう手紙を受け取ることはできないと、言われました。アイスハグ兄弟は、わたしがこの苦しみに耐え切れなくて死んでも、どうとでも良いと想っているのでしょう。
そうじゃなかったら、なんで…受け取って貰えないのですか…。
わたしの、アイスハグ兄弟への呪詛の全てを、アイオス兄弟はじっとわたしの目を苦しそうな、充血した優しい目で見つめながら、何度と頷いて聴いておられた。
アイオス兄弟は、何故、アイスハグ兄弟でないと駄目なのですか?と訊ねられた。
わたしは素直に、アイオス兄弟の目を観て、悲しげに言った。
「わたしはアイスハグ兄弟に恋をしているからです。」
その瞬間の、アイオス兄弟の深い憐れみの表情を、わたしは一秒間すら見つめらずに、すぐさま目を逸らした。
アイオス兄弟はまるで、自分のことのように、悲しんでおられるように感じたからだった。
涙を流し、全身を打ち震わせながら、わたしはアイスハグ兄弟への訴えを、まだ数人姉妹や兄弟たちが残っている王国会館のなかでアイオス兄弟に向かってした。
アイオス兄弟はわたしに涙声で「お辛いですよね…」と言いながらわたしと一緒に涙を流された。
そしてiPadでたくさんの聖句をわたしに示し、またエホバの証人のサイトにあるアニメの動画をわたしに観せた。
アイオス兄弟は、御自分の過去の、本当に苦しくて堪らない話を数々、わたしに話された。
わたしと過去のアイオス兄弟は、驚くほど共通点があった。
アイスハグ兄弟に今日渡すつもりでいた手紙には、たくさんのアイスハグ兄弟に対する恨み言、呪いの言葉があったことをアイオス兄弟に話した。
アイオス兄弟は、アイスハグ兄弟は、いつも優しい顔で強い人のように笑っているが、実はもんのすごい繊細で傷つきやすい人で、Heartがガラスでできているのだと言い、その手紙を、もしわたしが渡していたなら、きっと後悔されただろうと仰った。
アイオス兄弟は、格言の書18章21節をわたしに示し、穏やかで静かな話し方でこう言われた。
「死も命も、舌によって支配することができる。人は舌(言葉)によって、本当に人を殺すことだってできるのです。」
「その手紙をアイスハグ兄弟に渡していたら、もしかしたら、アイスハグ兄弟は死んでしまっていたかもしれません。」
わたしは、アイスハグ兄弟が、何故わたしの手紙を最初は受け取っておきながら、二度目は断ったのか、その答えがわかったような気がした。
わたしが、アイスハグ兄弟を殺せるかもしれない言葉を持っていることを、アイスハグ兄弟は、わかったからではないか。
でもそれは、彼自身の決断ではなく、エホバによる計らいであっただろう。
エホバが、アイスハグ兄弟を御護りくださり、わたしを殺害者にすることからも、護られた。
わたしは、自分のうちに存在し、わたしを支配しているサタンが、音を立てて無残にも、すこしずつ、打ち砕かれてゆく感覚を味わった。
それはわたしの潜在的な場所にずっと生きてきたサタンの味わう悲哀と惨敗の、清々しい音であった。
「おや、もう23時を過ぎてしまいましたね。今日は上田さんたくさん泣いたから、きっとよく眠れると想いますよ。」
アイオス兄弟はわたしを見送るため、エレベーターで一緒に下まで降りてくださり、下に降りると、そこにアイスハグ兄弟が、手に缶コーヒーをいくつも持って笑顔で立っておられた。
どうやらこれから、独身男性の兄弟たち5人で、王国会館で年を明かすようだ。
わたしはアイスハグ兄弟に、謝るつもりで話し掛けた。
「前に渡した手紙に、アイスハグ兄弟を傷つける言葉があったのではないかと…」
アイスハグ兄弟は、わたしの言葉を遮り、いつもの優しい笑顔ではっきりと、こう言われた。
「いや、傷つく言葉はひとつもなかったです。」
わたしは、一緒に笑いながらも一瞬、イラッと来たが、続けてこう言った。
「今日渡すつもりでいた手紙には、アイスハグ兄弟への恨み言をたくさん書いていました。そんな手紙を渡そうとして、ごめんなさい…」
「その手紙を渡していたら、アイスハグ兄弟は死んでしまったかもしれません…」
アイスハグ兄弟は、頷きながら、ショックを打ち隠すかのように、何も言わず笑っておられた。

アイオス兄弟に感謝を深く述べ、家路に着くなか、わたしは悲しみの闇とあたたかい光に満たされていた。
年が明けて、今、わたしはわたしのなかだけで、確信するのだった。
わたしはこれから、エホバに背きながら、エホバに自分を捧げて死ぬだろう。
そして、アイスハグ兄弟へ、わたしは絶対に言ってはならない言葉を、言ってしまったことを。
その言葉はいつの日か、アイスハグ兄弟と、わたしの死も命も、支配するだろう。



















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