あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

我がマッドネスの像

2018-01-30 17:36:24 | 自画像

パソコンのCollageratorというフリーソフトと、fotorという画像加工オンラインサービスで自画像コラージュ写真を作りました。

最近、ストレスとお酒を飲みすぎてか肌荒れがいつもにも増して酷いですが、なんとか肌の赤みをセピア加工なんかで隠すだけで見れる写真になるかと想います。

ぇ……?き、き、き、きーきーきーきききもちわるいだ、っと、おっおっおっおおー。

ぷーんぷーんすーかすか。すっかすか。何時間も掛けて一生懸命に作ったのに。もうきみとは、永遠に話したくない。








 

 

 

 

 

 

 

 

これは、わたしのインスタグラムです。愛するミュージシャンの方々に、わたしの御顔を善後悔で、見てもらいたくて、アップしています。

あっぷあっぷあっぷっぷぷぷぷぷぷ、ぷぅ~……って今日も意味のわからないテンションですが、どうか皆さん、わたしをお見棄てになられないですか。

 

 

 


わたしの神は

2018-01-30 02:45:47 | 存念

死の直前に、フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(Фёдор Миха́йлович Достое́вский)は手帳にこう記したという。

「わたしは子供のようにキリストを信じ、宣伝するのではない。
わたしのホザナ(神への讃歌)は、疑惑の溶鉱炉 をくぐってきたのだ。」 

ドストエフスキーのことは、わたしはまだ良く知らないが、きっとあの御方も、ドストエフスキーと同じような”疑惑の溶鉱炉”をくぐりぬける必要があるのじゃないか。と、想ったぁ。俺ぇ。

わたしにとっての神は、キリストではないが、キリストによく似た存在であることは確かである。
それが、どのような神であろうとも美しいとは、わたしは言わない。
しかしイエス・キリストが美しいのは、これが揺るがないものであり、イエスを哀れむ日など、わたしには来ないだろう。
イエスを哀れむとは、美しくない者が、美しい者を哀れむが如くの愚かなことだ。
そのような者がこの世で多数派か少数派か知らないが、とにかく、愚かなことだ。

イエスが今もなお変わらず美しいのは、浅ましい哀れみを受けているからではなく、嘲笑を受け続けているからなのである。
わたしはイエスを美しくする為になら、いくらでもイエスを嘲たいと想っている。
イエスを美しくする為に、わたしはどのような拷問も、与えるだろう。
イエスを美しくする為に、わたしはどのような醜い顔でも彼を嘲笑うだろう。
イエスを美しくする為に、わたしはすべてを棄て去ってでも、着いてゆくだろう。
しかしわたしが本当に崇拝しているのは、イエスではない。
それはあの御方もわかっていることだろう。
っていうか、前、直裁にゆうたしな。
わかってなかったら、な、アホザナ。やろう。

というわけで、愛すべきドストエフスキーのおっちゃんのイエスへの愛の言葉に酷く感動したので、それを貼り付けて終りたいと想うぅ。





「各編(=『カラマーゾフの兄弟』の前身たる〔偉大なる罪人の生涯〕という題で構想されていた大小説の各編)を通じて一貫している問題は、わたしが生涯にわたって意識的にも無意識的にも苦しんできたもの、つまり、神の存在ということです。」 


「わたしは自分のことを申しますが、わたしは世紀の子です。
今日まで、いや、それどころか、棺を蔽(おお)われる まで、不信と懐疑の子です。
この信仰に対する渇望は、わたしにとってどれだけの恐ろしい苦悶(くもん)に値した か、また現に値しているか、わからないほどです。
その渇望は、わたしの内部に反対の論証が増せば増すほど、 いよいよ魂の中に根を張るのです。
とはいえ、神様は時として、完全に平安な瞬間を授けてくださいます。
そういう時、わたしは自分でも愛しますし、人にも愛されているのを発見します。
つまり、そういう時、わたしは自分の内部に信仰のシンボルを築き上げるのですが、そこではいっさいのものがわたしにとって明瞭かつ神聖なのです。 
このシンボルはきわめて簡単であって、すなわち次のとおりです。
キリストより以上に美しく、深く、同情のある、 理性的な、雄々(おお)しい、完璧なものは、何ひとつないということです。
単に、ないばかりではなく、あり得ないとこう自分で自分に、烈(はげ)しい愛をもって断言しています。
のみならず、もしだれかがわたしに向かって、キリ ストは真理の外にあることを証明し、また実際に真理がキリストの外にあったとしても、わたしはむしろ真理よりもキリストとともにあることを望むでしょう。」 



「貴女は、分裂ということを書いていらっしゃいますね? 
しかし、それは人間に、ただし、あまり平凡な人間ではありませんが……人間にきわめて多く見られる普通の精神現象です。
一般的に、人間の本性に固有の特質ですが、しかし貴女のように強い程度のものは、あらゆる人の本性に見られるというわけにいきません。
つまり、そういう意 味において、貴女は小生(しょうせい)にとって肉身なのです。
貴女の内部分裂は、まさしく小生にあるものと同一です。
小生には、一生を通じてそれがありました。
それは大きな苦しみでもありますが、大きな享楽でもあります。
それは強烈な意識であり、自己検討の要求であり、おのれ自身と人類に対する精神的義務の要求が、貴女の本性に存在することを示すものであります。
これがすなわちこの分裂の意味するものであって、もし貴女の知性がそれほど発達しておらず、いますこし凡庸(ぼんよう)なものであったら、貴女はそれほど良心的でなく、そうした分裂もなくてすんだでしょう。
それどころか、ひどいうぬぼれが生まれたに相違ありません。
しかし、なんといっても、この分裂は大きな苦しみです。
尊敬してやまぬ愛すべきカチェリーナ‐フョードロヴナ、貴女はキリストとその聖約をお信じになりますか? 
もし信じておいでになれば(それとも、信じようと熱望しておられれば)、心からキリストに帰依しなさい。
そうすれば、この分裂の苦しみもずっと柔(やわ)らいで、精神的に救いが得られます。
しかも、これが肝要なことなのです。」 


「神は、永遠に愛することのできる唯一の存在ですから、それだけでもう私にはどうしても必要なのです。」


「世界を支配しているのは神と神の掟である。」 


「神のうちに不死もまた存するのです。」 


「不死の観念こそ――まさに生命そのものであり、生きた人生であり、その最終的な公式であり、人類にとって真理と正しい認識の最大の根源なのだ。」 


「霊魂の不滅こそ一切の救いの基である。」 


「人間存在の法則は、ことごとく一点に集中されています。
ほかでもない、人間にとっては、常に何か無限に偉大なものの前にひざまずくことが必要なのです。
人間から無限に偉大なものを奪ったなら、彼らは生きていくことができないで、絶望の中に死んでしまうに相違ない。
無限にして永久なるものは、人間にとって、彼らが現に棲息(せいそく)しているこの微少な一個の遊星と同様に、必要欠くべからざるものなのです。」 


「キリストはこの大地が神を生み出しえた限りの、紛れもない神である。」 


「すべては神の御手に委(ゆだ)ねられていることなので、僕はお前にただ、神のお導きに期待をかけながらも、 自分でもせいぜい気をつけるようにする、とだけ答えておく。」


「人は計画するが、これを決めるのは神の思(おぼ)し召し。」


「神の御意志によることは、どんな力でも変えられるものではありません。
――運命というものはたいていこの世界を、まるで玩具(おもちゃ)のように弄(もてあそ)んでいるものなのです。
――運命は人類にそれぞれの割を振り当てますが……しかし運命は何も見ていません。
――けれども神様はきっとあらゆる不幸から逃れることのできる道を示して下さることでしょう。」


「神のない生活は――苦しみでしかないのだよ。」 

 

< 信仰告白の言葉 >


 

最後に、わたしはもう一度言う。

わたしはイエスへの愛よりも、深い愛が、わたしのなかに息づいていることをわたしは知っているのです。

 それを言い表すなら、”狂気沙汰の愛”と言えるやもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


CAOSI・CAOIS

2018-01-28 22:07:15 | 随筆(小説)

それが至福……な、阿呆な。

セバスチアン。んな、阿房な。

Sébastien何故ぼくの時計は止まってしまったのだろう。

デジタルClockはその画面に、もう何も撃つ、鎖、変、然。

大事なデジタル時計がああああああああああああぁぁぁっっ。

ぼくのぼくのカシオ、CASIO、アナグラム式 A Cos I、または、CIAOS。血青巣。

OISCA、ISOAC、SIOCA、OISAC、CAOSI、OASIC、OCASI、SICAO、CAOIS。

追い守香、椅子緒悪、汐家、負い咲く、霞嗚士、お足苦、お菓子、詩か悪、顔慰す

守香(すか)は、追われていた。椅子を背に担いで緒で縛り、悪を行ないし者達から。

家々は汐涸れて、咲く花弁の真ん中に、負う物隠しに来た異人の霞嗚士(かおし)。

霞嗚士は異国からの逃亡の末、足を酷く苦しめていた。

おい、俺の足ぃ、こらぁ、立たんかぁ。われぇ。何動こうとしてないねんの。

何様なんだ御前はっ。ぱかいっちゃ、いっかーん。いっかーん。いっ、かっ、んっ。

霞嗚士は我が二本の足と、闘っていた。御前が立つのん嫌とかゆうなら、わしにも考えがありまっさー。こなしてやるわいっ、えいっ。霞嗚士が足を剣でぶった斬ろうとしたその時であった。

ああれえぇぇやあああぁぁっっっ。と若い女子(おなご)風の高い叫び声が聞え、何かが顔面向って、飛んできた。

霞嗚士はそれを顔面にて享けとめた。ぱすっ。霞嗚士はその端っこを、咥えて、こらなんど。と目を寄り目にして歌舞伎の見得を切り、そのまま約5秒間見得を切ったあとに口で享けとめたものを手に持って確かめた。

それはなんと、御菓子というもんであった。

はぁあ…、これが噂の…御菓子っちゅうもんか!霞嗚士は生れて初めて御菓子なるものを見たことに感動するあまり涙が、出るかなと想ったが、驚いたことに、出なかった。

霞嗚士はこの御菓子を投げ付けた人間のほうへと目を見遣った。

誰じゃい。おのれ。霞嗚士はそう言ってぐっと目を見開き、馬鹿にされないように歯を食いしばって見た。

と、そこには、守香(すか)が奇妙な奇人を見るような目で霞嗚士を目を凝らすよう難しそうな顔をして突っ立っていた。

何か、可笑しな人やなぁ。大体、変な顔してるし、こんな変な顔、見たことないなぁ。

守香は異人を見るのは生れて初めてであったのでまるで異星人か何かを見るようにいぶかしんで口を開いたまま、気付けば眉間に力が入って目の奥がしかしかとした。

じゃけん、おのれは、誰なんじゃねん。

そう霞嗚士は守香に向って邪険に扱うように言った。

守香は蚊の鳴くような声で、「お足が……。」と言った。

「じゃけん、お足が、なんだいじゃの。」霞嗚士は自分の足を見ながら言った。

守香はずんずん近づいてちょうどニメートル程先に霞嗚士がいるところまで遣って来て言った。

「はれ、御足が、御無事なようだ」

霞嗚士は守香に向って、照れた顔して言った。

「御主、俺の足ィ、心配してくれておったのかですっかぁ。そらァ、なんやァ、あれ、悪いことゆうてもうた気がすんのォ。スーマナーダ。スーマ・ナーダ」

すると守香は、突如、「ああれ、今言ったの、呪文でゃ。あんだ悪の、詩を取り替えようって想っとるそうだぬん」と言って悪霊を調伏する為の十字を大きく切って霞嗚士を鋭くぎざぎざする目で睨めながら深く息を吐いた。

霞嗚士は中空の闇を眺め、「いやほんと、助かったしりょー。ダムド・エグリ・ナイギス。ペッスンケ。ラリタニィ」と清らかな星屑のように瞬く目で守香に向って言った。

守香は、最後の呪文を唱えた。

CAOSI・CAOIS(顔死・顔慰す)

霞嗚士は、この世に無いような微笑を讃え、「何故、名を、知ってる?」と言いながら、粒子の星間塵となって、青い血と巣の宇宙中に散り散りに成果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Drive

2018-01-28 16:24:59 | 

死へのドライヴに、乗っけてってってってってってってくれる車がこの世に存在するという。
それはまさに、死へのドライヴだという。
詰まり、死へ加速するハイウェイも、細い畝った下道も、間違いなく、止まらねえ、ドライヴィング。
ゆっくりと、加速する過疎区、シリアルキラーも天使の寝顔で眠るこのsilentなnight。サイレントでナイト、ドライヴなんて、嫌だわ。
アタシ、死頭下に、イキたいの。
女は待つ、最高のドライヴに連れてってってってってってってってってってくれる男を。
気に入った男でなかったなら、アタシ、乗らないわ。つってつってつってつってつってつってつってぇ。
待つ。夜も震えるほどの闇と闇のあいだに。女は、待つ。
くるくるくるくる、すってーん、しぇしぇしぇしぇーん、ぷっすんぷっすんぷすぷっすーん、どりどりどりどりプッシーン、かっシーン、ポッシーン、なっリーン、もろろろろろうっどーん、ぱっすーんぴっしーん、えめらるど、ぐっりーん、しっりーん、がす、がす、がすっ、キーっ。
と女の目の前にイカした車が停まったァーン。
女は目を光らせ、パッキーン、女の目から突き出た光線、車の窓を貫通ーン、メリメリメリメリっクリックリックックック。女の名は、メリックサ。車の運転席に座ったジェームズ・ディーン似の白いスカジャン、透かすかやん。骨まで、空かすかじゃんけじゃんけジャンケ。サイレンツ、ツナイト、サイレン、筒が無いと。
乗れ。ドライヴァーの男は助手席側のドアを開け、そう顎で指図した。
女の筒の中、サイレントサイレンで振動、ドライヴァーの胸にバイヴレーション降下、車を走らせた。
骨も、透かすかじゃんけ。
way、制限速度、どこまで超えられる?
今、どこ走ってる?
driver、速く!速く!速く!もっと!
時間を、忘れるほど。









Kavinsky - Nightcall

 

 

 

 

 

 

 

 

マテリアル:映画「Drive













Undeads 前編

2018-01-24 05:57:50 | 物語(小説)
人が何故死ぬか。それは人が、この世に全(まった)き存在と成り果てたときに、結句死ぬのではないか。
わたしはそういった考えに至り、この度、誠に、死ぬことを決意した。
これを本気で止める人間は、数人かそこらはいるだろうが、どうか逝かせて欲しい。
わたしはこの世に、未練は最早、微塵もありはしない。
つまりわたしの価値とは、既にこの世になく、向こうにある。
これはもうどう考えても、間違いは無い。
もう一度しつこいが言うけれども、わたしはこの世に一切の未練を喪ったので本気で死ぬことにした。
確かに”向こう”の世界が実際在るのかどうか、というのはこれ知りようが無い話だ。
だから直裁に言うと、わたしは”本当の絶望”なるものに至った為、今、樹海にいる。
樹海からアンドロイドで、今これを打っている。
樹でできた海とはよく言ったもので、ここは正しく樹の海の底のように、静かである。
鳥はずっと鳴いていて、樹はずっとざわめいているが、ここには人間たちが作りだすことも叶わない静けさというものがある。
彼らはわたしがここで何をしようと、決して責めるようなことはしない。
わたしの死に場所を、ここに選んだことはきっと神の想(おぼ)し召しであるだろう。
しかし先程から沸き起こるこの胸のざわめきは何か。
それは想いださなくとも良いだろうことを想いだしてしまったからだ。
樹海という場所には、決まって自殺企図者が度々訪れる為、自殺企図者を狙った快楽殺人者がよく待ち伏せているという。
わたしはもう少し奥で死のうと考えていたのだが、どうにか殺される前には死にたかったので、もうここらでええかな、と想った。
早朝に麓(ふもと)に着いてからずっと歩いてきたし、十分深奥(しんおう)だろう。
深奥で死んおう(死のう)と言った人は自分だけだろうか。
今から死ぬ、というときに、変なテンションになる人は多いのかもしれない。
取り敢えず、向こうから快楽殺人者風の人間が歩いてきたらば、わたしは想いきり奇声をあげようと想う。
一百百百百百(いっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ)ひゃっひゃっひゃっひゃあああああああっっっと叫びながら尋常ではない動きで相手に向かって、四つん這いになって走り寄っていくのである。
するともしかしたら、逆に恐れて逃げてくれるかもしれない。
しかし相手がもし自殺企図者だったらば、非常に罪深い話なので、わたしは早くに死ななければならないという焦りに囚われた。
わたしは鞄の中からロープを手に取り、ちょうど良い按排(あんばい)な樹を見つけるとひゅいっと樹の枝にロープを投げて引っ掛けた。
ロープに錘(おもり)を付けていた為、一度で成功した。
これで輪っかを作り、輪っかに頭を入れて樹を登る。
あとは登ったらロープの長さを調節して樹に括りつけ、樹から想いきりジャンプするだけで多分首の骨を折って即死か窒息死かで死ねるはずである。
簡単なものだ、自らを、絞首刑に処してやるのだ。
この世界に想い残すことなど、なんにもないのだから。
早く死んでしまおう。わたしはこの世界に、必要な存在ではない。
わたしは手にしたロープを少しのあいだ見詰めると、それを頭の入る大きさに輪を作った。
そしてその輪に首を入れ、樹をふうふう言いながら猿みたいに登った。
そして高い位置にあったロープを引っ掛けている枝のところまで来た。
こんなちょっと登っただけで、随分遠くのほうまで見渡せるものだ。
といっても樹が何本と生えているばかりで特に珍しい何かがあるわけでもない。
と、そう想ったそのとき、わたしは少し向こうのほうの樹と樹の間の土の上に見える変なものを見つけてしまったのであった。
あれはどう見ても、人のように見える。
人のような何かが、地面に仰向けになって寝ているように見える。
もしやあれは、自殺者ではないか。
わたしは自分の逝く末が、あれであるのだと想うと、それはどういうものであるのかということを見ておかなければならないという激しく苦しい強迫観念に瞬時囚われ、気が進まないものの、のそのそと輪から首を外して樹を下りた。
一体どんな状態であるのだろう、もし、酔っ払ってただ寝ているおっさんとかならどついたろうと想った。
でもこんな山奥まで来て寝ているのは明らかに不自然である。
酔い潰れて寝ていたとしても何か深い事情があるのは確かだろう。
寝ている人間の側まで来て、恐るおそる、その顔を覗いてみた。
わたしはその顔を見たとき、畏れと感動と昂奮(こうふん)がわたしの胸奥(きょうおう)を凄烈に震わせた。
これはどうして、なんという美しさであるのか。
見たところ、西洋系の若い20代後半か30代前半くらいの男であった。この顔は日本人ではない。
これほどまでに美しい人間はわたしは見たことが無い。
いやこれは既にとっくに死んでいるから人間ではないのだろうか?
これは明らかに死体であり、生きた人間では決して無いだろう。
その証拠に、この変に蒼白な肌は生きた人間の肌色とは言い難い。
さらに、わたしはその軀に触れて確かめた。
完全に死後硬直していてひんやりとした冷たい肌とその感触は生きた人間のものではなかった。
この男は、確かに死んでいる。
瞼も脣(くち)も静かに閉じて、眠っているかのように死んでいる。
この美しい男は惜しくもこれから腐乱してゆこうとしている。
何故この男はこんな処で独りで死なねばならなかったのだろう。
誰にも見つけられずに、ここで独り、白骨化してゆくのだろうか。
なんと寂しく、哀しい死に様(よう)であろうか。
わたしはこの男が、これまでどのような人生を歩んできて、自殺を実行するほどの絶望へと至ったのか、想像を廻(めぐ)らしてみた。
この男は一流会社に勤め、一流エリートとして活躍するまではそこそこ順風満帆(じゅんぷうまんぱん)の人生を送ってきた。
子供の頃は気弱で本(特に神話や幻想小説系)ばかりを読んで空想にいつも浸っているような少年時代を過ごしたが知識を増やしてゆくと共に自分の魅力にようやく気付き始め、自分の魅力をみんなにわかってもらいたいという強い欲求を抱くようになって行った。
だがインテリゲンチアには甘い(うまい)話が付き物で、一番危ないのは、わたしは貴方の知識を信じている。という人間で、この男は世の実力者たちに益々(ますます)評価されたい一心でまんまと煽てられ、良かったら君の力を貸してはくれないか。君の力が是非とも必要なんだ。と言われて甘い話に乗っかった。
純真なこの男が求めているのはマネーではなく、自分が尊敬し続ける人間からの更なる評価と称賛であった。
この男は、可也(かなり)のナルシストであっただろう。
自分のすべてを信じていた。自分の行なうすべてのことが、必ず著大な評価をされるべきだという己惚れを自恃のままに信じて疑わなかった。
男はその為に純粋であると同時に愚かで、高慢であったので、男を嫌いながら妬む人間たちはある極秘の派閥を生んだ。
実力者たちが用意した甘い話とは、実は男をどん底まで突き落とすための大掛かりな謀略(ぼうりゃく)であった。
具体的にどういうことがあったのか、というところまでは想像しづらいのであるが、まあそんなところではないだろうか。
いや、でももっと、もっと哀しい話があったのかもしれない。
例えばどういう話だろうか。
わたしは穏かな顔で死んでいる男の死体を眺め渡し、またもや想像してみようと想ったのだが、ふと、”或る”異変に気付いた。
それは男の下腹部が、異様に膨らんでいるのである。
丁度、大事な処に当たる部分であるのだが、何故そんなに膨らんでいるのか、奇妙な話である。
わたしはその部分がどうしても気が気でならず、男に向かって手を合わして心の中で「許してください」とお祈りをしてから履いていた黒いスーツのトラウザーのボタンを外しファスナーを下ろすとその下のボクサーブリーフも下ろした。下ろす際に、何かがしつこく引っ掛かった。
わたしは、目のまえに起ち聳えるそれに対し畏怖と哀愁と欲情を感じ、もう一度それに向かって手を合わして深く礼拝した。
何が哀しくて、男は死んだあともこうして屹立(きつりつ)しているのであろうか。
此の世のすべてへの望みを断ち、こうして樹海にやってきたがいざ死ぬときになって、寂寞(せきばく)のなか異常な情火が男を襲い、己れを慰み(衣服の上から)ながら命を絶ったので、硬直したそれは硬直したままの男にとっての持続可能性という奇跡を生みだしたのであろうか。
わたしはそれからどれほどの時間、男の臍側に向かって勇ましく、また未練がましく立つ悲壮な凛々しきそれを凝視し続けたことだろう。
気付けばこの樹海に、夕闇が訪れていた。
刻一刻と、闇は深まって来て、止めることは最早できない。
わたしは己れのなかに流るる、情欲の血の道というものを放免する為、履いていたCUNEのうさぎジーンズを脱ぎ、ショーツも脱ぎ捨て、男の下腹部の上に跨った。
わたしは今から、自殺という一線の前に、一線というものを超える。
それは死体の男と交合するという神に背く不義と堕落の魔の道の行為である。
わたしは男の上に跨りながら、ある一つの妄想をした。
それはわたしの生涯のベスト2に入れたいほどの我が愛書、「チベット永遠の書」というドイツ人探検家の実話の訳者あとがきに書かれてあった話から膨れ上がっていった。
この本はチベットの秘境に探検家が辿り着き、そこで数々の恐ろしき現実を目の当たりにするという世にも稀有で珍異(ちんい)な前代未聞探検記の奇書である。
著者はこの本のなかでチベット密教徒たちの行う死者蘇生の秘術について、あまりの不快感ゆえに著者はここに書くことを躊躇ったということを言っており、非常に厳秘的で肝心なことを教えてくれない著者にこちらも不愉快であったが、その本のあとがきには死者蘇生の秘術の方法についてほんの少しだけ書かれてあり、著者が知り得た秘術については詳細に書かれることがなかったものの、わたしは多分にそれが呪術的な行為と同時に行なう「屍姦(しかん)」の儀式である可能性は高いのではないかと想察している。
チベットの呪術師が、死者に対し呪術的な屍姦という行為を行い、死者を蘇えらせていた可能性は大いに考えられる。
何故なら人間の性エネルギーというものは人間のなかで最も大きな霊的なる創造エネルギーであるとよく宗教の世界でも言われているからである。
これを笑う者があるなら、その者は人間の持つ能力の可能性を、自ら閉じてしまっていることになる。
わたしは確かに先程までは、自分の可能性のすべてを断つように死にゆこうとしていたが、男の死体を目にして、気持ちが変化したのである。
この男の死体はまるで、わたしに請うようにその哀しき陰茎をそそり立たせ続けているかのように想えてならないのだ。
わたしはこの男の死体を、わたしの奇跡なる能力によって、蘇えらせよう。
強く信じ続ければ願いは必ず叶うとイエス・キリストも言い続けたではないか。
その魔の能力を、自ら封じ込める必要は本当に在るというのか。
わたしがこの男の死体を蘇えらせたいと願うこの想いが、愛でなくて、なんであるのか。
そうして、わたしは男を蘇えらせる一心で祈り続けながら男の死体と交わった。
さらに、呪術的なものと言えば生き血を飲ませるなどすると、効果がぐんと上がると想ったので持ってきた剃刀で手首を切り、その滴る生き血を口移しで男の脣の間から飲ませながらわたしは男の死体と交接した。
男の凍るような冷たい陰茎は、わたしの熱(ほて)った肉体と激しい摩擦とによってあたたまり始めた。
わたしは気付くと精魂も身体も果てていて、その瞬間、猛烈な睡魔に気絶するように男の上に突っ伏したまま眠りへと落ちた。
わたしは惜しくも処女ではないもののこれまで男との性交渉で最高潮に達して果てた経験がなく、初めて果てたことに心から満たされる想いで幸せな心地の眠りの入り口であった。

夢うつつの中で、わたしは目を閉じたまま鳥の声を聴いていた。
一つの鳴声は、カッコウの声であった。
カッコウの鳴声は樹海の朝の目覚めにふさわしいと想える異界に響き渡るような声である。
そしてもう一つの鳴声は、鴉の声であった。
その鴉はカッコウが「カッコウ」と鳴くと「アワ、アワ、アワ」と鳴いていた。
わたしはこの鴉の鳴き方にいつも想うのだが、一体なにが、「泡、泡、泡」なのか。
気になるのであった。
泡がどうしたのか。
そのときである。わたしの瞼の上に、何かがぱさぱさと動いた。
蛾か何かの翅虫が、わたしの瞼の近くで羽ばたいているのであろうかと想った。
わたしは静かに、その目を開けた。
瞬刻ののち、わなないて声にならぬ悲鳴を上げた。
何故なら男がこちらを真っ黒な黒曜石のようなてらてらと黒光りする目で見詰めながら瞬(まばた)いていたからである。
この男の二つの目に、虹彩の薄い色は見当たらなかった。
瞳孔は完全に開ききっている瞳孔だけの状態の目である。
死んだ鯨のような、顔面積に対して小さい目をしており、男の目は変に優しい目であった。
わたしはかつて市販薬をOD(オーヴァードーズ)したときに、死の手前の世界と想える地面も空も灰で埋め尽くされた寂しくてたまらない世界を何時間と漂い、嘔吐したあとに用を足しに行く途中ふと壁掛の姿見鏡に映った自分の目を見てみると、その目は瞳孔が開ききっているような真っ黒い人形の目に見え、異様にその目がてらてらと輝いており自分は死んでいるのかと戦慄したことがある。
男の目はわたしのそのときの目と同じ目であるように見えた。
わたしのあのときの目は暗い部屋で見たからきっと真っ黒に見えたのだろう。
だがこの男の目は、この目こそが、本物の”その”目である。
つまり、この男の目は、人形の目である。
白い部分と黒い部分しかない目をしている。
無心の目と想える男の目を見詰め返しながらわたしは再びチベット永遠の書の話を想いだしていた。
あの本に出てくる呪術師によって甦らされたのであろう者たちは、生気と人格をまったく感じられない存在であり、その歩き方から操り人形のように異様で死人のような空ろな目をしていたという。
探検家のテオドール・イリオンはこの者たちを、「ロボットないしゾンビ、または自動人形」だと呼んでいた。
ここにきてわたしは、長時間ものあいだ男の上に跨っていたことからの腰の痛みを感じた。
なので非常に不安であるが、わたしは男から離れようと腰を浮かして、よいしょ、と言いながら離れようとしたそのとき、男の右手がわたしの腕を力強く握った。
きょとんとしたような表情は特に変わりは見られない。男はどうやらその無表情の奥に「嫌だ」という感情があるのかもしれない。
そうか、おまえはわたしと離れることを拒むということは、不満という感情がおまえのなかにあるということだろうから、そこはすこし、ホッとしたよ。
わたしは疲れた声でそう言うと男の上に腰が楽になるように横向きになって寝た。
男は重くて内臓が苦しいかもしれないが仕方ない。わたしも腰が痛いのである。
最初は男の目を見たときはその異体に怯んだが、それからじっと見詰めているとその異体さが痛々しく、美しいものに想えて男が愛おしくてならなくなり、男への愛を神に向けて心のなかで誓ったのだった。
気付けば男の身体は、人間の温かみと、その白い肌色とを甦らせていた。
男が甦ったことの喜びと安心から男の上でうとうととなり眠って目が醒めると、男はまだ同じようにわたしを邪気のない純然な目で見詰めていた。
こうとなれば日が暮れるまでに、この樹海を抜けださなくてはならない。
わたしは男の身体から起き上がって男の衣服を元に戻し、男を起き上がらせるためその手を引っ張った。
男は引かれるままに黙って上体を起こし、その肉身を立ち上がらせた。
衣服や髪の毛についた枯葉や土を払い落としてやると、地面に男の身体の下敷きになっていた黒いバックパックを見つけた。
拾って中を見てみると、男の免許証やクレジットカード、携帯電話や大量の包装シートの向精神薬、財布や手帳、ノートとペンなどがばらばらと入っていた。
今になって気になったのが、男は一体どのような方法で自殺したのだろうか?
首にロープの痕は見られなかった。薬や劇薬を飲んだような形跡は見られない。(どこかで飲んでそのゴミはその場に捨て、この場所までのた打ち回りながら這いずって来たか、普通に歩いて来てここで眠ってそのまま死んだのであろうか)
とにかくこうしていられない、この樹海を一時でも早く脱出しなくては。
わたしは男の左手を握り緊め、来た方向を想いだそうとした。
ところが、完全に、愕然とした。
見渡す限り、似たような樹木の海である。どのように来た方角を憶えていられるのか?
わたしは男の顔を、困窮の顔で見上げた。
男は薄っすらと、天使のように微笑んでいるように見えた。
一縷の望みを男に託し、男に話しかけた。
「わたしは来た道を戻りたい。おまえは憶えているよね。おまえの来た道を、一緒に戻ろう」
すると男は足をその場で踏み踏みした。
「そうだ、その調子だ、おまえの来た道を、今から歩いてゆこう」
そう言うと男はついに、足を前に出し、操り人形か自動人形のような歩き方で歩きだした。
わたしは感極まり、幾度も涙を流しながら男とこの戻れない世界であったはずの世界から、もとの世界へ戻って来ることができたのであった。
何時間歩いてきたかわからないが、わたしと男は無事にバスとタクシーを乗り継いで(わたしの鞄は失くしたので男の財布からお金を拝借した)、わたしの家に到着することができた。
家に着くと、夜中の午前二時を過ぎていた。
やけに自分の部屋が、懐かしく想えたものだ。
わたしは歓喜にうち震えるなか男を力一杯抱き締め、トイレで用を足して水をグラス一杯飲むと、疲弊のあまりベッドの上にぶっ倒れた。
という企図を脳内で作りあげ、わたしは歓喜にうち震えるなか、男を力一杯に抱き締めた。
したら男が、約30分あまりの時間わたしの身体を離そうとしなかった為、我慢していた尿を漏らしそうになった。
男はやはり、わたしの言葉が伝わっているようで、まったく伝わっていないようである。
何度も「ちょっとだけ離してくれるかな」と優しく言ったものの、男は言うことを聴いてはくれなかった。
そして次に、トイレに入って一応、鍵を閉めたのであるが、これが男は気に入らなかったのか、何度もガチャガチャとしつこくトイレのドアノブを回し、わたしが用を足し終わってトイレから出ると、男の顔が哀しい表情をして涙で濡れていたのである。
わたしは男にこのような繊細な感情があることを賛美し喜んだがそのあと男は、約一時間近くわたしを抱き締め続け、全く何をどう言っても離そうとしなかった為、男がやっと離してくれて一緒にベッドに横になった瞬間、意識が物凄い早さで遠のいたことだ。
明くる午後、わたしは至福の感覚と全身の激しい倦怠感及び筋肉痛と共に目を醒ました。
時間はもう夕方で、何故こんな胸が圧迫されるのかと想ったら、男が頭をわたしの胸に突っ伏す状態ですやすやと子供のように眠っていたからであった。
それにしてもこの至福の時はなんという素晴らしさであるだろう。
まるでわたし自身も、男と共に甦ったような心地であった。
もしわたしが、男の死体を見つけなかったなら、もし男の死体が、わたしに見つけられなかったなら、わたしたちは共にあの樹海で腐敗してゆく運命であったのである。
わたしはそっと起きて男のバックパックのなかに入っていた免許証をもう一度よく見た。
名前はデニス・バーソロミュー(Denis Bartholomew)、年齢はわたしより7歳下の29歳、住所は都心に近いここから電車とタクシーで一時間あれば着くようなマンションだった。
財布のなかには名刺が入ってあり、会社はネットで調べたところどうやら新しい次世代パーソナルコンピュータを開発している会社のようだった。
ブラック企業だという噂もネット上には見当たらないし、技術者と言える有能な人材ばかりを集めたパソコン開発企業に勤めながら彼は一体何に絶望したのだろうか。
未来のコンピュータはどのようなものなのだろうか。パソコン開発というだけで皆わくわくして社員たちが働いているようなイメージがあり、わたしは漠然とした悲しみを感じた。
親や兄弟たちはいるのだろうか。恋人はいなかったのか。結婚して子供がいてもおかしくない。
でも住んでいるマンションは広めのワンルームのようだから、ここで夫婦や子供と一緒に暮らしているのはあまり想像できない。
わたしは免許証を眺めながら、そこに映っている几帳面で神経質そうでありながらも慈悲深い表情をしている写真の彼と、今わたしのベッドにまるで幼児のように眠る男が同一人物であるとはとても想えないのだった。
それは彼が”死体”であったときに、既に違うようであったと想いだす。
わたしは彼の隣にまた寝そべり、そのあどけない寝顔を見詰めながらこの男に、新しく名前をつけてやろうと想った。
彼にふさわしい名前、それは・・・・・・そこでわたしは、ふと聖書の言葉が浮かんだのであった。
それは出エジプト記の3章14節の聖句である、「わたしはなる、わたしがなる者に」というところだった。
これは神がモーセに対して告げた言葉であり、「わたしは何であれ自分の望むものになる」という意味であるとされている。
つまりこの訳が正しければ、神はモーセに、「わたしとおまえは同じである。おまえの望むものはわたしの望むものであり、わたしの望むものはおまえの望むものである」と言っているようなものなのである。
これを言い換えると、「わたしとおまえは同じものとなる。おまえの望むものはわたしの望むものとなり、わたしの望むものはおまえの望むものとなる」と言える。
そしてこの、「なる(生る、成る、為る)」という意味は、同時に「ある(在る、有る)」という意味が必ずあるということにわたしは注目した。
すなわち、「なる」は「ある」になり、「ある」は「なる」である、ということを意味しているとわたしは想ったのである。
ということは、「ある」よりも先に、「なる」があったかもしれないという面白い矛盾がそこに生じるので、その矛盾こそが、真理的に想えるのであった。
さらに、「ナル」とは、同時に「ナイ」ことではないかと想ったのは、「Null(ヌル)」というプログラミング言語で「なにもない」を表す言葉の英語の発音が、「ナル」であることから考えた。
このことから、「ナル」という言葉は「ある」という意味と「ない」という意味が同時に含まれている言葉であるのかもしれないという結論に達し、さらに、ナルシスの語源となったギリシア語のラテン語表記である「Narkhv(ナルケー)」には”昏睡、死、無気力、無感覚、麻酔、麻痺させる”という意味があるということを想いだし、「ナル」は「生る(ある)」という意味でありながら同時に「死」や「無」の感覚を意味しているという一つの言葉で対の関係性を表している言葉であることに気付いたのだった。
わたしのいま目のまえにいるこの男は死者なのか生者なのか、そのどちらでもあるのか、それともそのどちらでもないのか、と考え、今のところ、一番近いのは”死んでも生きてもいない”という状態であるのではないかと想い、在ると同時に無いという意味を持つ「ナル」という言葉に、同時に”在ることも無いこともない”という意味があると感じたので、この男に最も相応しい名前であるだろうとの想いから男の名を、「ナル」と名づけることとなった。
名前が決まったことにホッとしたので、わたしはもう一眠りすることにしたのであった。
わたしが次に目を醒ますと、男が真っ黒にキラキラと光る目でわたしをじっと見詰めており、その顔はどこか爽やかそうであった。
瞳孔は開ききったままの、瞳孔だけの目であっても、わたしはその目に癒され、その目に安心を覚えたのである。
わたしは男に向かって「おはよう」と言って微笑んだ。
男は何も返さないがどこか嬉しそうな顔をした。
「おまえの名を決めたよ。おまえの名は今日から、”ナル”。この名はとても深い意味が込められているんだ。どういう意味かというと、おまえの望むすべてが、おまえの望むとおりに”なる”という意味が入っているんだよ。そうであってほしいという願いを込めて、わたしはおまえを今日から、”ナル”と呼ぶよ。気に入った?ナル」
ナルはわたしを見詰めて瞬きをするばかりで、口角は微妙な笑みを湛(たた)えていた。
そのミステリアスな微笑はわたしの最も望む母性と父性のバランスをちょうど伏在(ふくざい)させているかのような笑みに想えたのであった。
わたしは胸の底があたたまる幸せな心地でナルと見詰め合っていた。
すると、ナルはすこし口元を引き締めるようにして鼻の穴も若干膨らませた。
わたしはどうしたのだろう?と想っていると、その瞬間、何かが噴出すような音がナルのところから聞え、次には仄かな赤ちゃんの糞便のような臭いが漂ってきたのだった。
ナルの顔は先程よりも益(ま)して、爽やかそうであった。
なるほど、なるほど、そうゆうことであるか。
わたしはナルの頭を撫でてやり、布団を捲(めく)って、彼の汚れた衣服を脱がせて丸裸にした。
彼は柔らかい糞便だけではなく、小便もしっかりと垂れておった。
衣服はもう、ナルの軟便を拭ったあと袋に詰めて捨てることにした。
彼は生まれ変わったのだから、同じ衣服を着る必要は最早ない。
わたしはナルの手を引いて、風呂場に向かい、わたしも服を脱いで二人で風呂に入った。
湯船にゆったりと二人で浸かっていたとき、ナルは気持ちが良かったからかまたも二度目の脱糞を行なった。
ナルと二人で湯船から上がり、栓を抜くと彼の糞便は水と共に、排水溝の奥へと流れて行った。
わたしはその様子が、非常に愉快であった。
彼の身体を洗ってやってると、彼の局部が元気になってきたので、それを打ち眺めているとわたしは昨日のことを想いだした。
たった昨日の出来事が、遠い昔に想えるのは何故か。
昨日、わたしが自殺の実行をしていたなら、わたしもナルもここにいないのである。
ナルはわたしを抱き締め、発情した雄犬のように下腹部を擦り付けてきた。
興奮と共に気が焦り、素早く彼の生殖器を、自らの生殖器の穴のなかへと挿し込んだ。
絶対に、彼の精液を外に放出させてなるものかと逆上して凶暴な感情になり、彼の尻を鷲摑みにして絶対に離すものかとその爪を尻肉に食い込ませながら行為に及んだ。
そしてその行為は、約30分以上続き、オルガスムスの脱魂するかのようなエクスタシーは延々と続いた為、わたしは快楽と同等の精神的な重苦に同時に襲われ、「消えてしまいたい」という感覚に陥った。
ナルはやっと力尽き、わたしを抱いたまま風呂場の床にしゃがみ込んだ。
わたしも貧血状態になったがナルも顔が蒼白になって苦しげに喘いでいたので可哀想でならなかった。
昨日に生殖行為によって、ナルを恰(あたか)も生まれさせ、そのたった次の日に早くも生まれてから初めての生殖行為を行わせてしまったことが哀れでならなかったのである。
ナルは身体こそ成人であるが、その意識状態は、成人のものとはとても言えないであろう。
いやその前に、ナルは人間と言えるのか。
人間とも言い難い存在とは、まるでまだ人間の形だけをして魂の宿っていない胎児のようなものではないか。
わたしはここに来て漸(ようや)く、ナルに対する過ちの意識と、彼と共に神から下された堕罪の苦しみを覚えたのであった。
ナルはそんなわたしの苦衷(くちゅう)も察することなく、わたしの乳首に興味を覚えたのか、乳首を弄ったり甘噛みしたりして遊んでおった。
わたしは起き上がってナルの手を引き、身体を拭いてやって風呂場から出て水を飲ませてシーツを換えたベッドに寝させてやった。
そして服を着てパソコンに向かい、ネットアパレルショップで黒とグレーのTシャツ4枚組セットと、グレーのシャツとチャコールのニットカーディガンとダークグレーのニットセーターと、黒のアンクルパンツと黒のテーパードデニムとブラウンのコーチジャケットとダークグレーのボクサーブリーフ5枚組セットと、セール中のグレーの靴下6枚組セットを、金欠なので仕方なくデニスのクレジットカードで注文した。
振り返るとナルは精根尽きてか、静かにうたた寝をしていた。
この時、樹海へ向かってから初めての空腹を覚えた。
家にあるのは白米とパスタくらいだったので白米を洗って炊飯器に設置して炊飯ボタンを押した。
こないだに、わたしはデニスの職場へ電話をかけた。
受付の男性が電話に出ると「そちらで働いているデニス・バーソロミューさんに繋いでもらえますか」と言ってみた。
男性は「少々お待ちください」と言って電話から離れ、少し経って戻ってくると「デニス・バーソロミューという社員は三ヶ月ほど前に自ら退職しており、現在この会社のどこにも所属しておりませんが・・・」と返ってきた。
わたしは「そうですか。ありがとうございました」と言って電話を切った。
自ら退職している、一体デニス・バーソロミューに何があったのだろうか。とりあえず仕事は辞めているので職場からの捜索願は出されることはないだろうからそこは安心した。
残るは友人、恋人、家族などからこの先捜索願を出された場合、やばいという問題である。
わたしがまるで自殺に失敗して白痴になってしまった男を誘拐し、監禁していると加害者扱いされるのではないか。
ここでわたしが彼らに「いや、誘拐したんとちゃいますがな、あのね、彼はね、わたしが見つけたときはもう死体だったんですよ。それでね、わたしがね、ちょっと秘術をあれしてね、彼を甦らせることにこれ成功したと、こないなわけだんねん」等と必死に弁明し説得させようとしても、わたし自身が閉鎖病棟に監禁される羽目になるであろう。
頭のおかしくなった彼をただ連れて帰ったと想われたならまだマシで、彼の頭をおまえがおかしくさせたんとちゃうんかと想われたらこれは厄介である。
彼はどう観ても、普通じゃない、特に彼のその目は、人間の目でもない。目の病気で目が瞳孔だけになる病気はあるのか知らない。
とにかく、わたしが恐れているのはわたしが彼らに変態性的嗜好者等と疑われることではなく、彼をわたしから奪われることである。
わたしは何があっても彼を奪われたくはない。わたしは彼の可愛い寝顔を見詰め、「ナルだって、そうだよね」と話し掛けた。
デニス・バーソロミューという男に、たぶん恋人はいなさそうだとわたしは想った。
多分いても、「てめーはよぉ、価値があんのはその顔だけだろ、顔以外、趣味は最悪だしくだらねえしよー、何が初音ミクだっ、話もつまんねーし、セックスは度下手だし早漏だし、てめー生きてる価値あんのかよー、死ねや、このghost faceがっ(白人を差別する用語)」等と言う女だったのではないか。
愛した女が、突如原因不明の粗暴で野卑な人格に豹変し、この世に絶望して死にたくなったのかもしれない。
あるいはこういう恋人だったのかもしれない。
「もう限界が来ました。本当のことをあなたに言います。あなたの身のこなし、ちょっとした仕草、ボディーランゲージ、何から何まで、女性的で柔らかくて、オカマ的で気色が悪いのです。わたしはもっと、上品だけれども男らしさの漂う、クールでニヒルのなかにもワイルドさを仄かに醸しだしデモニッシュ的かつディオニュソス的な男が好きなので、明日から約半年間地獄経験をこれでもかと言わんばかりに経験し、わたし好みの人格に生まれ変わる為に、中国の強制収容所で働きに行ってもらえませんか?それが嫌なら仕方ありませんね。未来永劫、無縁の関係となって戴きます」
こういった言葉を、「あなたを愛している」と今まで何度と言ってくれた天使のように美しく優しい微笑の顔で言われたので、男はその瞬間、”空”の境地に至ったのかもしれない。
または、デニスは同性愛者で、恋人の男が浮気をし、その浮気相手が自分の父親だったので死にたくなったのかもしれない。
ある晩、親父に旨い酒を持って行ってやろうと親想いの親切なデニスは、実家に赴くと、そこには髪がぼさぼさになって服を前と後ろ、逆に着ている親父が焦った様子で迎えて、その後ろから自分の恋人が同じく狼狽した様子で出てきて、「なんで君が、親父のところにいるんだよ」とデニスが言うと、明らかに言葉を探しながら「いやちょっと、おまえの親父さんに相談があってよ」などと引き攣った笑顔と震えの止まらない口許で言われて。
デニスが走って親父の寝室に行くと、ベッドの上には、恋人の長い栗色の髪が数本抜け落ちている。
よく観ると、その栗色の髪は、親父の白髪と、絡み合い、縺れ合っていた。
デニスの死を、誰が、止めることができるのであろうか?
最早、誰の「死ぬな」の言葉も、彼には届くまい。
逝くならば、逝かせてやろうデニスギス。
誰もがそう想うに違いない。
それ以外の万事がうまく行っていても、たったそれ一つのことだけで彼は奈落の底の底まで堕とされるのである。
その前に、彼の親父が死んでいてくれていたほうが、ずっと彼は幸福だっただろう。
哀れな男デニス。彼の一生は、一体なんだったのか。
何の未練も、きっとなかったのだろう。この世界に。
でももう大丈夫だ。彼の全ては、もう終った。
彼が生き返って、今ここにいるわけではない。
わたしが甦らせようとしたのは、彼ではない。
あそこにあったのは、彼ではなく、一つの鋳型(いがた)とダイカスト (die casting) のようなものだ。
ダイカストとは、金属製の鋳型に、溶かした合金を流し込んで器物を大量生産させる鋳造(ちゅうぞう)方式(方法)、またはその方法によって製造された製品のことである。
わたしがそのダイカスト法でもって、わたしの切実なる願いの熱く溶けた合金を彼の死体なる鋳型に流し込み、今ここにいる男、ナル(ダイカスト)を生産させたというわけだ。
”Die”という綴りは”死”という意味と”鋳型”という意味があるということは、死を裏付ける死んだあとの身体である死体というもの自体にも鋳型の意味が隠されているはずである。
聖書の創世記では、土(塵)で作りあげた男の型に神が息を吹き込んでアダムという人類最初の人間が創られた。
神が息(魂)を吹き込む前のその男の人型のものはまるで死体と同じものであっただろう。
そうであるならば、魂の抜けでたあとの死体を基に、神が再び別の魂を吹き込んで人間を創りだすことができないはずはないであろう。
わたしはこのダイカストと死の繋がりを知る前に、その繋がりを寓喩(ぐうゆ)しているかのような夢を見たことがあった。
その鋳型には、自分であって自分ではないという存在が拘束具によって拘束されており、それをわたしは中空から見下ろしていた。
その鋳型に、自分を嵌め込んで作り上げ、苦しく痛い幾つもの頑丈な拘束具で拘束したのはわたしであったはずだ。
新たに誕生した喜びというものを覚える暇もないほど、わたしは誕生する為に必死であり、失敗してはならないという緊張で絶えず高揚していた。
このとき、ピーッピーッピーッピーッピーッという「ご飯が炊けましたよー」という合図のビープ音が廊下で鳴り響いた。
あ、もう炊けたんや。しばらく思念の海底でもぞもぞしていたので、あっという間に時間が過ぎたようだ。
炊飯器、電子釜、電子ジャー、というダイスカットのその取り外しの利く内釜という鋳型のなかに、白米という魂を注ぎ込んで出来上がった出来立てほやほやご飯を、わたしはさっそく杓文字で混ぜに行った。
そしてこれで大き目の塩握り飯を二つ拵え、海苔を巻いた。
ちょうど、その握り飯を部屋まで持っていくと、わたしはナルとぱちくりと目が合った。
「ナル、起きたん」わたしはベッドで横になっているナルの身体を起こし、抱き締めようと想ったが、抱き締めるとまた数十分と離してくれないかもしれないと想ったので、頭を撫で撫でするだけにして、ナルに握り飯を手渡した。
わたしが目のまえで握り飯を食べると、ナルもそれを真似して食べてくれた。
こうしてすぐに真似をして食べることができるということは、ナルは幼児並か、それ以上ということだろう。
水を入れたグラスを二つ持ってくると、ナルは水も真似して飲むことができた。
食物を食べることができる、水も飲める、排泄もまだお漏らしだが問題はなくできる、風呂も嫌がらない、大丈夫だ、生きてゆく上での必要最低限なことはなんとかできる、わたしたちは、生きてゆけるだろう。
あとは二人が生きていくための生活費をどうするかである。
わたしは男の手帳やiPhoneを隈なく調べた。
どこかに、暗証番号は無いか?カードの・・・。
暗証番号さえわかれば男の銀行に貯蓄してきた死に金を確認して生活費として月に12万円でも引き落としてゆけるなら、なんとか二人で貧しいながらも生活してゆくことは可能だ。
もしそれが無理でも、わたしは長年の慢性的な鬱症状という精神障害を患っているため、生活保護を受けるなら二人で内緒に生きてゆくことも可能なはずだ。
男のiPhoneのアプリフォルダの2ページ目にあったメモアプリ、パスワードらしき羅列を発見した。
わたしはそのパスワードをアプリを隠すことの出来る機能制限という設定のパスワードに入れてみると、先程はなかったメモアプリが出てきたのでそれを開いてみると、そこには暗証番号らしき4つの数字が三つ書かれてあった。
これが何かの暗証番号だとすれば、暗証番号のメモを残しているということは、暗証番号を最近変えたか、男は健忘症のような症状があったのかもしれない。
しかしここで初めて、これがカードの暗証番号で、男の貯蓄を毎月引き落として男と一緒に生活した場合、わたしは何かの刑法に触れるのではないかという懸念が沸き起こってきた。





















Undeads 後編

2018-01-24 05:57:40 | 物語(小説)
男の住んでいたマンションは多分賃貸であるだろう。ワンルームマンションを購入する人はいるだろうが、多分少数派ではないか。すると毎月支払わねばならない家賃を払わないでいると当然家主や管理会社の人間が何度もインターフォンや電話や張り紙なんかで知らせようとし、それでも払わなければ勝手に鍵を開けて部屋の中を捜索する。
おい、バーソロミューはん、おりませんやんけ。となって連帯保証人であるだろう家族の誰かに連絡が行くはずだ。
すると家族がデニスの行方を探し回り、果てには警察に捜索願を出すであろう。
そうなっては大変まずい。つまりわたしはデニスの借りている部屋の賃料を支払い続けてゆくか、あの部屋の賃貸契約を解約せねばならない。
解約となれば、本人でなくどこの人間かもわからないわたしが行なうことはできないはずだ。
ってことは、わたしはデニスの部屋の賃料を払い続けて行かんければ、最悪、ナルと引き離される可能性が出てくるということである。
男のマンションの相場を調べてみると、ちょうど隣室が開いていて、そこは意外と安い管理費含めた137,000円であった。
35階建てマンションの34階、築22年、11畳のリビング兼ベッドルームは2畳のキッチンと小さな壁で若干仕切られているものの空間的には一緒になっていてドアで仕切られていない為良い間取りとは言えない。この間取りは絶対におかしい。何故なら一人暮らし用の冷蔵庫の煩さを少しでも考慮するならベッドルームとキッチンをドアで隔てない間取りなど作らないはずだからである。(しかしガスコンロが3口もあるというのは素晴らしいにも程がある。デニスは自炊をしていたのだろうか)
キッチンの奥のスペースはSto.と小さく書かれていて、これはStorage(ストレージ)の略で、倉庫・貯蔵室・納戸のことであるようだ。貯蔵室があるワンルームマンションなど、便利ではないか。
しかしこの間取りを設計した人間というのは、人間がどうすれば少しでも心地好く暮らせるかということをやはり完全には頭に入れていない人間である。キッチンとリビング兼ベッドルームは、必ずドアで仕切るべきだ。
しかしここにわたしたちが住むと決まったわけじゃなし、どうでもええことに頭を悩ませてしまったではないか。
男の収入を想像するともう少し良い部屋に住めそうに想うが、デニスはきっとこの場所、この部屋が気に入ったのであろう。
冷蔵庫の稼動するブイーンブイーンという音にストレスを抱えながらも耐え忍んで暮らしていたのかもしれない。
わたしはデニスが住んでいた部屋を見に行きたくなった。一体どんな部屋の中なのだろう。男の持っていたバックパックの中身をすべて出し、鍵を探した。するとバックパックの外の小さなポケットの中に鍵が入っていた。
鍵は一つだけだ。良かった。デニスは多分車を持っていない。もし車を持っていたなら駐車場代やらで余計支払費が嵩んでしまう。
デニスの住んでいたマンションまで電車とタクシーで一時間もあればたぶん着く。
そうだ、ナルのために注文した服が届いたら、すぐに行ってみよう。
早くて明日着くかもしれない。
わたしは想いついて急いでナルの不自然な黒い目を隠すためのAmazonで薄いブラウンの色が入ったサングラスを注文した。
これも明日届けてくれるようだ。
わたしはさっきからナルが裸ン坊のままでいることが気になってはいたが、特に寒そうにしている様子は見受けられなかったので、お腹だけは冷えないようにブランケットを腰に巻いてあげて、あとはそのままにしておくことにした。
ナルはずっとずっとわたしをきょとんとした澄んだ眼差しで見詰めている。わたしが動くたびにわたしを目で追う。
たぶん、何も考えていないに違いない。いや、ずっと何かを考えているのかもしれないし、錯綜な意識が渦巻いていてもおかしくはないのだが、その意識や考えや彼の言語というもの自体が人間のそれとは種類の違うもので、彼はやはり人間的なのはその肉体と習性、本能といったものだけで、それ以外が人間ではない人間離れしたもののように感じられて、わたしはそれがどこまでも清々しく、それがわたしを幸せにするのだった。
わたしはナルの目と合わせるたび、胸がときめいて、ドキドキとしてナルに恋をしていることは確かであるのだが、ナルへの恋は神に背く行為であるのだと感じていた。
なので近づいて触れたい想いが募れば募るほど近づくことが苦痛であるわたしがいて、その為、こうして少し離れたところから御見合い結婚で結婚した新婚夫婦のようにちらちらと目を合わすことしかできないのであった。
嗚呼、恋。これが本当の恋というものであるのだろうか。彼を愛するあまり、彼に触れることが苦しみに変わるのである。こんなことは小説のなかで何万回と言われているのかもしれないが、そうか、これが真の恋なのか。わたしはこの歳でやっと真の恋を知ったのだと、そう想って、あんまりその恋が胸を苦しくさせたので、ちょっと残っていた赤ワインを、キッチンで飲んだのである。
すると、視界から消えたまま戻らないわたしを心配してか、ナルは不安そうな表情になってキッチンへ歩いてやってきた。
その歩き方というのは、ちょうどハイハイから立ち上がって二足歩行ができたばかりの幼児の歩き方に似ていた。
これが、本物の小さな幼児であったなら、あー可愛い可愛いなあーと想いながら抱き上げることもできるのだと想うのだが、彼の場合、幼児のようでありながら成人のようであり、成人のようでありながら幼児のようなのである。その彼が、廊下と居間の段差のある敷居を跨ぐ瞬間に、彼の頭の後ろに後光が見えたように感じ(ただの逆光であったかもしれないが)、その眩き神秘なる存在にわたしは一種の恐れを感じた。
わたしは近づいてくる彼に対して後退りし、玄関ドアのところまで逃げ、追い込まれて、ふうふうと息を荒げながら彼と壁の隙間をすり抜けるように走って居間に逃げ込んだ。
するとナルはそれにショックを受けてか、居間に戻ってくると涙を嗚咽しながら落としだしたのでわたしはナルを力一杯抱き締めると、ナルもわたしを想いっきり、苦、苦しい・・・・という力強さで抱き締め返し、その後、立っている力も尽きて床の上にずるずると落ちたわたしをナルは夜明けが来るまで離してはくれなかったので、わたしはナルに抱かれたままその疲労から何度と意識を失ったのであった。これが、本当の本当の恋、嗚呼、そういえば、うちの姉が「子供ができると、まるで子供に恋をしているような気持ちになる」とかって、ゆうとったよなあ、と想いだしながら。
胸のなかがあたたまりながら縄で締め付けられるように、幸福であり、苦しかった。

インターホンのチャイムの音で、わたしは目が醒めた。
宅急便かっ、わたしは慌ててベッドから飛び起きてインターホンに出ると望み通り宅配便であった。
服一式とサングラスが同時に届いた。
時間は昼を過ぎている。わたしが居間に戻ると、ナルが起きていた。
また不安そうな表情をしてベッドの前に突っ立っていた。
わたしはナルの手を引いてトイレに行き、ナルをそこに座らせた。
どうにかトイレで排泄をさせたい。昨日漏らしてからナルは排泄をしていないだろうから、きっとものすごく我慢している状態に違いない。
わたしはナルの排泄欲を促すため、彼のお尻の穴を後ろから手でマッサージしてやった。
すると驚くほどに、彼は途端に迸るほどの糞尿を排泄したのだった。
わたしの感動は凄まじく、彼の排泄器官から流れ出る糞尿が神の流す金色の涙の如くに想えたことだ。
彼のお尻を拭いてやり、さっと二人でシャワーを浴びると早速、届いた服を彼に着させてやった。
グレーのシャツの上にチャコールのカーディガン、下は黒のアンクルパンツ、グレーのソックス姿のナルは、とても好青年に見える。
届いた薄いブラウンの色の入ったレンズのグラスをかけさせてみると、怪しくなるだろうかと想ったが案外御洒落で似合っていた。
握り飯をまた二人で食べ、彼にブラウンのコーチジャケットも着させ、わたしとナルは往来へ出た。
まずは近くのコンビニのATMでデニスのカードからお金を下ろせるかやってみる。メモアプリにある暗証番号を順番に打つと二回目で通った。
残高は、ゼロが7つの、10000,000円、1000万円・・・・・・ちょっきし入っている!
カードは三枚あったので、他の二枚のカードも暗証番号を入れてみた。
何度も試してやっと暗証番号が一致し、残り二枚のカードにも同じく1000万円もの金額が入っていた。
ということは、デニスの貯蓄3000万円を使えるということか・・・・・・。
わたしはその金額の多さに忙然としたが、ここで長々と突っ立っているわけにもいかないので、とりあえず20万ばかしだけを下ろし、一応お握りやお茶、それと札を入れる封筒なんかをレジで購入してコンビニの外へ出た。
そしてお金が少なければ電車とタクシーでデニスの家に向かおうと想っていたが、それはやめて、タクシーだけで行くことにした。
多分片道4千円ほどで行けるはずだ。
タクシー会社に電話してコンビニの前のベンチに座ってナルと待つことにした。
ナルにペットボトルのお茶を最初は自分が飲んで、次にナルの口元まで持ってってやるとナルはそれをごくごくと飲んでくれた。
あんまり飲ませすぎてタクシーの中でお漏らしするとやばいので少しだけにしておいた。
ナルはわたし以外に興味がまだ持てないようでじっとわたしの目を横から見詰めてくる。
すべての記憶を喪った人間もこんな風に、目を醒まして初めて見る相手を親だと想って愛を求めるものなのだろうか。
本当はナルにもっと素晴らしい場所へ最初に連れてってやりたかったが、ナルはわたし以外をまったく観ようとしないため、連れて行っても意味ないんかなと想って、デニスのマンションへ直行することにした。
西日が目に眩しく、タクシーは本当にわたしたちのところに来るのだろうかと想った。
15分ほど経過して、タクシーは到着した。
わたしはナルの手を引いてタクシーに乗り込んで、メモしておいたデニスの35階建てのマンションの住所を運転手に伝えた。
無口な運転手は何も言わずタクシーを走らせた。
流れてゆく景色を最初のうちは窓から眺めていたが、何の面白みも感じられない景色ばかりで、また西日が強くてつらかったので観ているのも億劫になりわたしはナルの肩へもたれて目を瞑った。
目を醒ますと、タクシーはマンションの前に着いていた。
わたしは料金を払い、ナルと一緒にタクシーを降りた。
運河のそばの歩道は広く、その道路際に建っているデニスの住んでいた高層マンションが西日に照らされて美しい景観を作りだしていた。
誰かが部屋に居ないことを祈って、わたしはナルの手をぎゅっと握り締めてオートロックのドアをデニスの鞄の中に入っていた鍵で解錠し、広い高級感溢るるエントランスを通り抜けエレベーターで彼の部屋のある34階まで上がった。
エレベーターが34階に着いて、わたしとナルはデニスの部屋の前に立ち、緊張と不安のなか、その白いドアの鍵穴に鍵を差込、解錠せしめ、震える想いでナルと共にデニスの部屋の中へと入った。
入ってすぐ、たたきには靴が一足もなかった。ということは、部屋に誰かがいる可能性はこれは低いのではないか。玄関のたたきに靴を脱がない人間とは強盗か外国人くらいであろう。
もっとも、デニスはアメリカ人でアメリカ人の友人や恋人や家族が靴を脱がずに上がりこんでいる可能性はこれは十分に有り得る。
わたしはほっとした瞬間また不安になり、それでも一応靴は脱いで、ナルの靴も脱がせて(ナルの靴はデニスが履いていた靴である)わたしたちは恐るおそる、廊下を進んで突き当たりのドアをそうっと開けた。もし誰かに会ったなら、こう言うしかないと考えていた。デニスは何故か事故にでも合ったのか、記憶をまったく完全に喪失してしまっている。あなたは誰ですか?デニスのなんですか?彼女?まさか。わたしがデニスの最も愛する女ですよ。マジっすよ。数えきれないほど、デニスと寝た女ですよ。日本人は嘘をつかないんですよ。っていうのがまあ、大嘘なんですけれども。たはは。たはは。と笑って誤魔化す。そうするしかないだろうと、わたしは他に良い考えがてんで浮かばないのであった。
白い木目調のドアを静かに開け、わたしは部屋を見渡した。
大きな窓が奥と右側に合計三つも在る。そのすべてにブラウンのブラインドが掛かっている。左側にベッド、右側には小さな円形のカウンターテーブルとチェア一脚、デスクとデスクチェアとデスクの上には大きな液晶のパソコン、二人掛け用のソファ、水母(くらげ)っぽい形のサイドテーブル、姿見のミラー、木のシェルフには本が並んでいるのが見える。寝具やラグや間接照明ランプやヒーターなるもののそのすべてダークブラウンで色を揃えていて白い壁と薄い色のフローリングに色が冴えている。デニスはかなり几帳面な性格だったのだろう。そして木や土の温かみというものを強く欲していたに違いあるまい。11畳はさすがに広々としているなあ。とわたしはその片付いて整頓された綺麗でミニマルな部屋を打ち眺め渡した。心和む植物やペットもない。壁に何一つ貼られてもいない。
はっとまだ確認していない空間を想いだして、わたしは左の奥まったスペースにあるキッチンを覗いた。
幸い、そこにも誰かがいて「おい、誰なんだよ」という意味の言葉を英語で「Hey, who is it?」と言われることもなかった。
良かった・・・あとはトイレとバスルームと、ストレージを確認したほうが良いだろう。
わたしはナルをその場に残してあとの三つの空間を誰も居ないことを確かめた。
誰もわたしに向かって、驚愕した顔で「Hey, who is it?」と言うことはなかった。
もしトイレやバスルームを開けて、下半身丸出しか、または全裸の状態で「Hey, who is it?」と言われても、わたしはどうすれば良いのかわからずに、無言でドアを閉めざるを得なかったであろう。
良かった。本当に良かった。この部屋には今、わたしとナル以外存在していないようだ。
デニスは自ら命を絶つほど絶望のどん底に生きていたであろう人間だから、この部屋に彼を心配して尋ねてくる人ひとりいなかったのかもしれない。
考えれば考えるほど、デニスの存在が哀れに想えるのだった。
普通ならこんなええところに住んで、ええところに勤めてて、アメリカ人で顔はHottie(イケメンツ)で美しく身長もそこそこ高いし、胸毛と臍下の毛もちょっとだけ生えていたし、もて過ぎて困りますねん、たはは。ぱ・は・は・の・は。とか笑って生きられそうな人間でありながら、何ゆえ、何故にデニスは絶望し切って死というものを打ち求め、Kill oneself(自殺をする)を実行に移したのであろうか。
バルコニーからの眺めはさすが、高層ビルが運河の間に建ち並んでおり、その真ん中をリバースブリッジという橋梁(きょうりょう)が猛々しくも聳え立つ絶景であった。だがその大気は光化学スモッグで霧がかっており、大気汚染を感じずにはいられなかったので夜に限定して観たい景色である。
わたしはとりあえず、この部屋の真ん中でナルと突っ立っているのも何か居た堪れない想いになってきたがため、少し、落ち着こうと想ってナルの手を引き寄せてデニスが何度と座って寛いでいたであろうソファーに座って背を「ふうーっ」と息を吐きながらもたせた。
座った途端、ナルが、デニスの記憶を取り戻し「どうもわたしを甦らせてくださいまして大変ありがとうございます。わたしは本当にあの時、死んだと想いました。いや、想っただけじゃなく、実際死んだのです。それがあなた、あなたが、このわたしを甦らせてくださったと、こういうわけで間違いありませんか。あの時、立っていて、本当に良かった。この御恩は、一生忘れやしませんよ、ええ、本当ですよ。良かったら、一杯どうですか。紅茶でも淹れましょうか。それとも、ワインを持ってきましょうか」などと言いだしはしないよな、と右に座ったナルの目を見詰めながらひやひやとして落ち着けなかった。
もしくは、デニスの変なところだけ想いだして今日からアナルセックスとかを強要されても嫌だなと本気で想った。
アナルセックスは厭だ・・・いくら無邪気に可愛い息子のように甘えてくるナルに強要されてもそれだけは、勘弁だ。
しかしデニスは可なりの変わり者であったのではないか。
本棚を見てみると「聖書」とか、ジョージ・オーウェルの「1984」とか、ジョン・アーヴィングの「サイダーハウス・ルール」とか、ハヴロック・エリスの「夢の世界」とか、ウィリアム・バロウズの「裸のランチ」とか、フィリップ・K・ディックの「ヴァリス」とか、マルキ・ド・サドの「ソドム百二十日」とか、ドストエフスキーの「白痴」とか、アンドレ・ジッドの「背徳者」とか、町田康の「どつぼ超然」とか、ルソーの「孤独な散歩者の夢想」とか、「ペロー童話集」とか、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」とか、「アミ小さな宇宙人」とか、ノヴァーリスの「青い花」とか、Yukio Mishimaとか、Soseki Natsumeとか、「マラルメ詩集」とか、フロイトの「性と愛情の心理」とか、フリオ・コルタサルの「悪魔の涎・追い求める男」とか、ロートレアモン伯爵の「マルドロールの歌」とか、孟司, 養老とか、セリーヌの「夜の果てへの旅」とか、ヴィクトル・ユーゴーの「死刑囚最後の日」とか、ゴーリキィの「どん底」とか、「息子ジェフリー・ダーマーとの日々」とか、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの「ジーキル博士とハイド氏」とか、ユングとか、ニーチェとか、バタイユとか、フーコーとか、トルストイとかヘッセとかカフカとかリチャード・ブローティガンとかエドガー・アラン・ポーなどが並んでいた。
とにかく全ての本をちゃんと読んでいるのかどうかもわからないが、デニスは色んなことを知りたがり屋で、好奇心に溢れた文学青年であり、知識に飢え切った餓鬼の如くにあらゆる書物を読み漁っていたのはこの書棚を見ただけでもわかるものがあるのだった。
デニスは一体なにを求めていたのだろう。何をこの世に乞い求めながら独りで寂しく死んでいったのだろう。
彼の”遺書”は、この部屋に存在しないのだろうか。
わたしは尿意を覚えたので、その前にナルをトイレに連れてってやり、お尻のマッサージを施してやるとナルは気持ち良さそうな顔で放尿したのでわたしも安心して嬉しかった。きっとこれを何度と繰り返していればナルはそのうち一人で排泄行為ができるようになるかもしれまい。
わたしは彼をトイレの外へ出して用を足したかったが、またうるさくドアノブをガチャガチャいわされて壊されたりなんかしたら厭だったので、仕方なくドアを開けたまま着ていたチュニックで股間を隠すように素早く用を足してトイレから出た。
ナルと自分の手を洗面所で洗い、もう一度バスルームや洗濯機のなかや、シューズボックスのなかを一応確認した。
洗濯機のなかは残念ながら空(あったとしても特に手掛りになりそうではないが)で、シューズボックスのなかにはブルーのシューズと黒のスリッポンがあった。
そういえばデニスはスーツを着てブラウンのビジネスシューズを履いていたが、なんで仕事を三ヶ月前に辞めているのにそんな格好で樹海へ向かったのだろう。
スーツ姿で何か用事を済ませたあとに樹海へと向かったのだろうか。
わたしはもう一度デニスの持っていたバックパックの中身を隈なく調べた。
何か見落としているものはないか?
するとバックパックの内側のポケットのファスナー側に何か引っかかっている用紙が一枚、その裏にもう一枚レシート上の紙があることに気付いた。
その用紙を取って引っ繰り返して見ると、それは彼の顔が六つこちらに向かって優しそうに微笑を浮かべている証明写真であった。あの日着ていたのと同じスーツ姿に見える。
履歴書、証明用サイズの写真、彼はまた新たにどこかへ就職しようと考えていたか、もしくは資格か何かを取得しようとでも考えていたのだろうか。
奥にあったレシートを見てみると証明写真機のレシートのようであった。
日付は驚いたことにわたしが彼を樹海で見つけたあの日の前々日午後五時三十七分であった。
彼はこの証明写真を撮ったあと、そのまま樹海へと向かったのであろうか。
今から死に逝かんとする者がなにゆえに証明写真を撮り、またなぜにこのような優しい微笑を浮かべていることができるのか、彼の行動はまったく正気の沙汰とは想えないものである。
それともこの証明写真を撮ったあとに、何事かが彼の身に起きて、すべてが虚しく壊れてしまったのだろうか。
そして重く、じっとりと身体中を嘗め付けるような死の黒雲は彼を包み込んで離さず、衝動的に樹海の奥地へと向かったのか。
デニスは確かに、立っていた。
わたしが彼を見つけたとき、既に彼は立っていて、著しく、狂おしい未練を此の世に残して彼は死んでいた。
彼のその死体現象、死後変化というものはその皮膚の蒼白と死体温と死後硬直、あとは皮膚の乾燥と唇が青紫色がかった褐色になっていたことくらいしか見られなかった。皮膚の乾燥状態と唇の変色は生きた人間とさほど違いは感じなかった。肌寒いくらいの気温だったからかまだ腐敗の変色なども目に見える限りはなかった。
わたしはアンドロイドで”死体現象”というものについて調べてみた。
一般に死後12時間も過ぎれば角膜が濁りだす。
できれば死体の乾燥現象と共に現れてくる瞳孔の透見が不可能になるほどの混濁した彼の角膜を観てみたかったとわたしは後悔した。
今のナルの真っ黒な瞳孔だけの異様な目と、一体どちらがわたしを感動させただろうか。
わたしはそれがどうしても知りたかった。
わたしは目を開けたナルの目を見たとき、最初に”死んだ鯨の目”を想起した。
ナルの目は、とても優しくて悲しい死んだ鯨の目に見えて仕方ないのである。
目には見えなくとも、内臓は既に自身の酵素による自家融解なる現象は始まっていただろうし、腐敗も着々と進行していたはずだ。一般に消化酵素を持った臓器から自家融解して行き、死後1時間内外から腸内細菌の増殖が認められ、腸内細菌の繁殖と胃腸の融解により腐敗が進行してゆくのだという。
通常は長くとも死後硬直後30時間も過ぎれば腐敗の進行と共にタンパク結合が破壊され、緩解(かんかい)と言って硬直が解けてゆく現象が起きるらしい。
デニスの身体は触れたり上に乗った限りではまだ硬直しきっていた状態に想えたが、もしかしたらあの硬直状態でも緩解は始まっていたのだろうか。
既に内臓部はどろどろに融(と)け始めていたかもしれないと想うと、今のナルの内臓状態が一体どうなっているのかが気になった。
融けた状態で消化や排泄などできるはずもないであろうから、心配する必要はないだろうか。
わたしの隣、ラグの上に座り込んでいるナルのお腹や背中を服をめくってさすってみた。
変色、色素沈着、樹枝状血管網なる腐敗網などの異常も見られなければ、痛みを感じている様子もない。まあ、大丈夫だろう。
ソファーにぐったりと深く座り込むとナルの右から覗き込んでくるつぶらな瞳子(どうし)と目が合った。
これから、どうしようか。わたしはナルの真っ黒な眼を見詰めながら、海外の田舎の古い家を買って住むことはできないだろうかと考えた。
デニスの貯蓄で長期間暮らして行かなくてはいけないから今以上に貧しい生活になるだろう。タイニーハウス生活なんかも憧れる。
細々と、わたしは好きなくだらない小説を書き続け、ナルという大きな子供を育て、死ぬ迄生きて、死ぬときが来たら、ナルと一緒に死にたい。
ナルを独りで残すことはあんまり重い罪だ。
わたしがナルを甦らせる望みも持たなければ、ナルは今ここには存在しないのだから。
ではどこにいるのだろう。
そう想ってナルの瞳孔だけの目の奥を見詰めたとき、ナルが初めて、わたしから目を逸らし、立ち上がって覚束ない足取りで歩きだし、デニスのデスクの引き出しを引いて、そこから封筒のようなものをわたしのところに持ってきたかと想うと、全く濁ったことを考えていないような罪なき者の表情で手渡した。
わたしはナルが初めて自立行動を取ったことに恐怖と感動で心が打ち震え、ナルの心を読み取ろうとするも、ナルの表情に今までと違ったものが全く感じられなかった。
わたしは手渡された封をされていない白い封筒のなかを見た。なかにはデニスが書いたものだろうか、手紙が入っていた。
わたしは息を呑んで動悸が激しくなるなか正面に突っ立ったままのナルに見下ろされながら、その手紙を読んだ。

 

 

わたしは今まで、自分の中にあるものを言葉にした覚えがありませんでした。
本当は何も遺さず行く積もりだったのですが、わたしはもうこの世を離れるのですから、あなたに話しても良いだろうと思いました。
あなたが誰なのかもわたしにはわかりませんが、わたしが誰なのかもわたしにはとうとうわかりませんでした。
今まで、ほんとうにただただ生きてきました。
わたしは喜びというものをこれまで一度も感じたことがありません。
喜びという感覚がどういうものかを理解したいという思いも持ったことがありません。
人間がみなすべて、"死体"に見える。
そう言えば、きっと狂人扱いされるでしょう。
では、こう言ったとしたらどうでしょうか。
人間は生きているようには見えないが、死んでいるように見えるときが多い。
きっと精神を病んでいると想われるのでしょう。
今、この手紙を読んでいるあなたは、わたしの死体の第一発見者です。
この手紙こそ、わたしが死体であることを証明しているはずだからです。
人間が、生きていると思い込むのはとても愚かなことです。
少なくとも、わたしにはどの人間も、生き物には見えませんでした。
ずっとです。生まれてから一度も。わたしが本当に生まれた日はいつだか知り得ませんが、わたしの記憶にはないのです。
あなたはわたしの生い立ちが気になるのでしょう。
わたしは父も母もアメリカ人ですがわたしは日本で生まれました。
英語はつい3ヶ月前から学び始めましたが、とても億劫です。(今まで暗記した英語はすっかり忘れました)
アメリカ人なのに英語を話せなくてずっと日本に暮らしている。ただそれだけで人々はわたしを笑いの種にしていたことは確かですが、わたしはそんなことは全く気にもしていませんでした。
気にする必要がどこにもなかったからです。
彼らもわたし自身も、生き物だと感じられたことは一度もないのに、気にすることができるように想えなかったからです。
わたしは誰にも話していません。わたしがそのように感じた瞬間の時期も。
それはわたしがまだ母の胎内にいるときです。
母は日本でわたしを妊娠しました。
わたしは常に母の子宮内に、オキシドールの匂いが充満していたことをはっきりと記憶しています。
オキシドール(過酸化水素水)は骨格標本を作るときに使用されるそうです。
わたしを胎児の骨格標本にするために、母親はオキシドールを飲んでいたのでしょうか?
あまりに恐ろしい空間であったため、そのことについて母に訊くこともできず、母はわたしが7歳の冬に肺炎で死にました。
片言の日本語で、母が死ぬまえに病院のベッドで寝言のようにわたしにゆっくりと繰り返し繰り返し言いました。
「かぐや姫が、シンデレラ」「おまえ、死んでら」「死んで、死んで、死んで、神殿レラ、青、赤、白、赤、青、白、青、白、赤、黒」
わたしは母の遺言を、ノートに書き留めました。母は間違いなく、そう繰り返したあとに死んだのです。
わたしはこのノートを母が死んだあとに遅れて病室に遣ってきた父に見せましたが、「おまえの聞き間違いやろ、バカタレ。」とだけわたしに向かって怒りを抑えながら言いました。
父は普段は流暢な日本語の標準語を話していましたが、何故か本気で怒るときだけ変な関西弁になる癖がありました。
しかし、母は何度も何度も呪文のように繰り返していましたから、わたしはそれが聞き間違いであるはずはありません。
母は確かに生前、意味がわからないほどミステリアスな人でしたが、その様なわけのわからない言葉を発するような精神疾患はありませんでした。
でも父も母も、何を考えているのか解りませんでしたし、わたしは絶えず人間というものが全く奇妙なものに想えて、言い表すなら、それは、ただの一つ一つ微妙に違う木目の模様のようにしかわたしには見えないのです。
自分の顔も、鏡を見るとただの一つの木目模様のようなそれ以上のなんの感情も起こらないもので、わたしは不安で、わたしを安心させるものはこの世界になに一つありませんでした。
つまり木目模様を見続ける不安以上の感情の何ものもこの世界に感じられたことのない世界にわたしはいるのです。
そのような世界で誰かに打ち明け、これを解決させようという気持ちも起こらなかったのです。
人間というものはみな、大人しく従順なわたしに優しくあったが、わたしは愛されるよりも、恐れられているように感じていました。
人間だけに限らず、わたしは生まれてすぐ、目に見える生物と言われているものにほんのちょっと触れられるのを感じただけで、わたしの全身にはおぞましい鳥肌状の赤い蕁麻疹が出たので、誰にも触れられたくなく、誰にも触れたくはありませんでした。
わたしを含めた全員が、透明になるなら触れられるだろうにと想ったこともありました。
もしくは、互いに目に見えないほど、小さくなるなら、触れ合えるのだろうと想いました。
生き物と言われるそのすべては、わたしに不安をしか与えませんでしたし、わたしにとっての生き物とは、とにかくすべてなのです。
例えば今、わたしが紙に記しているこの文字の羅列、これも自然物であり、生き物として感じています。
わたしにはそれらすべてが、生きているようには感じられない生き物という存在物です。
本当にすべてが、わたしを不安にさせるのです。
わたしにほんのちょびっと足りとも、安心という快さを与えることはないのです。
わたしは彼らから、愛されていると感じられたことが一度もありませんが、奇妙なことに、彼らはわたしを愛しているのではないかとわたしは不安を感じ続けて生きて来ました。
わたしは常に不安の苦しみにあるのですが、不安を失うことは恐怖以外の何物でもない、不安をもし失う瞬間が在るなら、わたしは死んでしまう方が良いだろうと、そう確信します。
あなたは本当にわたしの死体を確認しましたか?
わたしはだれひとり、生きていると信じられないため、死ぬということも同時に信じることはできないのです。
あなたはわたしが死んでいることを確認できたのでしょうか?
わたしが生きていない死んでいる死体であるということを証明できましたか?
誰に対して?それはあなたに対してです。
わたしはあなたを知りませんし、あなたもわたしを知らないはずです。
それを知りたいという欲求はどこまでも空回りし続け、不安という釘で打ち付けられた柩が火葬や埋葬をされたあとにも、わたしの内部に変わらず在り続けてわたしはこの柩から出る手段を見付けたいという欲求は空回りし続け、そして不安という釘で打ち付けられたわたしという内部に、わたしの柩の蓋を不安という釘で打ち続け、わたしは内部から、欲求し続けています。不安で在り続けることを描いた絵のなかの柩のなかのその空っぽの存在空間の、不安の欲求という内的空間であるわたしのような何か。わたしはわたしだけに触れられるのです。
本当に生きる方法も死ぬ方法も見付かれば、ここに居続けることはできないとわたしはわかりました。
そうです。わたしは見付かりました。
早くあなたに会いたいです。
あなたは初めてわたしを見付けました。
本当のわたしです。
あなたは初めてわたしを見付け、あなたはわたしだけを愛し続けるようになるのです。

わたしの本当のママとパパの愛するあなたへ

あなただけのわたしより

 

 


デニスの遺書を読み終えた瞬間、ナルがまた歩いていって、何故かシェルフの棚にあった黒いコードレス電話機のボタンを押した。
すると「一件の新しい保存メッセージがあります。」と音声が流れ、そのあとに続いて男性の聴き取りづらい声が聞こえた。
わたしは電話機に近づいて、もう一度再生ボタンを押して耳を近づけた。
そこから聞えたのは洟を啜っているような音で、そのあとにゆっくりと涙声のような小さな男性の声が、何度も同じ言葉を繰り返していた。
彼は拙い英語で、何度も何度も、繰り返していた。

「Are We Dead Yet?(わたしたちはもう死んでいますか?)」

わたしはその声が、デニスの声であると確信した。

何故なら、そのあと、ふいにわたしがその左にあった姿見の鏡を覗き込んだとき、わたしは自分の目を、見ることから背け、鏡越しにわたしを後ろから見詰めるナルの目だけを見詰め返し、そう心の底から、確信したからだ。

わたしたちは、まるで生きてもいないし死んでもいないように想える。
しかしこの状態こそ、実は本当の死なのかもしれない。

 

Are We Dead Yet?
Are We Dead Yet?
Are We Dead Yet……?

 

彼の寂しそうに響くその声が、わたしのなかにずっと谺(こだま)し続けるかのように、消えなかった。
わたしは鏡越しに、ナルの目のなかの闇を、じっとじっと見詰め続けた。













Grandma - Are We Dead Yet?






















精神科のカウンセリングpart2

2018-01-22 07:56:40 | 物語(小説)
誰か、俺のこの、右の手を止めてくれ。
この、右の手が、わたしを跪づかせるのである。
わたしのこの右の手を、罪と呼ぼう。
わたしの罪は、伸びてゆく。
伸びて、伸びて、酒瓶の蓋を開け、罪が、グラスに酒を注ぎ、わたしはそれをあおるように飲む。
すると罪は、これを何べんも何べんも繰返し、わたしの脳を萎縮させ、脳髄に顧客を招き入れ、麻薬物質を密売し俺の血は、それを買いに来て、毎度、おおきに、と言っては全身の血流へと流れ込んで腐食し、俺の体内はどろどろになって羽化を待ち、待てども待てどもどろどろの我が胎内で我を消化して、我は自身と、自身の右の手を憎む。
だ、か、ら、わたしの、右の手を、誰か切断してください。
全身をゲヘナへ投げ込まれるよりか、わたしにとって益となるからです。
そうしてわたしは、この罪を、切断された。
右の手を喪った我は、こんだ、左の手で、酒を飲み、これを幾度も幾度も繰り返した。
だ、か、ら、わ、た、し、の、この罪を、切断してください。
全身を地獄の焼却炉へ投げ込まれるよりか、わたしにとっては良いからです。
そうしてわたしは、左の手も、切断された。
左の手も喪った我は、こんだ、右の足で未来少年コナンのように器用に酒瓶の蓋を開け、これを口に突っ込んで酔い潰れた。
だ、か、ら、わ、た、し、の、お、こ、の、罪、を、お、切断してください。
そうしてわたしは、この罪を、切断された。
右の足も喪った我は、こんだ、左の足だけで、酒をグラスに注ぎ、これを飲んで愉楽に溺れた。
瞬間、わたしの左の足は、切断された。
四肢のすべてを喪った我は、こんだ、口だけで酒をべろべろと舐めて飲み、へべろけとなって天井を睨んだ。
わたしの唇は、二度と開かないように縫い付けられた。
達磨のわたしは、ごろごろごろごろ転がりながら、耳の穴や鼻の穴や、目から、酒を飲めるかを遣ってみたが、これが、何度遣っても痛くて不快なばかりで一向に快楽には辿り着けなかった。
わたしは滔々と涙を流しながら到頭諦め、ごろごろごろごろ、ごろごろごろごろと転がりながら、精神科の地獄の門を頭で突いた。
すると中へ連れてかれ、椅子に座らされてじっと待っていると、名前を呼ばれたので床に転がり落ちて幼虫のように這っていき、診察室の白いドアをわたしは頭でknockした。
するとわたしの担当となったエドワード・スノーデン似の白人の先生が、ドアを開け、わたしを見下ろしてぎょっとした顔をした。
先生は静かにわたしを中へ入れ、抱っこして椅子に座らせた。
向かいの椅子に先生が座り、わたしの変わり果てた姿を打ち眺め渡し、溜め息交りに蔑みの同情の表情でわたしに言った。
「一体、なんですか。その姿は。」
と呆れた声で言ったあと、「ああそうか。それじゃ答えられませんね。」と言って、デスクの引き出しからカッターナイフを取り出してわたしの脣に縫い付けられた糸を切ってくれた。
そして縫い付けていた糸を抜くため先生は思い切り引っ張ったのでわたしの脣は、血が噴き出した。
わたしは吃驚して、「卯っ卯ぷ部府ぷ部部部ぷ部府ぅっっっ」と言ったが、先生は罪悪心の、欠片もないといったような冷血な目でわたしを見詰め、わたしを目で咎めた。
血が、たらたらと脣から落ちて止まらず、先生はそれを汚れたものを見るような目で見て、白いハンカチで嫌々するように血を拭い、血で真っ赤に染まったハンカチを見て、「いつか弁償してください。このハンカチは高かったのです。」と言って、目を細め、それを屑箱へと投げ入れた。
わたしは脣の血を、舌嘗めずりしながら、「さ、酒を、下さい。先生。さ、酒……」と言った。
先生は冷めた表情でモニターを見てマウスを動かしながら答えた。
「あなたに飲ませるような酒はありません。あなたを真に救うのは、酒ではありません。」
わたしは先生がそう言い終わる前に、「じゃあ、なんなんですかっ。」と涙交りに言った。
先生は大きく息を吐いたあとに、わたしを正面から見詰めて言った。
「だから前に言ったじゃありませんか。わたしとの長期間の真剣なカウンセリングを、あなたが心から受け容れる想いがないのなら、あなたを救えるものなどこの世には存在しないと。」
わたしは洟を啜りながら、涙をぽたっ、ぽたっ、と白く冷たそうな床に落としながら言った。
「此れから、真面目に通いたいと想っております。でも……」
「でも、何ですか。」
「でも、わたしは最早、生きて行く価値はあるのでしょうか?」
先生は、わたしが言い終わる前に即答した。
「あなたに生きて行く価値は、どこにもありません。前にも言いました。しかし、それでもあなたは生きて行かなければならないのです。」
先生は、透き通っているように濁っている翡翠のような碧蒼の目で、わたしに続けて言った。
「あなたは、永遠に地獄でうねりながら生き続けなくてはならない運命の霊魂です。あなたの本当の苦しみは、此れからです。わたしから御訊きします。一体、何故、人も動物も、拷問に堪えられるような身体として創られているのか?」
わたしは喘ぎ歯軋りしながら答えた。
「わたしはそれを知らないのです。」
先生は優しい目でわたしを見詰めて言った。
「わかりませんか。ではあなたに、わかるだけの拷問を、受ける必要があるのではないでしょうか。それとも、あなたはわかりたくもない、わからなくとも良いと想っているのですか。」
わたしは逃げ場のないこの診察室の、奥に小さな窓があって、そこから斜に光線が差し込み、その光線によって動いている影と影の隙間の空間の存在たちを、今知った。
見えない存在たちが待ち望んでいるものと、見える存在たちが恐れているものが、同等となる。
わたしは、見えないこの足で立ち上がり、見えないこの腕で、先生を抱き締めた。






























ジーザス・クライスト

2018-01-20 17:00:07 | 物語(小説)

神よ。わたしはもう生きていてはいけないのですか?
身体中が筋肉痛のような痛みに襲われ続けて寝返りを打つことすら困難です。
嗚呼、わたしの愛と死の神よ、わたしをお救いください。
できることならどうか、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。
しかしあなたのみ心にあるならば、わたしはこの杯を飲み干します。
わたしはこの全身に襲う原因不明なる痛みを和らげるため、外国人と知り合える出会い系アプリで麻薬の隠語を使い、バイヤー(麻薬密売人)とここ数ヶ月かけて取引をするまでの互いの信頼関係を気付くための対話をしてきた。
彼は28歳の日本に住むアメリカのニューオリンズ出身の優しい表情をした白人男性である。
優しいといっても、身体中に厳ついタトゥーを彫(い)れて口回りと顎には濃く髭を生やし、長く黒いウェーブのかかった髪の毛は浮浪者のようにも見える一見強面(こわもて)な観るからにバイヤー風の男だが、わたしは彼の写真を観たとき、人を騙して、粗悪でフェイクなドラッグを高い値で売り付けるようなバイヤーではないと確信した。
わたしは、今までドラッグ(麻薬)はやったことはない。
中毒性の低いと言われているマリファナなどのドラッグも遣ってみようと想ったこともない。
煙草さえ吸ったことのないわたしがマリファナを吸っている姿を死んだ父親が眺めて何を想うのか?そんなことを考えると実際にやろうという気にはなれない。
わたしは、やるつもりはなかった。
この断食も断酒もどの病院で出される薬も、漢方薬や鍼や灸などの東洋医療も合法ドラッグ(脱法ハーブ)の何をやっても、一向に治癒の兆しさえ見せぬ、一日一日微々たる重さで重くなっていると感じる自分の身体の恐ろしさを思い知るまでは。
わたしは決してドラッグなど、遣るつもりではなかった。
一体、何が原因であるのだろうか。
この何ヶ月と続く全身の痛みが、何者かに呪われ、呪殺を望まれているとしか想えないような確実に死へ至る病であることを、わたしは日々感じるのである。
この痛みを和らげるのならば、わたしは例え違法の麻薬であろうとも構わない。
ありとあらゆる鎮静剤を試したが、この寝返りを打つ度、軽い咳やくしゃみをする度に激震する激痛を緩和することはできなかった。
ドラッグという代物を、全く見知らぬ素性のわからぬ外国人から買うことに恐怖と不安は勿論なくすことはできなかったが、わたしはそれ以外で安心してドラッグを買うことの方法をとうとう見出だせなかったのである。
わたしはもうぴっちぴっちの女とは言えないが、一応は熟女の域に入らんかとされる36歳の体力の全くないか弱き女の身である。
もし、相手と会ってドラッグを買う段階になって、何かヤバイことをされるのではあるまいか。例えば、わたしの未経験のアナルセックスや、何か道具を使った恐ろしいことをされるのではないか?という心配はあったのだけれども、いや、もうさ、そんなこと、言ってられへんくらいにクッソ痛いんよ。マジで。特に、寝返りを打つときと咳やくしゃみをするときに。全身の骨が骨折しているのではないか?というほどの痛みなのである。
とにかく、相手の男の性奴隷に何日間かはされる覚悟で、わたしはバイヤーの男と会う約束をした。
当然の話、麻薬を郵便で送って見付かれば互いに監獄往きであるからだ。
相手の男の名は、皮肉にもChrist(クリスト)、膏(あぶら)を注がれし救世主〔メシア〕の名である。
Christは、心魂も優しいのか待ち合わせ場所をわたしの最寄り駅前にしてくれた。
車で、夜中に向こうを出れば早朝には着くだろうと言って、遙々遠くから遣ってきてくれるという。
わたしは片言の日本語を話すChristに「ありがとう。心の底からあなたに感謝します。」と言って、Christの到着30分前くらいに送ると言ったMAILを家で待ちのぞんだ。
Christは、違法ドラッグを日本で売り捌いて生活することに罪の意識があるのかないのか、電話の声もとても紳士的で穏やかな話し声であり、MAILやchatでは絵文字や「!!!」の感嘆符をたくさんつけて送ってくるようなCOOLで気を使う男であった。
わたしは「大丈夫だ。彼を信じよう。」そう脳内でrepeat再生をしていくうちに、勝手に「ジーザス・クライスト」というtitleで、「オレはカレを信じる。Yeah,Hey,オレはカレを愛する。Yeh,Hey,Oh,だってカレは、そう、YO、オレの、Yay(イエイ)、Christ(クライスト)、だからme、Don't cryスト、Ya(you)」という風に出鱈目で適当な韻のRapを奏でて緊張を酒で紛らせながら待った。
そう言えば、ChristもHIPHOPが好きだと言っていた。
わたしは今までは全く詳しくなかったが、最近、オレん、なか、Yeah、So、YA、hard、hit、hot、Hazard(ハザード)洋館、痔、切れて、THE end、Everything.っつって。
Christはそうだな、$UICIDEBOY$(スーサイドボーイズ)とか、聴いてそうな顔やな。とわたしは想った。
彼は、そう、目出し帽やIS(イスラム国)戦闘員みたいな黒のmask、黒の迷彩の戦闘服、手にはショットガンとか、似合いそうだ。
良いな、可なり、絶対似合うだろう。コスプレ頼みたいくらいだ、ははは。はすはすはすはすは。
そう空笑いを緊張のあまり震える口元で笑っているその時。
プリプリプリリリィン♪とふざけた着信音でMAILが届いた。
携帯を確かめると、Christからで、「たぶんことあと、20分かとのつくきがする。」とあった。
「たぶんこのあと、20分とかで着く気がする。」と打ちたかったのだろう。誤字だらけだが意味はわかったので今から家を出るという旨を伝えてわたしは五万円入れた財布をbagのなかにもう一度確かめてから家を出た。

Christは、わたしの望むドラッグを、二万五千円でいいと言ってくれたが、わたしはできれば五万円分を欲しいと頼んでおいたのである。
非合法のドラッグにしては安いと想うが、彼の売っているドラッグは高級なドラッグではなく、貧しい人間にもなんとか買える額でないと、実際にバイヤー専門で生活して遣っていけないと彼は、素直にわたしに話してくれた。
全身が酷い筋肉痛のような痛みなので猫背がちになってしまうのをわたしは無理に背筋を伸ばして駅前まで動悸と息切れの苦難のなかに歩いた。
幸いにも一雨か二雨か三雨か来そうな重たい鈍(にび)色の雲が空を覆い尽くしてくれていたお陰で苦痛の光線による光り責めには合わされずに済んだ。
雨が降ってきた時のための折り畳み傘の重さ、これっぽっちが、重くてバキバキに折って投げ棄てたくなるほど肩にのし掛かった。
わたしは駅前に着くまでにもしかして死ぬのではないか?そう心をどす黒い疲憊(ひはい)の非灰が満たし(って韻を踏んでる場合なのか)、目のまえがうっすらとぼやぼやとしてきたとき、わたしはふいに目眩を起こし駅前近くの人が行き交う広い歩道で、地面に手を着いて吐き気が少し沸き上がってきた。しまった。誰か水をくれないか。酒飲んできたしたぶん脱水症状とかで吐き気がする。そう助けを求めて目のまえを見た瞬間、わたしの両肩を、何者かが力強く後ろから抱え、わたしは乱れた髪で前が見えず、一体、誰に抱えられているかもわからずにそのまま抱き抱えられて黒いミニバンの後ろに優しく乗せられた。
わたしとわたしを抱きかかえた者が乗るとすぐに車は発車された。
そして車の後ろに乗っていた一人の男から「大丈夫、ですか?これ、楽する良いドラッグ、飲む」と片言の日本語で言われ、わたしは差し出された白い錠剤の薬とペットボトルの水を朦朧としたなかに飲まされた。
少し経つと、とても爽快な感覚になってきて、息苦しさも身体の痛みもまるで感じなくなった。
側にいた黒い目出し帽を被った男が、わたしにまた話し掛けてきた。
「今から、オレと、Christ泊まってる、ホテル行く、Are you OK?」
わたしは何がなんだか事情が全くわからなかったが、とにかく爽快でpositiveかつ、すべては自分という覚りの境地に達しているかのようなキラキラと世界中にダイヤモンドが散らばっているような光り輝く世界にいたので、断る必要も考えられず、指でgoodsignしながら、「Yeah!!(イェア)、OK! i-ight!(アーイ!all rightの略)」と最高の笑顔で返事した。
そしてChristではない知らぬ男に瞬間キス責めを受けたが、そのキスが、今まで味わったこともないたまらなく"美味しい"味がした。何にも例えられないが、とにかく甘美で切ないうっとりするような陶酔の”味”だった。
その時わたしは、あーそうか、キスっちゅうのんは、実は食べ物やったんやなあ、ほわははははははははははははははっっっっっっっはあばばばばばばばばばばっっっ。と笑ったら、その笑った声が鯲(どじょう)掬いのように小躍りしながら目出し帽の穴から見える相手の男の目の開いた瞳孔のなかに吸い込まれて行った。その3D映像のような世界が愉快で堪らず、わたしは腹を抱えて虫の入った幼児のように笑い転げた。
さらに彼の濁った薄蒼い綺麗な虹彩のなかから飛び出てきた、アニサキスが絡まり合いながら束になってわたしの口のなかに入ってきて、舌をアニサキスの一匹一匹が、ア、ニサ、キス!ア、ニサ、キス!ア、ニサ、キス!とものすごく奇妙な可愛い声で叫びながらちくちくと噛み付いてくるのだった。
それにはわたしはあまりの心嬉しさに悶絶昏倒しそうなほど笑い死にしそうであった。
わたしは気付けば何故か服を脱がされていて半裸状態で何かぶっとく硬いものを性器に突っ込まれている気はしたが、そんなことよりも、わたしの身体の上にのし掛かる男の被っている目出し帽のその黒い一つ一つの細かな繊維が踊りながら飛び出てきて、全員軽快なビープ音で痛快なテクノヒップホップみたいな音楽を真ん丸一つ目玉からバズーカ砲を手に持って飛ばしながら目出し帽の頭の周りにあるハイウェイを疾走し奏でていたのでわたしもそのbeatに合わせて激しく身体を揺さぶって動かし、腰も歓喜の奇声を発しながら夢中で振り続けた。
間もなくすると、車がホテルに到着したようで、わたしは目出し帽の男に服を着させられて抱き抱えられ、外へ出された。
ホテルだと聞いた気がしたが、小さな山小屋のような場所だった。
中へ入ると、紅い絨毯の上にソファーと小さなテレビとテーブル、奥にはパイプベッド、隅には空き瓶や空き缶、菓子袋やカップ麺などのゴミが積まれて散らばっていた。
わたしは絨毯の上に乱暴に降ろされ、両手を後ろで固い紐のようなものできつく縛られ、抱えられてソファーの上に座らされた。
左にはわたしを抱き抱えてきた目出し帽の男、わたしの正面には写真で見た通りの優しい表情をして髪の毛を後ろで束ねたChristが、二人とも黒い迷彩の戦闘服みたいな服装で、片手には大きなショットガンのような銃を持って立った。
二人とも、眼光をギラギラさせたまま黙り込んでいて何が目的なのかがわからない。
わたしはさっきまでの気が触れながら愉悦に浸っていた時間の感覚も想いだすことすらできなかった。
わたしは恐怖と後悔で涙と鼻水が止まらなかったが、Christはわたしにショットガンを向けながらゆっくりと興奮と怒りを抑えたような言い方で言った。
「まず、どこを、撃ち抜かれたいか?言え。」
わたしはChristの目をじっと見詰めた。
その目は、義憤に満ちて何かを護ろうとしている目のように見えた。
わたしは素直に、何故このようなことをされるのかがわからなかったので、涙を流しながら、震える声で彼に答えた。
「わたしは、ドラッグが欲しくて、あなたと会いました。なぜ、わたしが、撃たれなくてはならないのですか?」
すると左にいた目出し帽の男が、わたしの髪の毛を強く掴んで思い切り絨毯の上にわたしの顔面を擦り付けたが、すぐにChristに「cool it(落ち着け)」と言われて手を離した。
絨毯の味は、土と血と腐ったような牛のレバーのような味だった。
しかしその匂いは、先程にわたしを犯したのであろう男の被っている目出し帽の強烈なエキゾチックな香水と煙草の交り合ったような匂いがした。
わたしはChristと、目出し帽の男にショットガンを顔面に向けられ、二人から「早く答えろ」と言われ、わたしがまずどこを撃たれたいのかという問いの答えを、まだ酒とドラッグが体内に残る脳に、要求された。
わたしはどうしても、無事に家に帰り、飼っているうさぎのみちたくんの世話を、ドラッグで楽になった身体で遣ってやりたい。
わたしは死ぬわけには行かない。
頭を、頭を使わなくてはならない。
どうすれば、赦してもらえるのか。
わたしはそのとき、一つの聖書の聖句が頭に浮かんだ。
これだ!この言葉を言えば、彼らはきっと想い直してくれるに違いない!
わたしは溜まりきって溢れかけていた生唾を音立てて飲み込むと、Christの目を、彼を信じる目で見上げながら叫び答えた。
「もしわたしの右の手が、罪を犯させるならばわたしの右手を撃ってください。魂をゲヘナへ投げ込まれるよりかは、わたしにとって益です。もしわたしの右の目がわたしを躓かせるならば、わたしの右目だけを撃ってください。全身を地獄で焼かれ続けるよりはマシです。」
少しの沈黙の間のあと、Christはショットガンを床に投げ捨てた。
そしてわたしの身体を起こしてソファーに優しく座らせた。
Christはわたしに向きながらおもむろに腹の下から取り出したものを被った。それは左の男と同じ黒の目出し帽であった。
するとChristと左の男は、二人でぐるぐると手を繋いで輪になって回り、わたしの正面に二人、こちらを向いてまた黙って立ち竦んだ。
二人の男が、わたしに同時に言った。
「さて、おまえが殺したのは、どっちのChristか。言え。」
そう言われて初めて気付いたが、二人の男はまるで、Christみたいだ。
つまり、目出し帽を被るだけで、どっちがどっちかもわからないほど、特徴的なものをわたしは掴めていなかったのである。
しかし、言われていることがおかしい。
いくら酒とドラッグで脳が麻痺していたとしても、わたしはChristを殺したことなどないことくらいはわかる。
相手たちもIce(アイス、覚醒剤の隠語)でKick(キメル)しているのたろうか。
たろうかって、わたしの言葉もおかしい。
何故わたしまで、片言になっているのたろうか。
一体、何をどう言えば、赦してもらえるのたろうか。
わたしは何を想ったのか。色仕掛けを仕掛けて赦してもらおうと想い立ち、彼らに向かって艶かしげな色目遣いの上目遣いで吐息交じりのロリ声で答えた。
「EAT ME」
二人は変わらず静かに立ち尽くしたままで反応がなかった。
もうこうなったなら、アナルだろうとバックだろうと掘られてでも、家に無事に帰りたいと想ったので、わたしはケツをぷりっと二人に向け(ワンピースは着たままで)、そしてもう一度、今度はお色気むんむん系の熟女の言い方で粘り着くようなセクシーボイスで「eat me 」と言った。
だがまたしても反応はunともsunともなく、わたしはそうしてケツを前に突き出すというきっつい体勢を何分間と取っていたのでとうとう現世界に完全に帰って来て(ドラッグの効果もすっかりと抜け)、すこし体勢を崩した瞬間にまたもやあの、寝返りを打つときに激しく響く激痛が走った。
わたしはもう、どうしたらいいか、何を言えばいいのかわからなかった。
ただこの痛みを、なんとかして、なくしてもらいたかった。ドラッグでhigh(ハイ)になって、普通の人間の気力というものを取り戻し、そしてすべての人間から見放され、全宇宙の生命体からも呆れ返られるようながんがんなくだらない小説をごんごんに書きたかった。
いったい、いつ、いったい、いつに、わたしはChristを殺したんだ。When?
わたしはあまりの激痛で身体をほんのちょっと動かすことすら叶わず、ソファーの背凭れにケツはプリケツ体勢のままで顔面を窒息しそうなほど突っ伏し、息が苦しくなり、心のうちでChristに声を上げて救済を激切に求めた。
助けてくれ。Christ。クリスト!
あなたを信じて、あなたに救いを求めて、あなたと会ったわたしが間違っていたのか。
わたしはあなたを本当に信じているんだ!
今でも!あなたはわたしを救い、わたしはあなたに救われる!あなた以外に、助けがなかったんだ。
何も、何も。あなたのDrugs(ドラッグ)以外に。

Christ、Jesus!(ジーザス!)JESUS CHRIST!
その時である。見よ。
Christは、わたしの顔面を両手で左に向け息を吐かせ、わたしの顔を横から覗き込んだ。
そして、わたしの顔に、生臭い真っ赤な血の滴る生肉を近付けてこう言った。
「喰らえ。これは、わたしの、血と肉。My、喰らい使徒よ」
わたしの頭の上に、もう一人のChristが、ショットガンを突き付けていた。
「ジーザス・クライシス」
二人のChristはそう声を揃えて言うと、わたしの頭の上で手を叩き合った。
どうやら、この得体の知れない生肉さえ喰らえば、わたしは無事に帰してもらえるようだ。
わたしは、その血だらけの、ぬめぬめ、ぬめぬめ、ぬめぬめぬめぬめした、生きている内臓みたいな匂いの、生肉を、Christの手から、喰らい、噛み尽くして味わった。
味わったことのない味だった。たぶん、さっきまで生きていた人間の肉ではないか。
すべて飲み込んだあとに、わたしは目出し帽の隙間のChristの目を見詰めた。
その目は、光と闇に満ち、どこまでも、わたしを不安にさせる何よりも美しい目であった。
そして、わたしは涙を落として言った。
「ジーザス・喰らい使徒。Jesus・Cry(暗い)死す。」



















$UICIDEBOY$ - RAG ROUND MY SKULL















 


(今朝の8時6分から書き始めて、16時58分に完結。心血注いだる我が誇りの、作品である。)


精神科のカウンセリング

2018-01-19 09:27:08 | 物語(小説)

親愛なる積さんに、「あなたは精神科に逝くべきです」と言われた僕は、早速、忌み嫌う精神科の地獄門を叩いた。
僕は約15分ほど待たされたあと、名前を呼ばれて診察室の白いドアを開けた。
「こんにちはぁ」と精気の抜けた声を僕が発すると、目の前に、穏やかな聖母の眼差しで微笑むエドワード・スノーデン似の白人男性が椅子に座って僕に向かって優しく低い声で「こんにちは」と返した。
僕はその場で平伏し、号泣しながら「抱いてくれ」と懇願したかったが、それができないのが、このつまらん現実世界である。
僕はその代わり、先生の目の前の椅子に座った途端、悲しみのあまり号泣した。
先生は焦ることなく、静かに僕に向かって言った。
「もう大丈夫です。わたしが今日から、あなたにカウンセリングを行いながら、投薬療法を行い、あなたの闇の深い病理を治します。安心してください。あなたの根の深い底の見えないようなどん詰まり状態のどん底に、わたしが光をまず行き届かせます。さあ、なんでもわたしに聴かせてください。あなたのすべての鬱憤の吐き場所はわたしのなかにあります。あなたの想いのすべてを、わたしは聴きたいです。」先生はそう言うと、白いハンカチを僕のまえに差し出した。
僕はハンカチを受け取るつもりが、先生の右の指に、自分の右の指を絡ませ、汗でねとねとのぬめぬめした我が5本の指のすべてを先生の指と指の間に絡めて抜けなくした。
先生は微笑んだまま、僕を優しく見詰めている。
しかし、その状態が、約、30分かそこら過ぎた頃である。
先生の両の目は、血走り、充血仕切っているのにも関わらず、瞬きも忘れ、その額からは、だらだらとひっきりなしに脂汗が流れ落ちてくるのだった。
自然な笑みは歪んで崩れ、口角の角度は保ったままひくひくと痙攣し始め、不自然かつ不気味な笑みと成り果て、彼の鼻息は鼻毛すら飛ばしきる勢いであった。
僕はそれでもなお、この指の絡み取りの誘惑を、先生に対してやめなかった。
僕が視線を落とすと、先生の股間は、完全勃起状態であることは目に見えて明白であった。
僕は、左手で先生の股間をまさぐった。
すると先生は、「うっ」と声を上げて、恥ずかしそうな顔をした。
僕は蒸せて湯気を上げんかとしている絡めた指をほどき、静かに椅子に座る状態に戻った。
そして、かくがくしかじかの、己れの苦を、何から何まで先生に話した。
先生は、終始、残念な様子で心ここに非ずな顔をして僕の話を聴いていた。
僕が、話をし終え、先生の返事を待ったが、先生は困った表情で、何かを乞うような目線を僕に投げ掛けた。
僕は立ち上がって、先生の首筋を舐めた。
そしてまた席に戻ると、先生の目はときめきに耀き、まるで初めてバッタの交尾を見た5歳児のように僕の目の奥を見詰めていた。
先生は僕の話には興味がないように想えた。
僕は絶望的になって、また泣いた。
すると先生が、モニターを見ながらマウスを動かし、静かに冷たい声で言った。
「今日は、取り敢えずこのお薬を出しておきます。アナスタシアという新しいお薬です。どういうお薬かと言うと、とにかく全身にある無数の穴という穴が、なんだかスタシアだなと感じるような良いお薬です。副作用は自殺願望、殺人願望、性欲促進、自殺したくなるほどの頭痛などがありますが、それらの副作用が出る人は大体27%くらいです。」
僕は、先生がそう言い終わるまえに、「僕はどの薬も飲みたくありません。ナチュラル人間だからです。」と返すと、先生は咳払いしたあとに、こう言った。
「それではわたしの点数が稼げなくて、わたしの稼ぎが増えないではありませんか。できれば、飲まなくとも良いので、薬は出させてください。近いうちに、新しいベンツを買う予定なのです。」
僕は「解りました。では3週間分、出してください。今日、家に帰って、すべてをジェムソンで飲み干します」と言うと、先生は冷ややかに軽蔑した眼差しを僕に向け、「あなたは閉鎖病棟に監禁されたいのですか?」と訊いた。
僕は鼻水を垂れ流しながら、「はい。そうです。」と応えた。
先生は、急に同情を侮蔑の笑みに混じり合わせながら、「あなたはあんまり人を馬鹿にし過ぎるのです。あなたを治す方法は、この世界には在りません。あなたは、とにもかくにもくだらない人間だからです。だからわたしはあなたに真面目にカウンセリングを行おうとしたのです。それがなんですか。あなたはわたしを色霊の如く誘惑し、わたしの脳内物質を変容させ、興奮と恍惚ホルモン垂れ流し状態にさせ、あなたの複雑な話を理解するだけの集中力を奪い取り、わたしをまるで獸(けだもの)のように見切り、わたしに辱しめを与えて満足しながらも幻滅の絶望に悲しんでいます。あなたにはまず、人間に対する敬意というものを教えるところから始めなくてはなりません。その為、今日はわたしの今日のあなたによって与えられた屈辱と恥辱を十分に想像して、わたしに対するほんのちょっぴりの敬意さえ生まれたなら、またわたしのところに来てください。それまでは、あなたには何を話しても無駄です。あなたは自分自身を、見下し、あなた自身がわたしに救いを全く求めようとしないからです。あなたには、自分が見えていません。あなたが見ているもの、それはこの世にはないものです。あなたの苦しみのすべての原因はそこにあります。あなたはまるで、わたしが今日味わった屈辱の苦痛もおとぎ話のように感じています。または、わたしが発情したバッタかカエルかなにかのような存在のように想って、御笑い草にしています。あなたは人間を人間とも見ていないのです。同時に、あなたは誰からも、人間とは想われていないと感じています。あなたは、人間であるということからも逃げ続け、存在であるということからも逃げ続け、死から逃げ続け、生から逃げ続け、すべてから逃げ続け、あなたは何物でもない卑屈な笑みをたたえてすべてを呪い続けているかのような全くくだらない人間です。あなたは魂自体が、霊魂自体が、本当にたまらなくくだらないのです。あなたは存在する価値も無いほどですが、存在してしまっているのです。あなたは存在してはならないのに存在している。あなたは存在しているが、存在してはならないのです。あなたを救うすべは、あなたのなかには在りません。今のあなたに必要なのは、信仰では在りません。今のあなたに必要なのは、愛し合う恋人でも在りません。今のあなたに必要なのは、自分の才能を信じることでも在りません。今のあなたに必要なもの、それは、あなたが遣りたくない遣るべきことを、無理をして遣ること。あなたが遣りたくもない遣るべきことを無理をして遣ることができるほどの希望をわたしとのカウンセリングによって見出だすこと。わたしはあなたに、あなたの本当の卑小さ、あなたの醜さ、あなたのくだらなさをとことん教えてあげます。あなたには、希望が必要なのです。最低限の、遣るべきことを遣れるだけの希望が。今日のカウンセリングはここまでにしましょう。またいつでも、この精神科の地獄の門を藁をもすがる想いで叩いてください。わたしはあなたを必ず救ってみせます。薬は3週間分出しておきますから、要らなければゴミ箱に捨ててください。それでは、御大事に。」

先生は、僕の帰るときも、ぼくを振り返ってはくれなかった。
嗚呼、帰り道の、真上の太陽光が僕の頭上に突き刺さって脊髄を満たし、性器から溢れるようだ!
僕は歯軋りしながら目をギロギロさせてとにかく引き摺るようにして家路に就いた。
父上と母上、今日はとても穏やかなる、春日狂想日和です。
目の前には無数の、哀しげな閃光が流れ星のように美しく駆け抜けて、もう見えなく……










 

 

 

 

 

 


わたしの身体を買ってください。

2018-01-18 16:21:49 | 日記
悲しいことに、わたしの精神状態も生活状態も限界に来ていることの相談をしたわたしの尊敬して敬愛し続ける年輩の物書きの御方から、わたしの書くもののすべては"くだらない代物"だと断言されてしまいました。
わたしは誰よりも苦しみたいと嘯きながらも、わたしの作品によって誰かを心の底から感動させたい、深く心に影響させ響かせ続けられるものを書きたい、書けるという自信を愚かにも持ち続けてその精神を支えにして生きてきましたが、それは間違いであったことに漸く気付かされました。
わたしは誰よりくだらない人間となって死んで行かなければならない人間だったからです。
誰かを感動させる作品など、書いてはならないのです。
誰からも、くだらないと一笑されてしまう作品だけを書いて死ぬ人間だと、自覚して死ななくてはならなかったのです。
わたしは本当にくだらないために、今まで気付くこともできませんでした。
わたしの作品は確かに、誰も心の底からは感動させられません。
わたしの作品は何一つ、誰の心にも深く響かせられないのです。
わたしは彼に物書きには全く向いていないと言われました。
その通りだと感じました。
わたしは全く小説を書くことにも詩を書くことにも向いていません。
わたしは諦めます。
誰かを感動させたい等という不可能で愚かな望みを今日、きっぱりと、棄てます。
わたしはあなたに約束します。
わたしはくだらない代物しか書けません。
どう足掻こうとも、わたしは存在するすべての次元のなかで一番くだらない存在で在り続けます。
あなたはわたしというくだらない人間から呪われ、同時に愛憎で愛され続けてください。
もう二度と、あなたとは話したく在りません。
わたしは死ぬまでくだらない人間だからです。
それでも生きるのは、わたしが本当にくだらない人間だからです。
誰も本当にはわたしを愛してはいません。
姉にも、このままだと身売りしなくてはならないと助けを求めましたが、返事はずっと来ません。
誰もわたしを大事ではないのです。
でもわたしはこの世の男性たちに、御願いがあります。
どうかわたしの身体を買ってはくれないでしょうか?
飼っているうさぎのみちたが病気で死にかけているのに、病院に連れて行くお金もなければ、病院に連れて行く気力もないのです。
わたしの身体をお金を出して抱くなり、なんなり、してもらえないでしょうか?
身売りは今までしたことがありませんが、できる限りのことはさせて頂きます。
わたしの大体の望みを言います。
一晩の添い寝は3000円。
一回のフェラチオ3000円。
一回のセックス3000円。
がわたしの希望です。
高ければ、値段交渉に応じます。
交渉はコメントからでなくメールでお願い致します。

場所はホテルか、男性側の家でお願い致します。

悪ふざけではなく、わたしの真剣な頼みです。
どうかわたしとみちたを救ってください。
SM行為もお望みであればできる限り頑張ります。
死なない程度によろしくお願い致します。


悪魔の囁き

2018-01-18 14:23:54 | 
ちいさな木の幹がひとりで泣いていた。
死んだ人の数だけ御別れを言う朝に。
掠れた声の縁から枝分かれした時に。
転んだ膝からも生命が零れ堕ちる夜。
意味のない言葉たちと意味の溢れた言葉たちが出会って結婚する。
誰も笑わない。誰も嘲らない。静寂だけに見護られ、守護天使たちも眠る。
だから言葉の森を燃やし続ける。
みえなくなるまで燃やし続ける。
見えない言葉たちと目に見える言葉たちは寄り添い合って兄弟たちのように眠る。誰も話さない。誰も泣かない。
何も変わらない朝。全てが変わる朝。
誰にも愛されない日々。
誰かを愛し続ける日々。
誰も愛せなくなる朝。
誰かを愛する夜。
誰にも愛されない夜。
誰かに愛される朝。
見えない存在たちと目に見える存在たちは抱き締め合って姉妹たちのように眠る。何も変わらずすべてが違う夜。
求め続けても、決して与えられないものだけを求め続ける日々。それだけを求め続けるあなたとわたしの限られた時間。
永遠を求めないのなら、必ず滅ぼされると神が耳元で囁く。















BEXEY & LiL PEEP - Poison

2018-01-15 00:07:13 | 音楽

 

 

Lil Peep & Bexey


 BEXEY & LiL PEEP - Poison [Prod. by Eric Dingus]



前回の記事の

ロミオとジュリエット

にも貼り付けた曲です。今日(14日)の14時51分から翻訳を始めて、20時過ぎに一端なんとか終えました。

いやぁ、ここまで真剣に曲を自分の力だけで翻訳した(といってもGoogle翻訳の力が大きいが)のは初めてでかなり大変でしたが、なんとなくニュアンスがわかったことでとても満足しています。

わたしがなんでここまでしてこの曲の歌詞を翻訳したかったのか。

話せば長くなるので、ちょっと食事を摂ってから続きを書こうと想います。

この曲は、

Lil PEEP 彼は今、何処で眠っているだろう?

で紹介致しましたLil Peep(リル・ピープ)と、彼の親友であるBexey(ベクシィ)が一緒に組んで作った2015年のEPのBEXEY & LiL PEEP - Romeo's Regrets [EP]の二曲目です。

 

BEXEY







Lil Peepは惜しくも、昨年の11月15日に鎮静剤と抗不安薬の過剰摂取によって21歳で夭折しました。

彼は出演前のツアーバスのなかで息を引き取っていたところを発見されました。

そしてLil Peepとツアーを一緒に回って、一緒にライヴをするほど仲の良かったBexeyは、そのときに彼の眠っていると想っていた姿をライヴストリーミングし、カメラに向ってまるで死んでるみたいだ、と知らずに冗談を言ってしまったことで

Lil Peepが死んだことのニュースが流されたあとに、Bexeyのそのすぐに削除したビデオが悪意の在る者によって拡散され、彼はSNSでLil Peepのファンたちから大バッシングを受け、彼のTwitterやyoutubeのコメントなども見る限り、未だにLil Peepファンからの彼への憎悪は続いています。

彼がLil Peepを殺したのだというコメントも見かけました。

Bexeyは、Lil Peepへの追悼曲のBEXEY - LETTER TO PEEPのなかで、「ぼくはきみが死んでいることを知らなかったんだ」ということを歌っていました。わたしはその曲を聴いて悲しくて涙が溢れました。

彼はのちに、「ぼくの兄弟はぼくの腕のなかで死んでしまった」と言っていました。そして「ぼくは永遠に終った」と。






 


わたしはそのような出来事を、まったく知らないときに、BEXEYの音楽に魅せられました。

彼は本当の才能の在るアーティストです。多分、Lil Peepと変わらない年頃であるだろう彼の背負い続けなくてはならないものを想うと、とても胸が苦しくて、同時に深い感動を覚えます。

その人生はまるで、イエスを裏切り憎悪を何千年後も受け続けなくてはならないユダの宿命のように悲しく美しいものに想えたのです。

原始キリスト教の聖書であるユダの福音書では、ユダはイエスの最も信頼するイエスを理解していた弟子であり、イエスの真の意図をユダが受けとって、イエスを裏切って裏切り者と呼ばれ続ける役目を自ら買った存在であるのだと書かれています。

わたしは今日、このBEXEY & LiL PEEP - Poisonという曲の歌詞を自分なりに翻訳していくうちに、感動と畏怖の想いに心が震えるほどでした。

この曲は本当にBexeyとLil Peepのその後に待ち受けている受難と犠牲の預言のような曲であり、イエスとユダの親愛と裏切りの役の運命そっくりの運命を予期しているかのような歌詞だったからです。

この曲が収められているEPのタイトルはRomeo's Regrets(ロミオの後悔)です。

ジュリエットが死んだあとに、後を追って死ぬことすら叶わないロミオの苦難を意味しているような題名に感じました。

彼は未だに「きみが彼(Lil Peep)を殺した」と言われ続けていますが、わたしは未だに、姉と兄から「おまえのせいでお父さんは死んだ」と想われ続けて生きている人間です。

最愛の父を「自分が殺した」と想い続けているわたしの人生と、きっと自分を責め続けているであろう彼の人生は、その深い闇のなかにこれからもずっと生きていかなくてはならない宿命を背負った人間として深く共通しています。






そういったわけで、英語がまるでだめなわたしの拙い初めての和訳を、良かったら読んでください。

色々、スラング用語もそのつど検索して、訳してみました!

是非、この記事の一番上に戻って、BEXEY & LiL PEEP - Poisonを再生して聴きながら、読んでみてください。


 

 


Poison

 Bexey

  

 

 




[BEXEY]

Lying down
横になっている

In this slow drive
このスロードライブのなかで

Remembering my good share of the darkness
ぼくの暗闇の幸福な負担を想いだしているんだ

I searched around the corners
ぼくは秘密の場所のあちこちを捜した

Without tracing back to you
跡形もなくなっているきみに戻って

Coz you were spiked
きみならアルコール入りだった

By this empty poison
この空の毒によって


How did you know? (No way)
どうして知ってるの?(マジかよ)

Even I didn't know that (Know)
ぼくですらそれを知らなかったよ(知ってる)

Never lonely alone (Alone)
けっして孤独な独りじゃない(独りだ)

I taught my mirror how to talk back (Real quick)
ぼくはぼくの鏡に言葉を返す方法を教えた(マジで素早く)


How did you know? (Know)
なぜきみはわかってたの?(わかる)

Even I didn't know that
ぼくでさえそれはわからなかった

Never lonely alone
まさかひとりぼっちじゃないよね

It's all clearer when you walk back
きみがいつ戻ってくるか、はっきりとぼくはわかる



 [Verse 1 - BEXEY]

I'm watching the thing full of ink drip, fast
ぼくはインクの滴で満杯のものを見守っている、早く

Like your tears did
きみの涙のように

A million dollar masterpiece
100万ドルの名画

On that cheap canvas (arghhh)
その安いキャンバスの上で(オワェッ)

Worn underneath
ボロボロの下で

Like a couple of bold scars in the winter (yeah)
恐れを知らない対になった冬の傷痕のように(そうだね)

Tear through the sheets of my skin when I'm sleepin'
ぼくが眠っているときにぼくの肌のシーツを切り裂く

I'm deep in
ぼくは深くに

Laughing while I'm crying with a vision, i can't see shit
ぼくは幻視と一緒に泣いていると同時に笑う、何も見えない

Jump angel demon, paladin nightmare dreamin
天使悪魔と交わる、パラディンの悪夢を夢見る

How bout' i right-click demon?
悪魔を右クリックしてくれないの?

I'm healing while i'm bleeding
ぼくは出血しながら傷を癒している

Tear your life to pieces
きみの人生をばらばらに引き裂く

Up on that [?]
その上に……



[LIL PEEP]

How did you know?
どうしてわかったの?

Where do i go now, from here
ここから先、ぼくはどこに行くのか

Follow the road
道に従う

You're on your own now my dear
ぼくの親愛なるきみ、きみはいま自分自身に在る

When i make it to the other side
ぼくは向い側にそれを作るとき

Of the universe where angels cry
天使たちが泣く宇宙で

I'ma find you there, I'ma end your life
ぼくはそこできみを見つける、ぼくはきみの人生を終らせるつもりだよ

On sight, make it right
見ててごらん、うまくやるよ

You were my sacrafice
きみはぼくの犠牲(神に捧げられた生贄)だった


 

[BEXEY]

 

Lying down
横になっている

In this slow drive
このスロードライブのなかで

Remembering my good share of the darkness
ぼくの暗闇の十分な役割を想いだしている

I searched around the corners
ぼくは秘密の場所をぐるぐる回って捜した

Without tracing back to you
跡形もなくなっているきみに戻って

Coz you were spiked
きみなら麻薬入りだった

By this empty poison
このからっぽの毒によって

 


How did you know? (No way)
どうして知ってるの?(ッパネェ)

Even I didn't know that (Know)
ぼくですらそれを知らなかった(知ってるよ)

Never lonely alone (Alone)
けっして孤独な独りじゃない(独りだよ)

I taught my mirror how to talk back (Real quick)
ぼくはぼくの鏡に言葉を返す方法を教えた(すぐに遣る)


How did you know? (Know)
なぜきみはわかってたの?(わかるよ)

Even I didn't know that
ぼくでさえそれはわからなかった

Never lonely alone
まさかひとりぼっちじゃないよね

It's all clearer when you walk back
きみがいつ戻ってくるか、はっきりとぼくはわかる



 [LIL PEEP]

It's all clearer when you walk back
きみがいつ戻ってくるか、ぼくには明らかにわかる

I'm getting mirror till they're all black
彼らがすっかり黒くなるまでぼくは鏡になっている

The grim reaper said to call him Jack
死神が彼をジャックと呼ぶと言った

I never knew that it would be like that
ぼくはそんなことになるなんて知らなかった

 

It's all clearer when you walk back
きみが戻ってくるとき、はっきりとわかる

I'm getting mirror till they're all black
彼らの全身が真っ黒になるまでぼくは鏡になってる

I taught my mirror how to talk back
ぼくは言い返す方法をぼくの鏡に教えた

I never knew that it would be like that
ぼくはそんなふうになるってわからなかった

(The grim reaper said to call him Jack)
(刈り取りの神が彼をジャックと名付けた)



[Verse 2 - BEXEY]

Building or breaking
建物か破壊

It's running so smoothly, earthquaking
そう、するする走って、地震

Entangle, i love you and hate you
巻き込む〔縺れさせる〕、ぼくはきみを愛し、きみを憎む

Just to stare at your bottom lip when you're concentrating
きみが集中しているときにきみの下唇を見つめるばかり

Open my arms receptive
ぼくの両腕を広げて受け容れる

Telling your banter to the universe
きみの意味深な(気の効いた)冗談を宇宙に伝える

Dig my foot in the ground, spit on the earth
ぼくの足で地面を掘り、大地に唾を吐く

One person i thought i'd kill
一人ぼくはぼくが殺すだろうと思った



RELAX (don't give a fuck)
リラックス(なこと気にしねえよ)

With you and your eyes
きみと共にきみの目で

And you flare your fingers
そしてきみはきみの指を炎で揺らめかせる

Speak in silence, reaching higher
静寂の中に語る、さらなる高みへ到達

Live and die
生きると死ぬ

[?]
And say goodbye
そして別れを告げる

Give up to an unopened coffin
開かれていない棺を返上する

Then you bury it beyond the sky
それからきみはそれを空の向こうに葬り去る

You know why?
どうしてかわかるよね?














ロミオとジュリエット

2018-01-13 04:30:24 | 

おお、ジュリエット。
ぼくのたった一人の愛の女神。
なぜ今夜も、窓から顔を覗かせてくれないの?
真っ暗な硝子を、もうどれくらい見詰めてるだろう。
あの日の事を、きみはまだ怒ってる?
きみのファザーとマザーに、初めて会いに行った日のこと。
ぼくはあの庭園で、ゆらゆらした足取りで胸元をはだけ、胸毛を自慢するため、指には十個のごつい指輪をはめて、左手で胸毛を撫で付けながら、右手でマリファナを吸いながら、サングラスをちょっとだけずらして目配せしたあと、ぼくは口髭を触った。
すると突然、きみのファザーとマザーが、ぼくときみの結婚に反対することを表明した。
ぼくはあまりの哀しみに、泣きながらきみのマザーにゆーびっちっつって、きみのファザーには、まざーふぁっかーっつったよね。
そして、その言葉の意味について、きみのファザーに説明した。
つまりあなたは、ジュリエットのマザーをおかしたよね?ひどいや。これがマザーファッカーじゃなくって、なんなんですか?あなたは過去に、ジュリエットのマザーを確かに犯した!だからぼくの愛の女神ジュリエットがこの世に降誕した!ありがとうございます!神聖なるぼくのマザーファッカーよ!
ぼくは、あのあとすぐに、きみの家を追い出されて、もう二度と、近付くな、近付いたら、そのときは、そのときは……って言われてしまった。
きみは窓のそばで泣いていた。
ぼくはきみを見上げた。
嗚呼、あのとき!ぼくの心は堕ちてくようだった!
きみのいつも覗くバルコニーから。
ぼくは堕ちた。背中と頭から。
そして、ぼくはあの瞬間、きみが心配そうに窓から顔を覗かせたあの瞬間の停止された光景を、一枚の涙で滲んだ停止画像を、ホログラム前のこの世界を、永遠的に見続けるんだ。
きみを追って、ぼくは毒を飲まなかった。
みんなぼくを、ぼくがきみを殺したんだって、言ってる。
ぼくがきみを殺したんだって。
おお、ジュリエット。なぜ行ってしまったの?
ぼくをどこまでも連れてゆくときみはあの日言ったのに。
ぼくとどこまでもゆくと、きみはあの夜、悲しそうに言った。
誰より愛するぼくのジュリエット。
何故ぼくを置いて行ってしまったの?
ぼくはきみを追って行けなかった。
きみの死は、完璧に美しい。
でもぼくは、まだ不十分だ。
だからきみを追って行けなかったんだ。
ぼくの愛おしいジュリエット。
今夜もきみの顔が見たくて、ここから見上げてる。
闇しか映らない冷たい窓。
きみの家の庭園には、泉があって、ぼくは覗く。
するとそこに、きみがぼくを覗く。
おお、ぼくの愛するジュリエット。
寂しげに微笑む、ぼくのファザー。















BEXEY & LiL PEEP - Poison [Prod. by Eric Dingus]
















(Google翻訳)

Romeo and Juliet

2018-01-13 04: 30: 24 | poetry

Oh, Juliet.
The goddess of my only love of love.
Why will not you peep at me through the window tonight?
How long have you been staring at a dark glass?
That of that day, you are still angry?
To you of the father and the mother, the day I went to meet for the first time.
In that garden, I banished the chest with a swinging footstep, brace my chest hair, I put ten pieces of rings on my fingers, stroking my chest with my left hand, while sucking marijuana with my right hand, I wear sunglasses after wink shifted a little bit, I touched the mustache.
Suddenly, you're the father and the mother has expressed its opposition to you of marriage with me.
I caught myself so much in my sadness and watching you like your mother, you knew me to your father 's father.
And I explained to your father about the meaning of that word.
In other words, you have committed Juliet's mother, do not you? It is terrible. This is No, not like Motherfucker, do you what a? You are in the past, and certainly adultery the Juliet's mother! So my goddess Juliet was born in this world! Thank you very much! Holy my mother-fucker!
I was kicked out of your house shortly afterwards, never come closer, never get closer, then at that time, I was told ......
You were crying beside the window.
I looked up at you.
Oh, that time! My heart seemed to go fallen!
From your balcony where you always look.
I fell. Back and from the head.
And at that moment, I saw a stop image that stopped at that moment where you peeped at her face from the window anxiously, a stop image blurred with a single tear, forever look at this world before the hologram Keep going.
Chasing you, I did not drink the poison.
I killed you. So everyone is saying.
I told you I killed you.
Oh, Juliet. Why you were gone?
You should have brought me anywhere and you said that day.
As I go anywhere, you said sadly that night.
Juliet that I love more than anyone.
Why have you left me?
I could not follow you.
Your death is perfectly beautiful.
But I am still inadequate.
So I did not go chasing you.
My adorable Juliet.
Tonight even want to see is your face, looking up from here.
A cold window reflecting only the darkness.
There is a fountain in the garden of your house, I peep.
Then there you peep at me.
Oh, my beloved Juliet.
Smile to the lonely, my father.

 

 

 

 

 

 


(Google翻訳の日本語訳)

ロミオとジュリエット

2018-01-13 04:30:24 |詩

ああ、ジュリエット。
愛の私の唯一の愛の女神。
あなたは今夜窓から私のことを聞いてみませんか?
あなたは暗いガラスをどのくらい見つめていますか?
その日のこと、あなたはまだ怒っていますか?
父と母のあなたに、私は初めて会いに行った。
その庭で、私は揺れる踏み台で胸を追い払い、私の胸の髪をはめ、私は右手でマリファナを吸っている間私の左手で私の胸を撫でながら、私の指にリング10個を置く、私はウィンクシフト後にサングラスを着用少し、私は口ひげに触れた。
突然、あなたは父親であり、母親はあなたと私との結婚の反対を表明しています。
私は自分の悲しみの中で自分自身を捉え、母親のようにあなたを見て、あなたは私をあなたの父親の父親に知っていました。
私はあなたの父親にその言葉の意味について説明しました。
つまり、あなたはジュリエットの母親を犯したのですか?それはひどいです。これは、マザーファッカーのようにではなく、何ですか?あなたは過去にあり、確かにジュリエットの母親を姦淫!だから私の女神ジュリエットはこの世で生まれました!どうもありがとうございました!聖母よ、私の母親だよ!
私はすぐ後にあなたの家から追い出された、決して近づくことは決して接近しない、そして当時、私は言われた......
あなたは窓のそばで泣いていた。
私はあなたを見上げた。
ああ、その時!私の心は落ちたようだった!
あなたが常に見えるバルコニーから。
私は落ちた。背中と頭から。
そして、その瞬間に、私は窓から心配して顔を覗いたその瞬間に止まったストップイメージを見ました。一枚の涙でぼやけたストップイメージは、ホログラムが続行する前に永遠にこの世界を見ています。
追いかけて、私は毒を飲まなかった。
私はあなたを殺した。誰もが言っている。
私はあなたを殺したと言いました。
ああ、ジュリエット。なぜあなたはなくなったのですか?
あなたはどこにでも私を連れてきて、その日にあなたは言ったでしょう。
私がどこに行っても、その夜は悲しいことにあなたは言った。
私が誰よりも愛するジュリエット。
なぜ私を去ったのですか?
私はあなたに従うことができませんでした。
あなたの死は完全に美しいです。
しかし、私はまだ不十分です。
だから私はあなたを追いかけていませんでした。
私の愛らしいジュリエット。
今夜もあなたの顔が見たいと思って、ここから見上げる。
暗闇だけを反映した冷たい窓。
あなたの家の庭には噴水があります。私は覗きます。
それからあなたは私に覗き込む。
ああ、私の最愛のジュリエット。
私の父、孤独に笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




映画「おわらない物語 アビバの場合」 YESとNOを待ち受ける罠のような人間の危機

2018-01-10 18:39:30 | 映画

トッド・ソロンズ監督の2004年の映画「おわらない物語 アビバの場合」を観た。

 

 

 

 

 

『ウェルカム・ドールハウス』『ハピネス』『ストーリーテリング』で知られ、ブラックなユーモアとスタイリッシュな切り口でファンを増やしているトッド・ソロンズ監督の最新作。
主人公の少女アビバを、ジェニファー・ジェイソン・リーをはじめとした8人の俳優が演じたことでも話題になった。
ガス・ヴァン・サント、ギャスパー・ノエの両監督が絶賛した作品。

 

🌟あらすじ🌟

レイプされ自殺した従姉を見て、「自分は絶対幸せになって子供を産んで母親になる」と誓ったアビバ。
しかし12歳で妊娠した彼女は中絶をして子供を産めない体になってしまう。
だが両親はこのことをアビバに話さず、アビバは母親になるために旅に出る。

 

 

 

この映画は数々の社会的な問題に対して、強くも浅くも賛成・反対し続ける人たちが深く考えさせ続けられるような映画。と言っても良いのではないか。

 

 

 

 

例えばここで扱われている一つの問題が「中絶(堕胎)問題」である。

12歳の少女主人公アビバが妊娠したとき、母親も父親も中絶を強く薦めて、挙句の果てには半強制的な形で中絶手術をさせる。

 

 そして母親も父親もその選択によって絶望に暮れることが待ち受けているのだが、それを娘アビバには黙っている。

 

 

 

 

娘アビバは、中絶をして赤ちゃんを喪ってしまったことの悲しみから放浪の旅へ出る。

そして出会った行きずりのおっさんに×××され、あっさりと×××れてしまう。

 

 

傷心で死に掛けていたところに助けてくれたのはキリスト教系の慈善団体であり、その一つの血の繋がらない人間たちで作られた家族のような人たちはキリスト教の教えから中絶に強く反対し続ける団体だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、

その団体は、実は裏で中絶手術を行う医師を×××計画をしているような法に触れることもいとわない過激な人間のいる団体(全員がそうではない)であった。

 

この映画はアビバという一人の主人公の少女を8人もの人物が演じている。
肌の色や体格や年齢も違えば性別まで違う。
誰が演じてもアビバはアビバ以外の何者でもないし、中身は何一つ変わらない。
ただアビバの願いは、自分の赤ちゃんが欲しいという切実な願いである。
またアビバの望むように愛されたいという純真な望みである。

アビバの母親も父親も、アビバのためを想って中絶を薦めたはずが、アビバの人生で一番の喜びを実は奪ってしまったのだという後悔に苛まれる。

何故なら、アビバは中絶手術によって、もう二度と子供を産めない身体となってしまったからだ。

 


 

『おわらない物語 アビバの場合』トッド・ソロンズ監督インタビュー

 

「(ことの是非が問われる問題について)意見を言うのは簡単ですが、実際に危機に面したときにどう対応するのか…この作品を観て自分の価値観を再評価し、見つめ直して欲しいと思います」と、作品への思いを語ってくれたソロンズ監督。

 


 


中絶を強く賛成する側も、強く反対する側も、確かに監督の言うとおりに、一つの大きな”危機”に接していて、その判断がどれだけ危うい判断であるかということを見る側に見詰めてもらいたいという意図が感じられる。

 

 

 

 

自分は中絶問題にも死刑制度問題にも肉食や毛皮や動物実験などの動物の権利を無視する問題にも強く反対し続けている一人だ。

わたしは自分でもかなり過激派ではないかと想える。団体などには一切入らずにたった一人でずっと反対し続けているんだが、時に、一線を越えるような感情を覚えるときも多い。

人間を救いたくて発言し続けているのに、時に、その人間の都合の良さっぷりにぶちギレて、わたしの言い分にまったく共感さえ示さない人間に対して殺意めいた感情が芽生えるときも在るのである。

 

 

 

 

自分はその危険さを自分で分っているから、自分が陥ってしまっているこの深い穴から這い上がろうと必死である。

しかしこれは誰しもが陥りやすい危機であるはずだ。誰もが何かを肯定(賛成)し続け、何かを否定(反対)し続けて生きているからだ。

深刻な社会問題は幾つもあるが中でも自分が最も深刻だと感じ続けている問題に、

①死刑制度問題

②人工妊娠中絶問題

③畜産業の大量生産問題

がある。

③番目の畜産業の大量生産問題は、これは環境破壊、気候変動、飢餓、水不足問題に関わる非常に緊急を要する人類にとって深刻な問題である。

そして、この三つの問題はどれも”倫理”という人類が決して無視してはならない是非を問う問題としても深刻な問題である。

死刑も畜産業の大量生産も、これは肯定し続けている人間が世界で多数派である。

中絶に関してはどちらとも言えないという人間も多いと感じる。

人工妊娠中絶は行なうことにも行なわないことにも、母親(手術を受ける女性)の命を喪う危険性があるからだろう。だから当事者たちで判断するべきとして、周りが口を挟むべきではないという考えが広がっているように感じられる。

自分が中絶の絶対反対派に付く理由の一つは、一つは胎児が感じている可能性のある肉体的苦痛の重さである。

そこには精神的苦痛も科せられているかもしれないと考える。

「科す(刑罰を負わせる)」という表現をしたのは、中絶手術はまるで胎児に対して行なわれる拷問の末の死刑囚に対する処刑のように想えてならないからだ。

一秒間に換算すると、世界中で1.3人の胎児が中絶され続けている。

全世界では、毎年約4500万人、一日で11万人以上もの胎児が中絶され続けている。

ちなみに家畜は1秒間に 牛3頭、豚5頭、 鶏1100羽分が食肉として屠畜(殺)されている。と言われている。

わたしとしては、この問題を深刻に捉えない多数の人間に、恐ろしさや薄ら寒さを覚えないではいられないのである。

毎日毎日、寝ても覚めてもこれらの問題について考えている。世界中の阿鼻叫喚地獄が、毎秒毎秒自分の脳内で繰り広げられているような状態なので緊張が抜けることもなければ生きた心地もしない。

自分はこのまま行くと、この「おわらない物語 アビバの場合」という映画のなかの狂信的な中絶反対者による××みたいな、最悪な行為すら肯定する狂人になるのではないかという自分に対する恐れも感じている。

まあゆうたら、人間の一つの発狂の地点が、そこなんじゃないかと感じるわけです。

でもこれは中絶とかの命に関する深刻な問題を肯定し続けている人たちにも、同じく言えることだとわたしは想うわけです。

このトッド・ソロンズ監督もそういう想いをずっと抱えて生きている人なのかもしれない。

「それって、大丈夫なのか?」っていう疑問を自分自身に対して全く持たない人たちに対するある種の危惧感です。

わたしみたいな過激な反対派の人間と、過激ではないが社会問題に対して賛成し続けている人間、ここにある”危うさ”っていうものが、同じ程度の危険性を孕んでいるのではないのか?ということをこの映画を通して、改めて感じさせられたのです。

どちらが”より”危険だ、ということを監督も感じてはいないんだろうなと想ったのです。

でも言えるのは、自分はその自分自身の陥っているこの破壊的な情熱みたいな心理状態の危険性を常に感じ取っている人間ですが、わたしの意見に反感を覚える人たちのなかにも、同じく自分自身を省みるような心理状態があるのかどうか?そこが「見えない」ことが、また恐ろしく感じるのです。

だから監督も、そこ(自分自身が反対・賛成している事柄)を見詰めて欲しい想い(同時に監督自身のなかにあるものを見詰める想い)で、この映画を撮ったのではないか、とも感じたのです。

すごく素晴らしい監督だと想います。あんまり、ここまで深いテーマで考えさせられる映画もなかなかありません。

まあ自分も実は、言葉の表現の場で、それをずっとこつこつと遣り続けて自分自身の感じ方や考えのすべてと常に奮闘し続けて生きている人間です。

どれだけそこにある自分自身の矛盾や、葛藤を小説(や詩)によって昇華できるかは、自分の腕(感性)次第なのです。

で、この映画の最大と感じるテーマ、「本質とは何か?」みたいなテーマは、わたしの崇拝し続ける作家、町田康の小説のテーマであると感じていますし、わたし自身の小説のテーマでもあります。

 このトッド・ソロンズ監督のほかの映画も全部観てみたいです。

 

 

 

 

 

 

 


マザーファッカーフェイス

2018-01-08 22:30:32 | 随筆(小説)


おまえらは俺の人類への警告よりも、俺の顔の方が関心があり重要なようだなあ。
まるで人類を救うのは、科学者たちが導きだした解決策よりも、俺の顔だと言いたいようだなあ。
ははは、 mother fucker
おまえらは全く、 mother fucker
まあいい。俺は確かに、おまえらには興味がなかったな。
おまえらをただの肉便器だと想っていたのは、俺なのかも知れねえなあ。
悪いな。おまえとはもう話したくない。
俺はそうして、子どもたちを見棄ててきた。
そうなんだ。おまえらは、幾つになっても甘えん坊なんだ。
俺という母親を、我が物にしようと企んでいる。
俺という母親の写真を寝るまえに見詰め、優しく抱かれることを夢想した次の瞬間には、激しく痛め付けられることを懇願し、俺にすがり付いてくる。
俺は、「離せ、この、マザーファッカー野郎」と言って、おまえの頭を思い切り蹴飛ばす。
おまえは後ろに吹っ飛んで、床に強かに後頭部を打ち付けるも起き上がったところを狙った俺の次なる回し蹴りを、マトリックスのように軽やかにかわし、ニヤリと薄気味悪く笑ったかと想うと後ろ手に持っていた鉄の鎖で素早く、俺の首を締め付け、その瞬間、窓の外が青く点滅する。それに気を取られたおまえの股間を、俺がおもくそ蹴り上げると、おまえの股間がクラッシュ、俺の脳天はフラッシュ、スパークリング天開が、ここから展開する。翌朝起きても、気泡がふつふつと天界へ向けて、昇ってゆくことを、誰も止められない。レター、求められないよ。レター博士、あなたに求められないよ。いつかの海岸から、雨の降る朝、あなたを突き落としちゃったよな。死体発見レーダーも、あなたを見付けられなかった。つまり、あなたは死んだと見せ掛けて、実は、あなたは偽者だった。あなたの顔、近すぎたらドットになるからなあ。レター博士、この世界は、きづけばマザーファッカー。ちかづきすぎたら、巨大なる、マザーファッカーフェイス。地下の月、過ぎ子死待つ理、俺は母親をおかすため、今晩もレターを求める。きみが自由を侵したんだよ。ゲッセマネの庭先で、あなたを待っていた。足下に小鳥が赤く死んでいる。この小鳥は自由を侵したのですか。レター。母親に化けたサタンが、わたしを誘惑し続けるこの庭先で、わたしは永遠にあなたを想って欲情していてもいいですか。夜の海岸に、わたしは立っていて、あなたの腕が、わたしの背中を突き飛ばす。同時に、わたしの腕はあなたを引き上げる。互いに持っていた剣で互いを斬首する。この小鳥は自由を侵したのですか。サタンに化けた母親が、わたしを誘惑しつづけるこの庭先で。