あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

愛と悪 第六十二章

2020-08-30 01:49:27 | 随筆(小説)
六本の手脚を、切断され、それでも生き抜く為に、メロンを一生懸命に食べた日の翌朝に、光を喪った眼で、死んでいた神、エホバ。
大型トラック(Heavy Duty Truck)を運転する仕事に就いている彼は、初めて通る辺鄙な町から離れた道路脇にあるセルフ式のガソリンスタンドにトラックを止め、ガソリンを入れた。
青白い電灯が一箇所点滅している売店に目を遣り、今夜は此処で休憩を取ろうかと考えた。
時間はMidnight(午前零時)をすこし過ぎていて、5:00 AM過ぎには此処を立たねばならないだろう。
軽食を取って、車内で仮眠を取ろうか。
だが彼は売店に入ってすぐ右に、空調の効いているカウンターを見つけた。
外からでは薄暗くて中の様子がよく観えなかった。
彼は此処で仮眠をしようかと考えながらレジ脇にある温かいナゲット(Nugget)とポテトを見た。
そのとき、ちょうどレジの奥のドアを開けて一人の店員が出てきたので、彼はナゲットとポテトを注文してお金を払い、カウンターに着いて疲労のなかに深い溜め息を吐き、買ったものをカウンターの上に置くと用を足しに行った。
戻った彼は黙々と窓からほとんど車の通らない道路と暗い荒れ地を眺めながら食べていた。
ちらちらと、レジ付近で何か用事をしている店員の様子を、彼は気にした。
ふと彼は、疑問に想った。
こんな人気(ひとけ)のないガソリンスタンドでたった一人で女性が夜中に働いているのだろうか?
強盗に入られたり、レイプされる可能性だってあるのに…。
大型トラックの運送会社はほとんどブラック企業であることを知っている彼は彼女に対して、深い同情を寄せながらしつこく彼女の姿を眺め渡した。
時間は30分以上過ぎていた。
彼女は彼の視線に気づいたという風に彼を見つめ、微笑を浮かべた。
彼はドキッとしたが、彼女を見つめることをやめなかった。
膝丈の黒いボタニカル柄のワンピースを来た彼女が、彼の座るカウンター席に歩いて来て彼の膝の上に無理矢理カウンターと彼の間に細い身体とケツを捩じ込むようにして横向きに座ると彼を観て無邪気に微笑んで言った。
「どうしたの?なぜ僕をじっと、ずっと見つめてたの…?」
彼は大胆な彼女の行為に、半勃起しながらひどく狼狽えて答えた。
「…ごめん…。じぶんでも良くわからないけれど、なんだか気になって…。」
顔を真赤に赤らめて、彼女の視線から目を逸らす彼の顔を眼で舐め回すように見たあと、彼女は言った。
「君…初めてなの…?」
そう言ったあと、彼女は白いTシャツを着ている彼の腹辺りを擦り、臍のなかを人差し指で突いた。
彼はVirginだったので、そのことを言われているのかと想ったが、その場合、此処が怪しげな店でなくてはならないと想った。
彼がどう答えようかと悩んでいるあいだに彼女はつづけて訊ねた。
「此処に来るのは初めて?」
彼はうんうんと無言で頷き、お酒が飲みたいと感じた。
一体、彼女に何を求められているのだろう?
初めて会ったはずなのに…。
彼女の行動が、彼には理解できなかった。
だがそれとは関係なく、彼は彼女に欲情した。
彼女はそれを確かに感じ取り、彼を愛しそうに見つめて微笑んで言った。
「このナゲット、美味いか。」
彼は彼女の口調が突然変わったことに驚いたが、その言い方は少女のように愛らしかったので、彼は初めて微笑んで答えた。
「Yeah...it's really delicious. It's not very greasy and I was thinking of buying another.
 うん…すごく美味しいよ。脂っこさもあまりないし、もうひとつ買おうかなって想ってたんだ。
彼女はニヒルな微笑をして言った。
「そう…これ、何の肉でできてるか知ってる?」
彼は「うーん…」と悩んだあとに答えた。
「...Chicken...?
 …チキン(Chicken)…?かな。
彼女は首を横に振った。
「Well... Duck...? No, fish... or Turkey...?
 それじゃあ…鴨肉(Duck)…?いや、魚肉(Fish)かな…?それとも七面鳥(Turkey)…?
彼女はまた同じように首を横に振った。
「So... Pork? Beef? Mutton? Or... really venison or horse meat?
 それじゃ…豚肉(Pork)?牛肉(Beef)?羊肉(Mutton)?それとも…まさかの鹿肉(Venison)や馬肉(Horse meat)?
彼女は憂鬱な表情のあとに笑って言った。
「違うよ。(No.)
彼は不安になって訊いた。
「Then... what meat...
 それじゃ…何の肉なのさ…。
彼女は彼の左の頬の口元にキスをして言った。
「Long Pigさ。」
その瞬間、彼は既視感を感じた。
彼女は彼の左の耳に息を吹き掛け、耳元で囁いた。
「ねえ…この肉と、僕とのセックス、どっちが美味いか、試してみないか?」
彼は何が起きているのかわからずすこしのあいだ沈黙し、混乱していたが、彼女に臍の穴をぐりぐりされた彼は堪らず、彼女の眼を熱く充血させた眼で見つめると深く頷いた。
白いタイル張りの薄暗いRestroomで行為を終えたあと、彼女は服を着て、掃除用具などを収納しているクローゼットの中からショットガンを取り出すとタイル床にへたり込んでいる彼の顔面に銃口を向けて言った。
「さて、最期に言いたいことはある?貴重な食糧であるロングピッグ。」
彼は彼女の真剣な眼を見つめて長く、放心していたが、やがて涙をぽたぽた無機質で冷たい白いタイルの上に落しながら言った。
「ぼくはずっとずっと、生きている意味が、わからなかった…。じぶんが生きていることは、可笑しいことだって感じてて、でも…だからといって死ぬことの意味も、ぼくにはわからなかった。それでぼくは気づいたんだ。生きる価値のないぼくは、死ぬ価値もないから、死ぬこともできないんだって。きみに殺されるなら、それはぼくは死ぬ価値を初めて見つけられたってことだよね…。だから…ぼくを殺してくれ…。」
すると彼女はショットガンを思い切りトイレのドアに向けて両手で投げ付け、今度は同じ場所からDagger Knife,Drop Point,Gut Hook,Skinner Knife,マキリ,剣鉈,鋸,骨スキ包丁,バードフックを出して彼の目の前に並べると言った。
「冗談だよ。僕は君を、美味しく、できる限り味わって食べたい。その為に、君を家畜同様に生きたまま解体し、ちゃんと放血処理を行ってから殺してあげる。それが厭だと言うならば、もう二度と僕の前に現れるな。君は知らないが、僕は君が、産まれる前から、卵のときから知っている。僕は君の視えない場所から、ずっと君を僕の食べ物にする為に管理して、生かして来た。でもいつか、君を監視しながら僕が君を愛していることに気づいてしまった。そして君にロングピッグを喰わせたが、それは君が真に救われる為である。君は最早、人間とは言えない。だが動物でも、ロングピッグでもない。君は君が今まで散々に食べて味わってきた生きたまま解体された動物と同じように、僕は決して解体しない。僕は君を”最初”から、完全なる意識を保たせた状態で、解体し、殺して食べる。そのときに君の味わう拷問の地獄の苦痛によってでしか、君が延々とPig(Pork)か、Long Pigとして輪廻転生を繰り返すこのCircleから、抜け出ることは決してできないからである。」
彼女は涙を流しており、それが冗談ではないことを彼は知った。
だが、彼女は言った。
「もう二度と、僕の前に姿を現さないでくれ。」
彼は震える全身で彼女の眼を見開いた眼で見つめていたが、程無くして、目の前にあるDagger Knifeに目を落し、それを手に取ると、みずからの舌の先の真ん中を切り裂き、裂けた二つの舌から血を滴らせながら言った。
הכאב הזה בבשר הוא ה"רשע "האמיתי.

彼女の左手の薬指に嵌めたOuroboros(ウロボロス)のデザインのリングが、青白いライトに反射し、その青い光は彼の舌から滴る真っ赤な血が溜まる白いタイルの上に、反射した。
























愛と悪 第六十一章

2020-08-25 19:49:30 | 随筆(小説)
”生きた者”を食してこなかった者たちの堕ちる穴、Deatholeに、手を差しのべる神、エホバ。
MotelのParking Lotに、危険物を載せたKENWORTHの赤と白のタンクローリートレーラーが駐車し、エンジンを切る。
時間は3:00 AMをとっくに過ぎていて、彼女はバイトをしているGas standを閉めて、男の運転するトレーラーに乗ったのは少しまえだった。
彼女はいつにもまして無口な彼の右側で言った。
「このタンクローリー、イカすじゃないか。何処で捕まえてきたの?」
すると彼はちいさな溜め息を吐いて彼女に顔を向け、哀しげに言った。
「ケンワースの車庫に突っ伏して独りでじっと止まっていたんだ。Dangerousなモノを積んでね。」
彼女は眼を輝かせて言った。
「きっと爆発物を積んでるんだ。ダイナマイトと一緒に。」
彼は寂しそうに微笑んで首を横に振りながら言った。
「大丈夫だよ…。ちゃんと点検したから。」
「何処に行く気なの?」
彼はかすれた声で咳払いをしながら言った。
「8:00 AMには、出発してなくちゃならないけど…それまできみと一緒に此処で休めたらと想ったんだ。」
彼女は疲れ果てている彼を心配して顔を覗き込むようにして言った。
「いま以上に鬱になる話をしてやろうか?」
彼は力なく笑い、うんうんと頷いて彼女を透明な眼差しで観た。
彼女は黒光りする丸い眼で言った。
「ほんとに聴きたいの?」
彼は優しい顔で彼女に向かって微笑んだ。
「もう何を言われても、ぼくは驚かないよ…。それにきみがフィクションを話しているとはぼくは想っていないし…。」
「フィクションかフィクションでないかを、君は拘っているの?」
「…ううん…。」
彼は目を伏せたあと開けた左の窓枠に肘を載せ、並んだMotelの暗いドアを眺めた。
「部屋で話さないか?」
彼は彼女に向き直って言ったが、彼女はメーターパネル下にある車内温度計32.4℃の表示を観て言った。
「いや、此処で話したい。すこし暑いが…。」
彼は彼女に請うような眼をして言った。
「今夜は、どんな話なの…?」
「新型ウイルスの話さ。」
「新型ウイルス、キリガミネの話?」
「そうだよ。」
「この新型ウイルスは、人為的に開発され、”闇の者”たちによって故意にバラ撒かれているものなんだ。」
彼は深く息を吐いて言った。
「やっぱりそうなんだね…ぼくもそうじゃないかって想ってたんだ。世も末なんだって…。」
「でもそれは、人口削減”だけ”の為ではないんだよ。」
彼女は彼の眼をじっと見つめて言った。
「地球はこのまま行くと確実に壊滅的になって大量絶滅が真に起きるけれどもね、そんな地球で、生き残らなくちゃならない”者”たちの為にね、食糧を確保しておかなくてはならないだろう?」
「植物は…?生えていないの…?」
「いや、植物は絶滅しないよ。でも植物は食べないんだよ。生き残らなくちゃならない者たちは、植物を食べて生きられないんだよ。」
「だったら…何を…食べるのさ。」
彼女は、真剣な眼で見つめ返す彼に向かって、下唇を甘く噛んだあとに、微笑を浮かべながらちいさな声で言った。
「ロングピッグさ。」
「長い豚…?」
「そう。身体が長い豚たちだよ。」
「ロングピッグたちは、何処にいるの…?」
「この世界に、たくさんいるよ…。家畜として。」
「知らないよ。身体が長い豚なんて、見たことないな。」
「”人間”のことだよ。君。」
彼は涙を真豚に浮かべて彼女を見つめて言った。
「Really...Awesome...」
「新型ウイルスに感染して死んだ人が、何故、葬儀を行うことすら許されずに火葬されてしまうか知ってる?」
彼は首を力なく横に振った。
「実はまだ生きているからさ。」
「……。」
「生きているうちに、つまり心臓が止まらないうちに、解体し、血を抜かねば、肉が不味くて食べられたもんじゃない。それは動物の家畜のと殺(屠畜)方法とまったく同じだ。だから、だから、死んでないんだよ。まだ死んでないのに、連れてかれるんだ…。」
彼は青褪めた顔で言った。
「どこへ…?」
「地下都市へ…。そこに、人間を食糧として解体する大規模な食肉処理場があるんだ。そこで人類は…ロングピッグたちは気絶処理のあとに素早く解体され、骨だけにされて、骨だけを地上世界で火葬しているんだ。かなりの頻度で、解体している際にロングピッグたちの断末魔が聴こえる。この解体を行っている者たちは、実は人間じゃない。死者を呪術によって動くようにした自動人形だ。詳しくは、「チベット永遠の書」を読むと良い。人間であっても、非人間であっても、確実に、絶対的に殺すその瞬間までの気絶に成功させるなんて不可能なんだ。動物の家畜たちとまったく同じに、食肉にされる人間たちもまた、自分が解体されているときに、目を醒ましてしまうことがある。そのときに、彼らは、実におぞましく、悲しい声を上げるんだ。その声を、聴きつづける者は、最早、堪えられない…。死者を蘇らせた、”魂”の無い者たちだけが、それに堪えられる。かつて死者であり、今も、死者である、”まだ死んでいる”者たちだけが、それに堪えることができるが、そうして生きた人間を解体して骨から削ぎ落として冷凍保存し、Grocery Store(グロサリーストア)のMeat Counter(精肉売り場)に綺麗に並べられ、ぼくたちは、それを手にしてホッとするんだ。大丈夫だ…まだまだ、たくさんあるんだ…ぼくたちの食べ物はたくさんあるのだから…。生き残った人類が、動物を殺し、その死体を食べて、ロングピッグ(長い豚)として生まれ変わって(転生して)きてくれる限りは…。ぼくたちは、生きてゆける。」



















愛と悪 第六十章

2020-08-19 21:17:53 | 随筆(小説)
錨のない檻は流され、自裁の罠に、不時着する神、エホバ。
相手は男性だって、知っていた。
でも彼が、醸し出す噎せ返るほどの馨しいフェロモンの色香が、もう堪らなくて、彼のケツに、気づけばぼくはしがみついていた。
彼は残念ながら、Heteroだった。
でもすごく、女性性が彼は深いことをぼくは直観していた。
彼は実際、どの女性よりも優しく、繊細だった。
だからぼくが、彼のケツにひっしとしがみついて、数時間も、離れなくとも、なにひとつ、文句を言わなかった。
彼は、ぼくをおんぶしながら、黙って、メロンを食しつづけた。
産まれて初めてだ。こんなに幸せな心地になったのは!
ぼくはすっかりと、空腹も忘れ去っていた。(すべての悪と共に去りぬ。だった。)
ぼくたちの側に、ひとりの男が遣ってきて、メロンを齧りながら言った。
「なんて狭い世界だろう!でもこのメロン、美味いな!最高だ!虚しい!死にたい!死にたい!絶望的だ!無痛文明によって、此の世は崩壊してゆく!きみの頭のようにね!」
ぼくは、良く意味がわからなかった。彼は、今の現状に不満を募らせながらメロンを食していることはわかった。
ぼくは彼さえ、彼のケツにさえ、いつまでもしがみついていられるならば、それで良い。
何も要らないよ。滅びてしまっても良い。こんな世界。
例えば一人の大量連続殺人犯の男が、白い覆面を着けたまま、深夜ガソリンスタンドの店員の顔面に拳銃の銃口を突き付け、こう言う。
「匿っては貰えないだろうか。わたしは大量に人を殺してきた。だがわたしは、罪悪という感情がない為、捕まえられて、殺されたくはない。わたしは使命を遂行しているに過ぎない。あなたはわたしを匿い、わたしを擁護し、わたしを生き延びらせる者として、選ばれた存在である。わたしはあなたを殺さない。約束する。あなたもわたしを殺してはならない。あなたはわたしを生かし、わたしはあなたを生かす。今、不必要な人間たちが、殺されゆかねばならない。それは悪であり、善である。わたしはあなたの穴が愛おしい。あなたもわたしの穴が愛おしい。今わたしの穴とあなたの穴が繋がれるときが来た。その穴のなかに、生きたものは存在しない。だれひとり、生きてはゆけない。今あなたの穴が、わたしの穴を求めている。わたしの穴は、あなたが入る為だけに、今開かれる。互いのケツ付近にある突起物が、口を開くように、開眼するとき、わたしとあなたの互いの穴が、見つめ合う。わたしとあなたの脊髄は、その穴から顔を出し、キスをする。硬いクチクラで覆われた虹色に反射する白いわたしとあなたの脊髄は、人が、人でなくなる瞬間に、結合し、何者でもない者たちの卵を、産卵する。だれも生きることのできない、その穴の底に。」
そう、あおぽんは、じぶんがしがみついているケツの持ち主である彼に、話して聴かせたが、彼は、無言でメロンをかぶりつづけていた。
あおぽんは、碧く輝く眼で、彼女を観た。だがすぐに、目を逸らし、何もない場所を見つめ、深い眠りに堕ちるそのときまで、彼のケツから離れることは、なかった。
彼女は、寂しそうに母親の顔を観た。
そして、見つめ返す母親(白い覆面の男)に対し、彼女はちいさく言った。
「もう殺さないで。ママ…。ぼくの、食べ物たちを…。」



































愛と悪 第五十九章

2020-08-13 03:04:12 | 随筆(小説)
青と赤の血が交る紫の血の海の上に立ち、人々に愛を説く神、エホバ。
薄暗いCylinderの長いエスカレーターを、わたしはいくつも昇る。
わたしは昇りながら幾度と身体がよろけて、倒れ落ちそうになるが最後のエスカレーターでは、わたしはバランスをつかんでよろけることはなく、踊るようにして、エスカレーターから降りて走って行き、祝福の言葉を叫んで皆のなかに降り立つ。
人々は喜んでわたしを迎え入れる。
もうすぐ劇が始まる。
覆面の者たちは座り、「血統の闇」という赤い表紙の本を読んでいる。
その周りで、ある民族たちは、儀式を始める。
激しく踊りながら、叫び、捕らえられた人たちを四つん這いにさせ、今から、神の食事が行われる。
これが、アイヌ民族のなかで行われていた、食人の儀式である。
彼女の母方の祖父は、青森出身であった。(親族の話では祖父はかなりの変わり者であった。)
”江戸時代の青森県は、北海道を除いて唯一、アイヌ民族が居住した地”である。
彼女は、この儀式を観ながら、自分の”血”を想いだす。
自分の先祖は、”食人種(人喰い人種)”であったことを。
この劇は最後に、食人の儀式を行っていた者たちが、”或る存在”に平伏しながら、こう誓うことで幕を閉じる。
「我々はもう二度と、”人”を殺して、”人”を食べません。ですから我々の血を、どうか絶たないでください。」

だがこの”血”は、絶たれるべきであり、いつかは絶たれる血として、存続して来た。
その為にも、”彼ら”の一人であるこの”男”を目覚めさせねばなるまい。
”彼”は目を覚まし、彼女を観た。
彼女はあどけない表情でまだ眠っている。
彼は、彼女の寝顔を見つめながら言った。
「מה שצריך לנתק הם אלה שהורגים ואוכלים עכשיו.」

彼女は最早、人を食べてはいない。
どの”肉”も、”人”であることを知った彼女は。




















愛と悪 第五十八章

2020-08-09 10:05:05 | 随筆(小説)
ぼくに切断され、ぼくの皮を、脱いで、羽化した上半身だけのアワノメイガ、エホバ。
彼はまさに、上半身だけで、死へと羽ばたいた。
ぼくは、永遠に羽化しない死んだ下半身の蛹。
乾涸びて、言うんだ。
この空砲によって、きみを射殺しよう。
きみを射抜いて、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
そしてそのすべての穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴のなかの穴にも、たくさんの穴を開けよう。
その穴の数は、ぼくたちがいままで、殺してきた生命の数。
ぼくに向かって、彼らは言う。
生きたかった。
生きたかった。
生きたかった。
きみの外で。

彼女は、愛する母親(覆面の男)に、寝るまえにいつも、自作のおはなしを聴かせてあげている。
男は知っている。
自分の顔が、ないことを。
でも穴があることを知っている。
その穴に、彼女は自分の一部を挿れることが好きだ。
そして別の穴へ突き抜け、穴を通して、彼女の穴に戻り、彼女は彼女を確かめている。
男は知っている。
自分が仕事に行っている間に、彼女は別の、恋する男を想って、Self Pleasureをしている。
深夜のGasstationの売店のRestroomで、彼と、SEXしている。
誘うのはいつも、彼女からで、男はいつも、控え目だ。
罪悪感を、二人は感じている。
男は言う。
「こんなことが、きみのママにバレたら、きっと、もう会えないよ。」
彼女は背中に差していたSilencerを取り出して言う。
「これで君の顔面に穴を3つ開けてやろうか?」
男は悲しい顔をして、溜息を吐いて俯向く。
彼女は男の頬を優しく擦り、言う。
「American jokeだよ。馬鹿なアメリカ人が言いそうな言葉だろう?ぼくのママがいつも言っていることを真似しただけさ。」
「きみのママって、そんな人なの?」
「正しくは、ママじゃないよ。」
「ほわい?Really?Why?それじゃ、だれなのさ。」
「正しくは、ぼくの息子だ。」
「……。なんだって?!それじゃきみ、自分の息子と、してるのか!」
「娘がママとしてたらOKで、母親が息子としてたらNOなの?」
「…ぇ?ほ、ほんとに、してるの…?馬鹿なAmericanの僕のJokeだったのに!」
「ぼくはママともしてるし、息子ともしてる。だって彼は、ぼくにとってママであり、一人息子なんだ。」
「Oh My God!!!!!」
「嗚呼、もう面倒臭いナ。やっぱりこれできみの顔に三つ穴を開けてぼくは帰るよ。」
「Jesus!!!!!Cryshit!!!!!」
「これできみと彼は、同じになる。」
「貫通してないだろう?」
「貫通してるよ。」
「可笑しいじゃないか。目と口なのに、貫通してたら。」
「ぼくはママを可笑しいなんて想ったことはないし、それに、見た目は貫通してないよ。隠してるんだ。」
「でも本当は貫通しているんだろう?」
「そうだよ。きみのなかにある無数の穴のようにね。」
「僕の、何処に無数の貫通している穴があるの?」
「知らないのか?骨髄に決まっているだろう。」
「骨髄?KO・TSU・ZU・I?Bone Marrow?」
「Yes。きみの骨髄のなかには、無数の貫通している穴があることを知らないのか?」
「僕はあまり、医学的なことに詳しくないから…。」
「きみの骨髄のなかには、きみがいままで殺してきたすべての生命の顔が、つまりその穴が、無数に開いているんだ。」
「What did you just say?」
「だから、きみが食べるために間接的にも殺してきたすべての生命の顔が、つまりその穴が、きみの骨髄のなかに確かに、存在しているんだ。」
「Seriously? 」
「これを観給え。」
そう言って彼女は、背中から一枚の写真を取り出し、彼に見せる。













これが、きみとぼくと、すべての存在の骨髄のなかにある、穴(生命の顔)だ。
この悲しみが、ぼくらのなかで永遠に、悲しみつづけるんだ。