先々週末の事。
非常に仕事が暇だった。むしろ今月から年末まで、あくっまさんの仕事は暇だ。
そんな訳で、隣のセクハラ口調男に尋ねた。
「何か仕事をいただけませんか」
その男(彼に限らずうちの会社の男性)は、ファイル作成やら数枚のコピーやテプラ打ち、頭は使わないが時間のかかる区分け等を、振ってくる。
しかし彼は全社員に関わるような大きな仕事(あくっまさんの場合は健康診断)も、勝手に振る。
あまりに突然なので(締切も近く)、課長に本当にやっていいのか尋ねたら「いいんじゃない、あくっまさんやっても」と軽いノリ。
引き継ぎしてくれと尋ねても、自分も七月に異動して解らないから自分で勉強しろ、前任者は隣の支店にいるのだからの一点張り。
わかりづらい前任者のマニュアルがイントラネットに残されていたので、幸いな事に相手に迷惑をかけず、一人で残業しつつも仕事を終える事が出来た前年度末。
しかし今は、仕事のエアポケット。
定時に帰るのも嬉しいが、昼間も暇とはいかがなものか。
あくっまさんは尋ねた。
「(セクハラ男)さんがよろしければ、社会保険関係の仕事を少し、いただけませんか」
驚く隣のセクハラ男。
「いいよ、そのうち可愛い女の子が来るからその子に振るよ」
しかし、あくっまさんも総務部。今のところ採用の話は聞いていない。
その隣人は気に入らない残業の時に怒鳴り、物に当たり散らす。
あくっまさんはセクハラも嫌いだが、予想できない大きな音は恐くて堪らない。
人に触られる事と人の感情の爆発、身構える事ができない音は言いようのない恐怖だ。
そんなあくっまさんにとって、仕事のストレスで暴れる男性は、恐い。
少し仕事を減らしてやれば残業も減って、マシな対応になるだろうと、あくっまさんは考えた。
ついでに暇だ。
しかも、社会保険関係の仕事は社労士の勉強にもなり、かつ転職にもいいアピールになる。
「いつも忙しいっておっしゃっていらっしゃったじゃないですか。今、社会保険関係の勉強をしているので、少しお仕事いただけるなら嬉しいです」
「はあ…でもいいよ」
そこでようやく課長の存在をあくっまさんは思い出した。
セクハラ男は特に上司に相談せず勝手に仕事を振っているが、今回の件は自分の料簡ではわからないのかもしれない。
あくっまさんは、「そうですよね、こういう話って課長にした方がいいですよね」と言った。セクハラ男も「そうだね」と言ったので、そこでこの話は一度終わった。
それから土日を挟んだ三日後。
隣人は突然あくっまさんに声を掛けた。
「あくっまさん。課長から聞いたんだけど、社労士の勉強しているんだって?」
半ば動揺しつつ頷くと、セクハラ男は楽しそうに頷いた。
「じゃあ、社会保険の仕事を結構回すから。あくっまさんが一番忙しい五月が、社会保険も一番忙しい時期だけど、よろしくね」
す……少しっていったのに。
「…自分が入社する前に女性社員がやっていた、社会保険関係の領分をやるんじゃないんですか?」
「いや、そういうのよく知らないから。とりあえず基本的に全部回すから、よろしくね」
え……丸投げ?
その日の昼はさすがに胃が痛くなった。
他の女性社員に心配され、事の顛末を話したら「課長を通さないで自分の主張を通したのが悪い」と言われた。
確かに言いたい事だけ言ったのは自分なので、反論できない。
あくっまさんの会社の総務部の仕事は縦割りなので、隣の仕事が何をやっているのはよく分からない、手伝えないシステムになっている。
そんな中を下っ端同士で話して仕事を譲ってもらおうとしたのだから、こんな事態も起こりえただろう。
課長がほとんどノータッチで責任さえ取ってくれるなら部下がなにをしても関係ないというスタンスの人でも、一応統括責任者なので話をするべきだった。
そうすれば、個人の裁量に応じた仕事分担をしたはずだ。
今からでもいい、引継ぎが始まる前に課長に相談してこい、と彼女達は言った。
不安だから、割り振られるだろう仕事量を減らしてもらうよう話せ、と言った。そしてセクハラ男に謝り、仕事がこなせるか自信が無くなった本心を伝えるのだと言った。
あくっまさんも、それが良いと思い、とりあえず昼ごはんを食べた。
そしてその日の午後。
また、隣人は彼のお向かいの社員と、くだらない会話をしていた。
向「(女性社員に向かって冗談のように)お前さ、オカマみたいな顔しているんだよ。ビームでも浴びせてえな」
隣「ビーム、乳首ームでも浴びせましょうか。チクビーム最高ですよね、チクビームッ!」
……。
あくっまさんは再考した。
このバカがひーこら言っていても出来る仕事が、あくっまさんに出来ないわけが無い。
あくっまさんはその日の午後、素直に全て引継ぎされた。
分からない書類の書き方があり、質問をするとこう返された。
「社労士の勉強しているんでしょ、分かるんじゃないの?」
念のために言っておくが、社労士の勉強には実務の書類の書き方はない。
何故この書類にはこの複写が必要なのか、そういうのを尋ねても「知らないよ、前任者のプリントどおりにやっておいて」しか言われない。
あくっまさんは、昔の書類のコピーの束(お手本)を見ながら、自分で確認しつつ業務を始めた。
今日でちょうど一週間。
投げられる仕事の量は増えるが、何とかこなしている。
しかし、隣の男のくだらないセクハラ会話は、収まらない。
非常に仕事が暇だった。むしろ今月から年末まで、あくっまさんの仕事は暇だ。
そんな訳で、隣のセクハラ口調男に尋ねた。
「何か仕事をいただけませんか」
その男(彼に限らずうちの会社の男性)は、ファイル作成やら数枚のコピーやテプラ打ち、頭は使わないが時間のかかる区分け等を、振ってくる。
しかし彼は全社員に関わるような大きな仕事(あくっまさんの場合は健康診断)も、勝手に振る。
あまりに突然なので(締切も近く)、課長に本当にやっていいのか尋ねたら「いいんじゃない、あくっまさんやっても」と軽いノリ。
引き継ぎしてくれと尋ねても、自分も七月に異動して解らないから自分で勉強しろ、前任者は隣の支店にいるのだからの一点張り。
わかりづらい前任者のマニュアルがイントラネットに残されていたので、幸いな事に相手に迷惑をかけず、一人で残業しつつも仕事を終える事が出来た前年度末。
しかし今は、仕事のエアポケット。
定時に帰るのも嬉しいが、昼間も暇とはいかがなものか。
あくっまさんは尋ねた。
「(セクハラ男)さんがよろしければ、社会保険関係の仕事を少し、いただけませんか」
驚く隣のセクハラ男。
「いいよ、そのうち可愛い女の子が来るからその子に振るよ」
しかし、あくっまさんも総務部。今のところ採用の話は聞いていない。
その隣人は気に入らない残業の時に怒鳴り、物に当たり散らす。
あくっまさんはセクハラも嫌いだが、予想できない大きな音は恐くて堪らない。
人に触られる事と人の感情の爆発、身構える事ができない音は言いようのない恐怖だ。
そんなあくっまさんにとって、仕事のストレスで暴れる男性は、恐い。
少し仕事を減らしてやれば残業も減って、マシな対応になるだろうと、あくっまさんは考えた。
ついでに暇だ。
しかも、社会保険関係の仕事は社労士の勉強にもなり、かつ転職にもいいアピールになる。
「いつも忙しいっておっしゃっていらっしゃったじゃないですか。今、社会保険関係の勉強をしているので、少しお仕事いただけるなら嬉しいです」
「はあ…でもいいよ」
そこでようやく課長の存在をあくっまさんは思い出した。
セクハラ男は特に上司に相談せず勝手に仕事を振っているが、今回の件は自分の料簡ではわからないのかもしれない。
あくっまさんは、「そうですよね、こういう話って課長にした方がいいですよね」と言った。セクハラ男も「そうだね」と言ったので、そこでこの話は一度終わった。
それから土日を挟んだ三日後。
隣人は突然あくっまさんに声を掛けた。
「あくっまさん。課長から聞いたんだけど、社労士の勉強しているんだって?」
半ば動揺しつつ頷くと、セクハラ男は楽しそうに頷いた。
「じゃあ、社会保険の仕事を結構回すから。あくっまさんが一番忙しい五月が、社会保険も一番忙しい時期だけど、よろしくね」
す……少しっていったのに。
「…自分が入社する前に女性社員がやっていた、社会保険関係の領分をやるんじゃないんですか?」
「いや、そういうのよく知らないから。とりあえず基本的に全部回すから、よろしくね」
え……丸投げ?
その日の昼はさすがに胃が痛くなった。
他の女性社員に心配され、事の顛末を話したら「課長を通さないで自分の主張を通したのが悪い」と言われた。
確かに言いたい事だけ言ったのは自分なので、反論できない。
あくっまさんの会社の総務部の仕事は縦割りなので、隣の仕事が何をやっているのはよく分からない、手伝えないシステムになっている。
そんな中を下っ端同士で話して仕事を譲ってもらおうとしたのだから、こんな事態も起こりえただろう。
課長がほとんどノータッチで責任さえ取ってくれるなら部下がなにをしても関係ないというスタンスの人でも、一応統括責任者なので話をするべきだった。
そうすれば、個人の裁量に応じた仕事分担をしたはずだ。
今からでもいい、引継ぎが始まる前に課長に相談してこい、と彼女達は言った。
不安だから、割り振られるだろう仕事量を減らしてもらうよう話せ、と言った。そしてセクハラ男に謝り、仕事がこなせるか自信が無くなった本心を伝えるのだと言った。
あくっまさんも、それが良いと思い、とりあえず昼ごはんを食べた。
そしてその日の午後。
また、隣人は彼のお向かいの社員と、くだらない会話をしていた。
向「(女性社員に向かって冗談のように)お前さ、オカマみたいな顔しているんだよ。ビームでも浴びせてえな」
隣「ビーム、乳首ームでも浴びせましょうか。チクビーム最高ですよね、チクビームッ!」
……。
あくっまさんは再考した。
このバカがひーこら言っていても出来る仕事が、あくっまさんに出来ないわけが無い。
あくっまさんはその日の午後、素直に全て引継ぎされた。
分からない書類の書き方があり、質問をするとこう返された。
「社労士の勉強しているんでしょ、分かるんじゃないの?」
念のために言っておくが、社労士の勉強には実務の書類の書き方はない。
何故この書類にはこの複写が必要なのか、そういうのを尋ねても「知らないよ、前任者のプリントどおりにやっておいて」しか言われない。
あくっまさんは、昔の書類のコピーの束(お手本)を見ながら、自分で確認しつつ業務を始めた。
今日でちょうど一週間。
投げられる仕事の量は増えるが、何とかこなしている。
しかし、隣の男のくだらないセクハラ会話は、収まらない。