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チラシの裏

鎧戸と騎士

2018年09月04日 | JDカー
「赤い鎧戸のかげで」「騎士の杯」
ここあたりになると、もう本格ミステリじゃないですね。
HM文庫で「赤い鎧戸のかげで」「騎士の杯」が出たとき期待いっぱいで読んだせいか、
あまりのくだらなさに何十年も放っておいたのを今回ひっぱり出してきました。
「赤い鎧戸のかげで」はさておき、「騎士の杯」は読み直してみたら
以前とは違う別の面が見えて楽しかったです。

「赤い鎧戸のかげで」は、
評伝「奇蹟を解く男」では「一時的な錯乱のようなもの」などとひどいことを書かれていましたが、
プロットを作ることが難しくなったので、カーが若いころに読んだ
ダイムノヴェルなどのミステリをつなぎわせたものではないでしょうか。
キャロライン・ウェルズ「名の無い男」の謎解きの一部を、
鉄箪笥が女性を負傷させたくだりにそのまま引用しています。

「奇蹟~」には「騎士の杯」以降もHM卿ものを書く意欲はあったものの、
長編作品には至らなかったとあります。

その「騎士の杯」ですが、ミステリと思って読むと腹が立つけれど、
HM卿の日常を描いたユーモア小説だと思えば、こんな楽しいカーの小説はないですね。
カーの作品で笑わされるとは、こっちのハードルがぐっと下がったのか、
年齢を重ねてカーがうまくなったのか。

モチーフは「孫の教育」、テーマは「祖父と娘婿の相克」。

いかにもなアンクル・サム的アメリカ人のおじいちゃんと、
イギリス貴族の若き末裔である娘婿が孫の教育方針をめぐって大げんか。
※おじいちゃんのモデルはイギリスひいきで超保守のカー本人かと思ったのですが、
「奇蹟を~」によるとカーの父親がモデルで、たぶんカーの娘婿が現代的なヤンキーアメリカンだった?
そこへHM卿が乱入するわ、密室から杯が盗まれ「なかった」という怪事件もおこる。
歴史趣味がくどくて鼻につくところもあるのですが、
エキセントリックな人物造形も大げさな科白まわしも、
全体をギャグ小説だと思えば自然に笑えてくるから不思議です。

「騎士の杯」は、HM卿ものを全部読んだ方へご褒美として(笑)おすすめです。
戦後になるとプロット作りや文章に衰えがでてきて、
作品も歴史もの以外は見るべきもの無し、と思っていたのですが、
そうでもないと思い直しました。
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