Activated Sludge ブログ ~日々読学~

資料保存用書庫の状況やその他の情報を提供します。

●『A3(エー・スリー)』読了

2011年01月16日 01時24分48秒 | Weblog

森達也『A3』(エ―・スリー)を、1月に読了。冬休みの〝休み時間〟にせっせと読学。集英社インターナショナル、2010年11月第1刷発行。

 本の帯の表、「なぜ「あの事件から」目をそむけるのか?/歴史は上書きされ、改ざんされる。無自覚に。誰も気づかないままに・・・・・・。ドキュメンタリー 『A』 『A2』の作者が放つ第3弾。新しい視座で「オウム」と「麻原彰晃」、そして「日本人」の本質に迫る!」。
 裏は、「何か変だよな。おそらく誰もがそう思っている。でも抗えない。多くの謎と副作用ばかりをこの社会に残しながら、急激に風化されつつある一連の「オウム事件」。何も解明されないまま、教祖と幹部信者たちの死刑は確定した―――。麻原彰晃の足跡を、新しい視点からもう一度迫る。浮かび上がるのは現代日本の深層」。

 『A』・『A2』に続く今回の「A」は、麻原彰晃氏の「A」。「吊るせ」、「殺せ」、というマスコミの作り上げたものではなく、麻原彰晃氏を別の視点から見たルポルタージュ。「詐病」と喧伝し、もはや真相の解明などに全く興味の無いマスコミ騙されていることに気づかない、気づこうとしない人々。

 プロローグ、「1 傍聴」、「2 封印」、「3 面会」、・・・「16 父親」、「17 詐病」、・・・「24 死刑」、「25 視力」、・・・「31 受容」、「32 特異」、エピローグ。

 誰がどう見ても被告席の麻原氏は「壊れていた」はずなのに、誰ひとりマスコミは報じようとしない。マスコミが煽る「民意」に引きづられ、裁判官の目も「フシアナ」。「・・・精神鑑定はただの一度も為されていない。/・・・一切の接見や面会を、麻原は一九九七年から拒絶している。・・・家族とは・・・、会話は一切交わしていない。・・・七年間、彼はだれとも口をきいていないのだ。もしもこれが演技でできるのなら、その精神力の強靭さは並ではない。まさしく怪物としか思えない」(p.15)。
 「・・・裁判官たちは本気で考えたのだろうか。・・・。/何かの冗談を聞いているかのようだ。・・・。/・・・ちゃんと仕事をしてほしい。大小便は垂れ流しで会話どころか意思の疎通すらできなくなっている男を被告席に座らせて、一体何を裁こうとするつもりなのか。どんな事実を明らかにするつもりなのか。そもそも刑事裁判の存在意義を、あなたたちはどのように考えているのだろうか」(p.56)。
 安田好弘弁護士が逮捕されるという嫌がらせ、異常事態。その後、わずか二人の弁護態勢。そのうちの一人は、「まさしく壮年です。それがいきなり車椅子で、しかもオムツをしていて、その理由は分からないって、これは普通のことですか。これを異常と感じないならば、いったい何が異常なんですか」(p.189)。

 都市伝説・陰謀論と放置していいのか? 「・・・岡崎の見解は、・・・拘置所内で投与された向精神薬が、麻原の人格破壊の原因ではないかと・・・。/拘置所内で看守たちが薬物を頻繁に使うとの噂は、確かによく耳にする。・・・常識をはるかに超えた量が投与されたということらしい」(p.63)。

 死刑存置国中の稀有な存置国。「・・・絞首刑・・・死刑囚に余計な苦しみを与えないということらし。・・・。実際に絞首刑がどの程度の苦痛を与えているのか、それは誰にも分からない。なぜならこれを体験してから語った人はまだいない。/ちなみに二〇〇八年に絞首刑を実施した国は、イランとイラク、パキスタンとバングラデシュ、エジプトにマレーシアとスーダン、ボツワナとセントクリストファー・ネーヴィスと日本だけだ。他にはない。そもそも死刑存置国は少数だけど、最後の最後に死刑囚に耐え難い苦痛を与えているとの見方が強い絞首刑を採用する国はさらに少ない」(pp.66-67)。

 腐ったジャーナリズムの典型。「「現在の麻原は訴訟能力を失っている可能性がある」との僕の主張を、ジャーナリストの青沼陽一郎が、『諸君!』(文藝春秋社)二〇〇五年三月号で「思考停止しているのは世界ではなくあなたの方だ」とのタイトルで、四頁にわたって批判している。/・・・いわばオウムを包囲する世論形成に大きな役割を果たしたジャーナリストのひとりだ。・・・。/ただし論争ならば論理的であることが前提だ」(p.67)。それは無理な相談でしょうね、この雑誌、この出版社、かつ、これらが御贔屓の作家センセでは。

 公安調査庁生き残りのための破防法。佐高信さん、浅野健一さん(p.76)。「オウム新法・・・。つまり多重に憲法を逸脱している。破防法とほぼ同様に(あるいは破防法以上に)問題点が多くある法律だ。/でも団体規制法は成立した。・・・住民票不受理や、オウムの子供たちの就学拒否などが、当たり前のように行われるようになった。つまり「オウムを排除するためなら何でもあり」的な意識が、事件直後の1995年より明らかに強くなっている」(p.77)。青木理さん、「・・・「組織の生き残り」に向け、なり振り構わぬ数々の試みに取り組んでいた。・・・次のような公安庁の内部文章を入手して唖然とさせられたことがある。/・・・公安庁にとってはオウムは、やはり〝天佑〟だったのだ」(p.67)。
 「・・・力強い何ものかにしっかりと管理や統治をしてもらいたいとの社会の思いが、強く反映されているということだ。つまりオウムによる後遺症が顕在化した。/・・・ほとんどの日本人はメディアによって、「オウムの信者は普通ではない」と刷り込まれていたということになる」(p.80)。

 安田好弘弁護士(p.87、188、358)の嫌がらせ逮捕のもう一つの背景。「・・・麻原彰晃の主任弁護人として一審弁護団を牽引していた安田好弘を逮捕した。・・・。多くのメディアは「麻原主任弁護人を逮捕」と大きく報じ、「人権弁護士にもうひとつの仮面」と見出しをつけた週刊誌もある。・・・。/・・・特に麻原法廷の主任弁護人として、また死刑廃止運動のリーダーとして、そして弁護士は在野にあるべきとして公権力への接近に明確な疑義を示していた安田の存在は、公権力と足並みを揃えつつあった中坊にとって、極めて目障りであったことは容易に想像がつく」(pp.87-88)。
 麻原氏に検察が死刑を求刑した同年、安田さんは「一審で無罪判決を勝ち取った」(p.89)。判決言い渡しの経緯は、安田さんの『死刑弁護人 ~生きるという権利~』の解説に詳しい。しかしながら、〝犬〟の裁判官により、控訴審判決では逆転有罪が言い渡され、現在は上告中。
 近代司法の破壊。民意だから仕方ない、で良いのか? 「・・・安田は低くつぶやいた。/「近代司法の重要な原理である無罪推定や検察の立証責任などの概念は、今やもうお題目に等しい。・・・」/・・・「・・・つまり弁護人が知らないうちに裁判官が被告に会っていた。・・・」/・・・。/「人権派って?」/「いろいろ。例えば市民団体とか」/「あの人たちはね、基本的には、良い人とかわいそうな人の人権じゃないとダメなの」/「・・・・・・悪くて憎らしい人の人権はダメなのかな」/「ダメだねえ」」(pp.90-91)。
 思い込み。思い込まされ過ぎ。「被害者や起訴された事件の数を考えれば、長いどころか異例なほどに短い」死刑判決までの道のり(p.91)。

 不合理、不正義。「・・・彼の子供たちは教育を受ける権利を、この社会から現在進行形で奪われ続けている」(p.142)。入学拒否した、とある大学教員の言葉、「・・・「良心的」な教員集団がした決定がこれだ、という点である。こんな近代の原則にも徹しきれない人々が考えている「平和」や「学問」とは何だろう? むしろここに恐怖を感じる」(p.151)。住民票の不受理など、「明確な憲法違反」(p.152)。
 棒タワシを使っての体の「洗浄」など、「とにかく彼は被告が本来持つべき権利をほとんど有していないのです」(p.262)。
 「・・・中学の措置に対して、問題視する世論はほとんどない。そして教育機関に義務教育すら拒絶される彼らの父親である男は、精神が崩壊したまま、門外漢の僕にすら不備や破綻をいくらでも指摘できる鑑定書を根拠に、今まさに死刑が確定しようとしている」(p.263)。

 鈴木邦男さん(p.161)、大泉実成さん(p.164)。河野義行さん(p.229)。大西巨人さん(p.230)。
 浅見定雄さんにはちょっと落胆(p.231)。
 本件では、どうも変な江川昭子氏(p.270)。

 サイキックハンター。「・・・多くの知識人や科学者たちがオカルト超能力に興味を持ち、降霊術なども頻繁に行われていた。これらのトリックを精力的に暴き続けたのは、奇術師ハリー・フーディーニだった。ところが・・・、亡き母親との交信を望み続け、さらには霊界空の交信を試みるとの遺言を妻に残して死んでいる。/でもその死後、ついに一度たりとも、妻に霊界からの交信はなかったという」(p.166)。妻との交信の経緯については興味深い話があり、ぜひ、本城達也さんのWP超常現象の謎解き』(http://www.nazotoki.com/)を参照(「フーディニの暗号」、http://www.nazotoki.com/houdini_code.html)して下さい。

 囃したて嘲笑する外野。その気味悪さに気づかない不気味さ。「転び公妨」、実際は「転ばせ公妨」(pp.227-228)。「ところがこのとき、警察官のこの違法行為に抗議の声をあげる人はいなかった。それどころか群衆は、警察官が信者を道路に押し倒したとき、歓声を上げながら拍手した。カメラを回す僕のすぐ後ろにいた初老の男性は、「・・・本望だよな」と大声で言い、多くの人が笑いながら「そうだそうだ」と同意した」(p.228)。

 読まねば。『安部英医師「薬害エイズ」事件の真実』(現代人文社)(p.417)。
 光市母子殺害事件(p.417)。
 メディアの暴走。麻原氏とその取り巻きの関係と、メディアと民意との関係の相似形。「・・・麻原がほとんど盲目で、・・・側近たちは張りきった。危機を訴えれば訴えるほど麻原に重用されるのだ。要するにオウム以降のメディアと民意の関係だ。危機を訴えれば訴えるほど、視聴率や部数は上昇する」(p.472)。

 途中から、宗教用語とその難解な論理についていけず。考えてみると、事件と同時進行では、メディアの情報で洗脳されていないためもあるのか?

 ゴタゴタ言うな、とにかく死刑にしてしまえ!、という民意。それも今や誰も思い出しもしなくなるほどに風化か? 「・・・朝日新聞社界面に降幡賢一・・・。/・・・。/戦後最大級といわれる事件なのに、「犯行計画の詳細を一体誰が決めたのか」すら、いまだに明らかにされていないことを、降幡は指摘している。あらためて考えれば、いやあらためて考えるまでもなく、とても異常な事態だ。でもおそらく多くの人は降幡のこの重要な指摘を読みながら、とても異常だとは思わない。さっさと読み飛ばしてしまうのだろう」(p.504)。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ●『ふたたび、時事ネタ』読了 | トップ | ●新手の愉快犯?・・・と言え... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事