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●『安心のファシズム ―支配されたがる人びと―』読了

2009年08月28日 07時07分31秒 | Weblog

『安心のファシズム ―支配されたがる人びと―』、8月に読了。斎藤貴男著。岩波新書。2004年7月刊。

 第一章「イラク人質事件と銃後の思想」、第二章「自動改札機と携帯電話」、第三章「自由からの逃走」、第四章「監視カメラの心理学」、第五章「社会ダーウィニズムと服従の論理」、第六章「安心のファシズム」。

 やはり第一章が印象に残る。
 「二〇〇四年四月から五月にかけて――。/イラク人質事件をめぐる、いわゆる自己責任論争が、日本列島の至るところで展開された。当の人質やその家族たちに向けられた悪意の集中砲火はあまりにも凄まじく、・・・」(p.2)。「自作自演説の発信地は首相官邸」(p.8)。「『週刊新潮』・・・は、人質やその家族らに対する、ほとんど人格攻撃に終始した」(p.9)。「・・・人質やその家族の思想・信条の洗い出しを始めた。・・・記者会見でも冷笑を浮かべていた福田康夫官房長官をはじめ、高官たちはメディアとのオフレコ会見、懇談の席などで露骨な自作自演説を開陳したという」(pp.10-11)。自己責任論のオリジン、小泉らの悪用、その後の詳しい経過。背景としての「「癒し」としての差別」(p.24)。「・・・こうしたあさましい心理のメカニズムが原動力である点で共通している。・・・結局のところは鬱憤晴らしでしかないのである。/・・・一方の三人組は女性と未成年と、・・・こいつらなら叩いても大丈夫とばかりに―――。/・・・要は対象が女・子どもだからいじめやすいという卑劣きわまりない意識を感じざるを得なかった」(pp.28-29)。上坂冬子や石原慎太郎、西村眞吾らの異常な視点。「・・・視点の高さは神のそれにも等しい。他人を批判する場合の最低限のたしなみさえ、あんな人質たちには必要ない、殺してしまえと笑っていた。・・・礼節、謙虚の美徳のかけらもなかった。・・・/・・・ある種の人間性の典型を示して・・・。などと人質やその家族たちをさんざん罵倒し、・・・自衛隊の武力出動の口実としては利用したい思惑が透けていた。」(p.33)。「安倍晋三幹事長は、犯行グループの解放声明が出されて数時間後にオンエアされたテレビの生番組で、人質事件を憲法九条〝改正〟と絡ませてみせた」(p.34)。
 「フリージャーナリストの橋田信介さんと小川功太郎さんが襲撃されている。わずか二月足らず前に吹き荒れた人質バッシングの嵐とはうって変わって、このときのマスコミ報道は礼賛一色。「武人」と讃えたのは『読売新聞』だった」(p.229)。

 ブッシュ、そして小泉の無責任発言の数々。「背筋が寒くなってくる。仮にも一国の首相が、こんな言葉を吐き続けてきた」(p.218)。それも8月30日までだろう! 「吹き荒れる言論弾圧の過程に、思えばイラクの人質たちに対するバッシングもあった。戦争に反対すれば逮捕される。とりあえず罪状が見当たらない場合でも、大衆がよってたかって袋叩きにして、二度と立ち上がれなくなるほど打ちのめす社会」(p.226)、次の政権に過剰な期待は無理だろうが、少なくともそんな社会はこれで終わりにしてもらいたい。
 「・・・現場の取材、ウォッチングにかまけて第一行目を書き出せなかった私の背中を押したのは、あのイラク人質バッシングだった。つくづく正念場だと思った」(p.232)。


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