Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

プリオン説はほんとうか?

2006-03-06 22:30:56 | 読書
副題「タンパク質病原体説をめぐるミステリー 」福岡 伸一・講談社ブルーバックス(2005).

プルシナーは正常型から異常型に変身したある種のタンパク質が狂牛病などの病原体であると唱え,ノーベル賞を受賞する.特定部位さえ除去すれば安全とされて米国産牛肉の輸入が再開されたのは,この説に基づいている.しかしこの本はタンパク質病原体説は仮説に過ぎず,反証をあげればきりがないと説く.

著者はウィルス説を「プリオン説」の対抗馬としている.ただしウィルス説がプリオン説同様決め手に欠くことも正直に認めている.著者は両説を公平に比較しているというのが門外漢の印象である.政治家は知ってか知らずか「プリオン説」の権威を利用しているが,「疑わしきは信じず」こそ正しい態度だろう.

プルシナー派の本としては「プリオン病の謎に迫る」山内 一也・NHKブックス (2002) がある.しかし権威にけんかを売っている福岡本の方がおもしろいだろう.こみ入ったミステリーとして楽しむことも可能.ミステリーでは七面倒なストーリーをひっぱる原動力は多くの場合犯人と被害者の人間ドラマだ.本書の場合はそのかわり学界における学者のえげつない功名心にかんする記述が読者をひっぱる.

都合の悪いことは論文では無視する(せいぜいさりげなく触れる程度にする),グラフを作るときは対数プロットと線型プロットを使い分ける.論文を閲読する機会があれば自分の造語(プリオン)の使用を強制する..などは,どの分野にもあることだ.この本で,論文誌としてScienceとNatureという商業雑誌がいかに幅をきかせているかを思い知った.昨今は純粋科学でもこの二誌でセンセイショナルに扱われると研究費がもらえる.バカ臭いことである.

でも狂牛病の恐怖を前にして,この話題をおもしろがっている場合ではないのかも.

コメント (2)
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